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第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編
第127話 ゴブの今後
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「追わなくてよかったのか?」
俺と小澤が話していると、天野川が近づいてきて問いかけた。これはギルドマスターとしての小澤への質問だろう。
「あぁ。今も風間と話したが、一応相手は民間人だからな。専門の機関に任せるのが一番だ」
「うん、わかった」
天野川は小澤の返答を聞いて、小さく顎を引いた。天野川の強さなら追いかければすぐにでも捕まえられそうだが、民間人相手だと冒険者にはいろいろと制限があるのだろう。
「そういえば、天野川さんにもずいぶん助けられたな」
「私のことは天野川でも雫でもいい」
そう言われて俺は少し考える。呼び捨てでもいいらしいが、さすがに下の名前をそのまま呼ぶのは抵抗がある。
「わかった、天野川。本当にありがとう。君とかが、えっと――」
「私には“さん”をつけてください」
「あ、はい。そうですよね……」
眼鏡を押し上げながら、香川がキリッとした表情で応じる。さすがに彼女には通じないか。
「天野川と香川さんには本当に助けられたよ」
「私からもお礼を言わせてください! 妹の紅葉を助けてくれてありがとうございます!」
俺がお礼を伝えたのとほぼ同時に、秋月が丁重に頭を下げた。
「お姉さんかっこよかった! ありがとうございます」
姉の秋月の隣に立った紅葉も、ぺこりと頭を下げる。姉妹そろって礼儀正しいな、と思っていると、その横でゴブも同じように頭を下げた。
「ゴブゥ~」
ゴブが二人に倣うようにぺこりと頭を垂れるその光景は、なんとも微笑ましい。
「――私たちは当然のことをしたまでですよ。でも、そう言っていただけるなら光栄に思います」
「うん。助けに行った甲斐があった」
天野川と香川はそう言ってほほ笑んだ。本当に二人がいてくれて良かった。俺一人ではとても勝てる相手じゃなかったからな。
「――さて、一つ大事な話が残っていましたね」
「大事な話?」
「そのゴブリンの件です。このまま放っておくわけにはいきませんからね」
「ゴ、ゴブゥ……」
急に真顔になった香川を見て、ゴブが不安そうな声を上げた。すると紅葉がゴブをかばうように前へ出る。
「ゴブちゃんはうちに来てもらう! 私が面倒を見るよ!」 「え? 紅葉、それは――」
紅葉の言葉に、秋月が少し戸惑う。秋月自身がゴブを連れていくのを嫌がっているわけではないだろう。ただ、それが難しいことだと分かっているのだ。
「お嬢ちゃん。ゴブを大事に思う気持ちはよく分かる。だけど、それは難しいんだ。モンスターを民間人の家に預けるわけにはいかない」
小澤は腰を落とし、紅葉と視線を合わせながら優しく説明する。
「でも、ゴブちゃんは悪いモンスターじゃないよ! 私、ちゃんと知ってるもん!」
「それは分かるがな……」
小澤も紅葉の気持ちをくんであげたいのだろうが、規則上どうにもならないらしい。
「ワンワン!」
「ピキィ~!」
「マァ~!」
するとモコ、ラム、マールの三匹も小澤にしがみつき、懇願するように声を上げた。どうにかゴブを助けたいのだろう。
「悪いが、君の家で一緒に暮らすというのは難しい。全く厄介なものだ。例えば……そうだな。どんなモンスターとでも仲良くなれて、一緒に暮らしてくれる優しい冒険者がいたらいいんだけどなぁ~」
小澤が俺の方をチラチラ見ながら言う。これはどう考えても「お前が何とかしろ」というサインだ。
――とはいえ、俺も考えていたことだ。ゴブとは一緒に戦った仲間みたいな感情もあるし、見捨てるわけにはいかない。
「ゴブ、よかったら俺と来るか?」
「――!? ゴブゥ~♪」
俺が尋ねると、ゴブは目を見開き、すぐに嬉しそうに抱きついてきた。
「ワンワン♪」
「ピキィ♪」
「マァ♪」
モコとラムとマールもやってきて、俺に抱きつく。俺の決断を歓迎してくれているようだ。
「お兄ちゃん、ゴブちゃんと一緒にいてくれるの?」
「あぁ、そのつもりだ。だから紅葉ちゃんもゴブに会いたくなったら、いつでも言ってくれよ」
「うん! よかったね、ゴブちゃん!」
「ゴブゥ~♪」
紅葉も嬉しそうに微笑んでいる。これで一件落着かと思ったが、香川はなにやら困ったような顔をしていた。えっと……まだ何か問題があるのか?
俺と小澤が話していると、天野川が近づいてきて問いかけた。これはギルドマスターとしての小澤への質問だろう。
「あぁ。今も風間と話したが、一応相手は民間人だからな。専門の機関に任せるのが一番だ」
「うん、わかった」
天野川は小澤の返答を聞いて、小さく顎を引いた。天野川の強さなら追いかければすぐにでも捕まえられそうだが、民間人相手だと冒険者にはいろいろと制限があるのだろう。
「そういえば、天野川さんにもずいぶん助けられたな」
「私のことは天野川でも雫でもいい」
そう言われて俺は少し考える。呼び捨てでもいいらしいが、さすがに下の名前をそのまま呼ぶのは抵抗がある。
「わかった、天野川。本当にありがとう。君とかが、えっと――」
「私には“さん”をつけてください」
「あ、はい。そうですよね……」
眼鏡を押し上げながら、香川がキリッとした表情で応じる。さすがに彼女には通じないか。
「天野川と香川さんには本当に助けられたよ」
「私からもお礼を言わせてください! 妹の紅葉を助けてくれてありがとうございます!」
俺がお礼を伝えたのとほぼ同時に、秋月が丁重に頭を下げた。
「お姉さんかっこよかった! ありがとうございます」
姉の秋月の隣に立った紅葉も、ぺこりと頭を下げる。姉妹そろって礼儀正しいな、と思っていると、その横でゴブも同じように頭を下げた。
「ゴブゥ~」
ゴブが二人に倣うようにぺこりと頭を垂れるその光景は、なんとも微笑ましい。
「――私たちは当然のことをしたまでですよ。でも、そう言っていただけるなら光栄に思います」
「うん。助けに行った甲斐があった」
天野川と香川はそう言ってほほ笑んだ。本当に二人がいてくれて良かった。俺一人ではとても勝てる相手じゃなかったからな。
「――さて、一つ大事な話が残っていましたね」
「大事な話?」
「そのゴブリンの件です。このまま放っておくわけにはいきませんからね」
「ゴ、ゴブゥ……」
急に真顔になった香川を見て、ゴブが不安そうな声を上げた。すると紅葉がゴブをかばうように前へ出る。
「ゴブちゃんはうちに来てもらう! 私が面倒を見るよ!」 「え? 紅葉、それは――」
紅葉の言葉に、秋月が少し戸惑う。秋月自身がゴブを連れていくのを嫌がっているわけではないだろう。ただ、それが難しいことだと分かっているのだ。
「お嬢ちゃん。ゴブを大事に思う気持ちはよく分かる。だけど、それは難しいんだ。モンスターを民間人の家に預けるわけにはいかない」
小澤は腰を落とし、紅葉と視線を合わせながら優しく説明する。
「でも、ゴブちゃんは悪いモンスターじゃないよ! 私、ちゃんと知ってるもん!」
「それは分かるがな……」
小澤も紅葉の気持ちをくんであげたいのだろうが、規則上どうにもならないらしい。
「ワンワン!」
「ピキィ~!」
「マァ~!」
するとモコ、ラム、マールの三匹も小澤にしがみつき、懇願するように声を上げた。どうにかゴブを助けたいのだろう。
「悪いが、君の家で一緒に暮らすというのは難しい。全く厄介なものだ。例えば……そうだな。どんなモンスターとでも仲良くなれて、一緒に暮らしてくれる優しい冒険者がいたらいいんだけどなぁ~」
小澤が俺の方をチラチラ見ながら言う。これはどう考えても「お前が何とかしろ」というサインだ。
――とはいえ、俺も考えていたことだ。ゴブとは一緒に戦った仲間みたいな感情もあるし、見捨てるわけにはいかない。
「ゴブ、よかったら俺と来るか?」
「――!? ゴブゥ~♪」
俺が尋ねると、ゴブは目を見開き、すぐに嬉しそうに抱きついてきた。
「ワンワン♪」
「ピキィ♪」
「マァ♪」
モコとラムとマールもやってきて、俺に抱きつく。俺の決断を歓迎してくれているようだ。
「お兄ちゃん、ゴブちゃんと一緒にいてくれるの?」
「あぁ、そのつもりだ。だから紅葉ちゃんもゴブに会いたくなったら、いつでも言ってくれよ」
「うん! よかったね、ゴブちゃん!」
「ゴブゥ~♪」
紅葉も嬉しそうに微笑んでいる。これで一件落着かと思ったが、香川はなにやら困ったような顔をしていた。えっと……まだ何か問題があるのか?
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