誰もがその聖女はニセモノだと気づいたが、これでも本人はうまく騙せているつもり。

幌あきら

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【28.刺客を放った罪】

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 そのとき、会食会場に声が響き渡った。
「それだけではありませんよね」

「あ、エルンスト! それにウォーレス」
 声の方を振り返ってリーアンナとセレステは驚いた。

「リーアンナ。それにセレステ。君らはまったく。いつの間にルシルダを追い詰めてんの。びっくりするよ、もう。ちゃんと言ってほしかったな」
 ウォーレスがじとーっとした目でリーアンナとセレステを見る。

「言えない事情があるのよ。それより、あなたたちは何をしに来たの?」
とリーアンナが聞くと、ウォーレスは真面目な顔になって言った。
「エルンストを刺した犯人の件だよ」

「おや?」
 王太子が目を上げる。

 エルンストは小さくうなずいて王太子の方へ一歩踏み出して言った。
「少し前に私は王宮の舞踏会でいきなり刺されたのですが、その犯人もルシルダと繋がっていました」

 王太子はまた楽しそうな顔をした。
「刺されたってことは聞いてたよ。でも犯人は捕まってないと思ってた」

「ええ捕まってません。まだ」
とエルンストがちらりとルシルダの方を見る。ルシルダは縮こまった。

 縮こまったルシルダを軽く一瞥いちべつしてから、王太子はまたエルンストに視線を戻す。
「まだ?」

「ええ。ルシルダとの繋がりを暴いてからだと思ってたので」

「そう。じゃ、今この話をするってことは、ルシルダとその犯人の繋がりが分かったってことかな。よし、聞かせてもらおう。まず犯人は誰?」
 王太子はワクワクした顔で聞いた。

「ギルヤード男爵家次男のダスティンって男でした」
とウォーレスは答えた。

「ギルヤード男爵家……?」
 王太子は耳慣れない家名に首をかしげた。

「ああ、ご存じないかと思います。新興の男爵家ですので」
とエルンストが慌てて補足すると、王太子はそうかとうなずいて聞いた。
「そうか。で、なんでそんな男が君を?」

「恥ずかしながら、ダスティンと言う男は、私の婚約者であるイェレナと付き合ってましてね。イェレナの方もだいぶ入れ込んでいる様子で」
 エルンストは少し言いにくそうに言った。

「へえ! じゃあ三角関係?」
 王太子は目を丸くした。

 するとエルンストは慌てて否定した。
「あ、いえ、違います。まあそうやって、まるで三角関係を装った犯罪に見せかけてますけどね、本当はそこのルシルダがダスティンをけしかけてやったことです。私をおどすためにね」

 王太子は、ああと納得した顔をした。
「ああ、まあ。エルンストのことはだいぶ嫌っていたからな、ルシルダは」

「嫌う? おかしくないですか? こっちが嫌うならまだしも! 治水工事の許可の件で巨額の賄賂わいろを要求してきたのはルシルダの方ですよ!」
とエルンストが抗議すると、王太子はうんうんとうなずいた。
「だから、それを断ったから、ルシルダは君を嫌ってるんじゃないか」

 エルンストはじとっとした目を王太子に向ける。
「王太子様、ルシルダの賄賂わいろのこと知ってたんですね」

「知ってたよ」

「なんで止めてくれなかったんです?」

「だって止めない方が面白そうだったからさ。君は泣き寝入りするタイプじゃないだろ? 絶対ルシルダに対抗すると思ったんだよね」
 王太子は悪びれずに言った。

 エルンストはぽかんとした。
「……そのとおりではありますが……」

「ほら、私が手を下すまでもない」
 王太子はニコニコしている。

「ほんっとあなたって人は! それで結果として私は刺されたんですよ!」

「そうだね、それは私も少しびびったかな」

「なんですか、その他人ごとな回答は!」
 エルンストは王太子をなじった。

 そのとき、二人の脱線した会話を元に戻すように、横からルシルダが口を挟んだ。
「ダスティンが認めたの? 刺したって」

 エルンストと王太子はわれに返ってルシルダの方を見た。
 ルシルダの顔は土気色つちけいろで、もう早くも死刑宣告を受けたかのように体を震わせていた。

 しかし、エルンストは少しも同情する気にはなれなかった。
「ルシルダ。ええ、ダスティンは認めてます。全部あなたに命じられたと言っているそうです」

「で、でも、私がダスティンなんて男に命令した覚えはないって言ったら? 全部そのダスティンって男の嘘だって」
 ルシルダはせめてもの抵抗のように小声で言った。

 それに対して横からウォーレスが冷静に言った。
「嘘でもないんです。ストークリー伯爵家のブローデって人も証言してくれるって言ってますし」

「だ、誰よその人……」
 初耳だったのでルシルダが弱々しく首を横に振ると、ウォーレスは言った。
「ダスティンの友人ですね。イェレナ様とも親交があるそうですよ」

 ダスティン、イェレナ……。そっちの方からもう一つ証言が出てしまうのね……?
 もう完全に逃げ場はないと悟ったルシルダはすすり泣きを始めた。
 終わった、とルシルダは思った。

 そのときウォーレスがリーアンナの方を向いて言った。
「いや、まさかリーアンナとセレステがこんな場でルシルダを追い詰めてるとは知らなかったから、びくりしたよ。聖痕がニセモノだったって? もう、ルシルダがこんなに追い詰められてるんだったら、ダスティンにいろいろ交渉する必要なかったじゃん」
 そう言いながらも、ウォーレスは事件が解決したので笑顔だった。

「ダスティンとウィスレッジ神官は?」
とリーアンナは聞いた。

 ウォーレスは、ウィスレッジ神官の名前までリーアンナから飛び出したので驚いたが、なぜリーアンナが知っているのか一先ひとまずここでは問い詰めず、淡々と説明した。
「二人とも拘束しているよ。ダスティンは刺したと供述しているし、あの神官も下手へたにルシルダに接触されても困るんで拘束した。僕がダスティンに接触したことをウィスレッジ神官がルシルダに伝えちゃったら、ルシルダに変な対抗策を取られるかも思ったからね。でも、拘束しといて結果良かったな、聖女法にも違反してるなら、ウィスレッジ神官も犯罪者だ。手間てまはぶけたね」


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