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利害一致の結婚
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「典くん、おやすみー」
「うん、おやすみー」
挨拶をして自分の寝室にはいる。私達は新婚ほやほやの夫婦。でも寝室は別。
高野典久、29歳。そして私、妻の早希、27歳。父の会社の紹介でお見合いをし結婚した。別に政略とかではない。ただ、私達は利害一致の結婚なのだ。
お見合いして2人っきりになったとき
「単刀直入に聞きますが、早希さんはこのお見合いに乗り気でしょうか?」
「え?」
直球すぎやろ!!
「私は正直乗り気ではありません。ですが、結婚して頂きたいです。」
ど、どういうこと!?
「ただし、私に愛を求めないでください」
呆気にとられてしまった。
話を聞くと彼はゲイらしい。恋人がいるんだが、両親が理解してくれない。そして、ひっきりなしに見合い話がくる。そのことにうんざりしてるという。
「逃げたりもしたんですが、父は警察官でしてすぐに見つけられる始末で」
どうやら捜査課とかに所属してるエリートのお父さんのようだ。
「…ですので、お互いに何かしら理由があって結婚したい方をさがしてます。利害一致ってことです。早希さんがもし純粋にお見合いにきて頂けてるのであれば、お話はここまでとさせてください」
私は少し考えてる
「…解りました。この話お引き受けします」
と、答えた。
私にはずっと好きな人がいた。従兄弟の菊地優人、28歳。私が小学生の時から恋をしてた。歩いて10分くらいに家があって、兄妹のように仲良くしていた。妹の直子も優兄ちゃんと懐いていて、姉妹で小さい頃は好きだったこともあった。私はその後もずっと好きで、中学校の時に1回、高校の時に1回、短大の時に1回、社会人になって2回告白している。その度に兄妹のように育てられてたからそれ以外は見れないと…。
社会人になっての2回目の時に、
「どうしても無理?」
「ああ」
「女としてみれないかな?」
「すません、俺にとっては早希は妹なんだよ!ずっと俺のこと好きでいてくれてありがとう!お前は他の男と幸せになってほしい」
「…」
「俺たちは従兄弟のなんだ!それ以上に兄妹のように一緒に育てられたから。それに俺には大事な恋人もいる。もう諦めてくれ」
本当に可能性がないんだなっと確信した。いや、もっと前から解ってた。でも諦めきれなかったんだろう。諦めたくてお付き合いしたこともある。けど、家に帰ってくると優人がいる。忘れたくっても忘れられないのだ。だから家を出て一人暮らしもしている。それでも…、両親や妹から優人の話を聞くとどうしても割りきれることが出来なかった。
そして、父からもし恋人がいないなら会社の関連会社で仲いい人がお見合い相手を探してるからどうだ?と言われ、私はもうやけくそになってすることに…
そして今に至る。私も理由を典久さんに話した。
「忘れたい従兄弟ですか…」
「はい。あの家族の中にいる限り、彼の話を聞かないってことは無理なので私はもうあの家族から離れたいのです。そして出来れば遠くに行きたい」
「解りました。その条件飲みましょう。あとお互いのプライベートはある程度守る方向でお願いします」
ということで、お見合いから結婚までトントン拍子で進んだ。
住んだ先は北海道。
典久さん、もとい典くんは転勤願いをだしてくれた。
恋人は…というと、美容室の幹部の方のようで都内に3日、北海道の店舗にも顔を出すなどしてるので、住む場所が都内と北海道にあるらしい。
旅行で1回だけしか行ったことない北海道だったけど、条件通り遠くにをのんでくれた。
今までの会社は退社し、北海道でバイトだけど仕事をはじめた。典くんは別にバイトなんてしなくってもいいよって言ってくれたけどね。
ちなみに私は塾の受付をしている。典くんは、証券会社に勤めてる。
今日は1人なんだよなー、典くんは恋人と会ってるし。1人寂しく夕飯を食べる。
こっちでも友達作らんとな。
SNSとかでみると、地方への単身赴任、転勤などで、はじめての土地にきたことで友達がいなく、交流をするサークルがいくつかあった。この近郊にサークルがあって気になったのでDMをだした。すぐに返事がきて、次の集まりの時に私も参加することになった。
「高野早希です。よろしくお願いします」
女性が7割。子供連れもいる。今日はファミレスで集合し、近々予定してるバーベキュー大会の話をする予定とのこと。
「?」
えつ!?なに?
皆個々で盛り上がっていて、私も隣の女性と話してたところ視線を感じた。
「もしかして、早希?」
「…えっ!?和美?」
高校のときのクラスメイトの新垣和美だった。
「苗字違うから、違うのかな?と思ったけど、やっぱり早希じゃん!結婚したんだ?」
「うん」
「そっかぁー」
まさか北海道で友達に会うなんて…
和美は独身で、こっちで勉強しながら心理カウンセラーをしてるという。
懐かしい話で盛り上がり、和美を含め何人かの人とLINEを交換してその日はおわった。
その後も和美からは近況の話をしたりで、盛り上がっていた。
北海道に引っ越して8ヶ月がたつ。
サークルでバーベキュー大会、そして皆でスノボをしたりと緩い頻度でイベントがあり参加してた。
私は皆とあって盛り上がるのが楽しみで仕方なかった。それに反して典くんが元気がなくなってる。
仕事が辛いのかな?彼と喧嘩したのかな?と、気になってしまって「なんかあったの?」と聞いても「ちょっとね」と答えるだけだった。
しばらくして、和美とうちで飲み会しようと話してた。和美には旦那は仕事で夜勤と言ってたる実際は彼と会うので帰ってこないことになってる。
典くんにも遅くまで友達と飲んでるからと伝えてある。
「あのときさ、早希コクられたらソッコー逃げてさ、びびったよ!」
「そ、それは、初めて告白されたから、どうしていいかわからず…、そういう和美だって、3又疑惑とかあったじゃん」
「そんな器用なことできるわけないでしょう!!」
学生時代の話でもりあがる私達。
優兄ちゃんのかとも本当は誰かに聞いてもらいたかった。でもそれを言ったことで…、忘れたくても忘れられない人。もう何度もふられてるのに…、それでも心の中にずっと残ってる人。辛い!苦しい!と本当は言いたかった。
そんなとき
「えっ?」
玄関が空いた音がした。
典くんが帰ってきた!?
いつも会うと翌日まで帰ってこないのに…
「あれ?旦那さん帰宅?」
和美も玄関の音に気がついた。
リビングに私達のことろを通らなくても自室には行けるので、そのまま自室のドアの音がして入った感じがする。
「じゃ、私そろそろ失礼するかな」
という和美に、どうしようか悩んだけど、表面上では仲良し夫婦。いや実際喧嘩したことなく仲はいいが…、こういう時って紹介するのが普通だよね
「あー、紹介するね。ちょっと待ってて。仕事のシフト変わったのかな?」
なんて適当なこと言って、典くんの部屋に向かい
「典くん、いい?」
「あ、うん」
といって、私は典くんの部屋に入った。
「おかえり、典くん。まだ友達と飲んでるんだけど」
「あー、うん。だからリビングに行かなかった」
「…だよね。でも全然顔会わせないのも」
「…あ、そうか。ちょっと挨拶するよ。着替えたらいくよ」
まさかこの挨拶がこの先、あんなことになるなんて思いもしなかった。
私は先にリビングに戻った。
しばらくして部屋着に着替えた典くんがきて
「はじめまして!妻がお世話になってます」
と、挨拶に
「はじめまして、こちらこそ…えっ!?」
和美は典くんをみて目を丸くする。
その声を聞いて改めて典くんは和美をみると
「!?」
2人は固まった感じになった。
な、なに!?どうしたの?
「…えっと…、知り合いだったの?」
「…そっか、早希の旦那さんが高野さんだだったんだね」
?
「…和美?」
「まさか、こんな形で…」
「典くん?」
2人は沈黙した。な、なに?何がどうなってるの?
「早希ちゃんに話していいですよ」
「…」
という典くんに、少し言葉を選んでる。
「早希ちゃん、彼女は俺のカウンセリングの先生なんだ」
「…えっ!?」
確かに心理カウンセラーっていってたけど
「だから、俺たちのこと全部知ってるんだよ」
嘘っ!?
「俺は、4ヶ月前から新垣先生のところでお世話になってたんだ」
「…そうなの?なんで…」
「シュウちゃんが別に相手が出来てね、どっちも好きって言われてて、そのシュウちゃんが両方とも別れたくないって言われて俺ずっと悩んでたんだ。それが苦しくって辛くって…、でも相談誰にも出来なくって…」
シュウちゃんとは、典くんの恋人のこと。まさか典くんが悩んでたなんて…、だから少し前から様子が…
「俺は理由はどうあれ、既婚者だからって、お前は嫁を抱いてるんだろ?って…、俺が結婚するときもシュウちゃんに相談し了承してもらった。でも、ショウちゃんは俺に帰れる場所が出来たことに嫉妬しちゃって…」
「俺は誰にも相談出来ず、不眠やら吐き気やらで身体に変化が出て心療内科に行くようになって、新垣先生に出会ったんだ」
「高野さんは、かなりの心身的なストレスがあって一時期は仕事すら行ける状況ではなかったの。けど、奥さんとはそういう結婚をしてたし言うこと出来ないからって」
「…」
頭のなかが真っ白になっていた。典くんも和美も言葉を選んで話してるのがわかる。
私はどうしたら…
でも、北海道まで連れてきてくれた典くんに私は何も出来てないことに気付き
「お願い、話を聞きたい」
「早希ちゃん!?」
「和美は全部知ってるんでしょ?なら、隠すことはない。でも…私は典くんに北海道まで連れてきて貰ってお礼も何も出来てない。私に力になれることがあったら…」
「…早希」
「早希ちゃん…」
「高野さん、どうします?」
「…解った。話すよ」
3人で座り、典くんとシュウくんの現在の状況。そして実はそれ以外にも転勤した支店で皆とソリがあわないでいること。両方がうまく行かず心身的にストレスが出始めて、それを尚且つ私に相談できない。そのことで悩んでることを私に伝えた。
ちなみに、転勤先の支店ではノルマ達しないと全部サービス残業にすることになっていて、お互いが潰しあいの環境にいるらしい。
「…そうだったんだ。せめて仕事の話だけでも」
「それを言ったら、遠くに行きたいと奥さんに言われたことで北海道支社の転勤を言ったから、自分を責めるかもと…」
なるほど…、確かに私が遠くに行きたいって言わなければ…て、なるか。
少し悩んで
「典くん…、どんな形であれ、私達は夫婦だから。ちゃんと言って」
「…早希ちゃん、でもねお見合いときに」
お見合いのときに、お互いのプライベートは守るようなことを話したけど
「でもそれって、典くんが言ったことで私は了解してないよ!知らない土地にきて余計に誰もいないんだもん!」
「…」
典くんは涙が出て顔をおおってる。私は典くんの近くに行って背中をさすった。
「一緒にがんばろ!典くん」
和美はそれをみて
「高野さん、早希は、高野さんに寄り添おうとしてますよ。お互い事情があった結婚でしょうけど、早希がそう言ってるんであれば甘えてもいいんじゃないですかね?」
「…」
「和美、ありがとう!」
「うんん。全然よ!私帰るから、あとは2人でしっかり話してね!」
和美はかえろうとしたが、ハッと気付き
「あっ!いいよ!片付けるから気にしないで」
飲みっぱなしのビール、焼酎の缶だらけ、お菓子やその他おつまみもいっぱい
「あは!じゃ遠慮なく…、またね!早希!高野さんも早希としっかり話してくださいね」
そう言って和美は帰っていった。
まだ涙が止まらず、座ってる典くん。私は典くんをはじめて抱き締めた。
「安心して!一緒に考えよ!」
「ううっ…」
「典くん、がんばったね!辛かったね!ごめんね!気づかなくって」
この人を助けたい!心の底から思った。
その後、色々話したが北海道支店から更に転勤希望というのは厳しく、退職をすることとなった。
シュウくんとは
「本当にいいの?」
「うん…」
シュウくんとは別れる道を選んだ。
そして、私達は
「和美、色々ありがとう!」
「全然よ!元気でね!」
和美と抱き合った。
私達は北海道を離れる。約1年ここに居た。
「先生、ありがとうございました」
「全然よ!2人とも元気でね」
私達は長崎に行くことにした。
色々調べ、ある旅館が後継者を探してるというHPを見て、何度か足を運び話し合って、将来引き継ぐ方向で夫婦で働くことにした。
旅館は老舗で、20部屋くらいあり、常連さんも結構いる。だけど従業員のみなさんが年老いてしまい、後継者もいないことから閉めた方が…と考えてたときに、HPで募集してみてはどうだ?と、市役所のアドバイスを貰い募集したようだ。
「早希ちゃん」
「ん?」
「これでよかったの?」
「え?」
「俺が仕事辞めなければ、ちょっとバイトするくらいで…」
「典くん、一緒に決めたんだから一緒にやってこ!」
典くんは、何か言おうとしたようだけど言葉を飲んだ感じがした。
私達に愛があるかは解らない。でも進むだけだ!
旅館の近くのマンションを借り、毎日慌ただしい日々が始まった。慣れない仕事に私達は着いていくのに必死。それでも2人で頑張ろ!と思えると乗り越えられそうな気がした。
旅館には、女将さん、支配人、料理長、中居さん、料理人さんと、トータルで16人いる。御高齢の方も多くそろそろ隠居生活したいと思ってる人もいて、新しい人材も探す必要がある。その辺もオーナー、女将さんと相談する必要があるが今は1人でも仕事が出来るよう必死で覚えてる。
大変ではあるけど、典くんの顔がイキイキしている。
そう思うと来てよかったんだなっと思う。
そして、1年が経過。
少しずつ仕事も覚え、それとは別に女将さんからの仕事の説明が最近ある。
女将さんも75歳、身体がいうこときかず、私達が来たことを本当に喜んでくれた。
「早く早希ちゃんが女将になってくれるよ全力で教えんとね」
オーナーさんも典くんに経営のノウハウを教えてる。そして実はあと2人この旅館に引き継ぐ人がいる。
1人は料理長のお孫さん。現在26歳で高校を出てずっと料理の世界の修行をしてたらしい。尊敬する人はお爺ちゃんと言ってる。そのお孫さんが引き継ぐことになって、現在料理長のところで修行している。
もう1人は中居さんの息子さん。会社が倒産していまい、就職先を悩んでたところにの旅館の話が。息子さんはビジネスホテルの仕事をしてたらい。来月からこの旅館にくることになってる。
「ねぇ、早希ちゃん」
「ん?」
「…」
「?」
どうしたんだろ?
典くんはなにか言いたそうだかど、すぐだんまりした。
「どうしたの?」
「いや、こうやってさ2人で同じところで仕事をするなんて結婚するときは考えもしなかった。早希ちゃんには苦労かけさせちゃったし…、でもこうやって毎日御客様が喜ばれるのをみると、やってよかったなって…」
「そうだね」
「早希ちゃん、ありがとう」
典くんが心から感謝してるのが解って、胸がいっぱいになった。
昼間は、これから来られる御客様の準備がメインとなるけど、あとは休憩することがおおい。
庭を掃除してたとき
「早希?」
えっ?
「…優兄ちゃん?」
「久しぶりだな」
ビックリした。まさか様子を見に?
胸のモヤモヤが止まらない。
「確か証券マンと結婚したハズだが」
「…あっ、うん」
「俺、先週知ったよ!お前が旅館に勤めてること」
両親には旅館に働くことは言ったがすぐではなく先月報告したのでまぁ、そうなるわな。
「…うん」
「お前には証券マンと結婚して専業主婦するんだと思ってた。なのに…」
「え?」
「…帰ろう!!」
腕を捕まれる
「ちょ、ちょっと!!」
「ここで夫婦で共働きさせるために、結婚したんじゃないだろ!」
「な、なに!?」
「早希は俺の大事な妹なんだ!しっかり安定して、包容力があって将来性あるからって聞いたから祝福したのに」
!!?
腕を引っ張られ、車に連れ込もうとする。
「いやだ!!!」
大声で叫んで腕を思いっきり振りほどく。
「急になに?突然きてなんなの!?私達のこと何も知らないのに…」
「おい、早希は俺の言うこときいたよな?叔父さん、叔母さんも出来れば帰ってきて欲しいって言ってるんだ」
「はぁ!?お見合いの話をしたのはお父さんでしょ?」
「いや、あの時と今じゃ…、てか、早希はいい子だから俺の言うこと聞くよな?」
優兄ちゃんのことは大好き!でもたまに、こうやって言うのが女として見られてないんだなって実感する。
「私はここに居たいの!!」
「早希!!」
「…すいません」
と、後ろから典くんがきて、私を引っ張た。
「早希ちゃんの従兄弟さんでしたよね?お久しぶりです」
親族紹介のときに1度は確か会ってる。典くんからしたら、私の片思いの人と解ってる。
「私は証券会社を辞め、早希ちゃんには苦労しなくてもいい苦労をさせました。申し訳ありません。」
そう言って頭を下げる
「でも、早希ちゃんはこの旅館は大事な存在感なんです。そして…」
少し間があって
「俺にとっても大事な存在なんです!早希ちゃんとここに居たいです」
そう言って頭を下げる
「典くん…」
「…早希」
私は今でも優兄ちゃんが好き。でも…
「優兄ちゃん、もし私を連れ戻すためだけに来たなら帰ってください!私達夫婦のことは私達が決めること!優兄ちゃんには関係ない!!」
目を見開く優兄ちゃん。そしてビックリしてる典くん。
きっと、優兄ちゃんは俺の言うことなら聞くとでも思ってたのだろう。それは今までがずっとそうだったから…
騒ぎを聞き付けて、女将さん、オーナーさんがでてきた。
「どうしたの?」
「あ、すいません。女将さん、オーナー。ちょっと私の親戚がきまして」
私は今まで優兄ちゃんに、親戚と言ったことがなかった。私の好きな人だったから。
「あら、早希ちゃんのご親戚の方?はじめまして私がここの女将さんをしております。 遠いところ大変でしたでしょう。どうぞこちらでおくつろぎください」
と言って女将さんは旅館を案内し、個室の食事部屋を案内した。
「あ、あの…早希を、従姉妹を」
と言いかける優兄ちゃんに女将さんは
「早希ちゃんはここの看板娘なんですよ!私もあと少しでこの仕事を終えるつもりです。早希ちゃんは若女将になるため日々仕事をいっぱい覚えて頑張ってます。典久さんもこれからオーナーになるために、しっかり管理する力をみにつけてます。この2人がいなければこの旅館は廃業でした。私達従業員は早希ちゃん、典久さんに救われたんです。私達の城を守ってくれるという…」
「…」
「もしよければ、今日お泊まりください。お部屋は空いてますので」
優兄ちゃんは断ったが、早希ちゃんの仕事を見て欲しいと女将が言い出し、半ば強引に優兄ちゃんは泊まることになった。
3時には、御客様が到着する。出迎え、案内と少しずつあわただしくなる。その作業を1つずつ丁寧に対応し、夕食の準備にとりかかる。
女将が1部屋ずつ挨拶に行き、私も後ろについて挨拶をする。勿論優兄ちゃんの部屋にもだ。
夕食が終わっても伝票整理などやることはいっぱい。明日の準備もある。
「早希」
「あっ、優兄ちゃん」
事務所を教えて貰ったのか優兄ちゃんがきた。
「あっ、もう少しまっててね。これで終わるから」
パソコンに伝票の売上を入力中。
女将がさんのときは全部紙だったけど私が引き継いだことでパソコン管理になった。
「…そか」
「うし、終わった!!」
「…ああ」
優兄ちゃんは近くにきて
まさかまた連れて帰るとか言い出す!?
「変わったな、早希」
「え!?」
「俺をずっと好きでいたときの早希じゃもうないんだな」
「…」
「俺は…、何を期待しにきたんだろ…?」
そう言って私の肩に手をのせ
「頑張れよ!早希」
優兄ちゃんは、その後部屋に戻った。
私はマンションに戻った。先に典くんが帰ってきてて
「お帰り」
「…うん」
典くんは、自室に入ってしまった。そしてしばらくするとまた出てきた。
「話あるんだ」
「うん」
「優人さん見たとき、早希ちゃんが行っちゃうって必死だった。止めないと!って必死だった。俺、よく解らなかった。なんでなのか、解らなかった」
「典くん?」
「でも、解った!俺…早希ちゃんを愛してるんだ!」
「えっ!?」
「ずっと男しか興味なく、付き合った人も男だけ。だからこの感情を否定したかった。でも…やっぱり早希ちゃんが好きだ」
お互い好きではあるとは思ってたけど、恋愛の感情はないと思ってた。
「わ、私…、ずっと利害一致の結婚だと思ってたから、まさかこうなるとは…、驚いてる」
「俺のこときらい?」
左右に首を降る。
「気持ち悪い?」
「そ、そんなわけないでしょ!!」
「まずは、お友だちから?みたいな感じからでどうですか?」
「…夫婦なのに?」
「そうだね!おかしいね!」
そう言って2人で笑う。
「これ、」
「え?」
手元に長方形の箱があって、それを開けると
「うわぁ」
ピンクがボイントの可愛いネックレスがあった。
「着けていい?」
「記念日でもないのに?」
「前から渡したかったんだ。去年のクリスマスに実は用意してて…」
「え?」
「なんか渡す勇気なかった。だから今日告白して記念日ってことで受け取って」
「…解った。典くん、ありがとう!」
翌日、優兄ちゃんは帰っていた。
そして私達は、まだ私自身が典くんのことをずっと大事な存在とは思ってたけど、愛がある特別とは切り分けてたので、少しずつ典くんのことを見てみようと思う。
私は結婚したときに、彼と居ると決めたのだから
「うん、おやすみー」
挨拶をして自分の寝室にはいる。私達は新婚ほやほやの夫婦。でも寝室は別。
高野典久、29歳。そして私、妻の早希、27歳。父の会社の紹介でお見合いをし結婚した。別に政略とかではない。ただ、私達は利害一致の結婚なのだ。
お見合いして2人っきりになったとき
「単刀直入に聞きますが、早希さんはこのお見合いに乗り気でしょうか?」
「え?」
直球すぎやろ!!
「私は正直乗り気ではありません。ですが、結婚して頂きたいです。」
ど、どういうこと!?
「ただし、私に愛を求めないでください」
呆気にとられてしまった。
話を聞くと彼はゲイらしい。恋人がいるんだが、両親が理解してくれない。そして、ひっきりなしに見合い話がくる。そのことにうんざりしてるという。
「逃げたりもしたんですが、父は警察官でしてすぐに見つけられる始末で」
どうやら捜査課とかに所属してるエリートのお父さんのようだ。
「…ですので、お互いに何かしら理由があって結婚したい方をさがしてます。利害一致ってことです。早希さんがもし純粋にお見合いにきて頂けてるのであれば、お話はここまでとさせてください」
私は少し考えてる
「…解りました。この話お引き受けします」
と、答えた。
私にはずっと好きな人がいた。従兄弟の菊地優人、28歳。私が小学生の時から恋をしてた。歩いて10分くらいに家があって、兄妹のように仲良くしていた。妹の直子も優兄ちゃんと懐いていて、姉妹で小さい頃は好きだったこともあった。私はその後もずっと好きで、中学校の時に1回、高校の時に1回、短大の時に1回、社会人になって2回告白している。その度に兄妹のように育てられてたからそれ以外は見れないと…。
社会人になっての2回目の時に、
「どうしても無理?」
「ああ」
「女としてみれないかな?」
「すません、俺にとっては早希は妹なんだよ!ずっと俺のこと好きでいてくれてありがとう!お前は他の男と幸せになってほしい」
「…」
「俺たちは従兄弟のなんだ!それ以上に兄妹のように一緒に育てられたから。それに俺には大事な恋人もいる。もう諦めてくれ」
本当に可能性がないんだなっと確信した。いや、もっと前から解ってた。でも諦めきれなかったんだろう。諦めたくてお付き合いしたこともある。けど、家に帰ってくると優人がいる。忘れたくっても忘れられないのだ。だから家を出て一人暮らしもしている。それでも…、両親や妹から優人の話を聞くとどうしても割りきれることが出来なかった。
そして、父からもし恋人がいないなら会社の関連会社で仲いい人がお見合い相手を探してるからどうだ?と言われ、私はもうやけくそになってすることに…
そして今に至る。私も理由を典久さんに話した。
「忘れたい従兄弟ですか…」
「はい。あの家族の中にいる限り、彼の話を聞かないってことは無理なので私はもうあの家族から離れたいのです。そして出来れば遠くに行きたい」
「解りました。その条件飲みましょう。あとお互いのプライベートはある程度守る方向でお願いします」
ということで、お見合いから結婚までトントン拍子で進んだ。
住んだ先は北海道。
典久さん、もとい典くんは転勤願いをだしてくれた。
恋人は…というと、美容室の幹部の方のようで都内に3日、北海道の店舗にも顔を出すなどしてるので、住む場所が都内と北海道にあるらしい。
旅行で1回だけしか行ったことない北海道だったけど、条件通り遠くにをのんでくれた。
今までの会社は退社し、北海道でバイトだけど仕事をはじめた。典くんは別にバイトなんてしなくってもいいよって言ってくれたけどね。
ちなみに私は塾の受付をしている。典くんは、証券会社に勤めてる。
今日は1人なんだよなー、典くんは恋人と会ってるし。1人寂しく夕飯を食べる。
こっちでも友達作らんとな。
SNSとかでみると、地方への単身赴任、転勤などで、はじめての土地にきたことで友達がいなく、交流をするサークルがいくつかあった。この近郊にサークルがあって気になったのでDMをだした。すぐに返事がきて、次の集まりの時に私も参加することになった。
「高野早希です。よろしくお願いします」
女性が7割。子供連れもいる。今日はファミレスで集合し、近々予定してるバーベキュー大会の話をする予定とのこと。
「?」
えつ!?なに?
皆個々で盛り上がっていて、私も隣の女性と話してたところ視線を感じた。
「もしかして、早希?」
「…えっ!?和美?」
高校のときのクラスメイトの新垣和美だった。
「苗字違うから、違うのかな?と思ったけど、やっぱり早希じゃん!結婚したんだ?」
「うん」
「そっかぁー」
まさか北海道で友達に会うなんて…
和美は独身で、こっちで勉強しながら心理カウンセラーをしてるという。
懐かしい話で盛り上がり、和美を含め何人かの人とLINEを交換してその日はおわった。
その後も和美からは近況の話をしたりで、盛り上がっていた。
北海道に引っ越して8ヶ月がたつ。
サークルでバーベキュー大会、そして皆でスノボをしたりと緩い頻度でイベントがあり参加してた。
私は皆とあって盛り上がるのが楽しみで仕方なかった。それに反して典くんが元気がなくなってる。
仕事が辛いのかな?彼と喧嘩したのかな?と、気になってしまって「なんかあったの?」と聞いても「ちょっとね」と答えるだけだった。
しばらくして、和美とうちで飲み会しようと話してた。和美には旦那は仕事で夜勤と言ってたる実際は彼と会うので帰ってこないことになってる。
典くんにも遅くまで友達と飲んでるからと伝えてある。
「あのときさ、早希コクられたらソッコー逃げてさ、びびったよ!」
「そ、それは、初めて告白されたから、どうしていいかわからず…、そういう和美だって、3又疑惑とかあったじゃん」
「そんな器用なことできるわけないでしょう!!」
学生時代の話でもりあがる私達。
優兄ちゃんのかとも本当は誰かに聞いてもらいたかった。でもそれを言ったことで…、忘れたくても忘れられない人。もう何度もふられてるのに…、それでも心の中にずっと残ってる人。辛い!苦しい!と本当は言いたかった。
そんなとき
「えっ?」
玄関が空いた音がした。
典くんが帰ってきた!?
いつも会うと翌日まで帰ってこないのに…
「あれ?旦那さん帰宅?」
和美も玄関の音に気がついた。
リビングに私達のことろを通らなくても自室には行けるので、そのまま自室のドアの音がして入った感じがする。
「じゃ、私そろそろ失礼するかな」
という和美に、どうしようか悩んだけど、表面上では仲良し夫婦。いや実際喧嘩したことなく仲はいいが…、こういう時って紹介するのが普通だよね
「あー、紹介するね。ちょっと待ってて。仕事のシフト変わったのかな?」
なんて適当なこと言って、典くんの部屋に向かい
「典くん、いい?」
「あ、うん」
といって、私は典くんの部屋に入った。
「おかえり、典くん。まだ友達と飲んでるんだけど」
「あー、うん。だからリビングに行かなかった」
「…だよね。でも全然顔会わせないのも」
「…あ、そうか。ちょっと挨拶するよ。着替えたらいくよ」
まさかこの挨拶がこの先、あんなことになるなんて思いもしなかった。
私は先にリビングに戻った。
しばらくして部屋着に着替えた典くんがきて
「はじめまして!妻がお世話になってます」
と、挨拶に
「はじめまして、こちらこそ…えっ!?」
和美は典くんをみて目を丸くする。
その声を聞いて改めて典くんは和美をみると
「!?」
2人は固まった感じになった。
な、なに!?どうしたの?
「…えっと…、知り合いだったの?」
「…そっか、早希の旦那さんが高野さんだだったんだね」
?
「…和美?」
「まさか、こんな形で…」
「典くん?」
2人は沈黙した。な、なに?何がどうなってるの?
「早希ちゃんに話していいですよ」
「…」
という典くんに、少し言葉を選んでる。
「早希ちゃん、彼女は俺のカウンセリングの先生なんだ」
「…えっ!?」
確かに心理カウンセラーっていってたけど
「だから、俺たちのこと全部知ってるんだよ」
嘘っ!?
「俺は、4ヶ月前から新垣先生のところでお世話になってたんだ」
「…そうなの?なんで…」
「シュウちゃんが別に相手が出来てね、どっちも好きって言われてて、そのシュウちゃんが両方とも別れたくないって言われて俺ずっと悩んでたんだ。それが苦しくって辛くって…、でも相談誰にも出来なくって…」
シュウちゃんとは、典くんの恋人のこと。まさか典くんが悩んでたなんて…、だから少し前から様子が…
「俺は理由はどうあれ、既婚者だからって、お前は嫁を抱いてるんだろ?って…、俺が結婚するときもシュウちゃんに相談し了承してもらった。でも、ショウちゃんは俺に帰れる場所が出来たことに嫉妬しちゃって…」
「俺は誰にも相談出来ず、不眠やら吐き気やらで身体に変化が出て心療内科に行くようになって、新垣先生に出会ったんだ」
「高野さんは、かなりの心身的なストレスがあって一時期は仕事すら行ける状況ではなかったの。けど、奥さんとはそういう結婚をしてたし言うこと出来ないからって」
「…」
頭のなかが真っ白になっていた。典くんも和美も言葉を選んで話してるのがわかる。
私はどうしたら…
でも、北海道まで連れてきてくれた典くんに私は何も出来てないことに気付き
「お願い、話を聞きたい」
「早希ちゃん!?」
「和美は全部知ってるんでしょ?なら、隠すことはない。でも…私は典くんに北海道まで連れてきて貰ってお礼も何も出来てない。私に力になれることがあったら…」
「…早希」
「早希ちゃん…」
「高野さん、どうします?」
「…解った。話すよ」
3人で座り、典くんとシュウくんの現在の状況。そして実はそれ以外にも転勤した支店で皆とソリがあわないでいること。両方がうまく行かず心身的にストレスが出始めて、それを尚且つ私に相談できない。そのことで悩んでることを私に伝えた。
ちなみに、転勤先の支店ではノルマ達しないと全部サービス残業にすることになっていて、お互いが潰しあいの環境にいるらしい。
「…そうだったんだ。せめて仕事の話だけでも」
「それを言ったら、遠くに行きたいと奥さんに言われたことで北海道支社の転勤を言ったから、自分を責めるかもと…」
なるほど…、確かに私が遠くに行きたいって言わなければ…て、なるか。
少し悩んで
「典くん…、どんな形であれ、私達は夫婦だから。ちゃんと言って」
「…早希ちゃん、でもねお見合いときに」
お見合いのときに、お互いのプライベートは守るようなことを話したけど
「でもそれって、典くんが言ったことで私は了解してないよ!知らない土地にきて余計に誰もいないんだもん!」
「…」
典くんは涙が出て顔をおおってる。私は典くんの近くに行って背中をさすった。
「一緒にがんばろ!典くん」
和美はそれをみて
「高野さん、早希は、高野さんに寄り添おうとしてますよ。お互い事情があった結婚でしょうけど、早希がそう言ってるんであれば甘えてもいいんじゃないですかね?」
「…」
「和美、ありがとう!」
「うんん。全然よ!私帰るから、あとは2人でしっかり話してね!」
和美はかえろうとしたが、ハッと気付き
「あっ!いいよ!片付けるから気にしないで」
飲みっぱなしのビール、焼酎の缶だらけ、お菓子やその他おつまみもいっぱい
「あは!じゃ遠慮なく…、またね!早希!高野さんも早希としっかり話してくださいね」
そう言って和美は帰っていった。
まだ涙が止まらず、座ってる典くん。私は典くんをはじめて抱き締めた。
「安心して!一緒に考えよ!」
「ううっ…」
「典くん、がんばったね!辛かったね!ごめんね!気づかなくって」
この人を助けたい!心の底から思った。
その後、色々話したが北海道支店から更に転勤希望というのは厳しく、退職をすることとなった。
シュウくんとは
「本当にいいの?」
「うん…」
シュウくんとは別れる道を選んだ。
そして、私達は
「和美、色々ありがとう!」
「全然よ!元気でね!」
和美と抱き合った。
私達は北海道を離れる。約1年ここに居た。
「先生、ありがとうございました」
「全然よ!2人とも元気でね」
私達は長崎に行くことにした。
色々調べ、ある旅館が後継者を探してるというHPを見て、何度か足を運び話し合って、将来引き継ぐ方向で夫婦で働くことにした。
旅館は老舗で、20部屋くらいあり、常連さんも結構いる。だけど従業員のみなさんが年老いてしまい、後継者もいないことから閉めた方が…と考えてたときに、HPで募集してみてはどうだ?と、市役所のアドバイスを貰い募集したようだ。
「早希ちゃん」
「ん?」
「これでよかったの?」
「え?」
「俺が仕事辞めなければ、ちょっとバイトするくらいで…」
「典くん、一緒に決めたんだから一緒にやってこ!」
典くんは、何か言おうとしたようだけど言葉を飲んだ感じがした。
私達に愛があるかは解らない。でも進むだけだ!
旅館の近くのマンションを借り、毎日慌ただしい日々が始まった。慣れない仕事に私達は着いていくのに必死。それでも2人で頑張ろ!と思えると乗り越えられそうな気がした。
旅館には、女将さん、支配人、料理長、中居さん、料理人さんと、トータルで16人いる。御高齢の方も多くそろそろ隠居生活したいと思ってる人もいて、新しい人材も探す必要がある。その辺もオーナー、女将さんと相談する必要があるが今は1人でも仕事が出来るよう必死で覚えてる。
大変ではあるけど、典くんの顔がイキイキしている。
そう思うと来てよかったんだなっと思う。
そして、1年が経過。
少しずつ仕事も覚え、それとは別に女将さんからの仕事の説明が最近ある。
女将さんも75歳、身体がいうこときかず、私達が来たことを本当に喜んでくれた。
「早く早希ちゃんが女将になってくれるよ全力で教えんとね」
オーナーさんも典くんに経営のノウハウを教えてる。そして実はあと2人この旅館に引き継ぐ人がいる。
1人は料理長のお孫さん。現在26歳で高校を出てずっと料理の世界の修行をしてたらしい。尊敬する人はお爺ちゃんと言ってる。そのお孫さんが引き継ぐことになって、現在料理長のところで修行している。
もう1人は中居さんの息子さん。会社が倒産していまい、就職先を悩んでたところにの旅館の話が。息子さんはビジネスホテルの仕事をしてたらい。来月からこの旅館にくることになってる。
「ねぇ、早希ちゃん」
「ん?」
「…」
「?」
どうしたんだろ?
典くんはなにか言いたそうだかど、すぐだんまりした。
「どうしたの?」
「いや、こうやってさ2人で同じところで仕事をするなんて結婚するときは考えもしなかった。早希ちゃんには苦労かけさせちゃったし…、でもこうやって毎日御客様が喜ばれるのをみると、やってよかったなって…」
「そうだね」
「早希ちゃん、ありがとう」
典くんが心から感謝してるのが解って、胸がいっぱいになった。
昼間は、これから来られる御客様の準備がメインとなるけど、あとは休憩することがおおい。
庭を掃除してたとき
「早希?」
えっ?
「…優兄ちゃん?」
「久しぶりだな」
ビックリした。まさか様子を見に?
胸のモヤモヤが止まらない。
「確か証券マンと結婚したハズだが」
「…あっ、うん」
「俺、先週知ったよ!お前が旅館に勤めてること」
両親には旅館に働くことは言ったがすぐではなく先月報告したのでまぁ、そうなるわな。
「…うん」
「お前には証券マンと結婚して専業主婦するんだと思ってた。なのに…」
「え?」
「…帰ろう!!」
腕を捕まれる
「ちょ、ちょっと!!」
「ここで夫婦で共働きさせるために、結婚したんじゃないだろ!」
「な、なに!?」
「早希は俺の大事な妹なんだ!しっかり安定して、包容力があって将来性あるからって聞いたから祝福したのに」
!!?
腕を引っ張られ、車に連れ込もうとする。
「いやだ!!!」
大声で叫んで腕を思いっきり振りほどく。
「急になに?突然きてなんなの!?私達のこと何も知らないのに…」
「おい、早希は俺の言うこときいたよな?叔父さん、叔母さんも出来れば帰ってきて欲しいって言ってるんだ」
「はぁ!?お見合いの話をしたのはお父さんでしょ?」
「いや、あの時と今じゃ…、てか、早希はいい子だから俺の言うこと聞くよな?」
優兄ちゃんのことは大好き!でもたまに、こうやって言うのが女として見られてないんだなって実感する。
「私はここに居たいの!!」
「早希!!」
「…すいません」
と、後ろから典くんがきて、私を引っ張た。
「早希ちゃんの従兄弟さんでしたよね?お久しぶりです」
親族紹介のときに1度は確か会ってる。典くんからしたら、私の片思いの人と解ってる。
「私は証券会社を辞め、早希ちゃんには苦労しなくてもいい苦労をさせました。申し訳ありません。」
そう言って頭を下げる
「でも、早希ちゃんはこの旅館は大事な存在感なんです。そして…」
少し間があって
「俺にとっても大事な存在なんです!早希ちゃんとここに居たいです」
そう言って頭を下げる
「典くん…」
「…早希」
私は今でも優兄ちゃんが好き。でも…
「優兄ちゃん、もし私を連れ戻すためだけに来たなら帰ってください!私達夫婦のことは私達が決めること!優兄ちゃんには関係ない!!」
目を見開く優兄ちゃん。そしてビックリしてる典くん。
きっと、優兄ちゃんは俺の言うことなら聞くとでも思ってたのだろう。それは今までがずっとそうだったから…
騒ぎを聞き付けて、女将さん、オーナーさんがでてきた。
「どうしたの?」
「あ、すいません。女将さん、オーナー。ちょっと私の親戚がきまして」
私は今まで優兄ちゃんに、親戚と言ったことがなかった。私の好きな人だったから。
「あら、早希ちゃんのご親戚の方?はじめまして私がここの女将さんをしております。 遠いところ大変でしたでしょう。どうぞこちらでおくつろぎください」
と言って女将さんは旅館を案内し、個室の食事部屋を案内した。
「あ、あの…早希を、従姉妹を」
と言いかける優兄ちゃんに女将さんは
「早希ちゃんはここの看板娘なんですよ!私もあと少しでこの仕事を終えるつもりです。早希ちゃんは若女将になるため日々仕事をいっぱい覚えて頑張ってます。典久さんもこれからオーナーになるために、しっかり管理する力をみにつけてます。この2人がいなければこの旅館は廃業でした。私達従業員は早希ちゃん、典久さんに救われたんです。私達の城を守ってくれるという…」
「…」
「もしよければ、今日お泊まりください。お部屋は空いてますので」
優兄ちゃんは断ったが、早希ちゃんの仕事を見て欲しいと女将が言い出し、半ば強引に優兄ちゃんは泊まることになった。
3時には、御客様が到着する。出迎え、案内と少しずつあわただしくなる。その作業を1つずつ丁寧に対応し、夕食の準備にとりかかる。
女将が1部屋ずつ挨拶に行き、私も後ろについて挨拶をする。勿論優兄ちゃんの部屋にもだ。
夕食が終わっても伝票整理などやることはいっぱい。明日の準備もある。
「早希」
「あっ、優兄ちゃん」
事務所を教えて貰ったのか優兄ちゃんがきた。
「あっ、もう少しまっててね。これで終わるから」
パソコンに伝票の売上を入力中。
女将がさんのときは全部紙だったけど私が引き継いだことでパソコン管理になった。
「…そか」
「うし、終わった!!」
「…ああ」
優兄ちゃんは近くにきて
まさかまた連れて帰るとか言い出す!?
「変わったな、早希」
「え!?」
「俺をずっと好きでいたときの早希じゃもうないんだな」
「…」
「俺は…、何を期待しにきたんだろ…?」
そう言って私の肩に手をのせ
「頑張れよ!早希」
優兄ちゃんは、その後部屋に戻った。
私はマンションに戻った。先に典くんが帰ってきてて
「お帰り」
「…うん」
典くんは、自室に入ってしまった。そしてしばらくするとまた出てきた。
「話あるんだ」
「うん」
「優人さん見たとき、早希ちゃんが行っちゃうって必死だった。止めないと!って必死だった。俺、よく解らなかった。なんでなのか、解らなかった」
「典くん?」
「でも、解った!俺…早希ちゃんを愛してるんだ!」
「えっ!?」
「ずっと男しか興味なく、付き合った人も男だけ。だからこの感情を否定したかった。でも…やっぱり早希ちゃんが好きだ」
お互い好きではあるとは思ってたけど、恋愛の感情はないと思ってた。
「わ、私…、ずっと利害一致の結婚だと思ってたから、まさかこうなるとは…、驚いてる」
「俺のこときらい?」
左右に首を降る。
「気持ち悪い?」
「そ、そんなわけないでしょ!!」
「まずは、お友だちから?みたいな感じからでどうですか?」
「…夫婦なのに?」
「そうだね!おかしいね!」
そう言って2人で笑う。
「これ、」
「え?」
手元に長方形の箱があって、それを開けると
「うわぁ」
ピンクがボイントの可愛いネックレスがあった。
「着けていい?」
「記念日でもないのに?」
「前から渡したかったんだ。去年のクリスマスに実は用意してて…」
「え?」
「なんか渡す勇気なかった。だから今日告白して記念日ってことで受け取って」
「…解った。典くん、ありがとう!」
翌日、優兄ちゃんは帰っていた。
そして私達は、まだ私自身が典くんのことをずっと大事な存在とは思ってたけど、愛がある特別とは切り分けてたので、少しずつ典くんのことを見てみようと思う。
私は結婚したときに、彼と居ると決めたのだから
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