初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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どなたか存じ上げませんが……

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「その、王女を名乗る不作法なお客様は何処に?」

 セシリアは一瞬怪訝な表情を見せたが、すぐに静かな笑みを浮かべた。
 その堂々たる落ち着きぶりに執事は驚きながらも冷静さを取り戻す。

「は、はい。門の前でお待ちいただいております」

「そう……。なら、私が直接対応するわ」

 いくら約束無しでいきなり邸に訪問する礼儀を知らない客人だとしても、王族である以上は使用人に門前払いさせるのはよろしくない。女主人であるセシリアが直接対応することで一応の礼は尽くしたと体裁が保てる。
 
 セシリアは代官に「申し訳ないけれど、今日はここまでね。計画書の内容を再検討し、完了次第報告書を作成してもらえる?」と告げると、彼は恭しく頷いた。
 門の前には王女がいるようなので裏口から帰るよう指示を出した後、セシリアは執事に案内され門前へと向かう。
 するとそこには煌びやかな装飾の、王家の紋付き馬車が一台止まっていた。

 セシリアは馬車の横に立っている王家の侍従らしき男を一瞥すると、彼は恐縮したように何度も頭を下げた。

「侯爵夫人におかれましてはご機嫌麗しく……。突然のご訪問、大変失礼いたしました」

「……本当にね。王家は我が家を出入り自由の公共施設とでも思い違いなさっているのかしら?」

 優雅かつ冷静な佇まいと、剣のように鋭く突き刺さる言葉に侍従は一瞬で凍り付く。
 年若い夫人とは思えないほどの圧倒的な迫力に恐れ慄き、何も言葉を返せなかった。

「……用件だけは聞いて差し上げる。本日はどのようなご用向きで」

「そ……それが、その、王女様がガーネット侯爵様にお会いしたいと……」

「エリオット様に? ……そう、申し訳ないけれど、主人はここにはおりません。伯父である公爵閣下のもとにおります。そのようにお伝えください」

 ぴしゃりと跳ね除けるような物言いに侍従は反論出来ずただ頷き、頭を下げる。
 その時、急に馬車の窓が開き、そこから美しい女性が顔を出す。

「どうしても、あの御方に会いたいの。中に入れて下さらない?」

 自分の願いは叶えられて当然と言わんばかりの態度にセシリアの顔からスッと表情が消え失せる。
 それを目にした女性──昨夜の夜会でクラウディア王女と呼ばれていたその人は恐怖で小さく「ひっ!」と悲鳴をあげた。

「”どうしても”……というのは、往々にして他人の事情を踏みにじる魔法の言葉ですわね。、あいにく、この邸は無作法な訪問を歓迎する造りにはなっておりませんの。次回はせめて事前に使者と立てるか……お急ぎであれば伝令鳩でもお使いくださいまし」

 セシリアの容赦ない皮肉が王女の胸に刃のように深く突き刺さる。
 お前など知らない、と言われるとは思ってもみなかったようだ。
 確かに夜会で王太子妃が彼女のことを「クラウディア王女」と呼んだが、正式に紹介されたわけではないので、その場合は社交界の暗黙の了解で”知らない人”となってしまう。

 本来であればそれは王妃がやるべきことだったのだが、彼女は自分のやらかしに気を取られそれどころではなかった。おまけに王女はセシリアから挨拶されてもエリオットに夢中でそれに対して応えていない。故にセシリアにとって王女は”知らない人”なのだ。貴族社会で名乗りもしない者は”知らない人”と扱われるのだから。

 しかし、どうやら王女はそのことに気づいていない。それどころかセシリアの皮肉の意味を考えるでもなく、ただ自分の願いが否定されたとしか思わない。
 生まれながらにして手に入れた身分に甘えきった傲慢さを持つ彼女は、格下からここまで冷たく突き放されたことなどなかった。思いつきや気まぐれが通じると思うなよ、と言わんばかりのシリアの厳しい態度は王女の脆い心を揺さぶるのだった。
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