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【第五部:聖なる村】第三章
視えた未来
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翌朝、ナイシェは早速エルシャにイシュマ・ニエヴァの伝言を伝えた。
悪魔の力が強くなりつつあるようだ。そのために、神の望む未来が歪められている。なるべく早く使命を全うしなくては、間に合わないかもしれない……。
「もし、神の民を見つけ出すのが間に合わなかったら……何が起こるの?」
ディオネがエルシャを見ながら恐る恐る口にする。神から直接命を受けた第一級神官のエルシャなら、何か知っているのではないか。そう思ったが、エルシャはかぶりを振った。
「俺も何度か、神の民を集める目的を問うたことがある。しかし、いまだ神は答えてくださらない。そもそも、俺の祈りに応えてくださったことだって、一回しかないんだ。俺にはまだ知る必要がないということなのか、いえない理由があるのか……」
そしてしばらく思案してから、エルシャは続けた。
「メリライナの記憶では、遠い昔、神と悪魔が直接戦った。そして、どちらが勝つでもない、別の結末となった。そして今、悪魔が力をつけてきているとするならば……」
いいあぐねているエルシャに代わり、ナイシェが口を開く。
「まさか……また、戦いが繰り返される、とか……?」
「やめてよ……。急がないと間に合わいっていうのは、じゃあ、神の民が揃わないと、悪魔が勝つかもってこと? そもそも、神と悪魔の戦争なんてことになったら、人間はどうなるの? メリナの話だと、全世界を黒い雲が覆って、雷や地響きが激しく轟いて……とても、人間ななんかが生きられる状況じゃないって……」
わずかの時間、沈黙が流れる。ディオネの言葉に、エルシャはフェランから聞いたあることを思い出していた。
『もうすぐ悪魔がやってくる。神の民は、根絶やしにされる』
フェランの母親の、死に際の言葉だ。彼女は、予見の民だった。
フェランに聞いたその言葉を、エルシャはまだ誰にも話してはいなかった。今後も、話すことはないだろう。フェランも恐らく同じだ。ともに神の民を探す旅をし、実際に神の民である仲間たちに話すには、あまりにも重く残酷な内容だからだ。
こんな重要な話を秘密にしているのは、罪だろうか。
エルシャは何度も自問したが、答えは否だった。確かにフェランの母親はシレノスであり、シレノスの予見は必ず現実となる。しかし、あの言葉が『予見』だという確証はないのだ。そして恐らく神は、それが現実となることを阻止するために、神の民を集結させようとしているに違いない。エルシャはそう信じていた。しかし、ただそう信じたいだけなのかもしれなかった。どちらにしろ、旅の道中で自分たちは何度も命を落としかけた。それでも皆ついてきてくれているのだ。これ以上彼らを不安にさせるようなことを自分から伝える必要などないはずだった。
「大丈夫」
ナイシェの声で、エルシャは我に返った。ナイシェは不安げなディオネの右手をそっと握った。
「きっと大丈夫よ、姉さん。エルシャがいるし、姉さんだっていってたじゃない。初めてエルシャに会ったとき、神の民は皆で会う運命にある気がする、って。それに、今はルイに出会うことができた。旅は順調よ」
結局ルイは、エルシャから話を聞いても決心が揺らぐことはなく、今日旅の荷物をまとめてエルシャたちの宿へ合流することになっていた。
「ルイが持っていたかけらは、確かに神の民のかけらだった。私たち、ちゃんと前に進んでるわ」
ディオネはうなずいた。
昨日ルイがどうしてもついていきたいといったとき、エルシャがルイに、かけらを見せるよういったのだ。ディオネは神の民の手がかりを得たことに気持ちが高揚して気づかなかったが、エルシャは用心深かった。これまで何度も悪魔の手先と思わしき輩に命やかけらを狙われ、更には、予見の民の血を引く占い師のツァラには『嘘や誤解に気をつけろ』といわれたのだ。ルイを信用するに足る証拠を見せろというのは、しごく当然のことだった。ルイも、嫌な顔ひとつせず、胸元の小さな銀製ペンダントを開いてかけらを見せてくれた。
彼女は、操作の民だといっていたなあ。その力を見ることはなかったけれど。
そういいながら差し出したかけらは、小指の爪ほどの大きさで、透き通ったガラスのような破片が光を乱反射して輝きを放っていた。それはディオネの知る神のかけらそのものだった。かけらを持つルイの旅への同行を断る理由は、エルシャたちにはなかった。
宿の部屋の扉を叩く音で、一同は我に返った。それは、予想より早くやってきたルイだった。
「やあ。早速来たよ。……あれ、昨日より人が少ないみたいだね」
快活な声でそういうと、ルイは肩に掛けていた荷物をどんと床に下ろした。ディオネが怪訝な顔をする。
「あんた……昨日までとは別人みたいだけど……」
ルイは憑き物が落ちたようなすっきりした顔でディオネのほうへ振り返った。
「昨夜荷造りしながらいろいろ考えてね……。これから起きることは想像もつかないけど、それを僕がカイラの代わりに体験するんだと思うと、何ていうか……彼女と、一緒に旅ができるような気がしてね。ちょっとだけ、わくわくしてるんだ。不謹慎かもしれないけど」
ディオネはあきれ顔で肩をすくめた。
「急に前向きになっちゃって。酒におぼれていた人とは思えないね」
ルイは声を上げて笑った。
「酒はきっぱりやめたさ。持ってきてもいないよ。不思議だね、目的を持つとこんなにも簡単にやめられるなんて。ところで、今日は君たち三人だけなの?」
ルイはあたりを見回した。エルシャと、ディオネ、ナイシェの姉妹しかいない。
「そういえば、いつも早起きのフェランとラミが起きてこないわね」
ナイシェが二人を起こそうと寝室へ向かうと同時に、扉が内側から開いた。そこには青白い顔をしたフェランが立っていた。足元にはラミがしがみついている。ナイシェは、前にも同じような光景を見た気がした。朝起きてきたフェランが、顔色悪く嫌な汗をかいている。あれはいつだったか。
答えに辿り着く前に、フェランが声を発した。
「……ハーレルを、視ました」
悪魔の力が強くなりつつあるようだ。そのために、神の望む未来が歪められている。なるべく早く使命を全うしなくては、間に合わないかもしれない……。
「もし、神の民を見つけ出すのが間に合わなかったら……何が起こるの?」
ディオネがエルシャを見ながら恐る恐る口にする。神から直接命を受けた第一級神官のエルシャなら、何か知っているのではないか。そう思ったが、エルシャはかぶりを振った。
「俺も何度か、神の民を集める目的を問うたことがある。しかし、いまだ神は答えてくださらない。そもそも、俺の祈りに応えてくださったことだって、一回しかないんだ。俺にはまだ知る必要がないということなのか、いえない理由があるのか……」
そしてしばらく思案してから、エルシャは続けた。
「メリライナの記憶では、遠い昔、神と悪魔が直接戦った。そして、どちらが勝つでもない、別の結末となった。そして今、悪魔が力をつけてきているとするならば……」
いいあぐねているエルシャに代わり、ナイシェが口を開く。
「まさか……また、戦いが繰り返される、とか……?」
「やめてよ……。急がないと間に合わいっていうのは、じゃあ、神の民が揃わないと、悪魔が勝つかもってこと? そもそも、神と悪魔の戦争なんてことになったら、人間はどうなるの? メリナの話だと、全世界を黒い雲が覆って、雷や地響きが激しく轟いて……とても、人間ななんかが生きられる状況じゃないって……」
わずかの時間、沈黙が流れる。ディオネの言葉に、エルシャはフェランから聞いたあることを思い出していた。
『もうすぐ悪魔がやってくる。神の民は、根絶やしにされる』
フェランの母親の、死に際の言葉だ。彼女は、予見の民だった。
フェランに聞いたその言葉を、エルシャはまだ誰にも話してはいなかった。今後も、話すことはないだろう。フェランも恐らく同じだ。ともに神の民を探す旅をし、実際に神の民である仲間たちに話すには、あまりにも重く残酷な内容だからだ。
こんな重要な話を秘密にしているのは、罪だろうか。
エルシャは何度も自問したが、答えは否だった。確かにフェランの母親はシレノスであり、シレノスの予見は必ず現実となる。しかし、あの言葉が『予見』だという確証はないのだ。そして恐らく神は、それが現実となることを阻止するために、神の民を集結させようとしているに違いない。エルシャはそう信じていた。しかし、ただそう信じたいだけなのかもしれなかった。どちらにしろ、旅の道中で自分たちは何度も命を落としかけた。それでも皆ついてきてくれているのだ。これ以上彼らを不安にさせるようなことを自分から伝える必要などないはずだった。
「大丈夫」
ナイシェの声で、エルシャは我に返った。ナイシェは不安げなディオネの右手をそっと握った。
「きっと大丈夫よ、姉さん。エルシャがいるし、姉さんだっていってたじゃない。初めてエルシャに会ったとき、神の民は皆で会う運命にある気がする、って。それに、今はルイに出会うことができた。旅は順調よ」
結局ルイは、エルシャから話を聞いても決心が揺らぐことはなく、今日旅の荷物をまとめてエルシャたちの宿へ合流することになっていた。
「ルイが持っていたかけらは、確かに神の民のかけらだった。私たち、ちゃんと前に進んでるわ」
ディオネはうなずいた。
昨日ルイがどうしてもついていきたいといったとき、エルシャがルイに、かけらを見せるよういったのだ。ディオネは神の民の手がかりを得たことに気持ちが高揚して気づかなかったが、エルシャは用心深かった。これまで何度も悪魔の手先と思わしき輩に命やかけらを狙われ、更には、予見の民の血を引く占い師のツァラには『嘘や誤解に気をつけろ』といわれたのだ。ルイを信用するに足る証拠を見せろというのは、しごく当然のことだった。ルイも、嫌な顔ひとつせず、胸元の小さな銀製ペンダントを開いてかけらを見せてくれた。
彼女は、操作の民だといっていたなあ。その力を見ることはなかったけれど。
そういいながら差し出したかけらは、小指の爪ほどの大きさで、透き通ったガラスのような破片が光を乱反射して輝きを放っていた。それはディオネの知る神のかけらそのものだった。かけらを持つルイの旅への同行を断る理由は、エルシャたちにはなかった。
宿の部屋の扉を叩く音で、一同は我に返った。それは、予想より早くやってきたルイだった。
「やあ。早速来たよ。……あれ、昨日より人が少ないみたいだね」
快活な声でそういうと、ルイは肩に掛けていた荷物をどんと床に下ろした。ディオネが怪訝な顔をする。
「あんた……昨日までとは別人みたいだけど……」
ルイは憑き物が落ちたようなすっきりした顔でディオネのほうへ振り返った。
「昨夜荷造りしながらいろいろ考えてね……。これから起きることは想像もつかないけど、それを僕がカイラの代わりに体験するんだと思うと、何ていうか……彼女と、一緒に旅ができるような気がしてね。ちょっとだけ、わくわくしてるんだ。不謹慎かもしれないけど」
ディオネはあきれ顔で肩をすくめた。
「急に前向きになっちゃって。酒におぼれていた人とは思えないね」
ルイは声を上げて笑った。
「酒はきっぱりやめたさ。持ってきてもいないよ。不思議だね、目的を持つとこんなにも簡単にやめられるなんて。ところで、今日は君たち三人だけなの?」
ルイはあたりを見回した。エルシャと、ディオネ、ナイシェの姉妹しかいない。
「そういえば、いつも早起きのフェランとラミが起きてこないわね」
ナイシェが二人を起こそうと寝室へ向かうと同時に、扉が内側から開いた。そこには青白い顔をしたフェランが立っていた。足元にはラミがしがみついている。ナイシェは、前にも同じような光景を見た気がした。朝起きてきたフェランが、顔色悪く嫌な汗をかいている。あれはいつだったか。
答えに辿り着く前に、フェランが声を発した。
「……ハーレルを、視ました」
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