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第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編
第147話 和気藹々とした夕食
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「まったく、突然呼び出しやがって──」
ぶつぶつ文句を言いながらも、鬼姫の弟・帝は道場へ現れた。隣には彼にとって姪にあたる桜の姿。誘いを受け、そのまま一緒に来たらしい。紅葉は同級生が到着すると飛び跳ねて喜び、桜も手を振り返す。
愚痴とは裏腹に、帝は楓師範へ丁重に挨拶を済ませた。根は真面目な男だ。
広い板張りの一角が即席キッチンに早変わり。まな板を打つ包丁の音、ゴマ油が弾ける匂い、味噌を溶く甘い湯気──。
「帝くん、野菜の切り方うまいね」
「……男も料理くらい出来て当然、って姉貴に叩き込まれたんだよ」
千切りキャベツが見事な幅でそろい、月見先生が目を細めて褒めると、帝は照れ隠しに肩をすくめた。
俺はというと、キャンプ好きが高じて習得した腕前を発揮し、巨大な鉄鍋で肉と根菜を炒める係。
「ハルさん、私より手際いいかも。……負けてられないなぁ」
愛川は玉ねぎを刻みつつ小声で闘志を燃やす。
「モコちゃん、手先が器用だね~」
「ワンワン♪」
モコは小さな前脚でキュウリを転がし、胡瓜モミをお手伝い。
「ゴブリンもいい腕してるじゃないか」
「ゴブゥ~♪」
ゴブは包丁を手に持ち、リズミカルに椎茸の石づきを落とす。モコとゴブはタマと鬼姫に褒められ胸を張った。
マールとラムは調味ボウルを押さえ、モグは落ちた野菜クズを器用に集めて〝コンポスト〟へ運ぶ。ちびっ子作業班の活躍を皆は温かい目で見守っている。
炊き上がった新米に、甘辛い鹿肉の味噌炒め、山菜の天ぷら、大鍋の猪汁、ふっくら玉子焼き。次々と膳に載り、長卓が色とりどりに埋まっていく。
「ご・ち・そ・う!」
桜と紅葉が声を合わせ、菊郎は尻尾をばたばた。モンスターたちも隊列を組んで自分の小皿へ。
全員が着席し、楓師範の音頭で「いただきます!」と声がそろう。箸が伸び、湯気と笑い声が交錯した。
「ハルく~ん、はい、あ~ん」
タマが隣に回り込み、玉子焼きを俺の口元へ。慌てて皿で受け取る。
「ちょ、大丈夫だって。自分で食べられるから」
「えぇ、遠慮しなくていいのに」
ふと感じた視線の先には愛川。
「それ……私が焼いたんだけど、ど、どうかな?」
「うん、甘さちょうどいい! めっちゃ旨い!」
「へへっ」
「旨いが、プロテインは配合されているのか?」
「入ってるわけないでしょう!」
中山と愛川のやり取りに卓がどっと沸く。
そのとき帝が声を落とした。
「……そういや大黒のニュース見たか?」
武器横流しの手配人として指名手配された大黒泰子の話題だ。
「うちじゃ金は回収済みだけど、逃げ切れるとは思えねえ。ああいうのに限ってしぶといからな」
金貸しという仕事柄、帝の言には妙な説得力がある。
「警察も動いてるし、すぐ捕まるといいけどな」
重めの話題も、豪快な猪汁の湯気が包み込み、卓は再び明るさを取り戻した。
「風間ぁ、食っとるか!」
酒が入った楓師範が赤い顔で迫ってくる。
「は、はい。とても美味しいです」
「ところでっ! お前は娘のことをどう思ってるんだぁ!? 真剣に考えているのかぁ!?」
「へっ!?」
「お父さん、何言ってるの!」
秋月が真っ赤になり、俺も箸を止める。
「大体風間は、随分とモテるようではないか。しかもどれも美人ときた! 全くうらやまけしからん!」
「全く……呑み過ぎですよ、あなた」
月見先生がにこにこと楓師範の耳を引っ張り、師範は「ひい」と縮こまった。道場に笑いが弾ける。
賑やかな夕食はその後も続いた。箸が交差し、皿が空き、徳利が傾く。みんなの笑顔と温かい香りに包まれ、とても心地よい気分になる。
――最近はいろいろあったけど、やっぱりこんな穏やかな夜が一番だよな。
俺は胸の奥でそっと呟いた。
ぶつぶつ文句を言いながらも、鬼姫の弟・帝は道場へ現れた。隣には彼にとって姪にあたる桜の姿。誘いを受け、そのまま一緒に来たらしい。紅葉は同級生が到着すると飛び跳ねて喜び、桜も手を振り返す。
愚痴とは裏腹に、帝は楓師範へ丁重に挨拶を済ませた。根は真面目な男だ。
広い板張りの一角が即席キッチンに早変わり。まな板を打つ包丁の音、ゴマ油が弾ける匂い、味噌を溶く甘い湯気──。
「帝くん、野菜の切り方うまいね」
「……男も料理くらい出来て当然、って姉貴に叩き込まれたんだよ」
千切りキャベツが見事な幅でそろい、月見先生が目を細めて褒めると、帝は照れ隠しに肩をすくめた。
俺はというと、キャンプ好きが高じて習得した腕前を発揮し、巨大な鉄鍋で肉と根菜を炒める係。
「ハルさん、私より手際いいかも。……負けてられないなぁ」
愛川は玉ねぎを刻みつつ小声で闘志を燃やす。
「モコちゃん、手先が器用だね~」
「ワンワン♪」
モコは小さな前脚でキュウリを転がし、胡瓜モミをお手伝い。
「ゴブリンもいい腕してるじゃないか」
「ゴブゥ~♪」
ゴブは包丁を手に持ち、リズミカルに椎茸の石づきを落とす。モコとゴブはタマと鬼姫に褒められ胸を張った。
マールとラムは調味ボウルを押さえ、モグは落ちた野菜クズを器用に集めて〝コンポスト〟へ運ぶ。ちびっ子作業班の活躍を皆は温かい目で見守っている。
炊き上がった新米に、甘辛い鹿肉の味噌炒め、山菜の天ぷら、大鍋の猪汁、ふっくら玉子焼き。次々と膳に載り、長卓が色とりどりに埋まっていく。
「ご・ち・そ・う!」
桜と紅葉が声を合わせ、菊郎は尻尾をばたばた。モンスターたちも隊列を組んで自分の小皿へ。
全員が着席し、楓師範の音頭で「いただきます!」と声がそろう。箸が伸び、湯気と笑い声が交錯した。
「ハルく~ん、はい、あ~ん」
タマが隣に回り込み、玉子焼きを俺の口元へ。慌てて皿で受け取る。
「ちょ、大丈夫だって。自分で食べられるから」
「えぇ、遠慮しなくていいのに」
ふと感じた視線の先には愛川。
「それ……私が焼いたんだけど、ど、どうかな?」
「うん、甘さちょうどいい! めっちゃ旨い!」
「へへっ」
「旨いが、プロテインは配合されているのか?」
「入ってるわけないでしょう!」
中山と愛川のやり取りに卓がどっと沸く。
そのとき帝が声を落とした。
「……そういや大黒のニュース見たか?」
武器横流しの手配人として指名手配された大黒泰子の話題だ。
「うちじゃ金は回収済みだけど、逃げ切れるとは思えねえ。ああいうのに限ってしぶといからな」
金貸しという仕事柄、帝の言には妙な説得力がある。
「警察も動いてるし、すぐ捕まるといいけどな」
重めの話題も、豪快な猪汁の湯気が包み込み、卓は再び明るさを取り戻した。
「風間ぁ、食っとるか!」
酒が入った楓師範が赤い顔で迫ってくる。
「は、はい。とても美味しいです」
「ところでっ! お前は娘のことをどう思ってるんだぁ!? 真剣に考えているのかぁ!?」
「へっ!?」
「お父さん、何言ってるの!」
秋月が真っ赤になり、俺も箸を止める。
「大体風間は、随分とモテるようではないか。しかもどれも美人ときた! 全くうらやまけしからん!」
「全く……呑み過ぎですよ、あなた」
月見先生がにこにこと楓師範の耳を引っ張り、師範は「ひい」と縮こまった。道場に笑いが弾ける。
賑やかな夕食はその後も続いた。箸が交差し、皿が空き、徳利が傾く。みんなの笑顔と温かい香りに包まれ、とても心地よい気分になる。
――最近はいろいろあったけど、やっぱりこんな穏やかな夜が一番だよな。
俺は胸の奥でそっと呟いた。
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