28 / 30
【28.刺客を放った罪】
しおりを挟む
そのとき、会食会場に声が響き渡った。
「それだけではありませんよね」
「あ、エルンスト! それにウォーレス」
声の方を振り返ってリーアンナとセレステは驚いた。
「リーアンナ。それにセレステ。君らはまったく。いつの間にルシルダを追い詰めてんの。びっくりするよ、もう。ちゃんと言ってほしかったな」
ウォーレスがじとーっとした目でリーアンナとセレステを見る。
「言えない事情があるのよ。それより、あなたたちは何をしに来たの?」
とリーアンナが聞くと、ウォーレスは真面目な顔になって言った。
「エルンストを刺した犯人の件だよ」
「おや?」
王太子が目を上げる。
エルンストは小さく頷いて王太子の方へ一歩踏み出して言った。
「少し前に私は王宮の舞踏会でいきなり刺されたのですが、その犯人もルシルダと繋がっていました」
王太子はまた楽しそうな顔をした。
「刺されたってことは聞いてたよ。でも犯人は捕まってないと思ってた」
「ええ捕まってません。まだ」
とエルンストがちらりとルシルダの方を見る。ルシルダは縮こまった。
縮こまったルシルダを軽く一瞥してから、王太子はまたエルンストに視線を戻す。
「まだ?」
「ええ。ルシルダとの繋がりを暴いてからだと思ってたので」
「そう。じゃ、今この話をするってことは、ルシルダとその犯人の繋がりが分かったってことかな。よし、聞かせてもらおう。まず犯人は誰?」
王太子はワクワクした顔で聞いた。
「ギルヤード男爵家次男のダスティンって男でした」
とウォーレスは答えた。
「ギルヤード男爵家……?」
王太子は耳慣れない家名に首を傾げた。
「ああ、ご存じないかと思います。新興の男爵家ですので」
とエルンストが慌てて補足すると、王太子はそうかと頷いて聞いた。
「そうか。で、なんでそんな男が君を?」
「恥ずかしながら、ダスティンと言う男は、私の婚約者であるイェレナと付き合ってましてね。イェレナの方もだいぶ入れ込んでいる様子で」
エルンストは少し言いにくそうに言った。
「へえ! じゃあ三角関係?」
王太子は目を丸くした。
するとエルンストは慌てて否定した。
「あ、いえ、違います。まあそうやって、まるで三角関係を装った犯罪に見せかけてますけどね、本当はそこのルシルダがダスティンをけしかけてやったことです。私を脅すためにね」
王太子は、ああと納得した顔をした。
「ああ、まあ。エルンストのことはだいぶ嫌っていたからな、ルシルダは」
「嫌う? おかしくないですか? こっちが嫌うならまだしも! 治水工事の許可の件で巨額の賄賂を要求してきたのはルシルダの方ですよ!」
とエルンストが抗議すると、王太子はうんうんと頷いた。
「だから、それを断ったから、ルシルダは君を嫌ってるんじゃないか」
エルンストはじとっとした目を王太子に向ける。
「王太子様、ルシルダの賄賂のこと知ってたんですね」
「知ってたよ」
「なんで止めてくれなかったんです?」
「だって止めない方が面白そうだったからさ。君は泣き寝入りするタイプじゃないだろ? 絶対ルシルダに対抗すると思ったんだよね」
王太子は悪びれずに言った。
エルンストはぽかんとした。
「……そのとおりではありますが……」
「ほら、私が手を下すまでもない」
王太子はニコニコしている。
「ほんっとあなたって人は! それで結果として私は刺されたんですよ!」
「そうだね、それは私も少しびびったかな」
「なんですか、その他人ごとな回答は!」
エルンストは王太子を詰った。
そのとき、二人の脱線した会話を元に戻すように、横からルシルダが口を挟んだ。
「ダスティンが認めたの? 刺したって」
エルンストと王太子は我に返ってルシルダの方を見た。
ルシルダの顔は土気色で、もう早くも死刑宣告を受けたかのように体を震わせていた。
しかし、エルンストは少しも同情する気にはなれなかった。
「ルシルダ。ええ、ダスティンは認めてます。全部あなたに命じられたと言っているそうです」
「で、でも、私がダスティンなんて男に命令した覚えはないって言ったら? 全部そのダスティンって男の嘘だって」
ルシルダはせめてもの抵抗のように小声で言った。
それに対して横からウォーレスが冷静に言った。
「嘘でもないんです。ストークリー伯爵家のブローデって人も証言してくれるって言ってますし」
「だ、誰よその人……」
初耳だったのでルシルダが弱々しく首を横に振ると、ウォーレスは言った。
「ダスティンの友人ですね。イェレナ様とも親交があるそうですよ」
ダスティン、イェレナ……。そっちの方からもう一つ証言が出てしまうのね……?
もう完全に逃げ場はないと悟ったルシルダはすすり泣きを始めた。
終わった、とルシルダは思った。
そのときウォーレスがリーアンナの方を向いて言った。
「いや、まさかリーアンナとセレステがこんな場でルシルダを追い詰めてるとは知らなかったから、びくりしたよ。聖痕がニセモノだったって? もう、ルシルダがこんなに追い詰められてるんだったら、ダスティンにいろいろ交渉する必要なかったじゃん」
そう言いながらも、ウォーレスは事件が解決したので笑顔だった。
「ダスティンとウィスレッジ神官は?」
とリーアンナは聞いた。
ウォーレスは、ウィスレッジ神官の名前までリーアンナから飛び出したので驚いたが、なぜリーアンナが知っているのか一先ずここでは問い詰めず、淡々と説明した。
「二人とも拘束しているよ。ダスティンは刺したと供述しているし、あの神官も下手にルシルダに接触されても困るんで拘束した。僕がダスティンに接触したことをウィスレッジ神官がルシルダに伝えちゃったら、ルシルダに変な対抗策を取られるかも思ったからね。でも、拘束しといて結果良かったな、聖女法にも違反してるなら、ウィスレッジ神官も犯罪者だ。手間が省けたね」
「それだけではありませんよね」
「あ、エルンスト! それにウォーレス」
声の方を振り返ってリーアンナとセレステは驚いた。
「リーアンナ。それにセレステ。君らはまったく。いつの間にルシルダを追い詰めてんの。びっくりするよ、もう。ちゃんと言ってほしかったな」
ウォーレスがじとーっとした目でリーアンナとセレステを見る。
「言えない事情があるのよ。それより、あなたたちは何をしに来たの?」
とリーアンナが聞くと、ウォーレスは真面目な顔になって言った。
「エルンストを刺した犯人の件だよ」
「おや?」
王太子が目を上げる。
エルンストは小さく頷いて王太子の方へ一歩踏み出して言った。
「少し前に私は王宮の舞踏会でいきなり刺されたのですが、その犯人もルシルダと繋がっていました」
王太子はまた楽しそうな顔をした。
「刺されたってことは聞いてたよ。でも犯人は捕まってないと思ってた」
「ええ捕まってません。まだ」
とエルンストがちらりとルシルダの方を見る。ルシルダは縮こまった。
縮こまったルシルダを軽く一瞥してから、王太子はまたエルンストに視線を戻す。
「まだ?」
「ええ。ルシルダとの繋がりを暴いてからだと思ってたので」
「そう。じゃ、今この話をするってことは、ルシルダとその犯人の繋がりが分かったってことかな。よし、聞かせてもらおう。まず犯人は誰?」
王太子はワクワクした顔で聞いた。
「ギルヤード男爵家次男のダスティンって男でした」
とウォーレスは答えた。
「ギルヤード男爵家……?」
王太子は耳慣れない家名に首を傾げた。
「ああ、ご存じないかと思います。新興の男爵家ですので」
とエルンストが慌てて補足すると、王太子はそうかと頷いて聞いた。
「そうか。で、なんでそんな男が君を?」
「恥ずかしながら、ダスティンと言う男は、私の婚約者であるイェレナと付き合ってましてね。イェレナの方もだいぶ入れ込んでいる様子で」
エルンストは少し言いにくそうに言った。
「へえ! じゃあ三角関係?」
王太子は目を丸くした。
するとエルンストは慌てて否定した。
「あ、いえ、違います。まあそうやって、まるで三角関係を装った犯罪に見せかけてますけどね、本当はそこのルシルダがダスティンをけしかけてやったことです。私を脅すためにね」
王太子は、ああと納得した顔をした。
「ああ、まあ。エルンストのことはだいぶ嫌っていたからな、ルシルダは」
「嫌う? おかしくないですか? こっちが嫌うならまだしも! 治水工事の許可の件で巨額の賄賂を要求してきたのはルシルダの方ですよ!」
とエルンストが抗議すると、王太子はうんうんと頷いた。
「だから、それを断ったから、ルシルダは君を嫌ってるんじゃないか」
エルンストはじとっとした目を王太子に向ける。
「王太子様、ルシルダの賄賂のこと知ってたんですね」
「知ってたよ」
「なんで止めてくれなかったんです?」
「だって止めない方が面白そうだったからさ。君は泣き寝入りするタイプじゃないだろ? 絶対ルシルダに対抗すると思ったんだよね」
王太子は悪びれずに言った。
エルンストはぽかんとした。
「……そのとおりではありますが……」
「ほら、私が手を下すまでもない」
王太子はニコニコしている。
「ほんっとあなたって人は! それで結果として私は刺されたんですよ!」
「そうだね、それは私も少しびびったかな」
「なんですか、その他人ごとな回答は!」
エルンストは王太子を詰った。
そのとき、二人の脱線した会話を元に戻すように、横からルシルダが口を挟んだ。
「ダスティンが認めたの? 刺したって」
エルンストと王太子は我に返ってルシルダの方を見た。
ルシルダの顔は土気色で、もう早くも死刑宣告を受けたかのように体を震わせていた。
しかし、エルンストは少しも同情する気にはなれなかった。
「ルシルダ。ええ、ダスティンは認めてます。全部あなたに命じられたと言っているそうです」
「で、でも、私がダスティンなんて男に命令した覚えはないって言ったら? 全部そのダスティンって男の嘘だって」
ルシルダはせめてもの抵抗のように小声で言った。
それに対して横からウォーレスが冷静に言った。
「嘘でもないんです。ストークリー伯爵家のブローデって人も証言してくれるって言ってますし」
「だ、誰よその人……」
初耳だったのでルシルダが弱々しく首を横に振ると、ウォーレスは言った。
「ダスティンの友人ですね。イェレナ様とも親交があるそうですよ」
ダスティン、イェレナ……。そっちの方からもう一つ証言が出てしまうのね……?
もう完全に逃げ場はないと悟ったルシルダはすすり泣きを始めた。
終わった、とルシルダは思った。
そのときウォーレスがリーアンナの方を向いて言った。
「いや、まさかリーアンナとセレステがこんな場でルシルダを追い詰めてるとは知らなかったから、びくりしたよ。聖痕がニセモノだったって? もう、ルシルダがこんなに追い詰められてるんだったら、ダスティンにいろいろ交渉する必要なかったじゃん」
そう言いながらも、ウォーレスは事件が解決したので笑顔だった。
「ダスティンとウィスレッジ神官は?」
とリーアンナは聞いた。
ウォーレスは、ウィスレッジ神官の名前までリーアンナから飛び出したので驚いたが、なぜリーアンナが知っているのか一先ずここでは問い詰めず、淡々と説明した。
「二人とも拘束しているよ。ダスティンは刺したと供述しているし、あの神官も下手にルシルダに接触されても困るんで拘束した。僕がダスティンに接触したことをウィスレッジ神官がルシルダに伝えちゃったら、ルシルダに変な対抗策を取られるかも思ったからね。でも、拘束しといて結果良かったな、聖女法にも違反してるなら、ウィスレッジ神官も犯罪者だ。手間が省けたね」
20
あなたにおすすめの小説
義務ですもの。
あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。
かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。
謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇!
※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
悪役令嬢発溺愛幼女着
みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」
わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。
響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。
わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。
冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。
どうして。
誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。
『やりたくないからやらないだけ 〜自分のために働かない選択をした元貴族令嬢の静かな失踪〜』
鷹 綾
恋愛
「やりたくないから、やらないだけですわ」
婚約破棄をきっかけに、
貴族としての役割も、評価も、期待も、すべてが“面倒”になった令嬢ファーファ・ノクティス。
彼女が選んだのは、復讐でも、成り上がりでもなく――
働かないという選択。
爵位と領地、屋敷を手放し、
領民の未来だけは守る形で名領主と契約を結んだのち、
彼女はひっそりと姿を消す。
山の奥で始まるのは、
誰にも評価されず、誰にも感謝せず、
それでも不自由のない、静かな日々。
陰謀も、追手も、劇的な再会もない。
あるのは、契約に基づいて淡々と届く物資と、
「何者にもならなくていい」という確かな安心だけ。
働かない。
争わない。
名を残さない。
それでも――
自分の人生を、自分のために選び切る。
これは、
頑張らないことを肯定する物語。
静かに失踪した元貴族令嬢が、
誰にも縛られず生きるまでを描いた、
“何もしない”ことを貫いた、静かな完結譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる