親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃

文字の大きさ
142 / 190
第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編

第141話 問題なかった装備とジョブストーン

しおりを挟む
「しかし、風間のモンスターは本当に可愛いなぁ」
「ワオン♪」
「ピキィ♪」
「マァ♪」
「ゴブゥ♪」
「モグゥ♪」

 昇格の話が終わるや否や、小澤マスターはモンスターたちを次々抱き上げて頬ずり。険つい顔がとろけきっている。

「いい年した大男が、モンスターを前にするとこれだからな」

 言って熊谷が肩をすくめる。

「良いではないか。俺も美しい筋肉を見ればテンションが上がる。親近感だ」

 笑いながら中山が胸を張った。

「じゃあマスターの身体を見ても何か思うわけ?」と愛川がツッコむ。

「当然だ。マスターの筋肉は実に良い! 学ぶ点が多い」

 中山がポージングを決めると、小澤マスターも負けじと筋肉アピールを開始。

「ムッ! ならばこれでどうだ!」
「ほう、ならば俺の“究極二頭筋”!」
「俺ら、何見せられてんだ……」熊谷が額に手を当てる。
「ワンワン!」

 二人の様子を見ていたモコも尻尾を振りつつポーズを真似していた。可愛い。

「モコちゃんは今のままで可愛いからいいよ」

 愛川が抱え上げると、モコは誇らしげに胸を張った。 

 俺としてもモコがムキムキになるのはどうかなとは思う。本人がどうしてもと言うなら仕方ないけど、そんな感じでもないからな。

「動画的にも今のほうが可愛らしくていいかな」
「マァ~♪」

 秋月がマールを撫でながら言った。マールも嬉しそうだな。

「マスター。おふざけはそこまでで、そろそろ本題をお願いします」
「ムッ、別にふざけてないぞ」
「うむ。我々は本気で、互いの筋肉を認め合っているのだ!」

 香川からの指摘が入るも、小澤マスターと中山は納得していない様子だ。

「私は真面目に仕事してくださいと言ってるのですが?」
「そ、そうだな。調子に乗りすぎた……」
「お、俺も焚き付けたようで申し訳ない」

 香川の眼鏡がきらり、言葉には何処か圧が感じられた。小澤マスターと中山もビビってるな。もしかしてこの中で一番の強者は香川なのかもしれない。

 結局小澤マスターは咳払いし、改めて着席した。

「預かっていた狂血の大鎌だが、鑑定の結果“呪装”ではあるものの危険度は低いと判断された。用法を守り気分が悪い時に使わないなど注意書きを守れば、十分実戦投入可能だ」

 薬の添付文書みたいな注意事項に思わず苦笑してしまう。

「というわけで、自己責任で所持を許された。後で返却されるからサインをして受け取ってくれ。ただし、諸刃の剣とも言える武器なのは確かだ。扱いには気をつけてくれ」
 
 どうやらあの呪装は戻ってくるようだ。もっともあれが危険なのは使った俺が一番よくわかっている。だから基本的には鍬をメインで使うことになるだろう。

 そもそも戦わないにこしたことはないんだけどな。

「それともう一つダンジョンで見つけた武器があったわね」
「はい。鍬も見つけましたので」

 香川に聞かれたので答えた。そっちは所持を許されているから預けてはいないけど。

「すげぇな。どんだけお宝拾うんだよ」

 熊谷が羨ましげに言った。

「うむ。俺も筋肉映えするお宝を発掘したいものだ」
「そんな限定的なお宝あるの……?」

 中山の発言に愛川が苦笑している。

「持ってきてもらえれば、その鍬の鑑定も可能です」
「そうなんだな。あ、それならゴブが見つけたスリングも鑑定出来るかな?」
「ご希望であれば」
「そうか。良かったなゴブ」
「ゴブゥ~♪」

 ゴブを撫でると目を細めて嬉しそうにしていた。ダンジョンで見つけたアイテムとかはギルドにくれば見てもらえるんだな。覚えておこう。

 とは言え今日は持ってきていないから、また改めて鑑定してもらうことになるかな。

「最後にジョブストーンと腕輪の件だ。例の暴走組から押収した品だが、正式に彼女への譲渡が決まった」
「本当ですか!? やった!」

 秋月はぱっと顔を輝かせ、愛川と手を取り合って飛び跳ねる。マールとラムも輪に加わり、その場がちょっとした祝賀ムードに。

「ジョブストーンは今日受け渡し可能です。講習の予約も同時に取れますよ」
「じゃあ予約していきますね」

 こうして秋月も冒険者登録することが決まった。

 その後、俺はゴブとモグの検査・登録を終え、秋月はジョブストーンを受け取って講習日を確定。俺たちは冒険者証の書き替えも済ませ、正式にF級冒険者となった。振込通知には、例の報酬がしっかり反映されている。

「これで皆さんF級です。探索できるダンジョンの幅も広がりますが、それだけ危険も増します。無理は決してしないように」

 香川は最後の一文で俺にピンポイントの視線を送る。
 ――そんなに無茶するタイプじゃないんだけどなぁ。モンスターたちと穏やかに畑仕事ができれば、それで十分だ。

 モグが小さく「モグゥ」と鳴き、俺のズボンの裾を引っ張った。――ああ、分かってる。みんなを守るためにも、まずは慎重第一でいこう。

 新しいランク、新しい仲間、新しい装備。胸の奥がほんの少しだけ高鳴った。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

おばさん冒険者、職場復帰する

神田柊子
ファンタジー
アリス(43)は『完全防御の魔女』と呼ばれたA級冒険者。 子育て(子どもの修行)のために母子ふたりで旅をしていたけれど、子どもが父親の元で暮らすことになった。 ひとりになったアリスは、拠点にしていた街に五年ぶりに帰ってくる。 さっそくギルドに顔を出すと昔馴染みのギルドマスターから、ギルド職員のリーナを弟子にしてほしいと頼まれる……。 生活力は低め、戦闘力は高めなアリスおばさんの冒険譚。 ----- 剣と魔法の西洋風異世界。転移・転生なし。三人称。 一話ごとで一区切りの、連作短編(の予定)。 ----- ※小説家になろう様にも掲載中。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

追放された薬師でしたが、特に気にもしていません 

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、自身が所属していた冒険者パーティを追い出された薬師のメディ。 まぁ、どうでもいいので特に気にもせずに、会うつもりもないので別の国へ向かってしまった。 だが、密かに彼女を大事にしていた人たちの逆鱗に触れてしまったようであった‥‥‥ たまにやりたくなる短編。 ちょっと連載作品 「拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~」に登場している方が登場したりしますが、どうぞ読んでみてください。

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

さとう
ファンタジー
大陸最大の王国である『ファーレン王国』 そこに住む少年ライトは、幼馴染のリリカとセエレと共に、元騎士であるライトの父に剣の稽古を付けてもらっていた。 ライトとリリカはお互いを意識し婚約の約束をする。セエレはライトの愛妾になると宣言。 愛妾を持つには騎士にならなくてはいけないため、ライトは死に物狂いで騎士に生るべく奮闘する。 そして16歳になり、誰もが持つ《ギフト》と呼ばれる特殊能力を授かるため、3人は王国の大聖堂へ向かい、リリカは《鬼太刀》、セエレは《雷切》という『五大祝福剣』の1つを授かる。 一方、ライトが授かったのは『???』という意味不明な力。 首を捻るライトをよそに、1人の男と2人の少女が現れる。 「君たちが、オレの運命の女の子たちか」 現れたのは異世界より来た『勇者レイジ』と『勇者リン』 彼らは魔王を倒すために『五大祝福剣』のギフトを持つ少女たちを集めていた。    全てはこの世界に復活した『魔刃王』を倒すため。 5つの刃と勇者の力で『魔刃王』を倒すために、リリカたちは勇者と共に旅のに出る。 それから1年後。リリカたちは帰って来た、勇者レイジの妻として。 2人のために騎士になったライトはあっさり捨てられる。 それどころか、勇者レイジの力と権力によって身も心もボロボロにされて追放される。 ライトはあてもなく彷徨い、涙を流し、決意する。 悲しみを越えた先にあったモノは、怒りだった。 「あいつら全員……ぶっ潰す!!」

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

処理中です...