誰もがその聖女はニセモノだと気づいたが、これでも本人はうまく騙せているつもり。

幌あきら

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【19.エルンストへの想いを封印】

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 さて、急にバートレットと3人で馬乗りに出かけることになったリーアンナだったが、バートレットにセレステの様子を伝えると、バートレットはどうやらだいぶ気を引き締めたようだった。

 ウォーレスはひたすら「作戦、作戦」と言い続けていたが、セレステの気性きしょうをよく知っていたリーアンナは余計な作戦は無意味、むしろ逆効果と思った。

 だからリーアンナは、
「今はブローデ様のことで落ち込んでいるだろうから、まずは慰めてあげられないかしら。見る目がなかったとなげいていると思うの。でもセレステがバートレットのことを大事に思っているのは確かだから、そこで距離をめてしまって、むしろもう、俺がいるよの一言でも言ってしまえばいい」
とバートレットに助言した。

「セレステは婚約破棄したからって、ほいほい次の男に行くような女じゃない」
とバートレットは言い張ったが、リーアンナは首を縦には振らなかった。
「安心して。ブローデ様のことは婚約者として丁寧に扱っていたけど、婚約者でなくなった以上、もうそんなに引きったりはしてないと思うわ。もちろんすぐに乗り換える気分でもないでしょうから、次のデートの約束くらいの軽い感じでいった方がいいと思うけど」

「引きってない?」
とバートレットは心配そうに確認した。

「と思うわ。セレステからは『よき伴侶はんりょでありたい』という意気込みはよく聞かされたけど、彼を愛しているとか、そういったものはあまり聞かなかったの。もちろん夫婦になれば変わるのだろうなと思ってはいたけど。愛と言うと、まだそんな感じじゃなかったわ」
とリーアンナは言った。

「そうか……」
 バートレットはほっとしたような、そんな相手にセレステをゆずる気でいたのかと拍子抜ひょうしぬけしたような、微妙びみょうな顔をしていた。

 少し見晴らしのよい丘につき、リーアンナとウォーレスとバートレットは適当な木陰こかげを見つけて馬を少し休ませることにした。

 ここまで従者のようにずっとリーアンナの馬のくつわを取っていたウォーレスだったが、リーアンナを馬から降ろすとなると途端とたんに従者のような態度は消え、リーアンナがウォーレスの差し伸べた手をつかんだ瞬間に強く引くと、「あ」というリーアンナの声を無視してそのままリーアンナの体ごとすっぽりと腕に抱き留めた。

 リーアンナは真っ赤になる。
「ちょ、ちょっと、な、何を……! バートレットもいるんだけど……」

 リーアンナの震える小さな抗議の声をまるで無視して、ウォーレスはリーアンナを抱く腕に力を込めて、そのままリーアンナの耳に唇を寄せた。
「婚約者特権だよ」

「いや、ちょっと私の心の準備が」
 リーアンナがドキドキして体を硬直させていると、ウォーレスがまた耳元で言った。
「エルンストのことは忘れさせるから」

「エルンスト様のことは別に……婚約者がいらっしゃるし」
 リーアンナが精一杯せいいっぱいの言い訳をする。

 するとウォーレスはリーアンナの髪を優しくでた。
「そうはいっても気持ちは別なんでしょ。でも婚約は解消しないよ、エルンストへの気持ちは封印してもらうから」

「封印……」

「そう。もちろん急には無理かもしれないけど。僕でめいっぱい満たしたら、エルンストのことは考える暇がなくなるかな」
 そう言ってウォーレスはリーアンナの耳に寄せていた唇をそっと髪づたいに移動させて、リーアンナのおでこにキスをした。

 リーアンナはドキッとする。
 おでことはいえ、異性からのキス! ――いつくしむようなキス。

 照れてしまったが、同時に恥ずかしくなって、
「ウォーレス!! バートレットもいるのよ!」
と恥ずかしそうに体をらせた。

 しかし、さっきからバートレットの方はわざと明後日あさっての方を向いていて、今も手だけこちらにひらひらと振って見せると「お二人の世界でどうぞ、お気になさらず」と無視を決め込んでいた。

 ウォーレスはちらりとバートレットを見てからまたリーアンナに視線を戻した。
「バートレットはいいって言ってる」

「言ってないよね、手だけで合図って、こっちの動向どうこう気にしてる態度だよね」
 リーアンナが思わず突っ込むと、バートレットが少し離れたところから、
「俺の存在邪魔ですまん! でもウォーレスも頑張りどころなんだ、俺のことはいないと思って、どうぞ続けてください!」
と謎な敬語でどこかに歩いて立ち去ろうとした。

「バートレット! そういうのいらないから!」
とリーアンナが半泣きで声をかけると、
「いや!エルンストを吹っ切るためにも、リーアンナはウォーレスを受け入れるべきだ!」
とバートレットが言い返す。

「恥ずかしいからそういうこと面と向かって言わないでくれる?」
とリーアンナが真っ赤になってキーっと言うと、さっきからリーアンナの体をすっぽり包み込んでいるウォーレスがわざとねたような声を出した。
「僕だって、リーアンナがエルンストを好きなまま結婚したくないんだよ」

 リーアンナは自分にからみつくウォーレスの体温を感じてドキドキしながら、
「それは……。結婚するとなったら二度とエルンスト様のことは口にしないわよ、礼儀だし」
と冷静をよそおって言う。
 でも、最近はエルンスト様のこと考える時間が減ったかも……。
 むしろ寝る前に思い出すのはウォーレスのことだったりする……。

 しかし、リーアンナが何を考えているかまでは分からないウォーレスは、リーアンナを包む腕に少し力を加えて抱きしめ、自分の頬をリーアンナの髪に押し当てた。
「礼儀、ね。そういうことじゃないんだ。僕は君の心もまるごと欲しいんだよ」

「まるごと?」
 余計よけいにリーアンナの心臓はドキドキ打ち、これはもう絶対にウォーレスにバレてると思った。

 ウォーレスは柔らかいてのひらでそっとリーアンナの肩をでた。
「そう、まるごと! バートレットがいるのにブローデと婚約したセレステ。僕はブローデ殿の気持ちを考えると少し複雑だな。ブローデ殿はバートレットのことは知らないだろうし、知ってたとしても中央とのつながりができる以上、そんな状況でも喜んでセレステと結婚しただろうけど、僕は妻が別の男のことが好きだったなんて考えると気が狂いそうになるよ。どうにかして僕を好きになってもらいたいんだ」

 するとリーアンナがウォーレスの腕の中でぽつんと言った。
「……ねえ、ウォーレス。私と本当に結婚してくれるの?」

 その言葉にウォーレスはハッとした。
「どうしたの、リーアンナ、急にそんな言い方……!」

 リーアンナはウォーレスの気持ちが嬉しくて、涙がこぼれんばかりになっていた。
「私なんか、ずっと王太子様と婚約してて、あげく王太子様に婚約破棄されて、それで婚約者のいるエルンスト様にあこがれたり……。どうみても傷物令嬢なのに」

「そんなこと思ってたの? リーアンナは傷物じゃない。僕はずっと好きだったから! リーアンナが王太子様と婚約しているときも、つらかったけどずっとあきらめられなくて。婚約破棄になって喜んだけど、僕は隣国に行かなきゃいけなかったり。なんで僕ばっかりうまくいかないんだって思ってたけど、今があるからもういいんだ! 僕はリーアンナを愛し続けるよ」
 ウォーレスは真っ赤になったリーアンナのほおを人差し指で軽くでた。

「ウォーレスの気持、今まで考えたことなくてごめんなさい……。でも、キアナン公爵ウォーレスの父は何て言うか……私なんか許すかしら」
 リーアンナはしおらしく言った。

「許すよ、当たり前じゃないか」
 ウォーレスは最後にリーアンナの体をもう一度強く抱きしめると、それからようやくリーアンナの体を放した。

 傷物令嬢……。リーアンナは自分のことをそういう風に思っていたのか。
 キアナン公爵家うちに遠慮してる? いや、そもそもエルンストへの気持ちがあるんだよな……。

 ウォーレスは苦しい気持ちを隠すように口をぎゅっと結ぶと、
「はあ、もう頭どうにかなりそう」
と嫌な思いを振り払うかのように強く頭を振った。

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