親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃

文字の大きさ
118 / 190
第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編

第117話 地上の動き

しおりを挟む
「皆はまだ戻ってこないんですか?」

 山守が不安そうな表情で係長に聞いていた。既に風間たちがダンジョンに向かったことは聞いていて、その時も取り乱したものだが、今は皆を信じるしかなかった。

 それでも不満があるとしたら風間たちがダンジョンに入るまでの経緯が曖昧になってることだろう。

 山守が説明を求めても冒険者の活動についての詳細は一般人には説明出来ないの一点張りだったのである。
 
 だがダンジョンに風間たちが向かってから随分と時間が経っている。山守の不安は大きくなる一方だ。

「残念だがまだ戻ってはいないな。今は信じて待つ他ないでしょう」
「それなら、他に救助隊とか向かわせることは出来ないのですか?」
「こちらも出来る限りのことはしている。他の冒険者への協力要請も引き続き行っているのだよ」
 
 それが係長の変わらない返答だった。山守は何度も状況を確認しに来ているが答えは常に一緒だった。

「――今回発生したダンジョンは皆が入っても問題ないレベルなんですか?」
「…………」

 山守は方向性を変えて質問していた。それに対する係長の答えはなかった。

「それも答えられないのですか?」
「答えようがないな。ダンジョンはそもそも危険な場所だ。確実に安全な保証など無い。今は彼らを信じるしか無いだろう」
「そんなこと――」

 わかってると山守は言いたかった。だが今何を言ったところで風間たちがダンジョンに入った事実は変わらない。ただ待つ他ないこともわかっている。

 だが、ギルド職員、特に係長の態度には納得できない部分も多いのである。

「私が冒険者だったら……」

 ついそんな言葉が口に出てしまった。もし自分にジョブが与えられていたらすぐにでも冒険者として登録して皆を追いかけたい、それが本音である。

「たとえ冒険者だったとしても厳しいね。登録したてのG級やF級程度ではこの手のダンジョン災害には対応できないからね」
  
 そう説明したのは最初に風間たちに対応したギルド職員だった。それを聞いた山守の顔色が変わり、係長は職員を睨みつけた。

「どういうことですか? それならどうして皆がダンジョンに?」
「そ、それは――」
「一体何を騒いでいるのですか?」

 山守に詰め寄られ焦る係長の耳に、別な声が届いた。その声には山守も聞き覚えがあった。

「あ! 香川さん! それに天野川さんも」

 山守が声を張り上げた。その反応を見て係長の顔が曇る。

「あ、貴方がどうしてここに?」
「緊急事態と聞きまして、今回だけ特別に冒険者として活動することとなりました。彼女も先程手が空いたということでしたので同行してもらいます。現在の状況を教えてもらえますか?」
「えっと、それは、その」
「風間さんたちが皆を助けるためにダンジョンに入ってしまって、でもまだ戻ってきてないんです」
 
 言葉に詰まる係長を他所に山守が事情を説明した。係長が苦虫を噛み潰したような顔を見せる。

「これは一体どういうことですか? 彼らはまだ登録したてでランクもG級。緊急事態時の要請対象にはなってないはずですよ」
 
 香川が厳しい視線を係長に向けた。係長は明らかに狼狽していた。

「それは――実は我々も入れないと忠告したのですが、彼らが静止も聞かずムリヤリ向かってしまったのです。G級とは言え人数はいたので対応しきれず、そこは申し訳ないと思ってます」
「そんなこと、さっきは言ってなかったじゃないですか!」

 係長の説明に山守は納得していなかった。事前の説明には一切出てこなかった話であり、責任逃れに感じられてしかたなかったのだろう。

「それは君に心配を掛けたくなかったからだ」
「それが事実だとして、真っ先に冒険者ギルドに報告すべきでしょう。ですが一切こちらにはそのような話は届いてませんでしたよ」
「申し訳ありません。このような緊急事態の為、他にも仕事が山積みでして連絡が遅れてました」
 
 香川の追求にも答える係長。だがどうみても言い訳にしか思えない。

「貴方も見ていたのですか?」

 すると香川がもう一人の職員に問いかけた。係長が職員を睨みつける。余計なことを言うなよと言わんばかりに。

「――申し訳ありません。係長が許可をした段階で私も止めるべきでした。ですが他にあてがなかったのも事実であり、つい黙認してしまいました」

 だが係長の目論見は外れ、職員が事実を話した。そのうえで職員は深々と頭を下げた。

「――どうやら貴方には色々と確認しなければいけないようですね。ですが先ずはダンジョン災害に巻き込まれた人々の救出が優先となります」
「私もそう思う。急ごう」

 ここに来て天野川が初めて口を開き、香川も首肯した。

「うちの職員が申し訳ありませんでした」
 
 そして改めて香川が山守に頭を下げた。山守が首を振って彼女を宥める。

「そんな、香川さんは何もわるくありませんから」
「いえ、これはギルドの不始末です。とにかくここからは責任を持って私たちが向かいますので」

 そして香川と天野川が山守に見送られながらダンジョンに向かった――
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

魔物が棲む森に捨てられた私を拾ったのは、私を捨てた王子がいる国の騎士様だった件について。

imu
ファンタジー
病院の帰り道、歩くのもやっとな状態の私、花宮 凛羽 21歳。 今にも倒れそうな体に鞭を打ち、家まで15分の道を歩いていた。 あぁ、タクシーにすればよかったと、後悔し始めた時。 「—っ⁉︎」 私の体は、眩い光に包まれた。 次に目覚めた時、そこは、 「どこ…、ここ……。」 何故かずぶ濡れな私と、きらびやかな人達がいる世界でした。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

転移したらダンジョンの下層だった

Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。 もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。 そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

辺境の最強魔導師   ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~

日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。 アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。 その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

処理中です...