親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃

文字の大きさ
126 / 190
第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編

第125話 ゴブは悪いゴブリンではない

しおりを挟む
「一体何ザマスか! その汚らわしいモンスターは!」

 ゴブを指さして怒鳴り散らしているのは健太の母親の大黒だった。相変わらず自己主張の強い格好と声だな――

「ママ、どうして?」

 健太が目を丸くさせて呟いた。母親の言動に戸惑っているようだ。

「ダンジョン災害に巻き込まれたと聞いて心配で来たザマス! それなのにこんなモンスターと一緒だなんて、冒険者は何を考えているザマスか!」
「落ち着いて下さいお母様」

 荒ぶる大黒相手に香川が静かな口調で話しかけた。興奮状態の大黒を落ち着かせようとしてくれている。

「これが落ち着いていられるザマスか! こんな危険な目に合わせて責任は追求するザマスよ! 慰謝料を請求するザマス!」

 香川を指差し大黒が叫んだ。い、慰謝料と来たか。たしかにダンジョン災害で一般人が巻き込まれてはいるけどさ――

「とにかくさっさとその汚らしいモンスターを駆除するザマス! 冒険者はそのためにいるザマス! そこのお前もぼ~っと見てないでさっさと動くザマス!」
「あん? 俺に言ってんのか?」

 大黒が命じた相手は熊谷だった。しかし熊谷はゴブが敵ではないことを知っている。何より大黒な傲慢な態度に苛ついている様子だ。

「お前以外に誰がいるザマス! 全く見た目は悪人みたいな面してる癖に、まさかこんなモンスターにビビってるザマスか! これだから冒険者なんていう底辺は! お前らは礼儀も何もなってない野蛮人なんザマスからせめてモンスターでも駆除して人々に貢献するザマス! さぁさっさと動けザマス!」
「てめぇ言わせておけば!」
「お、落ち着け!」
「腹立つおばさんだけど手を出したらダメだよ!」

 飛び出そうとした熊谷を中山と愛川が止めていた。今の熊谷からみたらゴブリンよりも大黒の方が駆除すべき相手に見えていることだろう。

 それにしてもこいつは、自分の子どもが見ている前でよくこんな醜態を晒せるものだな。

「いい加減にしたらどうだ? 状況も何もわかっていない癖に決めつけが過ぎだろう」
「うるさい! て、お前、前に公園にいた男ザマスね! そうか、お前が健太を危険な目に合わせたザマスね!」

 俺が口を挟むと、大黒が唾を飛ばしながらまくし立ててきた。俺のこと覚えられていたか。

「お母様は勘違いされているようですが、彼らは子どもたちを助けてくれた功労者ですよ。そのゴブリンにしてもそうです」

 やれやらといった表情で香川が説明してくれた。俺たちのことを功労者だと認めてくれていたんだな。

「そ、そうですよ大黒さん。私もそのゴブリンに助けられたんです。そのゴブリンは良いゴブリンなんです」

 更に女性の先生も擁護してくれた。だが大黒の表情は険しい。

「は? 何言ってるザマスか! そんな汚らしいモンスターが良いゴブリンなわけないザマス!」
「ゴブゥ……」

 大黒の言葉でゴブが目を伏せて悲しそうな声を上げた。ゴブは大黒の言っている意味を理解しているのかも知れない。

「ワン!」
「ピキィ!」
「マァ!」

 そんなゴブを励ますようにモコ、ラム、マールの三匹が寄り添っていた。こんな心優しい仲間が誇らしく思えるよ。

「もうやめてよママ! ゴブは僕たちを助けてくれたんだ! 酷いこと言わないで!」
「け、健太? 貴方まで何を言ってるザマスか?」
「健太くんの言う通りだよ! ゴブちゃんは良いゴブリンなんだからね!」
「悪く言わないでよ!」
「ゴブをイジメたら許さないぞ!」

 健太の声を皮切りに子どもたちが一斉に大黒を糾弾した。これは当然だろう。みんなゴブの頑張りを見てくれているんだからな。

「良かったなゴブ。子どもたちはゴブがどれだけ頑張ったかわかってくれているぞ」
「ゴブゥ~♪」

 大黒に酷いことを言われ落ち込んでいたゴブも、子どもたちの擁護で笑顔を取り戻してくれたようだ。

「ゴブちゃん、紅葉や子どもたちを助けてくれたいい子なんだね。本当にありがとうね」
「ゴブゥ~」

 秋月もゴブのことを理解できたようだ。頭を撫でて優しい笑みを浮かべている。

「み、みんなどうかしてるザマス! こんなモンスターを庇うなんて頭がおかしいザマス!」
「全く随分な言い草なおい」

 叫ぶ大黒だが、そこに声が割り込んだ。見ると屈強な男性がこちらに近づいてきていた。

「ギルドマスター――」
「よっ、相変わらず大変な目にあってるみたいだな」

 俺が呟くと、二カッと笑ってギルドマスターの小澤が近づいてきた。ここでの登場はすごくありがたい気がするぞ――
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

小さなフェンリルと私の冒険時間 〜ぬくもりに包まれた毎日のはじまり〜

ちょこの
ファンタジー
もふもふな相棒「ヴァイス」と一緒に、今日もダンジョン生活♪ 高校生の優衣は、ダンジョンに挑むけど、頼れるのはふわふわの相棒だけ。 ゆるふわ魔法あり、ドキドキのバトルあり、モフモフ癒しタイムも満載! ほんわか&ワクワクな日常と冒険が交差する、新感覚ファンタジー!

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

処理中です...