【完結】執着系幼馴染みが、大好きな彼を手に入れるために叶えたい6つの願い事。

髙槻 壬黎

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準備期間②

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「遅かったわね、ユハン。どこかに行っていたの?」 

 その後皆が話し合いをしている教室へ向かった僕は、到着して早々、リリアーナさんからそう告げられた。

 ────あれ? 僕はハインツにちゃんと遅くなる旨を伝えたはずだよな……?

 けれどもその場にハインツはおらず、ついでに言えばミカイルの姿もそこにはなかった。

「ハインツとミカイルは? ここには来てないのか?」
「そうなのよ。私はてっきり三人が一緒にいると思っていたのだけれど、その様子だとそうでもないようね……?」
「ああ。僕はハインツと教室で分かれたっきりだ。ミカイルに関してはそもそも見てない」
「珍しいわね……。二人とも無断で来ないなんて」
「…………ミカイル様はともかく、あいつはどこほっつき歩いてるのよ……」

 心配そうに首をかしげるリリアーナさんと、眉を吊り上げて怒っているテイリットさん。彼女達の言うとおり、何も言わず二人がここに来ていないのは少し変だ。
 ハインツもミカイルも、僕が知る限りそんな不義理な人間ではないはずだった。

「……で、てめえは何で遅れた?」

 静かに僕を見据え、ジークが問いかける。

「僕はアルト先輩の元へ行ってたんだ。ハインツに遅くなるから先に進めててくれって言ったんだけど、ここに来てないなら当然伝わってないよな……」
「あらっ、アルト様とお話が出来たのね……! ちなみに結果は……どうだったのかしら……?」
「そうだ。それを本当は一番に伝えたかったんだ。肝心の結果なんだけど────」

 僅かに間を置く。緊張した空気が室内を満たしていた。

「────魔法薬を、先輩に作ってもらえることになった」

「まあ!」
「なるほどな、魔法薬か」
「……ふんっ。やるじゃない」

 素直じゃないのが若干二名。大袈裟に喜んでくれるリリアーナさんがこの場にいてくれて良かった。
 本当はハインツに、いの一番に話したかったのだが、彼はまだ来ないのだろうか────そう考えていたところで、ガラッと扉の開く音が聞こえ一斉にそちらを向く。

「遅くなってごめんね、皆」

 入ってきたのは眉を下げ、申し訳なさそうに謝るミカイルと、やけに顔を赤らめ恍惚とした表情を浮かべているハインツ。
 先程分かれた時も、彼はアルト先輩と会話した興奮で様子はおかしかったが、それとはまた違う。心ここにあらず、とでも言うのだろうか。
 ミカイルを熱く見つめるハインツに、得体の知れない違和感があった。

「二人とも遅れるなんて、何かあったの?」
「ハインツの体調が悪そうだったから、僕が寮まで送っていこうとしたんだ。でもどうしてもここに来たいって行って聞かなかったから、保険室に行って薬をもらってきたんだけど……。思いの外遅くなってしまったみたいだね」
「ミカイル君は悪くないよ……。ボクが全部悪い。全部悪いんだ。だから皆、彼を責めないで……」
「ええっと……私は無事に来てくれたことが嬉しいから、二人を責めるつもりは全くないわ」
「……まあ普通に考えて、無理に来ようとしたディーゼルがわりいだろ」
「……ほんと、ミカイル様に謝らせてるんじゃないわよ」
「でも、僕はハインツが来てくれて嬉しい。どうしても早く言いたいことがあったから」

 僕達から様々に言われながらも、二人は席につく。隣に座ったハインツはいつもよりぼんやりとしていて、確かに調子があまり良くなさそうだ。
 僕の感じた違和感は、そんな体調不良によるものだったのだろうか。

「なあハインツ。体調は大丈夫か?」
「………………」

 心配で声をかければ、ハインツは僕をチラッと見る。けれどそれは一瞬で、彼は何も言わないまま顔を正面に戻すと、眉間に皺を寄せていた。

「え、」

 僕は衝撃で言葉も出ない。
 だってこれは……ハインツによる明確な無視だ。
 でも、彼にそのような態度を取られたことなど今まで一度もなかった。いつだって彼は僕に優しくしてくれた。
 聖女様のような優しさを持つ人間になりたいと、そう前に教えてくれたのに。なんで、どうして?

「ハ……ハインツ?」

 体調のせいだと思いたかった。今のは無視なんかじゃなく、単に話す気分じゃなかったんだって────

「ユハン。ハインツのことは一旦そっとしておいてあげたほうが良いと思うよ。薬は飲ませたけど、やっぱり万全とは言えない状態だから」

 ミカイルが窘めるように僕に言う。

「あ……そうだよな。悪かった、ハインツ」

 異様な空気がこの場を漂っていた。皆、不審そうにハインツを見ており、僕だけが変に感じていないのがせめてもの救いだった。

「えっと……リリアーナさん達にはもう話したんだけど、実はアルト先輩に了承が取れてさ。このまま僕が提案した通りの魔法を使った方法でいけそうなんだ」
「……! それは良かったね……! ユハンのやりたいことが出来そうで僕も嬉しいよ」
「………………」

 ミカイルは瞳を輝かせて喜んでくれた。やっぱり素直に喜んでくれるのは嬉しい。
 でもハインツはそれを聞いてもなお、口を一文字に結び、押し黙ったまま軽く俯いていた。

「ええと……それじゃあ当初の計画通り、仮面舞踏会をテーマにしたものでいきましょう。だから演出等も、これまで考えていたもので変更はしなくて良さそうね」
「…………ああ。俺は異論ねえ」
「わ、私も良いと思いますわ……!」
「うん。僕も大丈夫だよ」

 ハインツを抜いた三人が、リリアーナさんの意見に同意する。結局最後まで、ハインツは大した反応を見せることはなく、その日はお開きになった。

 

 祝祭当日まで、あと二週間と僅か。どこか不穏な気配を感じ取りつつも、時間は刻一刻と過ぎ去っていく。ワクワクした気持ちとは裏腹に、ハインツの僕だけに対する態度がおかしくて。
 ミカイルは気遣わしげに間を取り持ってくれたけど、その度に関係が悪化している気がした。
 けれどもそれを指摘することが出来ないまま、ハインツの様子に悶々とする日々が続いて、僕はとうとう祝祭の日を迎えることとなった───
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