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#16 お祭り
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賑やかな太鼓の音が響き渡る祭囃子。
かがり火の灯りがずらりと並び、黄昏時の村を浮かび上がらせる。
今日だけは人の出入りも多いからか、村の入り口にはご丁寧に“土産物”を徴収する為の窓口として数人の男が門番として配置されていた。
門を通る余所者はそこで土産物を門番へと渡し、入場料として払うのだ。
俺はもう土産物を納めた客人で、それ以上に居着いて仕事までしている身だ。
村人たちに顔が知れているので、そのまま“ただいま”とでも言わんばかりに素通り出来る。
しかしナキは初めてで、何かを納めねば村へと受け入れてはもらえない。
俺は門番に手を挙げて挨拶をした後、
「彼女は俺の客人です。なので、これを“土産物”に」
と言って、懐から硬貨を適当に掴み取って渡した。
門番は硬貨を皿の上に乗せて数えて問題無い事を確認して、皿ごと後ろの男へと渡す。
その後、ナキの方を一瞥し、
「へえ。あんたの故郷の娘かい? べっぴんさんじゃねえか」
「ええ、そんな所です。通りますね」
「あいよ」
ナキは門番へとぺこりと小さくお辞儀してから、俺の後ろをとてとてと狭い歩幅で付いて来た。
門を潜り村へと入り、ナキと並んで大通りを歩く。
通りには屋台が並び、俺質の他にも他所から来た客人が大勢歩いていた。
客人の中には洋服を身に纏った者も居た。遠くの地にはこの村とは違った文化圏の土地も有るのだろう。
祭りの準備期間中も同じ道を通っていたのだから、今更驚く事でも無いのかもしれない。
しかし刻一刻と変わりゆくその村の様子の変化を見ていてもなお、今日の村の様子は華やかであの貧しい村と同じ場所とは覚えない程壮観だ。
「すごい、人が、いっぱいです」
ナキも祭り期間で華やかに彩られたジュウオウ村の様子を見て、感嘆の声を上げた。
すれ違う人々、屋台に並ぶ食事や装飾品類、色々な物へと興味深そうに視線を移す。
そういやって目まぐるしく動く周囲の景色の流れに目をぐるぐると回していた。
そんなナキの様子を見て、
「ほら、逸れない様に」
と、俺はナキの手を取った。
ナキは弱い力で、俺の手を握り返してくれる。
そのまま俺たちは屋台を冷かしつつ歩いて行く。
「空間さん、あれはなんでしょう?」
「どれどれ……」
ナキは屋台の一角を指差していた。
俺は肩で風を切りながら、さながら眼鏡をくいくいと持ち上げながら、ナキの質問に答えてやろうとナキの指す方を見る。
地上の事なら任せてほしい。何でも聞いてくれ。
しかし――、
「あれは……なんでしょう?」
分からなかった。
くすくすとナキが隣で口元に手を当てて笑っている。くそう。
とりあえず近づいて見る。
どうやら食べ物らしい。白くて丸い何かが棒に刺さって売っている。
遠目から見れば小さい綿あめの様だが、近くで見ると楕円形の球状になっていて全然違うものである事が分かる。そんな形だ。
俺は屋台の店主に声をかけた。
「すみませーん」
「はいよ」
「これ、ふたつ」
「はいよ」
俺はそのままその屋台で二人分を買って、ナキへと一つを手渡す。
「ありがとうございます。でも結局、これは何だったのでしょう?」
「さあ? まあ、食べてみましょう」
食べてみると、ほのかな甘みを感じた。米を噛んでいると口の中に広がる旨味に近しい。
噛めば噛むほどじんわりと薄く味が出て来るので、そのまま歩きながらもそもそと咀嚼していると、ピンと来た。
「ああ、これ、アレだ!」
「分かったんですか?」
「えーっと、確か、名前は――」
サイズ感があまりにも違い過ぎて分からなかったが、これはきっと、
「――ポン菓子ですね、多分」
ポン菓子だ。米に熱と圧力を加えて爆発させるやつ。
お祭りで偶に袋に詰められて売っているアレだ。
通りで米っぽい味がすると思ったんだ。
しかし、俺の知るポン菓子とはスケールが違う。
見た事も無い大きさで、ついでに味が全然付いていない。素材を生かしすぎた一品だった。
「ぽ、ぽん……? なんだか、可愛いですね。――はむっ」
ナキは結局よく分からなさそうにしていたが、にこにこと美味しそうにポン菓子(仮)を食べていた。
そんな可愛らしい彼女を見ながら、俺はこんなこぶし大のサイズの米擬きがこの世界には有るのだという事実に驚いていた。
それからふらふらと歩いて、いくつかの屋台を周った。
ナキと何でもない話をしながら賑やかな雰囲気を楽しむ時間はとても楽しかった。
しかし当然ながら、俺の知っている祭りとは違ってアトラクション系――射的や金魚すくいの様な物は無いので、大体は食べ歩きだ。
特大ポン菓子だけでなく、海辺の村だから焼き魚なんかも有る。
焼き魚の方は塩焼きにしてあって、ちゃんと味が付いていて美味しかった。
他にも食べ物屋台以外の店も有って、ハンドメイドのアクセサリーや、焼き物の食器なんかも売っている。
他所から来た人がそれを好んで買っていくかと言えば――どうなのだろう。
もしかすると、ご利益が有るとかで欲しがる人も居るのかもしれない。
俺はその中から手近な屋台の前で足を止めて、目に付いた一つを手に取った。
それは小さな薄桃色の貝殻が装飾された首飾りだ。
以前にタテシマ様が盗って来てしまった石の首飾りよりは装飾は少ないが、こちらの方がシンプルで細いラインが儚く美しい。ナキに似合っている気がした。
「わ。綺麗ですね」
ナキも興味を示して、俺の隣に寄り添って手元の首飾りを覗き込む。
「ナキさん、付けてみて」
「えっ、あの、あのー―」
慌てるナキを他所に、俺はナキの後ろに回って、その首飾りを結ぶ。
白い着物の胸元に、薄桃色の貝殻が小さく輝いていた。
ナキはそれを指先で掬い上げ、優しく目じりを下げた。
気に入って貰えた様だ。
そう思い、俺はそのまま「これください」と代金を払って、ナキに貝殻の首飾りをプレゼントした。
ナキは少しの間口をぱくぱくとさせていたが、やがて遠慮するでも無く、ただ一言。
「ありがとうございます。大切にしますね」
そう言ってその首飾りを受け入れ、ぎゅっと小さな手で包み込んだ。
かがり火の灯りがずらりと並び、黄昏時の村を浮かび上がらせる。
今日だけは人の出入りも多いからか、村の入り口にはご丁寧に“土産物”を徴収する為の窓口として数人の男が門番として配置されていた。
門を通る余所者はそこで土産物を門番へと渡し、入場料として払うのだ。
俺はもう土産物を納めた客人で、それ以上に居着いて仕事までしている身だ。
村人たちに顔が知れているので、そのまま“ただいま”とでも言わんばかりに素通り出来る。
しかしナキは初めてで、何かを納めねば村へと受け入れてはもらえない。
俺は門番に手を挙げて挨拶をした後、
「彼女は俺の客人です。なので、これを“土産物”に」
と言って、懐から硬貨を適当に掴み取って渡した。
門番は硬貨を皿の上に乗せて数えて問題無い事を確認して、皿ごと後ろの男へと渡す。
その後、ナキの方を一瞥し、
「へえ。あんたの故郷の娘かい? べっぴんさんじゃねえか」
「ええ、そんな所です。通りますね」
「あいよ」
ナキは門番へとぺこりと小さくお辞儀してから、俺の後ろをとてとてと狭い歩幅で付いて来た。
門を潜り村へと入り、ナキと並んで大通りを歩く。
通りには屋台が並び、俺質の他にも他所から来た客人が大勢歩いていた。
客人の中には洋服を身に纏った者も居た。遠くの地にはこの村とは違った文化圏の土地も有るのだろう。
祭りの準備期間中も同じ道を通っていたのだから、今更驚く事でも無いのかもしれない。
しかし刻一刻と変わりゆくその村の様子の変化を見ていてもなお、今日の村の様子は華やかであの貧しい村と同じ場所とは覚えない程壮観だ。
「すごい、人が、いっぱいです」
ナキも祭り期間で華やかに彩られたジュウオウ村の様子を見て、感嘆の声を上げた。
すれ違う人々、屋台に並ぶ食事や装飾品類、色々な物へと興味深そうに視線を移す。
そういやって目まぐるしく動く周囲の景色の流れに目をぐるぐると回していた。
そんなナキの様子を見て、
「ほら、逸れない様に」
と、俺はナキの手を取った。
ナキは弱い力で、俺の手を握り返してくれる。
そのまま俺たちは屋台を冷かしつつ歩いて行く。
「空間さん、あれはなんでしょう?」
「どれどれ……」
ナキは屋台の一角を指差していた。
俺は肩で風を切りながら、さながら眼鏡をくいくいと持ち上げながら、ナキの質問に答えてやろうとナキの指す方を見る。
地上の事なら任せてほしい。何でも聞いてくれ。
しかし――、
「あれは……なんでしょう?」
分からなかった。
くすくすとナキが隣で口元に手を当てて笑っている。くそう。
とりあえず近づいて見る。
どうやら食べ物らしい。白くて丸い何かが棒に刺さって売っている。
遠目から見れば小さい綿あめの様だが、近くで見ると楕円形の球状になっていて全然違うものである事が分かる。そんな形だ。
俺は屋台の店主に声をかけた。
「すみませーん」
「はいよ」
「これ、ふたつ」
「はいよ」
俺はそのままその屋台で二人分を買って、ナキへと一つを手渡す。
「ありがとうございます。でも結局、これは何だったのでしょう?」
「さあ? まあ、食べてみましょう」
食べてみると、ほのかな甘みを感じた。米を噛んでいると口の中に広がる旨味に近しい。
噛めば噛むほどじんわりと薄く味が出て来るので、そのまま歩きながらもそもそと咀嚼していると、ピンと来た。
「ああ、これ、アレだ!」
「分かったんですか?」
「えーっと、確か、名前は――」
サイズ感があまりにも違い過ぎて分からなかったが、これはきっと、
「――ポン菓子ですね、多分」
ポン菓子だ。米に熱と圧力を加えて爆発させるやつ。
お祭りで偶に袋に詰められて売っているアレだ。
通りで米っぽい味がすると思ったんだ。
しかし、俺の知るポン菓子とはスケールが違う。
見た事も無い大きさで、ついでに味が全然付いていない。素材を生かしすぎた一品だった。
「ぽ、ぽん……? なんだか、可愛いですね。――はむっ」
ナキは結局よく分からなさそうにしていたが、にこにこと美味しそうにポン菓子(仮)を食べていた。
そんな可愛らしい彼女を見ながら、俺はこんなこぶし大のサイズの米擬きがこの世界には有るのだという事実に驚いていた。
それからふらふらと歩いて、いくつかの屋台を周った。
ナキと何でもない話をしながら賑やかな雰囲気を楽しむ時間はとても楽しかった。
しかし当然ながら、俺の知っている祭りとは違ってアトラクション系――射的や金魚すくいの様な物は無いので、大体は食べ歩きだ。
特大ポン菓子だけでなく、海辺の村だから焼き魚なんかも有る。
焼き魚の方は塩焼きにしてあって、ちゃんと味が付いていて美味しかった。
他にも食べ物屋台以外の店も有って、ハンドメイドのアクセサリーや、焼き物の食器なんかも売っている。
他所から来た人がそれを好んで買っていくかと言えば――どうなのだろう。
もしかすると、ご利益が有るとかで欲しがる人も居るのかもしれない。
俺はその中から手近な屋台の前で足を止めて、目に付いた一つを手に取った。
それは小さな薄桃色の貝殻が装飾された首飾りだ。
以前にタテシマ様が盗って来てしまった石の首飾りよりは装飾は少ないが、こちらの方がシンプルで細いラインが儚く美しい。ナキに似合っている気がした。
「わ。綺麗ですね」
ナキも興味を示して、俺の隣に寄り添って手元の首飾りを覗き込む。
「ナキさん、付けてみて」
「えっ、あの、あのー―」
慌てるナキを他所に、俺はナキの後ろに回って、その首飾りを結ぶ。
白い着物の胸元に、薄桃色の貝殻が小さく輝いていた。
ナキはそれを指先で掬い上げ、優しく目じりを下げた。
気に入って貰えた様だ。
そう思い、俺はそのまま「これください」と代金を払って、ナキに貝殻の首飾りをプレゼントした。
ナキは少しの間口をぱくぱくとさせていたが、やがて遠慮するでも無く、ただ一言。
「ありがとうございます。大切にしますね」
そう言ってその首飾りを受け入れ、ぎゅっと小さな手で包み込んだ。
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