Happy birthday to...

膕館啻

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☆12

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自分が全てを理解するまでにどのくらいかかっただろう。分かった時には、もう全て終わっていた。
後悔からか、一日中泣いた日もあった。やりきれない思いに自分を傷つけたこともあった。そんな時に君の声が聞こえて自分を止める。優しく何かを囁いてくれている。でもなんて言ってくれているかまでは分からない。それにまた悲しくなって、窓から空を見上げる。
君は人は死んだら星にはならないと言っていたけど、あの輝きは誰かが生きたかった強い想いを秘めていたとしても不思議ではないよ。
「ごめんなさい……」
誰に言えばいいのか分からない思いを吐き出す。自分がもう少し物を知っていれば、君を失うことはなかったのだろうか。
小さく音を立てて扉が開かれた。大きな手は君がそうしてくれたように、頬を滑り髪を撫でてくれる。その暖かさに安心して、やっと眠ることができた。
もし君がいたら私と同じぐらいの背になっていたのかな。君の方が背が高かったから、もっと大きくなっていたかもしれない。

私の世界の崩壊はあっという間だった。パパと君以外の人を初めて見たのにそれを観察する暇もなくて、気がついたら汽車に乗っていた。真夜中だったから人もあんまりいなくて、最後に見た男性の、泣くのを我慢しているような笑顔が忘れられなかった。あれだけうるさかった嵐も止んで、静かになったときには眠りの中だった。ぐらぐら揺れて起こされた場所は、沢山人がいるところだった。君を探してみたけれど、君はどこにもいなくて。
パパからもらっていたようなパンがあったからそれを取ると、エプロンをつけた人は凄く怖い顔をしていた。これはいけないことらしく、怒られるとしゃがみこんで体を縮めると、次に触れたのは暖かい手だった。顔を上げると、さっきはいなかった優しい顔をした女の人が、ニコニコと笑いながらパンをくれた。
それから家のことや、どこから来たのかなど聞かれたけど、何も説明できなかった。それなのに自分をこの家に置いてくれた。初めは戸惑うことばかりで、あの場所の片鱗も無いこの場所にずっと君を探していた。
でも君を見たのは画面の中だった。あの教会に現れた棺の中には君がいた。おばさんは可哀想と言っていた。
君を見たのは殺人犯が発見されたというニュースだった。殺害に使われたのと同じ薬が見つかったそうだ。でもその人は飛び降り自殺をしていて、すでにこの世にはいない。
そのときには分からなかったけれど、今になっては全て理解した。自分が父の道具になり大人たちに売られていたこと。男ではなく女のように育てられ、些細な日焼けも許されなかったこと。母はどこにいるのか、などの家庭の事情までは分からないけど、恐らく私は戸籍も登録されていない子供だったのだろう。あの教会を含めた森は出入り禁止になったらしい。そして少年……君の家族は引っ越してしまった。君の住んでいた家は残っているらしいから、行かなくちゃいけない。でもそこまでの道に辿り着けるかは分からなかった。
この事件はmadhatterという殺人鬼が起こしたものだと当初は報道されていた。あの頃のことを一つ一つ思い出すのはとても難しいのだけど、全ての真実を知っているのは自分しかいない。嵐の夜に私と一緒にいた人たちが、私の為に起こしてしまった罪なのだ。
これは全て私の罪……きっと神は許さないだろう。
そんな罪を誤魔化しながら、こんな年になってしまった。あれからいくつの月が過ぎたのだろう。いつも心が休まることはなかった。特に君が決めてくれた、与えてくれた誕生日が来るときは、いつも以上に君のことを考えた。自分を愛してくれた最初で最後の最愛の人。君を超える人は、この先の人生には現れないだろう。
私も君のことが好きだった。あんなにワガママを言ったのにしょうがないなって笑ってくれて……これは危ないからいけないことだって一つ一つ優しく教えてくれた。君の思い出は暖かいことばかりだ。それなのに、暖かすぎて胸が痛い。笑っているはずなのに目からは涙が溢れる。君に会いたいと何度願っても、それは自分が失くしてしまったんだとそう分かると、余計自分を殺してしまいたくなる。
でもそんなこと君だったら許してくれないだろう。いつも自分より小さくなった手が、一生懸命傷つけようとする私を止めてくれる。
君にごめんなさいを言うにはどうすればいい? ありがとうを言うにはどうすればいい? 愛を伝えるにはどうしたらいいのか教えて――。

花を持って、小さな十字架が埋め込まれた庭を眺めた。何度も書き直した長い手紙をその側に埋める。手入れがされていないのか雑草は多かったけれど、それは君の髪みたいにふわふわしていた。
柔らかい風が吹いて、懐かしい潮の混じった匂いがする。鳥の声が遠くに響いた。いつも聞いていた音だ。
「僕を愛してくれてありがとう」
誰も言っていなかったけれど、君の生まれ変わりは現象になって現れてくれたんじゃないかと思う。こんなに。優しい家の人に拾われて、そこまで贅沢はできなかったけれど、飢えや寒さに凍えることなく生きてこられた。とても暖かくてちょっと厳しくて、でもやっぱり優しいそんな日々だった。
「君のこれからを奪ってしまってごめんなさい」
本当は僕だって君と過ごしたかった。そうしたらずっと離れることのない絆で結ばれていただろう。でもあのときは、怖いことや悲しいことが大嫌いだったんだ。それを君から無くすことができたら恩返しになるかなって……小さくて何もできない自分が、君の為に何かできると思ったら嬉しかったんだ。
たったそれだけのことがこんな大きな事件になってしまった。関係ない人たちのこれからも奪ってしまった。この人たちにも君と同じように、ごめんなさいを言わなければいけない。
「誕生日おめでとう」
誕生日が分からないなら僕と同じにすればいいって、君がくれたプレゼントだった。二人でお互いのプレゼントを考えて……。とても楽しかった。何より君が喜んでくれたのが、嬉しかった。
「さよなら……」
置き手紙を残してあの街を出た。また世間を騒がせてしまうことになるのだろうか。でも自分はその前に去る。自分の罪は自分で折り合いをつけたかった。一番許せないのは僕自身だ。
魂や転生が本当にあるのかは分からない。ただ君が運んでくれたような日々になったから、少し信じてみてもいいかもしれない。
ねぇ、君は今どこかにいるの? 誰かから愛をもらっているの。
君の笑顔を思い出して目を閉じた。

「生まれてきてくれてありがとう」


私の意識はあの場所へと還る――。
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