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【第六部:終わりと始まり】第六章
真夜中の襲撃②
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大きな箱二つ分くらいの石が、男二人に降り注ぐ。空中でバランスを崩したナイシェは、何とか受け身を取りながら舞台上に転がり落ちた。二人の男を足止めしようととびかかるつもりだったが、男たちは半分ほど小石に埋もれ、そのすぐ横にナイシェが倒れ込む形になった。
「くそ! なんだこれは!」
男たちが悪態をつきながら這い出てくる。ナイシェは二人の顔を見た。知らない人間だ。怒りに顔が歪んでいる。ティーダの姿はすでにない。
「ごめんなさい!」
ナイシェは大きな声で叫んだ。二人が初めて気づいたように振り返る。とにかく二人の気を引きたい一心で、ナイシェはまくしたてた。
「ちょっと手が滑って、天井裏から落としちゃったの! まさか人がいるなんて思わなくて。大丈夫ですか? 怪我はないかしら」
まったく支離滅裂だが気にしてなどいられない。男のうちのひとりがナイシェの襟首を掴んだ。
「おい、貴様がやったのか!」
「いや、さっきのガキかもしれない」
「くそ、どこに行きやがった!?」
すぐにも再びティーダを捜しに走り出しそうな勢いだ。
「あら、あの子の手品が好きなの? でもダメですよ、こっそり種を覗きにこようなんて。ここにはどこから入ったの? 立ち入り禁止のはずなのに。大きい音をたてちゃったから、向こうのテントから誰か出てくるかも。見つかったら町の保安警に引き渡されちゃいますよ」
とぼけた顔で、何とか引き上げさせようとさりげなく脅してみる。失敗したら、自分の命も危うい。
男たちは顔を見合わせた。ひとりが、激昂しているもうひとりに何やら耳打ちをする。男はそれで多少理性を取り戻したのか、舌打ちをすると踵を返した。
「ふん、すぐ出ていくさ」
男たちは、正面出入口の錠前を壊して入ってきたようだった。小走りにもと来た道を去っていく。それを見届けると、ナイシェはすぐさま裏口へ向かった。ランプもなく真っ暗だが、道は頭に入っている。控室を覗いた。暗く、物音ひとつしない。ナイシェは小声で呼びかけた。
「ティーダ! 私よ、ナイシェよ。大丈夫だから出ておいで」
返事はない。いないのかもしれない。
ナイシェは部屋を出ると裏口から外へ向かった。用心深くあたりを窺う。あの二人が戻ってきているかもしれない。真っ暗闇の中、月明かりで徐々に目が慣れてくると、寝床となっているテントの出入り口にひとつの人影が見えた。体の大きな男だ。きょろきょろと様子を見ている。
彼らは、二人ではなかったのだ。二人が失敗したときのために、あそこでもうひとりが待ち伏せしているに違いない。
そのとき、ナイシェのすぐ近くに人の気配がした。息を切らしながら小走りに土を蹴る音がする。
ティーダだ!
気づかずに通り過ぎようとするティーダを、ナイシェは抱え込むように捕らえた。叫ぼうとするティーダの口を塞ぎ、耳打ちする。
「ティーダ! 私よ! 今行っちゃダメ、悪い奴が待ち構えてる」
ティーダははっとしたようにナイシェの顔を見た。
「ナイシェ! どうしてここに?」
「説明はあと。あの大男をどうにかしないと、まずいわ」
ナイシェにいわれ、ティーダも気づいたようだ。
あのテントにさえ戻れれば、中にはたくさんの座員や大道具係の屈強な男たちがいる。さすがに奴らも手出しはできないだろう。
ナイシェは足元に転がる石をいくつか手に握った。それを、自分たちの斜め前方、男の見張るテントの裏手に当たるほうへ、力いっぱい放り投げる。しばらくして、暗がりの中遠くで小石の音がし、大男ははっとしたように振り返ると音のしたほうへ向かっていった。
それを確認し、ナイシェがすぐさまティーダを抱きかかえる。
「しっかり掴まっててね。絶対音を立てないで」
男の背中が十分に離れた頃合いを見計らって、ナイシェは走り出した。ティーダを抱いたまま、テントの入り口を一直線に目指し、かすかな足音すら立てずに駆け抜ける。
テントをくぐったところでティーダを下ろし、一緒に真ん中の部屋まで走る。暗くて誰の寝床かわからない。だが、数人の座員が寝ているのを確認すると、二人は部屋の隅で毛布にくるまり、体を小さくしてじっと息を潜めた。
心臓が早鐘を打つ。ティーダはナイシェの体にしがみついて動かなかった。ナイシェは両手でティーダを抱いたまま、ずっと部屋の入り口を見つめていた。
ティーダを抱く腕に力を込める。小さな体が、今は燃えるように熱くこわばっている。
いくら待っても、それ以上の物音や人の気配はしなかった。どうやら、彼らは諦めたらしい。
「もう大丈夫よ」
ナイシェは毛布を持ち上げて、丸まるティーダの頭に囁きかけた。ティーダはゆっくりと顔をあげた。真っ暗で、その表情はうかがい知れない。
「……何なの、あいつら」
ぽつりと呟く。説明してあげたかったが、口を開こうとしたとき、隣で寝ている座員がもぞもぞと寝返りを打った。
ここではうかつに話せない。
ナイシェはティーダに耳打ちした。
「明日、話すわ。あなたにとって、すごく大切な話。今日はこのまま休みなさい。大丈夫、たくさん仲間がいるし、私がずっと見張ってるから。安心して寝なさい」
ティーダは何かいいたそうにしばらくナイシェを見つめていたが、やがて再び背中を丸めると、ナイシェの体に身を寄せるようにして、動かなくなった。
「くそ! なんだこれは!」
男たちが悪態をつきながら這い出てくる。ナイシェは二人の顔を見た。知らない人間だ。怒りに顔が歪んでいる。ティーダの姿はすでにない。
「ごめんなさい!」
ナイシェは大きな声で叫んだ。二人が初めて気づいたように振り返る。とにかく二人の気を引きたい一心で、ナイシェはまくしたてた。
「ちょっと手が滑って、天井裏から落としちゃったの! まさか人がいるなんて思わなくて。大丈夫ですか? 怪我はないかしら」
まったく支離滅裂だが気にしてなどいられない。男のうちのひとりがナイシェの襟首を掴んだ。
「おい、貴様がやったのか!」
「いや、さっきのガキかもしれない」
「くそ、どこに行きやがった!?」
すぐにも再びティーダを捜しに走り出しそうな勢いだ。
「あら、あの子の手品が好きなの? でもダメですよ、こっそり種を覗きにこようなんて。ここにはどこから入ったの? 立ち入り禁止のはずなのに。大きい音をたてちゃったから、向こうのテントから誰か出てくるかも。見つかったら町の保安警に引き渡されちゃいますよ」
とぼけた顔で、何とか引き上げさせようとさりげなく脅してみる。失敗したら、自分の命も危うい。
男たちは顔を見合わせた。ひとりが、激昂しているもうひとりに何やら耳打ちをする。男はそれで多少理性を取り戻したのか、舌打ちをすると踵を返した。
「ふん、すぐ出ていくさ」
男たちは、正面出入口の錠前を壊して入ってきたようだった。小走りにもと来た道を去っていく。それを見届けると、ナイシェはすぐさま裏口へ向かった。ランプもなく真っ暗だが、道は頭に入っている。控室を覗いた。暗く、物音ひとつしない。ナイシェは小声で呼びかけた。
「ティーダ! 私よ、ナイシェよ。大丈夫だから出ておいで」
返事はない。いないのかもしれない。
ナイシェは部屋を出ると裏口から外へ向かった。用心深くあたりを窺う。あの二人が戻ってきているかもしれない。真っ暗闇の中、月明かりで徐々に目が慣れてくると、寝床となっているテントの出入り口にひとつの人影が見えた。体の大きな男だ。きょろきょろと様子を見ている。
彼らは、二人ではなかったのだ。二人が失敗したときのために、あそこでもうひとりが待ち伏せしているに違いない。
そのとき、ナイシェのすぐ近くに人の気配がした。息を切らしながら小走りに土を蹴る音がする。
ティーダだ!
気づかずに通り過ぎようとするティーダを、ナイシェは抱え込むように捕らえた。叫ぼうとするティーダの口を塞ぎ、耳打ちする。
「ティーダ! 私よ! 今行っちゃダメ、悪い奴が待ち構えてる」
ティーダははっとしたようにナイシェの顔を見た。
「ナイシェ! どうしてここに?」
「説明はあと。あの大男をどうにかしないと、まずいわ」
ナイシェにいわれ、ティーダも気づいたようだ。
あのテントにさえ戻れれば、中にはたくさんの座員や大道具係の屈強な男たちがいる。さすがに奴らも手出しはできないだろう。
ナイシェは足元に転がる石をいくつか手に握った。それを、自分たちの斜め前方、男の見張るテントの裏手に当たるほうへ、力いっぱい放り投げる。しばらくして、暗がりの中遠くで小石の音がし、大男ははっとしたように振り返ると音のしたほうへ向かっていった。
それを確認し、ナイシェがすぐさまティーダを抱きかかえる。
「しっかり掴まっててね。絶対音を立てないで」
男の背中が十分に離れた頃合いを見計らって、ナイシェは走り出した。ティーダを抱いたまま、テントの入り口を一直線に目指し、かすかな足音すら立てずに駆け抜ける。
テントをくぐったところでティーダを下ろし、一緒に真ん中の部屋まで走る。暗くて誰の寝床かわからない。だが、数人の座員が寝ているのを確認すると、二人は部屋の隅で毛布にくるまり、体を小さくしてじっと息を潜めた。
心臓が早鐘を打つ。ティーダはナイシェの体にしがみついて動かなかった。ナイシェは両手でティーダを抱いたまま、ずっと部屋の入り口を見つめていた。
ティーダを抱く腕に力を込める。小さな体が、今は燃えるように熱くこわばっている。
いくら待っても、それ以上の物音や人の気配はしなかった。どうやら、彼らは諦めたらしい。
「もう大丈夫よ」
ナイシェは毛布を持ち上げて、丸まるティーダの頭に囁きかけた。ティーダはゆっくりと顔をあげた。真っ暗で、その表情はうかがい知れない。
「……何なの、あいつら」
ぽつりと呟く。説明してあげたかったが、口を開こうとしたとき、隣で寝ている座員がもぞもぞと寝返りを打った。
ここではうかつに話せない。
ナイシェはティーダに耳打ちした。
「明日、話すわ。あなたにとって、すごく大切な話。今日はこのまま休みなさい。大丈夫、たくさん仲間がいるし、私がずっと見張ってるから。安心して寝なさい」
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