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#69 王子様の切なくも甘いキス ⑵
しおりを挟む今日、これまでずっと人質として利用されているだけかと思っていた創さんの気持ちが本物だと分かった。
そして、創さんが私のことをどんなに大事に想ってくれているのかも。
それから、今日初めて自覚した自分の創さんへの気持ちの再確認もできた。
初めて好きになった創さんと両想いになれて、本物の婚約者となったのだ。
あとは創さんのモノにしてもらうだけ。
とはいっても、これまで色恋にまったく縁のなかった私には、何もかもが未知との遭遇でしかない。
創さんによってこうしてベッドで組み敷かれているものの、一体どうすればいいかが分からない。
そんな私は、さっきからドックンドックンとやかましいほど高鳴っている胸の鼓動を耳の傍で感じながら、瞼をギュッと閉ざしたまま縮こまっていることしかできずにいた。
そこに、ふっと柔らかな笑みを零した創さんの声が耳に流れ込んできて。
「どうした? やっぱり嫌になったのか? ならもう今夜はやめ――」
またどうせからかわれて笑われてしまうのかと思いきや、私が嫌がると決めつけたような物言いと、私の返事次第では、やめるという、さっきの上から口調を放った人と同一人物のものとは思えない創さんらしからぬセリフになにやら違和感のようなものを感じた。
けれど、そんなモノにいちいち構うような余裕なんて微塵もなかった私には、創さんが処女である私のことを気遣ってくれている、そうとしか思えなかったのだ。
そんな創さんの優しい心遣いがまた嬉しくもあった。
なにより、早く大好きな創さんのモノにしてほしい――。
創さんへの想いが溢れて止まらなくなってしまっている私の心の中には、羞恥と、未知との遭遇に対するほんのちょっとの戸惑いと、処女のクセにそんな想いで埋め尽くされてしまっていたのだ。
だから恥ずかしいながらも、嫌ではないということをしっかりと伝えたくて声を放ったものの。
「いや、その、嫌とかじゃなくて、こういうとき、どうしたら……いいかが……分から……なくて……」
羞恥には打ち勝てず、だんだん語尾がフェードアウトしていくのだった。
けれどもどうやらその言葉は創さんには伝わってくれたようだ。
創さんは、なにやら苦しそうな表情で私のことを見下ろしてきて。
「……今夜はもうやめにしてやろうと思ったのに……。そんな風に煽られたら、もう、どうなっても知らないぞ?」
思った通りの言葉と、少々理解不能なことも言ってきたけれど、どうやら続行してくれるらしい。
それに、心根の優しい創さんは、どんなに意地悪なことを言ってきても、本当に私が嫌がるようなことをしないことも知っている。
だから少しも怖くなんてなかった。
――やっと創さんのモノにしてもらえるんだ。
処女のクセに、ホッとしてそんなことを思ってしまってた私は、創さんのことを真っ直ぐ見つめ返しつつ、今度はしっかりとした口調で答えてみせた。
「はい。早く創さんのものにしてください」
すると創さんの表情が途端に驚きの色に染まったけれど、すぐに何かを勘案でもするような素振りをしてから、すっとお得意の無表情を決め込むと。
「……分かった。菜々子の望み通りにしてやる。菜々子は何もする必要なんてない。俺のことだけ感じてろ」
創さんらしい上から口調でそう宣言するやいなや、私の無防備な唇に、口調とは裏腹のなんとも優しくて甘いキスを降らせてくれたのだった。
創さんが降らせてくれるなんとも優しくて甘いキスが、やがて唇からそれて色んな場所を辿り始めた。
最初は、流した涙の痕がまだ残っているだろう頬をそうっと優しく拭うように。
次は目尻から耳元にかけてゆっくりと肌の上を滑るようにして辿ってゆく。
あたかも私の肌の感触をじっくりと味わってでもいるかのように。
もしくは『触れたところは全部俺のモノだ』そう言い聞かされてでもいるかのように。
けれど触れ方がとっても優しいせいか、これから少々いかがわしい不埒なことをされようとしているのに、なにか神聖な儀式でもしているのかという錯覚でも起こしてしまいそうなほど、とても心地よくて、安心できる。
心地よすぎてポーッとしている間にも、創さんの唇に触れられたところからほんのりと熱を帯びてゆく。
帯びた熱が徐々に熱せられ、全身が熱く火照って、とろとろに蕩けてしまいそうだ。
そんな夢心地のなか、創さんの唇が、いつしか閉ざしていた瞼の上にそうっと優しく触れてきて。
「……菜々子」
少しだけ掠れたなんとも色っぽい声音で名前を呼ばれ、その声に操られるように瞼を押し上げた先には、なにやら苦しげな表情を湛えた創さんのイケメンフェイスが待っていた。
何故だろう。創さんの瞳がやけに悲しげに見えてしまい、胸がぎゅっと締め付けられる心地がする。
どうしてそんな風に感じてしまったのかもよく分からないまま、間を置かずに。
「今菜々子に触れてるのはこの俺だ。これから先も、ずっとずっと先の未来でも、菜々子に触れていいのはこの俺だけだ。いいな?」
ついっきまで悲しげに見えていた瞳を不安げにゆらゆらと揺らめかしながら、聞き慣れた高圧的な命令口調でそう言い渡されてしまい。
――そんなにも私のことを想ってくれてるんだ。
さっき感じてしまったそれら全部が、創さんの私を想う気持ちの表れなんだと思うと、たちまち胸はキュンとしてしまうのだった。
「はい」
相変わらず不安げに私の反応を窺っている創さんに向けて、即答した私は、その嬉しさを抑え切れずに、創さんの背中にギュッと抱きついてしまっていて。
「……本当にいいんだな?」
それなのに、創さんからは、今更としか思えないような言葉が返ってきてしまい。
――もしかして、私が処女だから案じてくれてるのかな?
あんまり考えたくはないけど、創さんはこれまできっと何人もの女性とこういうことをしてきているのだろうけれど。
もしかして、処女を相手にするのが初めてとか?
――だったら嬉しいな。
たとえ創さんにとっての初めての相手が私じゃなくても、処女である私とのことが創さんのナカに色濃く残ってくれるんじゃないかって――淡い期待を抱いてしまう。
そう思うだけで、幸せな心持ちになれる。本当に恋って不思議だな。
胸がジーンとして気を抜いたら泣いてしまいそうだ。
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