91 / 190
第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編
第90話 陽輝山を登ろう
しおりを挟む
バスの中では子どもたちがワイワイとはしゃいでいた。そんな子どもたちの姿を微笑ましそうに見ているのは引率として付き添っている担任教師の森下 久美子であった。
教師になって三年目の彼女は今のクラスへの愛着も強い。活発な子どもたちに時に振り回されることもあるが、子どもたちの成長を直に感じられる教師という仕事に就けて本当に良かったと久美子は感じていた。
「さぁみんな。そろそろ到着だから準備してね」
『は~い!』
子どもたちの元気な声が久美子には心地よかった。陽輝山の麓に到着しバスを下車すると太陽の光に照らされた。空には雲一つない青空が広がっている。
登山するには絶好の日和だなと久美子は思った。
「それじゃあ地図を広げて目的地を確認しますね」
集団となった子どもたちの前で久美子が持参している地図を広げた。そこに記されているのは山の大きさやこれから登っていくルートについても書かれていた。
「森下先生は真面目ですねぇ」
地図を確認する久美子に声がかかった。隣のクラスの担任である山下であった。
「事故が起きたら大変ですからね」
「確かにそうですね。まぁ、何かあったらこの山下にお任せを。体力には自信がありますから」
そういって二カッと笑う山下は確かに体格が良い。ジム通いを日課にしておりベンチプレスも百キロぐらいは軽いと普段から自慢気に話していたのを森下は思い出す。
「頼りにしてますよ。勿論何もないのが一番ですけどね」
「それは当然ですがね。ハッハッハ」
こうしてルートの確認も取り、一組から順番に山に入っていった。森下のクラスは最後尾からのスタートとなる。
小学校の登山とあってルートはそこまで険しくはない。緩やかな傾斜の山道を登っていく為、子どもたちも基本的には余裕そうだ。
それでも3,40分もすれば子どもたちの中にも遅れて来る子もいる。森下はそういった子どもたちの補助も考えないといけない。
「こっちだよ。大丈夫だからね」
「うん。わたしたちもいるからね」
森下が様子を見に行くと紅葉と桜が遅れていたクラスメートを励ましながら一緒に登ってきていた。
紅葉と桜はとても仲がよいが、同時に周りを気遣える優しい心の子たちでもある。森下はそんな紅葉と桜の性格が好きだった。
「あと少しだからね。水分も補給もしっかり」
森下は子どもたちの体調を気づかいながら目的地の展望台までたどり着いた。ここでお昼休みとなりお弁当を食べ終えて休憩した後で下山となる。
「紅葉ちゃんと桜ちゃんのお弁当美味しそうだね」
二人に声をかけたのは山下のクラスの大黒 健太だった。前にちらっと話を聞いたが、紅葉と桜は公園で会うことが多いらしい。
健太は比較的おとなし目の男子と言った印象だ。体も小柄で登山の途中でも隣のクラスの最後尾から少し遅れていたようであった。
体力面では他の生徒より少々劣るようだが、頭は良いらしく成績はクラスでは常にトップなようである。
ただ健太の親はクセが強いようであり、担任の山下が困っていることもよくあった。
そんな健太が食べている弁当は、いかににもコンビニエンスストアで買ってきましたといった内容のものだった。健太が紅葉と桜の弁当を羨ましがるのも少しわかる気がする。
何より紅葉と桜の弁当は森下からみても美味しそうだ。紅葉の弁当は鮮やかで栄養バランスもよく考えられているようだった。
桜の弁当はキャラ弁だが作り込みが凄まじかった。ボリュームもあり、昼食としては十分満足のいくものだろう。
「けんたくんも食べる?」
「え? いいの?」
「うん! このからあげをあげるね」
「じゃあ私はたまごやきをあげるよ!」
二人から弁当を分けてもらい健太は嬉しそうだった。そのお返しに健太はおかしをわけているようだった。
「いや健太はこっちにいましたか。すみませんね森下先生」
「いえ、仲良くやってるみたいだし他のクラスとの交流も大事だと思いますからね」
山下とそんな話をしつつ森下もお昼を食べ、そして下山の時間が来た。
山を降りることとなったが昼休憩を挟んでいるとはいえ、疲れが残っている生徒もいる。これが如実に現れていたのは隣のクラスの健太であり、森下のクラスに追いつかれることとなった。
『もうしわけないです健太は体力的にキツそうなので森下先生のクラスと一緒でもいいですか?』
山下に無線で連絡を取るとそんな返答が返ってきた。森下としても特に問題はないので了承した。
「それじゃあ、みんな一緒に帰ろうか。疲れたら先生に言っていいからね」
『は~い』
子どもたちの元気な声を聞いているだけで森下は疲れが和らいだ。こうして下山を進めると健太は更に後ろの方になり紅葉と桜も健太を励ましながら一緒に足を進めていた。
森下は列の中間あたりで様子を見ていたが、その時健太がなにかに躓いたのか転んでしまった。
「大丈夫!」
森下が健太の様子を見に行ったその時だった――地面が揺れた。地震!? と森下は慌てて生徒たちに駆け寄り抱きしめた。
刹那、突如地面が抜け、開いた穴に森下と何人かの生徒たちは呑み込まれることとなった――
教師になって三年目の彼女は今のクラスへの愛着も強い。活発な子どもたちに時に振り回されることもあるが、子どもたちの成長を直に感じられる教師という仕事に就けて本当に良かったと久美子は感じていた。
「さぁみんな。そろそろ到着だから準備してね」
『は~い!』
子どもたちの元気な声が久美子には心地よかった。陽輝山の麓に到着しバスを下車すると太陽の光に照らされた。空には雲一つない青空が広がっている。
登山するには絶好の日和だなと久美子は思った。
「それじゃあ地図を広げて目的地を確認しますね」
集団となった子どもたちの前で久美子が持参している地図を広げた。そこに記されているのは山の大きさやこれから登っていくルートについても書かれていた。
「森下先生は真面目ですねぇ」
地図を確認する久美子に声がかかった。隣のクラスの担任である山下であった。
「事故が起きたら大変ですからね」
「確かにそうですね。まぁ、何かあったらこの山下にお任せを。体力には自信がありますから」
そういって二カッと笑う山下は確かに体格が良い。ジム通いを日課にしておりベンチプレスも百キロぐらいは軽いと普段から自慢気に話していたのを森下は思い出す。
「頼りにしてますよ。勿論何もないのが一番ですけどね」
「それは当然ですがね。ハッハッハ」
こうしてルートの確認も取り、一組から順番に山に入っていった。森下のクラスは最後尾からのスタートとなる。
小学校の登山とあってルートはそこまで険しくはない。緩やかな傾斜の山道を登っていく為、子どもたちも基本的には余裕そうだ。
それでも3,40分もすれば子どもたちの中にも遅れて来る子もいる。森下はそういった子どもたちの補助も考えないといけない。
「こっちだよ。大丈夫だからね」
「うん。わたしたちもいるからね」
森下が様子を見に行くと紅葉と桜が遅れていたクラスメートを励ましながら一緒に登ってきていた。
紅葉と桜はとても仲がよいが、同時に周りを気遣える優しい心の子たちでもある。森下はそんな紅葉と桜の性格が好きだった。
「あと少しだからね。水分も補給もしっかり」
森下は子どもたちの体調を気づかいながら目的地の展望台までたどり着いた。ここでお昼休みとなりお弁当を食べ終えて休憩した後で下山となる。
「紅葉ちゃんと桜ちゃんのお弁当美味しそうだね」
二人に声をかけたのは山下のクラスの大黒 健太だった。前にちらっと話を聞いたが、紅葉と桜は公園で会うことが多いらしい。
健太は比較的おとなし目の男子と言った印象だ。体も小柄で登山の途中でも隣のクラスの最後尾から少し遅れていたようであった。
体力面では他の生徒より少々劣るようだが、頭は良いらしく成績はクラスでは常にトップなようである。
ただ健太の親はクセが強いようであり、担任の山下が困っていることもよくあった。
そんな健太が食べている弁当は、いかににもコンビニエンスストアで買ってきましたといった内容のものだった。健太が紅葉と桜の弁当を羨ましがるのも少しわかる気がする。
何より紅葉と桜の弁当は森下からみても美味しそうだ。紅葉の弁当は鮮やかで栄養バランスもよく考えられているようだった。
桜の弁当はキャラ弁だが作り込みが凄まじかった。ボリュームもあり、昼食としては十分満足のいくものだろう。
「けんたくんも食べる?」
「え? いいの?」
「うん! このからあげをあげるね」
「じゃあ私はたまごやきをあげるよ!」
二人から弁当を分けてもらい健太は嬉しそうだった。そのお返しに健太はおかしをわけているようだった。
「いや健太はこっちにいましたか。すみませんね森下先生」
「いえ、仲良くやってるみたいだし他のクラスとの交流も大事だと思いますからね」
山下とそんな話をしつつ森下もお昼を食べ、そして下山の時間が来た。
山を降りることとなったが昼休憩を挟んでいるとはいえ、疲れが残っている生徒もいる。これが如実に現れていたのは隣のクラスの健太であり、森下のクラスに追いつかれることとなった。
『もうしわけないです健太は体力的にキツそうなので森下先生のクラスと一緒でもいいですか?』
山下に無線で連絡を取るとそんな返答が返ってきた。森下としても特に問題はないので了承した。
「それじゃあ、みんな一緒に帰ろうか。疲れたら先生に言っていいからね」
『は~い』
子どもたちの元気な声を聞いているだけで森下は疲れが和らいだ。こうして下山を進めると健太は更に後ろの方になり紅葉と桜も健太を励ましながら一緒に足を進めていた。
森下は列の中間あたりで様子を見ていたが、その時健太がなにかに躓いたのか転んでしまった。
「大丈夫!」
森下が健太の様子を見に行ったその時だった――地面が揺れた。地震!? と森下は慌てて生徒たちに駆け寄り抱きしめた。
刹那、突如地面が抜け、開いた穴に森下と何人かの生徒たちは呑み込まれることとなった――
215
あなたにおすすめの小説
小さなフェンリルと私の冒険時間 〜ぬくもりに包まれた毎日のはじまり〜
ちょこの
ファンタジー
もふもふな相棒「ヴァイス」と一緒に、今日もダンジョン生活♪
高校生の優衣は、ダンジョンに挑むけど、頼れるのはふわふわの相棒だけ。
ゆるふわ魔法あり、ドキドキのバトルあり、モフモフ癒しタイムも満載!
ほんわか&ワクワクな日常と冒険が交差する、新感覚ファンタジー!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
ダンジョン配信ですよ、我が主 ~いや、貴女が配信したほうが良いような~
志位斗 茂家波
ファンタジー
…ある日突然、世界中にダンジョンと呼ばれる謎のものが出現した。
迷宮、塔、地下世界…そして未知のモンスターに、魔法の道具等、内包する可能性は未知数であり、世界は求めていく。
とはいえ、その情報がどんどん出てくれば、価値も少しづつ薄れるもので…気が付けば、一般向けに配信者が出てきたりと、気軽な存在になっていた。
そんな中である日、小遣い稼ぎとして配信を始めて行おうとしたとある少年が、ダンジョン内で巡り合ってしまった…魔法の道具…もとい、何故かメイドの彼女との運命が、世界を混沌へ堕としこむのだが…
異世界カードSHOP『リアのカード工房』本日開店です 〜女神に貰ったカード化スキルは皆を笑顔にさせるギフトでした〜
夢幻の翼
ファンタジー
自分のお店を経営したい!
そんな夢を持つアラサー女子・理愛(リア)はアルバイト中に気を失う。次に気がつけばそこでは平謝りする女神の姿。
死亡理由が故意か過失か分からないままに肉体が無い事を理由に異世界転生を薦められたリアは仕方なしに転生を選択する。
だが、その世界では悪事を働かなければ自由に暮らして良い世界。女神に貰ったスキルを駆使して生前の夢だった店舗経営に乗り出したリア。
少々チートなスキルだけれど皆を笑顔にさせる使い方でたちまち町の人気店に。
商業ギルドのマスターに気に入られていろんな依頼も引き受けながら今日も元気にお店を開く。
異世界カードSHOP『リアのカード工房』本日も開店しています。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる