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第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編
第126話 大黒のやらかし
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「次から次へと、一体なんなんザマスか!」
ギルドマスターの小澤が姿を現すと、大黒が憤慨しながら声を張り上げた。彼女は人差し指を突き出したまま腕を上下させ、怒りを露わにしている。
「俺はこのあたりを管轄する冒険者ギルドのマスターだ」
「マスター――つまり責任者ってことザマスね! だったらすぐにそこのモンスターを排除するザマス! そしてとっとと賠償金を支払うザマス!」
大黒が興奮気味にまくし立てる。その様子からは、最初は子ども危険な目にあった故の怒りなのかと思ったが、いつの間にか金銭に対する要求が強くなっている気がする。
「なるほど。モンスターと言うと、そこのゴブリンか? 俺の知っているゴブリンとは見た目が違うが……しかし、可愛いなおい! もう辛抱たまらん!」
小澤はそう言うや否や、ダッシュでゴブに駆け寄り、ひょいと抱き上げて頬ずりを始めた。か、変わらないな、ギルドマスターは――。
「ゴブッ!? ゴブゥ~♪」
最初こそ驚いていたゴブも、すぐに小澤に心を許した様子だ。見た目は少しいかついが、どうもモンスターに好かれる才能があるらしい。
「な、何してるザマスか! そんな汚らわしいモンスター相手に!」
「汚らわしい? どこがだ。こんなに愛らしいのに!」
「こ、こいつ大丈夫ザマスか……」
鼻血を出しつつモンスターへの愛を語る小澤の姿に、大黒も若干引き気味だ。
「さて、危険という話だったが、さっきのやり取りを聞く限り――このゴブリンはどうも普通とは違うようだな。この子に名前はあるのか?」
「ゴブちゃんだよ!」
「おお、そうか。俺は小澤だ。よろしくな、ゴブ」
「ゴブゥ~♪」
紅葉が教えた名前を聞き、小澤はゴブを抱き上げたまま、嬉しそうに挨拶する。ゴブも満更ではないようで、なんだか楽しげだ。
「さて、このゴブだが、子どもたちはむしろ感謝しているみたいじゃないか。助けてもらったそうだな」
「そ、そんなのモンスターが怖くて言ってるだけザマス!」
「いえ。このゴブリンが皆を助けたというのは、ここにいる冒険者たちも認めています。それに私も、そのゴブリンに敵意がないことを確認済みですよ」
メガネを押し上げながら香川が語り、中山も「うんうん」と頷いている。
「ゴブはとても勇敢なゴブリンだ。きっと、筋肉が愛で満ちているんだろう」
「さっきからおかしなことばっかり言う連中ザマス!」
確かに中山は独特な言い回しをするが、言っている内容に嘘はない。
「俺もゴブと協力して紅葉ちゃんを助けに行った。そもそもあんた以外は全員、ゴブの味方なんだ。どっちが間違ってるかは火を見るより明らかだろう」
あまりにも一方的な態度にイラつき始めた俺は、はっきりとそう言い放った。この場でゴブの擁護に回る者は多いが、大黒の肩を持つ者は皆無。いや、係長ぐらいか――もっとも、今はそれどころじゃないだろうが。
「あ、あんたら、誰に文句を言ってるかわかってるザマスか! うちの夫は議員事務所でスタッフとして働いているザマスよ!」
「お、おう……」
得意げに言い放つ大黒だが、小澤もどう反応していいのか戸惑っている様子だ。議員ならともかく、スタッフという肩書では微妙なところだろう。
「まあ、あんたの夫が議員事務所のスタッフなのはともかく、自分の身を案じたほうがいいんじゃないのか?」
「は? な、何を言ってるザマスか!」
小澤がわざと声を落として大黒に耳打ちすると、彼女は目を丸くし、みるみるうちに顔色が変わった。
「くっ、健太、すぐに帰るザマスよ!」
「それは無理だな。実は父親のほうにも連絡してある。もうすぐ来ると言っているんだ。悪いが、そちらに引き渡すことになるな。理由は自分が一番わかっているだろう?」
「あ、あ、う、うわぁああぁあ!」
大黒は叫び声を上げ、脱兎のごとくその場から逃げ去った。
「えっと、これは一体……?」
「あぁ、風間にも関わる話だから説明するが、実はな――」
そう言うと小澤は俺に耳打ちしてくれた。その内容は実に驚くべき事実で。
「まさか、あいつに銃を売ったのが大黒だったのか……」 「おっと、子どももいる。内密に頼む」
俺は思わずゴクリと唾を飲む。そうなると気になることが一つ。
「それなのに逃がしちゃって大丈夫なんですか?」
「あぁ。もう警察は動いている。それに俺たちに民間人をどうにかする権限はないからな。せいぜい情報を提供するくらいさ」
小澤はそう言うと、スマフォを耳に当てるポーズをしてみせた。なるほど。そういうことなら、あいつが捕まるのも時間の問題だろう――
ギルドマスターの小澤が姿を現すと、大黒が憤慨しながら声を張り上げた。彼女は人差し指を突き出したまま腕を上下させ、怒りを露わにしている。
「俺はこのあたりを管轄する冒険者ギルドのマスターだ」
「マスター――つまり責任者ってことザマスね! だったらすぐにそこのモンスターを排除するザマス! そしてとっとと賠償金を支払うザマス!」
大黒が興奮気味にまくし立てる。その様子からは、最初は子ども危険な目にあった故の怒りなのかと思ったが、いつの間にか金銭に対する要求が強くなっている気がする。
「なるほど。モンスターと言うと、そこのゴブリンか? 俺の知っているゴブリンとは見た目が違うが……しかし、可愛いなおい! もう辛抱たまらん!」
小澤はそう言うや否や、ダッシュでゴブに駆け寄り、ひょいと抱き上げて頬ずりを始めた。か、変わらないな、ギルドマスターは――。
「ゴブッ!? ゴブゥ~♪」
最初こそ驚いていたゴブも、すぐに小澤に心を許した様子だ。見た目は少しいかついが、どうもモンスターに好かれる才能があるらしい。
「な、何してるザマスか! そんな汚らわしいモンスター相手に!」
「汚らわしい? どこがだ。こんなに愛らしいのに!」
「こ、こいつ大丈夫ザマスか……」
鼻血を出しつつモンスターへの愛を語る小澤の姿に、大黒も若干引き気味だ。
「さて、危険という話だったが、さっきのやり取りを聞く限り――このゴブリンはどうも普通とは違うようだな。この子に名前はあるのか?」
「ゴブちゃんだよ!」
「おお、そうか。俺は小澤だ。よろしくな、ゴブ」
「ゴブゥ~♪」
紅葉が教えた名前を聞き、小澤はゴブを抱き上げたまま、嬉しそうに挨拶する。ゴブも満更ではないようで、なんだか楽しげだ。
「さて、このゴブだが、子どもたちはむしろ感謝しているみたいじゃないか。助けてもらったそうだな」
「そ、そんなのモンスターが怖くて言ってるだけザマス!」
「いえ。このゴブリンが皆を助けたというのは、ここにいる冒険者たちも認めています。それに私も、そのゴブリンに敵意がないことを確認済みですよ」
メガネを押し上げながら香川が語り、中山も「うんうん」と頷いている。
「ゴブはとても勇敢なゴブリンだ。きっと、筋肉が愛で満ちているんだろう」
「さっきからおかしなことばっかり言う連中ザマス!」
確かに中山は独特な言い回しをするが、言っている内容に嘘はない。
「俺もゴブと協力して紅葉ちゃんを助けに行った。そもそもあんた以外は全員、ゴブの味方なんだ。どっちが間違ってるかは火を見るより明らかだろう」
あまりにも一方的な態度にイラつき始めた俺は、はっきりとそう言い放った。この場でゴブの擁護に回る者は多いが、大黒の肩を持つ者は皆無。いや、係長ぐらいか――もっとも、今はそれどころじゃないだろうが。
「あ、あんたら、誰に文句を言ってるかわかってるザマスか! うちの夫は議員事務所でスタッフとして働いているザマスよ!」
「お、おう……」
得意げに言い放つ大黒だが、小澤もどう反応していいのか戸惑っている様子だ。議員ならともかく、スタッフという肩書では微妙なところだろう。
「まあ、あんたの夫が議員事務所のスタッフなのはともかく、自分の身を案じたほうがいいんじゃないのか?」
「は? な、何を言ってるザマスか!」
小澤がわざと声を落として大黒に耳打ちすると、彼女は目を丸くし、みるみるうちに顔色が変わった。
「くっ、健太、すぐに帰るザマスよ!」
「それは無理だな。実は父親のほうにも連絡してある。もうすぐ来ると言っているんだ。悪いが、そちらに引き渡すことになるな。理由は自分が一番わかっているだろう?」
「あ、あ、う、うわぁああぁあ!」
大黒は叫び声を上げ、脱兎のごとくその場から逃げ去った。
「えっと、これは一体……?」
「あぁ、風間にも関わる話だから説明するが、実はな――」
そう言うと小澤は俺に耳打ちしてくれた。その内容は実に驚くべき事実で。
「まさか、あいつに銃を売ったのが大黒だったのか……」 「おっと、子どももいる。内密に頼む」
俺は思わずゴクリと唾を飲む。そうなると気になることが一つ。
「それなのに逃がしちゃって大丈夫なんですか?」
「あぁ。もう警察は動いている。それに俺たちに民間人をどうにかする権限はないからな。せいぜい情報を提供するくらいさ」
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