貴方といると、お茶が不味い

わらびもち

文字の大きさ
24 / 49

彼女の器

しおりを挟む
「頭の悪い連中は私を王太子殿下の婚約者に推薦しようと躍起になっていますけど、悪手もいいところです。当家は持参金すら払えないほど逼迫してるというのに……王家に嫁ぐなんて出来るわけがない。なのに私を公爵令嬢という高位の身分だけを材料に無理矢理殿下の婚約者の座に捩じ込もうとするなぞ愚の骨頂。その行為が殿下の婚約者たるレオナ様とミンティ家に喧嘩を売るものだと理解しないような奴等の想い通りになぞなってたまるものですか……」

 きっぱりとそう言い切る彼女は既に当主としての器を見せていた。

 周囲の甘言に惑わされず、家の為に必要な行動がとれる彼女はまさに当主として相応しい。
 
 もしかするとクリスフォード様は妹の器の大きさに劣等感を抱いていたのかもしれない。

「それに、王太子殿下はレオナ様をそれはもう……大層溺愛されていると聞きます。そんなお二人を引き裂く『悪役令嬢』のような役割など御免ですもの」

「『悪役令嬢』……? それは何かしら?」

「ああ、これは隣国で流行っていた恋愛物語の本に出てきた言葉なんです。愛し合う二人を引き裂く悪役の令嬢のことをそう呼んでおりました」

「まあ、そうなのですね? “悪役”に“令嬢”がつくなんて斬新だわ」

「まあ恋のスパイス役というか、当て馬ですね。だいたいが主人公よりも身分が上の令嬢がその役として使われることが多いからそう呼ぶのかもしれません」

 そのエリナ様の言葉にふとスピナー公爵令嬢が思い浮かんだ。

 私とクリスフォード様の婚約や、他にも数多の婚約を引き裂いた彼女はまさにそう言えるのではないだろうか。

「『悪役令嬢』か……。まるでスピナー公爵令嬢のことみたいだわ」

「ふむ。ですが彼女はどちらかといえば、ただ恥知らずで男好きなだけかと。『悪役令嬢』はプライドは高いけど立派な淑女ですから」

「へえ、そうなのですか? 一度その本を読んでみたいですね」

「私が見立てたものでよろしければいくつか贈らせていただきます」

「嬉しい! 是非お願いします」

 どんな人なのかと神経を尖らせていた自分が馬鹿みたいに思えるほど、エリナ様は器の大きい才女だった。
 
 そしてとりとめのない会話を楽しめるほど、私ととても気が合う。

 帰り際に彼女は一際深く頭を下げ、ロバス家のミンティ家に対する態度を詫びた。

「ミンティ家にはご負担ばかりかけて申し訳ございません。事業の資金も結局はそちら頼みのまま。当家からは僅かばかりの慰謝料しか支払えず、本当に不甲斐ない……」

「いえ、それはもうお気になさらないでください。公爵夫妻からも貴女からも謝罪はして頂きましたし、爵位を下げてくれるということでわたくしも婚約者の座を奪われる心配が無くなりましたもの。これ以上は当家もわたくしも望みませんわ」

「レオナ様……本当にありがとうございます」


 真っ直ぐにこちらを見て話す彼女を好ましいと感じた。


 クリスフォード様との婚約は時間の無駄だったが、こうして彼女と知り合えたことはよかったと思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

婚約者に値踏みされ続けた文官、堪忍袋の緒が切れたのでお別れしました。私は、私を尊重してくれる人を大切にします!

ささい
恋愛
王城で文官として働くリディア・フィアモントは、冷たい婚約者に評価されず疲弊していた。三度目の「婚約解消してもいい」の言葉に、ついに決断する。自由を得た彼女は、日々の書類仕事に誇りを取り戻し、誰かに頼られることの喜びを実感する。王城の仕事を支えつつ、自分らしい生活と自立を歩み始める物語。 ざまあは後悔する系( ^^) _旦~~ 小説家になろうにも投稿しております。

【完結】貴方が幼馴染と依存し合っているのでそろそろ婚約破棄をしましょう。

恋愛
「すまないシャロン、エマの元に行かなくてはならない」 いつだって幼馴染を優先する婚約者。二人の関係は共依存にも近いほど泥沼化しておりそれに毎度振り回されていた公爵令嬢のシャロン。そんな二人の関係を黙ってやり過ごしていたが、ついに堪忍袋の尾が切れて婚約破棄を目論む。 伯爵家の次男坊である彼は爵位を持たない、だから何としても公爵家に婿に来ようとしていたのは分かっていたが…… 「流石に付き合い切れないわね、こんな茶番劇」 愛し合う者同士、どうぞ勝手にしてください。

私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。

王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しいます。 ゴードン公爵家の長女ノヴァは、辺境の冒険者街で薬屋を開業していた。ちょうど一年前、婚約者だった王太子が平民娘相手に恋の熱病にかかり、婚約を破棄されてしまっていた。王太子の恋愛問題が王位継承問題に発展するくらいの大問題となり、平民娘に負けて社交界に残れないほどの大恥をかかされ、理不尽にも公爵家を追放されてしまったのだ。ようやく傷心が癒えたノヴァのところに、やつれた王太子が現れた。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした

miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。 婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。 (ゲーム通りになるとは限らないのかも) ・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。 周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。 馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。 冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。 強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!? ※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

処理中です...