親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃

文字の大きさ
127 / 190
第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編

第126話 大黒のやらかし

しおりを挟む
「次から次へと、一体なんなんザマスか!」

 ギルドマスターの小澤が姿を現すと、大黒が憤慨しながら声を張り上げた。彼女は人差し指を突き出したまま腕を上下させ、怒りを露わにしている。

「俺はこのあたりを管轄する冒険者ギルドのマスターだ」 
「マスター――つまり責任者ってことザマスね! だったらすぐにそこのモンスターを排除するザマス! そしてとっとと賠償金を支払うザマス!」

 大黒が興奮気味にまくし立てる。その様子からは、最初は子ども危険な目にあった故の怒りなのかと思ったが、いつの間にか金銭に対する要求が強くなっている気がする。

「なるほど。モンスターと言うと、そこのゴブリンか? 俺の知っているゴブリンとは見た目が違うが……しかし、可愛いなおい! もう辛抱たまらん!」

 小澤はそう言うや否や、ダッシュでゴブに駆け寄り、ひょいと抱き上げて頬ずりを始めた。か、変わらないな、ギルドマスターは――。

「ゴブッ!? ゴブゥ~♪」

 最初こそ驚いていたゴブも、すぐに小澤に心を許した様子だ。見た目は少しいかついが、どうもモンスターに好かれる才能があるらしい。

「な、何してるザマスか! そんな汚らわしいモンスター相手に!」 
「汚らわしい? どこがだ。こんなに愛らしいのに!」
 「こ、こいつ大丈夫ザマスか……」

 鼻血を出しつつモンスターへの愛を語る小澤の姿に、大黒も若干引き気味だ。

「さて、危険という話だったが、さっきのやり取りを聞く限り――このゴブリンはどうも普通とは違うようだな。この子に名前はあるのか?」 
「ゴブちゃんだよ!」 
「おお、そうか。俺は小澤だ。よろしくな、ゴブ」 
「ゴブゥ~♪」

 紅葉が教えた名前を聞き、小澤はゴブを抱き上げたまま、嬉しそうに挨拶する。ゴブも満更ではないようで、なんだか楽しげだ。

「さて、このゴブだが、子どもたちはむしろ感謝しているみたいじゃないか。助けてもらったそうだな」 
「そ、そんなのモンスターが怖くて言ってるだけザマス!」
「いえ。このゴブリンが皆を助けたというのは、ここにいる冒険者たちも認めています。それに私も、そのゴブリンに敵意がないことを確認済みですよ」

 メガネを押し上げながら香川が語り、中山も「うんうん」と頷いている。

「ゴブはとても勇敢なゴブリンだ。きっと、筋肉が愛で満ちているんだろう」 
「さっきからおかしなことばっかり言う連中ザマス!」

 確かに中山は独特な言い回しをするが、言っている内容に嘘はない。

「俺もゴブと協力して紅葉ちゃんを助けに行った。そもそもあんた以外は全員、ゴブの味方なんだ。どっちが間違ってるかは火を見るより明らかだろう」

 あまりにも一方的な態度にイラつき始めた俺は、はっきりとそう言い放った。この場でゴブの擁護に回る者は多いが、大黒の肩を持つ者は皆無。いや、係長ぐらいか――もっとも、今はそれどころじゃないだろうが。

「あ、あんたら、誰に文句を言ってるかわかってるザマスか! うちの夫は議員事務所でスタッフとして働いているザマスよ!」 
「お、おう……」

 得意げに言い放つ大黒だが、小澤もどう反応していいのか戸惑っている様子だ。議員ならともかく、スタッフという肩書では微妙なところだろう。

「まあ、あんたの夫が議員事務所のスタッフなのはともかく、自分の身を案じたほうがいいんじゃないのか?」 
「は? な、何を言ってるザマスか!」

 小澤がわざと声を落として大黒に耳打ちすると、彼女は目を丸くし、みるみるうちに顔色が変わった。

「くっ、健太、すぐに帰るザマスよ!」 
「それは無理だな。実は父親のほうにも連絡してある。もうすぐ来ると言っているんだ。悪いが、そちらに引き渡すことになるな。理由は自分が一番わかっているだろう?」
「あ、あ、う、うわぁああぁあ!」

 大黒は叫び声を上げ、脱兎のごとくその場から逃げ去った。

「えっと、これは一体……?」 
「あぁ、風間にも関わる話だから説明するが、実はな――」

 そう言うと小澤は俺に耳打ちしてくれた。その内容は実に驚くべき事実で。

「まさか、あいつに銃を売ったのが大黒だったのか……」 「おっと、子どももいる。内密に頼む」

 俺は思わずゴクリと唾を飲む。そうなると気になることが一つ。

「それなのに逃がしちゃって大丈夫なんですか?」
「あぁ。もう警察は動いている。それに俺たちに民間人をどうにかする権限はないからな。せいぜい情報を提供するくらいさ」

 小澤はそう言うと、スマフォを耳に当てるポーズをしてみせた。なるほど。そういうことなら、あいつが捕まるのも時間の問題だろう――
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

おばさん冒険者、職場復帰する

神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。 子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。 ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。 さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。 生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。 ----- 剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。 一話ごとで一区切りの、連作短編(の予定)。 ----- ※小説家になろう様にも掲載中。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~

わんた
ファンタジー
「今日中に出ていけ! 半年も家賃を滞納してるんだぞ!」 現代日本にダンジョンとスキルが存在する世界。 渋谷で錬金術師として働いていた裕真は、研究に没頭しすぎて店舗の家賃を払えず、ついに追い出されるハメになった。 私物と素材だけが残された彼に残された選択肢は――“現地販売”の行商スタイル! 「マスター、売ればいいんですよ。死にかけの探索者に、定価よりちょっと高めで」 提案したのは、裕真が自作した人工精霊・ユミだ。 家事万能、事務仕事完璧、なのにちょっとだけ辛辣だが、裕真にとっては何物にも代えがたい家族でありパートナーでもある。 裕真はギルドの後ろ盾、そして常識すらないけれど、素材とスキルとユミがいればきっと大丈夫。 錬金術のスキルだけで社会の荒波を乗り切る。 主人公無双×のんびり錬金スローライフ!

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

処理中です...