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第三章 放置ダンジョンで冒険者暮らし編
第168話 約束
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「ハルさん、どうしたの?」
俺の顔を覗き込むようにして秋月が聞いてきた。返答を逡巡してしまったせいか、気にしているようだった。
「いや、なんでもないよ。それで今日なんだけど、ギルドの帰りに愛川とバッタリ会ってさ」
「……へ、へぇ、そうなんだ」
「あ、あぁ。それで――」
俺は秋月に今日あったことを素直に話した。やましいことなんてないわけだし、ごまかすのはおかしい。それにモンスターたちも一緒だったわけだから、下手に隠しても皆の様子でバレるだろう。
「というわけで、スポーツクラブでも色々あってさ」
「そうなんだね。良かった、皆が今日楽しめたのなら」
「あ、あぁ――」
話を聞いて微笑みながら、秋月がモコの頭を撫でていた。その姿を見ると、なぜか胸の奥がちくりと痛んだ。おかしいな、秋月は気にしていなさそうなのに――こういう時、どうすれば正解なんだろう。
「それでさ。今日行ったモンスポは環境も良くて、皆も気に入ったみたいなんだ。入会も検討してるけど、秋月もどうかな? 一日体験会もあるから、今度一緒に――」
「行く!」
「へ?」
俺が提案すると、秋月は食い気味に答えた。
「そ、それなら行こうか。皆もまた行きたいだろう?」
「ワン!」
「ピキィ!」
「マァ♪」
「ゴブゥ!」
「モグゥ~♪」
モコ、ラム、マール、ゴブ、モグも乗り気な様子で、軽快に喜びを表現してくれた。
「ハハッ、でもそっちばっかり行ってたら楓師範に怒られちゃうかもな」
「あ~、それはあるかも。道場にも顔を出さないと、お父さん拗ねちゃうから」
「あはは、もちろんメインは道場だよ。スポーツクラブはサブで考えておこう」
「うん。でも、皆で一緒に行けるの楽しみだな♪」
「ああ。俺もだよ」
秋月が嬉しそうに微笑むと、俺も自然と笑みがこぼれた。一瞬、気まずい空気になりかけたけど、それもすっかり解けたようで良かった。
「う~ん、でもこれからは配信にも力を入れないといけないね」
「確かに。もともとはその予定だったしな。畑も、もう少し拡張してみようかな」
「他にも皆の普段の様子を撮ったり、スポーツクラブの体験を配信するのもいいかもしれないね。撮影OKか確認は必要だけど」
なるほど。放置ダンジョンの様子だけじゃなくて、いろんな試みをしてみるのも面白そうだ。そう考えると――
「実はモンスターバトルにも興味があるんだ。それも配信に活かせるかなって」
「モンスターバトル? でも、どうして?」
そうだった。さっきの話の中では獅王のことに触れていなかった。だから、俺は秋月にあいつ――獅王紅牙についても話すことにした。
スポーツクラブでいきなり絡まれたこと。俺が止めに入ったことで、そのままトラブルになりかけたこと。そして後にグラヴィス姉弟から聞いたこと。実力はありながらランクを下げてまで八百長をし、気に入らない相手には見世物のような試合を仕掛ける。噂の域を出ない話もあったが、試合中に相手のモンスターを執拗にいたぶる映像が出回っているのは事実で、グラヴィス姉弟も実際に観て不快だったという。
――そんな話を、秋月は真剣な表情で最後まで聞いていた。
「……許せないね、そういうの」
「だよな」
「うん。モンスターは仲間であって、道具じゃない。なのに、そんな扱いをするなんて」
秋月の言葉に、皆も静かに頷いている気がした。モンスターたちは俺たちの大切な家族なんだ。
「俺さ、ちょっと真剣に考えてみようと思ってる。モンスターバトルに出て、正々堂々と戦うことを伝えられたらって」
「……うん。きっと、伝えられるよ」
秋月の目がまっすぐに俺を見ていた。その視線に、不思議と背筋が伸びた。
「でも、ハルさん、無茶はしないでね。聞いていると危険な人かもしれないし」
「あ、あぁ勿論さ。モンスターバトル自体はルールのある試合だし、そんな無茶しないよ」
「うん。約束ね」
秋月が真剣な眼差しを向けてきた。それだけ心配されているってことか。
「わかってる。じゃあ、約束な」
差し出した手を、秋月がそっと取った。
「うん。約束」
その瞬間、モンスターたちが一斉に声をあげて祝福するように鳴いた。
「ワン!」
「ピキィ♪」
「マァ~♪」
「モグゥ♪」
「ゴブゥ♪」
「ふふ、でも約束といえば――スポーツクラブも一緒に行くんだからね? 忘れたら怒るよ?」
「お、おう。ちゃんと覚えてるって」
そんな風に笑い合いながら、俺たちはまた一歩前へと進んだ気がした――
俺の顔を覗き込むようにして秋月が聞いてきた。返答を逡巡してしまったせいか、気にしているようだった。
「いや、なんでもないよ。それで今日なんだけど、ギルドの帰りに愛川とバッタリ会ってさ」
「……へ、へぇ、そうなんだ」
「あ、あぁ。それで――」
俺は秋月に今日あったことを素直に話した。やましいことなんてないわけだし、ごまかすのはおかしい。それにモンスターたちも一緒だったわけだから、下手に隠しても皆の様子でバレるだろう。
「というわけで、スポーツクラブでも色々あってさ」
「そうなんだね。良かった、皆が今日楽しめたのなら」
「あ、あぁ――」
話を聞いて微笑みながら、秋月がモコの頭を撫でていた。その姿を見ると、なぜか胸の奥がちくりと痛んだ。おかしいな、秋月は気にしていなさそうなのに――こういう時、どうすれば正解なんだろう。
「それでさ。今日行ったモンスポは環境も良くて、皆も気に入ったみたいなんだ。入会も検討してるけど、秋月もどうかな? 一日体験会もあるから、今度一緒に――」
「行く!」
「へ?」
俺が提案すると、秋月は食い気味に答えた。
「そ、それなら行こうか。皆もまた行きたいだろう?」
「ワン!」
「ピキィ!」
「マァ♪」
「ゴブゥ!」
「モグゥ~♪」
モコ、ラム、マール、ゴブ、モグも乗り気な様子で、軽快に喜びを表現してくれた。
「ハハッ、でもそっちばっかり行ってたら楓師範に怒られちゃうかもな」
「あ~、それはあるかも。道場にも顔を出さないと、お父さん拗ねちゃうから」
「あはは、もちろんメインは道場だよ。スポーツクラブはサブで考えておこう」
「うん。でも、皆で一緒に行けるの楽しみだな♪」
「ああ。俺もだよ」
秋月が嬉しそうに微笑むと、俺も自然と笑みがこぼれた。一瞬、気まずい空気になりかけたけど、それもすっかり解けたようで良かった。
「う~ん、でもこれからは配信にも力を入れないといけないね」
「確かに。もともとはその予定だったしな。畑も、もう少し拡張してみようかな」
「他にも皆の普段の様子を撮ったり、スポーツクラブの体験を配信するのもいいかもしれないね。撮影OKか確認は必要だけど」
なるほど。放置ダンジョンの様子だけじゃなくて、いろんな試みをしてみるのも面白そうだ。そう考えると――
「実はモンスターバトルにも興味があるんだ。それも配信に活かせるかなって」
「モンスターバトル? でも、どうして?」
そうだった。さっきの話の中では獅王のことに触れていなかった。だから、俺は秋月にあいつ――獅王紅牙についても話すことにした。
スポーツクラブでいきなり絡まれたこと。俺が止めに入ったことで、そのままトラブルになりかけたこと。そして後にグラヴィス姉弟から聞いたこと。実力はありながらランクを下げてまで八百長をし、気に入らない相手には見世物のような試合を仕掛ける。噂の域を出ない話もあったが、試合中に相手のモンスターを執拗にいたぶる映像が出回っているのは事実で、グラヴィス姉弟も実際に観て不快だったという。
――そんな話を、秋月は真剣な表情で最後まで聞いていた。
「……許せないね、そういうの」
「だよな」
「うん。モンスターは仲間であって、道具じゃない。なのに、そんな扱いをするなんて」
秋月の言葉に、皆も静かに頷いている気がした。モンスターたちは俺たちの大切な家族なんだ。
「俺さ、ちょっと真剣に考えてみようと思ってる。モンスターバトルに出て、正々堂々と戦うことを伝えられたらって」
「……うん。きっと、伝えられるよ」
秋月の目がまっすぐに俺を見ていた。その視線に、不思議と背筋が伸びた。
「でも、ハルさん、無茶はしないでね。聞いていると危険な人かもしれないし」
「あ、あぁ勿論さ。モンスターバトル自体はルールのある試合だし、そんな無茶しないよ」
「うん。約束ね」
秋月が真剣な眼差しを向けてきた。それだけ心配されているってことか。
「わかってる。じゃあ、約束な」
差し出した手を、秋月がそっと取った。
「うん。約束」
その瞬間、モンスターたちが一斉に声をあげて祝福するように鳴いた。
「ワン!」
「ピキィ♪」
「マァ~♪」
「モグゥ♪」
「ゴブゥ♪」
「ふふ、でも約束といえば――スポーツクラブも一緒に行くんだからね? 忘れたら怒るよ?」
「お、おう。ちゃんと覚えてるって」
そんな風に笑い合いながら、俺たちはまた一歩前へと進んだ気がした――
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