【完結】執着系幼馴染みが、大好きな彼を手に入れるために叶えたい6つの願い事。

髙槻 壬黎

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準備期間

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 それから僕達は、来る祝祭に向けて準備を始めた。

 僕に与えられた任務は、アルト先輩への取り次ぎ。
 そもそもパーティーの要である魔法がどうにかできなければ計画自体お釈迦になってしまうので、一番重要といってもいい仕事だった。
 ただ問題は、どうやって先輩と会うかだ。先日派手に登場したせいかタルテ先生にはかなり怒られただろうから、しばらくは僕の元へ来てくれない可能性があった。
 現に、あれから数日経っても先輩の姿は見かけていない。ともすれば僕から会いに行くしかないか────そう考えていたところで、その日は唐突に訪れたのだった。


*** 

 
 帰り支度をしている最中。
 今日もまた皆で話し合いをするため、急ぎ教科書を鞄に詰め込んでいれば、僕の名前が大きく教室内に響き渡った。

「ユハーー!!!」
「っ! アルト先輩……!」

 そのままズカズカと先輩は僕の机まで歩いてくる。周囲からの痛いほどの視線は、いまだ慣れそうにもない。

「今日はどうしたんですか?」
「会いたくなったから会いにきた。今日はもう帰るだけだろ? オレと一緒に来てよ」
「それならちょうど良かったです。僕も話したいことがあったので。少し時間をもらってもいいですか?」
「話?……ふ~ん、分かった。じゃあいつものとこ行こ」
「はい。……あ、その前に、ちょっと待ってください」

 そう言って、僕は隣にいるポカンと口を開けたハインツに告げる。

「悪い。そういうわけだから、僕はあの話を先輩にしてくる。今日は僕抜きで進めててくれ」
「────はっ! わ、分かった! 伝えとくよ!」

 放心していたハインツは我に返ったかと思うと、首がもげそうな程こくこくと頷いた。いまだかつてない速さに、先輩が面白そうな顔をしてハインツを見ている。

「ユハの友達?」
「はい。ここにきて初めてできた大切な友達です。名前は────」
「お友達クン、ユハをよろしくね」
「へっ!?……は、はい! もちろんです!!」

 興奮からか首を動かしすぎているからか分からないが、ハインツは顔を真っ赤にして返事をする。
 先程よりも頷きが高速になったせいで、今にも倒れてしまいそうだ。とにかく落ち着くよう、僕は彼の背中をさすった。

「あ、ありがとうユハンくん……」

 眼鏡の奥から潤んだ瞳を向けたハインツに別れを告げ、僕はアルト先輩と共に教室を出る。
 そういえば、去り際見渡したミカイルの席に彼の姿はなかった。僕が帰る準備をしている時にはいた気がするのに、先に集まりのある教室へ行ってしまったんだろうか。
 でもアルト先輩と対面して、また喧嘩になるよりはましだ。二人の関係性は未だに謎だが、会うたびに険悪な雰囲気になるので僕は必要以上に深入りはしていない。ミカイル自身も話題に上げることは一度もなかったので、その真相は闇に葬られたままだった。


***


 連れてこられたのは、久方ぶりのタルテ先生の部屋。
 しばらく来ていなかったせいで、酷く懐かしい感じがする。散らばった本や書類に変わりはなく、いつも執務机に座っているタルテ先生の姿だけが見当たらなかった。

「今日は先生いないんですか?」
「オジサンは職員会議。てかいたらここに連れてこねえし」
「ということはまた無断で来たんですね」
「うるせえ。我慢はオレに似合わねえの。……そんで、話ってなに? オジサンが帰ってきたらまたグチグチ言われっから手短にね」

 言いながらアルト先輩は魔法でソファを用意する。二人用のもので、先輩は先に座ると隣をポンポンと叩いた。

「あ、ありがとうございます」

 沈みこんでしまいそうな程ふかふかなソファだ。手触りも最高だし、僕の部屋にも是非置いてほしい。
 しかし、そんな感動もつかの間。足を組んだ先輩は僕の腰に手を回すと、思い切り体を引き寄せる。 

「ちょ、ちょっと先輩。この体勢で話さないといけないんですか……?」
「うん。ほら早く話して」
「ええ……」
「何そのカオ。嫌なの?」

 しかめっ面をした僕に、先輩が悲しそうな表情を浮かべる。そんな顔をされると僕が悪いみたいだ。文句の一つも言えない。
 仕方なく腰に回った腕はそのままにして、僕は話を始めることにした。

「実は僕、今度開かれる祝祭の実行委員になったんです」
「え、あのクソ面倒なヤツ? もしかして誰かに押し付けられた?」
「面倒……と言われればそうかもしれませんけど、自分がなりたくてなったので、そこは気にしないでください。それで、最後に行われるパーティーの企画を僕は担当することになったんですけど────」

 アルト先輩の協力を得たいということを、僕はかいつまみながら説明した。終始興味がなさそうなのが不安だったが、話をし終えると彼はあっさりと二つ返事で首を縦に振った。

「うん、いいよ。魔法薬を用意してあげる。作るのに一週間くらい時間は欲しいけど、大丈夫だよな?」
「それは全く問題ないです。え、というかそんな簡単に作ってくれるんですか?」
「普通はしねえけどユハの頼みだから。あ、でもそしたらオレのワガママ一個聞いて。それが対価でいいだろ?」
「そんなことで良いなら……」
「じゃあ……オレとどっか遊びに行く、これでどうだ」
「えっ、むしろこっちからお願いしたいくらいですよ! 本当にそんなのでいいんですか?」
「アハッ、もしかしてもっとすごいことしてくれんの? それなら俺、ユハにしてみたいことたくさんあるんだケド」

 意地悪そうに笑ったアルト先輩を見て、何故か寒気を覚える。どうやらここらで素直に引いておくのが良さそうだった。

「わ、分かりました。僕と一緒にどこかへ出掛けましょう」
「なんだ、もう諦めんのかよ~」

 だったら最初から言ってみりゃよかったー、と先輩がぼやく。
 ああ心臓に悪い。前にもこんなことがあったような気がするが、先輩は一体僕に何を求めているのだろう。彼に本気でお願いされれば、僕は断れないかもしれない。

「話ってそれだけ?」
「あ、話したかったのはこれだけです。でももう一つ、先輩に聞いてみたいことがあって……」

 口にしたのは、先日話題に出た聖女様について。もしかすると彼女は僕と同じ体質だったのではないか────そう推測したのを先輩にも聞いてほしかった。

「うーん……期待してるとこ悪いんだケド、見当違いも甚だしいな」

 一言。アルト先輩は言いにくそうに、そう告げた。微妙そうな表情も相まって、僕の淡い幻想をこなごなに打ち砕く。

「そ、そこまではっきり言います……?」
「あー、そもそもさ、ユハに効かねえのは精神魔法とか直接身体にかけるものだけで、物理魔法は普通に他のヤツらと変わらず効くんだよ。……例えばこんな風に────」

 言いながら、アルト先輩は人差し指だけ立てた手を僕の前に持ってくる。
 そしてふいに、その指の先に現れたのは真っ赤に燃える炎。見かけ通しじゃなく、ちゃんと温度も感じられるそれは、近すぎて熱いくらいだ。

「これを今ユハに向けたらどうなると思う?」
「えっ!? それはもちろん火傷しますよ……!」
「だろ? 当たり前だけど、当時のオウサマだってこのくらいは朝メシ前だったはずだ。ってことはつまり……」
「あ……なるほど。それじゃあ僕の考えた仮説は全く話にならないですね。こんな攻撃をされたらひと溜まりもない……」
「そうそう。だからセイジョにはもっと別の────」

 言いかけて、止まる。

「別の……?」
 
 僕は続きを促すよう問いかけたが、先輩はわざと顔を逸らし、険しい表情を浮かべていた。

「やべー……口滑った……」
「先輩はもしかして何かご存じなんですか?」
「…………おっと! なんかもうすぐオジサンが帰ってきそうだ! ほらユハは帰った帰った!」

 残念ながら続きが語られることはなかった。
 アルト先輩は焦ったようにソファから立つと、僕の腕を引っ張って同様に立ち上がらせる。そしてそのまま後ろから僕の肩を強く押し、扉まで強制的に歩かせた。

「っ! 先輩!? ちょ、ちょっと待って……!」
「魔法薬はできたら渡すから! それじゃ!」

 バタンと勢いよく扉が閉まる。物言わぬそれに、僕は暫し呆然とするしかない。

「な、何だったんだ一体……」

 そんなにマズイことを僕は聞いてしまったのだろうか。無理やり聞き出すつもりなんて全くなかったのに、まさかこんな風に追い出されるとは。

 風がガタガタッと窓を揺らした音で、ハッと我に返る。とりあえずこのままここにいてタルテ先生と鉢合わせてしまうのは良くない。
 先輩の挙動不審な様子は気にかかったものの、先生と会うリスクだけは避けたくて、僕は急ぎ足でその場を離れた。


 
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