拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

羽村 美海

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#51 初めてのご対面

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 大広間に向かう道中、先頭を行くご当主は、至極面倒くさそうな声で、文句を言っているようだった。

 その内容からして、やっぱりお姉さん夫婦とは折り合いが悪いらしい。

「別にわざわざ立ち会わなくても良かったのに。姉さんも義兄さんも暇だなぁ」
「まぁ、そんなこと仰ったら、貴子お義姉様に悪いわぁ。次期当主になる創さんのことを気にかけてくださってるのに」

 それは事前に聞かされてたことだったから別段驚きもしなかったけれど。

「……そうだといいんだけどねぇ」
「創一郎さん? 何か仰いました?」
「……いいや、何も」

 ご当主の悪態を指摘して咎めようとする菖蒲さんに、何やら含みを持たせるような言い回しをするのが、妙に引っかかった。

 耳に届いていなかったのか、聞き返した菖蒲さんの言葉にも、飄々と交わす様は、まるで全てを知っていて、わざとはぐらかしているように、私にはそう見えてしまったからだ。

 ……といっても、ご当主とはついさっきお会いしたばかりで、何も知らないから、断言なんてできないのだけれど。

 いよいよ父親との対面かと思うと、気が重くて、他のことに目を向けようと、私はさっきからご当主や菖蒲さんの会話に耳をそばだてていたのだった。

 すると、急に菖蒲さんとの会話を中断したご当主がこちらに振り返ってきて。

「まぁ、そういうことだから。もしかしたら、菜々子ちゃんにも少々嫌な思いさせてしまうかもしれないけど、ごめんね? 元々悪い人たちじゃあないんだけどねぇ」

  話を振られるという事態に見舞われ、またしてもあわあわとしてしまっていた。

「……ヘッ!?   あっ、あぁ、いえ」
「親父。ちゃん付けキモいからやめろ」
「ちゃん付けくらい、普通じゃないか。もうすぐ娘になるんだから。誰に似たんだろうなぁ? こんなに嫉妬深い男になっちゃって」

 それをさっき同様に、創さんにフォローされて助かったものの、また不安がムクムクと湧き上がってきて。

――こんな調子で、大丈夫なのかなぁ。

 またまたそんなことを思い始めていた私の耳元で、創さんが呟きを落とした。

「大丈夫だ。あー見えて、親父は結構な腹黒狸だから。向こうの思惑なんて、とっくに気づいてるはずだ。おそらく、菜々子との関係も知ってて、既に牽制もしてるはず。だから安心しろ」

  おそらくこれも、私の緊張を解すためなのだろう。

 その言葉に、自分の役目を思い出し、さっき気づいてしまった自分の気持ちが、決して報われることはないんだって、改めて念押しされた気がした。

 お陰で、余計にシュンと気落ちしてしまった私の様子に、困惑顔の創さんから名前を呼ばれたけれど。

「菜々子?」
「……だ、大丈夫ですッ! ほら、行きますよ!」
「あっ、あぁ」

 これ以上何かを言われたら泣いてしまいそうだった私は、創さんの腕を引っ張って、大広間へと足を踏み入れた。

 するとそこは、どこかのホテルのラウンジの一角ですか? と、見紛うほどの広々とした空間が広がっていて。

 天井から下がる豪奢なシャンデリアがキラキラと煌めいている様がなんとも圧巻だ。

 テレビでしか見たことのない、長くて高級そうな特大サイズのテーブル席に腰を落ち着けている、ご当主と同年代の紳士淑女という言葉がピッタリな男女の姿があった。

 そうして私の姿を確認するや否や、スックと立ち上がった父親と思しき男性が洗練された動きで歩み寄ってきて、さっそく挨拶が始まり。

「はじめまして。創くんの伯父の桜小路道隆です。それから、伯母である妻の貴子です」
「どうも、はじめまして。貴子です」
「……は、はじめまして。……ふ、藤倉菜々子と申します。よろしくお願いいたします」

 握手を求められるままにふたりと握手を交わして、なんとか挨拶を終えることもできたけれど、内心ではドキドキしっぱなしだった。

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