親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました

空地大乃

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第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編

第159話 赤毛のモンスター使い

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――そうか。ついウトウトして眠ってしまっていたんだな。

 目覚めた俺は、塩素の混じったプールの香りに包まれて現状を思い出す。リクライニングチェアがわずかに軋む音がし、顔を横に向けると、スースーと寝息を立てるモグの姿があった。きっとモグも遊び疲れたのだろう。俺はその頭をそっと撫でながら、他の皆はどうしたかなと辺りに目を向けた――そのときだった。

「ちょ、待ってください! だから私は違うって……放して!」

 愛川の声。モコたちの鳴き声も混じっている。只事じゃない。

 俺はチェアから飛び起き、声の方角へと駆け出した。視線の先にいたのは、水着姿の愛川の腕を強引に掴む、サングラス姿の赤毛の男。

「おい、俺の連れに何してんだよ」

 その肩に手をかけて問い詰めると、男がゆっくり振り返り、サングラス越しに俺を睨みつけてきた。

「あん? なんだお前?」
「放して!」

 愛川が男の腕を振りほどき、俺の背後に逃げるように身を寄せてきた。モコ、ラム、マール、ゴブも俺の足元に駆け寄ってくる。

「チッ、なんだよこれは……まさかお前がその女の男なのかぁ?」

 男は俺を上から下まで値踏みするような目つきで見てきて、心底うんざりする。

「そ、そんな……彼氏だなんて!」

 愛川があたふたと否定する。まぁ、そりゃそうか。

「俺と愛川はそういう関係じゃない。ただ、大事な友だちなのは確かだ」
「と、友達……ムゥ……」

 その直後、何故か俺の腕を愛川が抓ってきた。え、俺なんか間違ったこと言ったか……?

「ふん……まぁいいさ。で、そっちのモンスター共は……お前が飼い主ってわけか?」

 男がモコたちを顎で指す。モコたちはそれぞれ険しい目つきで男たちを睨んでいた。ふと、男の背後に目をやると、同じようにモンスターを連れているのがわかる。コボルト、ゴブリン――そしてもう二体、ふてぶてしい顔をした豚のようなモンスター(オークと思われる)と、小柄な同種と思われる存在が一匹。後者は袋を持って所在なげに立っていた。

「俺が面倒見ていることは確かだ。それがどうかしたか?」
「そいつらがな、うちの連中にちょっかいかけてきたらしくてな。俺としては、どう責任とってくれるのかって思ってたところだよ」
「ワンワン!」
「ピキィ!」
「ゴブッ!」
「マァ!」

 モコたちが一斉に抗議の声を上げる。その様子から察するに、どうやら話は逆のようだ。

「なぁ、愛川。何があったのか教えてくれないか」
「私も詳しくは……皆に飲み物を買ってくるために一旦離れてて、戻ってきたらこの人に絡まれてて。それで、皆の飼い主だって思い込んで、無理やり……」

 やっぱりそうか。こいつ、最初から強引だったんだな。

「ちょっかい、ねぇ。具体的には何をされたってんだ?」
「――それは……」

 男が言い淀む。あやしい。もしかして、何があったか把握してないんじゃ……?

「ギャッ! ギャギャッ!」

 そのとき、後ろにいたゴブリンが目を押さえながら叫び、男に何か訴えた。

「ほう、そうかそうか……」

 赤毛の男は口元にニヤリと笑みを浮かべ、そのゴブリンの頭を押さえながら俺の前へ突き出してきた。

「見ろよ、グリンのこの目。赤く腫れてんだろ? どうやらそっちのスライムか何かにやられたみたいでな。見た目に反して荒っぽいんだな、そっちは」

 ……確かに、ゴブリンの片目は赤くなっている。そして、ラムは水を飛ばすスキルを持っている。

「ラム。お前、やったのか?」
「ピキィ……」

 小さく震えながら、ラムがしょんぼりとうなずいた。

「……どうしてそんなことを?」

 俺が両手でラムを抱えながら尋ねると、モコ、マール、ゴブが次々に弁解するような声を上げた。

「なるほどな。つまり、原因はあちらにあると?」

 状況的には、ラムが手を出したのは後手であり、モンスターたちがそれを庇っている構図。だが俺も愛川も直接のやり取りは見ていない。

「お前らのモンスターに非はなかったってか? へぇ、都合のいい話だな。しつけがなってないってだけじゃねぇのか?」

 ぐっと拳を握る。こいつの言葉に腹は立つが、証拠がない以上反論は難しい。

 確かに、グリンと呼ばれたゴブリンの目は赤いし、ラムが水を浴びせたのも事実。ならば、ここは……

「……わかった。状況は確認できていないが、うちの子が傷つけたことには変わりない。すまなかった」

 そう頭を下げながらも、心の中では拳を握りしめる。

――俺は、モコたちが理不尽なことをするとは思えない。きっと何かがあったんだ。

 そう確信しながら、次の展開を見守るしかなかった。
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