【完結】執着系幼馴染みが、大好きな彼を手に入れるために叶えたい6つの願い事。

髙槻 壬黎

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ヴェラリール学園①

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 荷解きを終えて落ち着いた頃、僕はミカイルに学園の案内を頼んだ。登校日までに、おおよその場所の把握をしておきたかったからだ。
 しかしその言葉を聞いたミカイルは、酷く嫌そうに眉をしかめていた。

「悪いけど、僕はしたくない」
「したくないって……、じゃあ一人で行けってことか?」
「それも駄目。……別に、今日じゃなくてもいいでしょ?どうせ授業が始まれば自然と覚えるんだから」
「それはそうだけど……。せっかくなら見てみたいと思うだろ」

 何がそんなに嫌なんだ。
 ミカイルを見れば、彼は何か考え込むように少し俯いている。
 これは今までの経験からして無理そうな感じがする。一人で行こうとしてもきっと止められるだろう。

 しょうがない。諦めるか────
 ため息をついてそう吐き出そうとしたその瞬間、近くから空腹を知らせる音が鳴り響き、僕は咄嗟に自分の腹を押さえた。

「………………ずっと荷物の整理をしていたから、お腹が空いたみたいだ」
「ふふっ、あはははっ!そうだよね、僕達ここについてから、何も食べてないからね……っふふ……、」

 ミカイルは暗い顔を一転させ、口に手を当てながら笑いを抑えようと必死になっている。それでも堪えきれていない笑い声が、更なる僕の腹の音をかき消した。
 僕はいてもたってもいられなくなって、無意味に立ち上がり部屋をうろついてしまう。特段恥ずかしがることでもなかったが、タイミングが悪かったのだ。

「じゃあ食堂に行こうか。ユハをそんな空腹のままいさせるのは可哀想だしね」
「え、いいのか?」

 さっきは断ったのに、食堂は行かせてくれるのかと驚けば、彼は仕方なさそうに微笑んで頷いていた。


 食堂の食事は、普段我が家では出てこないような豪華さで、僕は舌鼓を打ちながら食べた。
 何度美味しいと言ったか分からない。ミカイルはそんな僕を見て可笑しそうにクスクスと笑っていたが、これからこんなに美味しい料理が食べられると思うと、そんなことは気にもならなかった。

 けれども、それ以降僕達が夕食で食堂へ行くことはなかった。ミカイルが、僕の作ったご飯を食べたいと言い張ったからだ。
 もちろん僕は断った。だって食堂へ行けば美味しいご飯が食べられるんだ。わざわざ手作りする必要性が微塵も感じられなかった。
 だが幸か不幸か、この部屋にはキッチンと冷蔵庫が完備してある。環境だけは整っていた。

「食材はユハが必要なものを言ってくれたら、僕が用意するから」
「いや、そういう問題じゃなくてさ。わざわざ僕が作る必要はないだろ。プロの方が絶対に美味しいに決まってるんだから」
「僕はプロのご飯じゃなくて、ユハが作ったものが良いんだよ」
「はぁ……?訳が分からない。何で僕の料理がそんなに食べたいんだ?」

 ミカイルはそっと伺うように、しかし瞳だけは強く僕を見つめた。

「……………親友の頼み、聞いてくれないの」
「…………はっ?」

 開いた口が塞がらないとはまさにこのことだろう。
 まさかここへ来る前に決めた、親友と言う立場を出してくるとは全く想像していなかった。

「僕達、親友でしょ」
「なっ!お、お前、そのために親友になりたかったのか!?」
「このため、っていうか、僕はただユハの特別になりたかっただけ。だって、特別だったら僕の言うことも聞いてくれるよね?」
「………………」

 暴論だ。とんだ暴論過ぎて、もはや何も言葉に出来ない。
 正直、あの時親友と口に出したのは、あの場を切り抜けるのに丁度良い言葉だったからというだけで、それがそんなに重大な意味を持つとは思いもしなかった。
 しかし、本当のことを言ったところで、また友達を作る作らないの話を持ち出されても困る。僕に断るという選択肢はもはや残されていないに等しかった。

「…………はぁ、分かった。僕が作ればいいんだろ。その代わり、美味しくなくても文句言うなよ」
「うん……!ありがとう、ユハ。楽しみだな……」

 なけなしのレパートリーを頭に浮かべる。家でもトールの手伝いを時々するくらいで料理に自信があるわけでもないのに、こうやって僕が引いてしまうのは本当に不本意だ。
 目の前で嬉しそうに瞳を輝かせるミカイルが少しだけ憎らしい。だけど今さら断れるわけもなく、僕は肩を落として諦めるしかなかった。



 そんなこんなで料理をしつつ、教科書片手に予習と復習を欠かさない毎日を過ごしていると、あっという間に初登校の日はやってきた。

「ユハ、朝だよ。起きて」

 体を揺さぶられる。寝返りを打とうとして、近くで誰かの息を飲む声が聞こえた。

「……っ!…………ユ、ユハ!遅刻してもいいの!?」
「────はっ!?!?」

 瞬間、一気に目が覚めて跳ね起きた。とんでもない言葉が聞こえて、慌てて眼鏡をつけながらその声のした方を見る。
 傍には、薄く頬を染めたミカイルが視線をさ迷わせ立っていた。

「ふ、服がはだけてるから、ちゃんと着て……!」
「え?……いや、そんなことより、遅刻って言ったか!?」

 服なんてどうでもいい。今一番大事なのは、遅刻か遅刻じゃないか、ただそれだけだった。
 ミカイルは僕から視線を反らすと、「まだ遅刻じゃないから早く着替えて!」と何故か怒ったように言い放って洗面所へと消えていく。遅刻じゃないならそんなに怒らなくてもいいじゃないか、という僕の言葉は残念ながら届かなかった。

 それにしても、この寮に来てから初めてミカイルに起こされた気がする。昨夜は珍しく寝つけなかったから、寝坊した原因はそれだろう。
 基本的に僕が先に起きて食事の支度をするので、もしかすると朝御飯がまだ出来ていないから彼はこんなに顔を赤くして怒っているのか……?とまだ覚醒しきれていない脳内で考える。いやでも、流石にミカイルもそんなことでは怒らないか。彼の名誉のためにもその考えは一瞬で打ち消しておいた。

 洗面所の戸が開いて、ミカイルが戻ってくる。彼は既に着替え終わっており、ベルトを締めている僕を見ると眉をひそめた。

「ユハ、そんなにゆっくりしてると本当に遅刻するよ。今日は少し早く出て、職員室に行くんじゃなかった?」
「あ……確かに。ごめん、すぐ準備する」

 流暢に考え事などしている場合ではなかった。編入初日から遅刻をするわけにはいかない。先程の様子が変なミカイルではなく、いつも通りの姿に安堵しながら僕は急いで朝の支度をした。

 
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