サラマ・アンギュース~王位継承者

若山ゆう

文字の大きさ
100 / 371
【第三部:とらわれの舞姫】第二章

ジュノレとリキュス

しおりを挟む
 アルマニア宮殿の本宮である水晶宮の東に位置する紅玉宮で、王族と一部の上級貴族による会議が開かれていた。数か月前に国王本人から提出された身分制度に関する改正案をめぐって、意見は真っ二つに分かれていた。

「理想よりも何よりもまず、現在ひとつの建物の中にまとまって住んでいる下級貴族たちにそれぞれ家を与えるというのは、どう考えても無理でしょう」

 ウィレムの意見にリキュスが答える。

「物理的には可能です。敷地は余るほどありますからね。経済的にも無理ではありません。現在贅沢すぎるほどの暮らしをしている王族、上級貴族はたくさんいます。そういう人間の生活を抑えれば、全体として身分差が緩和され、国の経済的支出も軽くなります」
「そんなことをしたら上級貴族が何というか!」

 するとジュノレがウィレムにいった。

「階級と身分を混同してはいけません。たとえ生活水準の差が減っても、上級貴族たちの階級すなわち地位はそのままです。職務上は、上級貴族が他の者を指導しますし、責任ある仕事も上級貴族たちに任されるでしょう。ただ、それが私生活にまで持ち込まれないというだけです」
「つまり、今回の政策は、現在ひとつになっている階級と身分を分離し、不必要な身分制のほうを廃止するということですね」

 宮廷長ワーグナが補足した。

「素晴らしい改革だとは思うのですがね、経済面は問題ないとしても、人材はどうするおつもりです?」

 老年にさしかかったナーヴル公爵が問う。

「いつものように土木や修繕専門の男たちを雇うつもりです。五年ほどかけて進めますから、特に問題はないでしょう」

 リキュスの返答にナーヴルは眉間にしわを寄せたまま考えこんだ。しばらくの沈黙が続く。
 結局この日も採決はとれなかった。国王リキュスが提出した法案は、四回の会議を経てもまだ先の見えない討論から抜け出すことができなかった。

「次の会議の日取りは日を追って知らせます。それから、本来ならば当上級者会議での可決案をさらに宮廷全体の採択会議にかけたうえで正式な可決となりますが、今回の法案は下級貴族や使用人たちに直接関わるものですし、当会議でも意見が分かれておりますので、第五回会議までに法案を正式に公表し、中下級貴族の採択も合わせてとりたいと思いますが、よろしいでしょうか」

 これには全員一致で賛成した。リキュスは確認するようにうなずくと、張りのある声で告げた。

「これにて、第四回身分制度に関する改正案採択会議を閉会する」





 紅玉宮の会議室には、リキュスとジュノレが残っていた。

「申し訳ありませんジュノレ殿、書類の整理までしていただいて」

 リキュスの言葉にジュノレが苦笑する。

「国王たる者がそんなことを。いつまでたってもその謙虚さは変わらないな」
「そういうジュノレ殿も、昔と変わらず私に接してくださる。とても、心が安らぎます」

 ジュノレは微笑むリキュスの瞳を見つめた。

「私の書き残した手紙は、おまえを否応なしに国王にしてしまったらしい……すまなかったな、重荷だろう?」
「いえ……自分でも驚いていますが、重荷とは思っていません。やりがいを感じますし、絶対にこなせるという自信もあります」

 そしてジュノレに問い返した。

「ジュノレ殿はなぜ……私を、国王に?」

「おまえは、人を思いやる心と国を引っ張っていくだけの聡明さをほどよく持ち合わせている。そう思ったからだよ」
「それならば、兄でもよかったのではないですか」
「エルシャは聡明だが、やさしすぎるところがある。ときとしてやさしさは国を動かす妨げになるからね」
「同感です」

 リキュスは笑いながらそういった。そんな彼を見ながら、ジュノレがぽつりと呟く。

「おまえは……私に、似ている」
「え……?」

 ジュノレはリキュスを見つめたまま続けた。

「本当の自分を隠して、傷つかないように堅い鎧でその身を守っている……」

 リキュスはしばしその視線を受け止めると、やがて口元に笑みを浮かべた。

「……そうかもしれません。実際、あなたは本当の自分を今まで隠していた」

 ジュノレが決まりの悪そうな笑みを浮かべる。そんな彼女に、リキュスは問いかけた。

「今まで男性として生きてきて、後悔したことはありますか?」

 ジュノレはリキュスの顔をまじまじと見ながら小さく笑った。

「兄弟で、似たようなことを訊くんだな」

 そして答えた。

「男として生きてきたことに、後悔はないよ。ただ……今までずっと、母のいいなりだったことだけが……悔やまれる」
 しばらくの沈黙のあと、ジュノレは立ち上がってリキュスの肩を叩いた。
「自分を隠すのもいいけどな。おまえは、悔いのないように」

 そして会議室をあとにした。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...