巻き込まれた薬師の日常

白髭

文字の大きさ
218 / 235
3B-学院と植物

3B-16 苦味を越えて

しおりを挟む
 今回の病魔に対しては、キンコン単品の効果が必要だろう。霊薬やメディカターリのように複数の植物を組み合わせて相乗効果を狙うのではなく、病魔を活性化させずに確実に駆逐することが求められる。副次的な作用は、かえって病状を長引かせる危険がある。詩に歌われていた薬の引き継ぎ――もし二系統の薬を用いるならば、順序を守って服用させる必要があるはずだ。第一段階はキンコン単品、あるいはその効果を重層させる方法が求められるだろう。

「さて、私の研究の導入部分は話しました。君らへの課題は別にあります。ただし私達の課題は関連している。だからこそ、自分たちの現状と課題を互いに知っておく必要があるのです。いろいろと試しながら、具体的に話を進めましょう」

 自分はパラケル師から譲り受けたミキサを取り出し、キンコンの樹皮を微粉化した。皿に移し、全員で味見を試みる。アタッチメントを変えることで粉砕も可能なこの装置は、実に便利だ。

「君らの題材はキンコンです。文献には“苦味がある”と記されていますが、どの程度の苦味なのか、えぐ味や甘味はあるのか――体験しなければ分からないこともあります。体への作用が気になるなら飲み込まずに吐き出して構いません。まずは私から試してみましょう。もちろん強制ではなく、各自の判断に委ねます」

「苦いのは嫌ね……でも課題なら仕方ないわ」
 王族に味見をしてもらうなど恐れ多いことだが、寛容な態度に救われる。

「私は久しぶりに試したいわ。叔母様にも“客の立場に立ちなさい”と言われているし。シャーロット、叔母様の店のキンコンなら安心よ。私が先に試すから、あなたはその後で」

「二人とも、ほんの少しでいい。たくさんは含まないように」

 極小の薬匙で粉をすくい、舌にのせる。自分も率先して試し、リンネも続いた。
「苦っ!」
「うえぇ……不味い」
「確かに苦いわね。まさしくキンコンだわ。シャーロット、大丈夫よ」
「……これはきついわね」

 水を用意し、全員に渡す。微粉末にすると苦味は一層強くなる。魔導塔から供給される水は清浄で、口を濯ぐには十分だった。しばらく舌を休める必要がある。

 落ち着いたところで、自分は次の段階へ進めた。
「この粉を飲みやすくしてみます。自分が考えた案を試してみましょう」

 #######
――苦味改善案――
 シトラスシロップ 100mL
 砂糖 40g
 クエン酸2g
 キンコン抽出液 1g分
 水400mLにメスアップ。液はあらかじめ冷却。
 *カルサイト丸薬2粒を投入し、封入。
 *を入れた後はコロ*栓で即封じる。氷魔法もしくは保冷箱にて冷却継続。
 #######


 キンコン樹皮を熱水で抽出した液を用い、リンネに手伝ってもらいながらレシピ通りに調合。王冠で封じ、冷却を維持したままアイテムボックスに収め、時間経過魔法で炭酸を十分に溶け込ませる。

 取り出した瓶を鑑定する。

【トニックソーダ。解熱効果を有する。魔素無。炭酸含。爽やかな苦味と酸味】

「うん、想定通りにトニックになった。ソーダは想定外だったけど」
「トニック、ソーダ? よく分からないけど、丸い粒を入れたらシュワシュワするのは面白いわね」

 リンネが専用器具でコロ*栓を開け、四つのコップに注ぐ。泡が弾け、薬品のような香りが漂う。自分がまず味を確かめ、リンネも問題ないことを確認してから二人に差し出した。

「これも、よければ味を確認してみて。含むだけでいいから」
「えっ、これを飲むの?」

「今回も私が先に試すわ。……うん、大丈夫。甘くて爽やか。苦味はむしろアクセントね。泡が味を引き締めているのかも」
「物質鑑定してみたら、私の結果も“トニックソーダ”だったわ」

 シトラスソーダを基に、むこうの世界で病に用いられたトニックウォーターを再現した。甘味と酸味に苦味を重ね、炭酸がそれを和らげる。ユリアーネもシャーロットも悪い印象は持たなかったようだ。

「……なにこれ。初めての感覚。口の中ではじける泡は、お父様が飲む高い葡萄酒のよう。でも酒精は入っていないのよね?」
「粉をそのまま飲むより、ずっと飲みやすいわ。あの時の苦い薬を思い出したけど、これは全然違う」

「ユリアーネさん、良い気づきです! そう、粉を直接飲むより格段に飲みやすい。酸味と甘味を重ね、炭酸を加えたことで苦味が改善されたのです」

「ええ、もう完成されているくらい。よくできているわ」
「レッド先生、もしかして私たちに頼むのは味の改良?」
 シャーロットさんは察しが早い。

「その通り! 君ら二人で、キンコンの味を隠し、変え、改善する方法を考えて欲しい。このソーダは一つの完成形だけど、魔素を欠いたキンコンでは効果が薄い。自分の研究成果が採用されるなら、君らの研究がなおさら必要になる。課題は“魔素を含むキンコンを使ったとして、今のキンコンで話を進める”ことです」

「課題に具体的な名をつけるなら?」
「『苦味を有する香草と要素における服用法の開発』でしょうか。少し長いですが、より汎用的な方法を考えましょう」

「難しそうな課題を渡されたわ! ユリアーネ、どうする?」
「レッド先生、手掛かりは無いのですか?」

「……そうですね。開発と考えると難しく感じますが、すべては身近なものに置き換えましょう。薬も香草も食事と同じ、口に入れるものです。今食べている物や習った調理法から考えればいい。侯爵令嬢や王女の立場はむしろ有利です。多様な食材が集まり、形を変え、調理される環境にいるのですから」

****
作者注:)コロ*栓は、コ*ナ栓です。掲載の規定で伏字となっています。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...