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王太子妃の叱責
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「いえ、とんでもございません。王太子妃殿下におかれましてはご機嫌麗しく。直々にお運びくださり、誠に畏れ多く存じます」
「そんな丁寧に挨拶なさらなくてもよろしくてよ。迷惑をかけたのはこちらなのですから……」
そう言って王太子妃は鋭い視線を王女に向ける。錯乱した王女はその視線に気づいていないが、侍女は気づいたようであからまさに動揺し始めた。
「……勝手に王宮から出ては困りますわ。しかもいきなり面識のない方の家を訪問するなど不作法にも程があるのではなくて?」
どうやら王女は勝手に王宮を出てここまで来たらしい。
まあそうだなとは思っていたけれど、留学中の身でありながらお世話になっている家の馬車を使って他家にいきなり押し掛けるなんて気は確かかと思うような言動だ。我儘な性格だとは聞いていたけれど、これはその範疇を越えている。
「あ、あの……王太子妃殿下。王女様はただ、想い人に一目会いたいだけでございまして……」
侍女が代わりに答えると、王太子妃は不快げに眉をひそめて「は?」と低く冷たい声を漏らした。
「想い人? それは誰のことを言っているのかしら。まさかと思うけど……ガーネット侯爵のことではないわよね? 言わなくとも分かっていると思うけど……彼はこちらの女性のご夫君よ? 既婚者を、しかもその妻の前で恋慕の情があるような言葉を口にするなんて……流石に品が無さ過ぎるわ。”恥”という言葉をご存じ?」
王太子妃が軽蔑するような表情で辛辣な台詞を投げかけると、侍女は顔を真っ赤に染めて「なっ!?」と声にならない声をあげた。言われるまで分かっていなかったのか、それとも分かっているがそれを指摘されるとは思っていなかったのか。いずれにしてもその”心外だ”と言わんばかりの反応にはセシリアも呆れざるを得ない。
「いくら王太子妃殿下とはいえ、王女様に対して失礼ですよ!」
「失礼? それはそちらでしょう? いくらなんでも無礼が過ぎるわ。王家の客人が臣下の家で揉め事を起こすなんて……王家と臣下を仲違いでもさせるつもりかしら? ああ、もしかして内側から我が国を崩すのが狙い? もしそうであるのなら貴国に抗議する必要があるわね」
「…………え?」
話が思いがけず国同士の争いにまで発展し、侍女は驚きのあまり呆然とした。
そして助けを求めるように主人である王女の方へ顔を向けるも、未だに錯乱して「母様……」とぶつぶつ呟くだけで役に立ちそうもない。
「いえ、そのようなつもりは決してございません! 何故いきなりそのような話に飛躍してしまうのですか!?」
「そちらが、我が王家の臣下であるガーネット侯爵家に喧嘩を売るような真似をなさったからよ。よくて? わたくし達王族は行動一つ、発言一つに責任が伴うの。自分の言動がどのような影響を及ぼすか……よく考えなくてはならぬ身なのよ。発言一つで戦にまで発展するなど、歴史上よくあることでしょう?」
「それはいくらなんでも大袈裟ではございませんか!?」
「大袈裟などではないわ。当たり前のことよ。王族は自身の言動が与える影響力をよく理解したうえで振る舞うよう幼い頃から教育されているものなの。それが身についていないのなら……むやみに外に出るのはお控えになった方がよろしいわね」
王太子妃がそう言い放った瞬間、それまでぶつぶつ呟くだけだった王女がいきなり悲鳴をあげた。
「い、いやっ! 母様、ごめんなさい、ごめんなさい! 怒らないで!」
「お、王女様! しっかりなさってください! もうお母君はおりませんから……!」
髪を振り乱して泣き叫ぶ王女を慌てて鎮めようとする侍女。
その様子にセシリアは困惑して首を傾げ、王太子妃はため息をついた。
「ガーネット侯爵夫人、お騒がせしてごめんなさいね。このまま王女様を連れて帰らせていただくわ。後日あらためて必ずお詫びに伺いますので」
「いえ、どうかお気になさらず。本日はご足労いただきありがとうございました」
王太子妃が謝るようなことではない。しかし彼女は王家の一員として客人の言動すら自らの責とする覚悟なのだろう。先程の発言といい、責任感の強い御方だと感心する。
「帰りますよ。貴女も早く馬車にお乗りなさい」
「でも、王女様が……」
「二度は言いません。お急ぎなさい」
ぴしゃりと言い放つ王太子妃の迫力に気圧され、侍女は渋々ながらも従った。
それにしてもこの侍女も主人と同じで非常識が服を着て歩いているようだ。王太子妃が言うように今回の王女の言動は下手をすると国際問題にまで発展しかねない。それを理解していない人間が王族に仕えているということがもう有り得ない。ただ言いなりになるだけでなく、主人が道を誤ろうとするのならそれを諫めるのが側仕えの務めであるのに。
(そういえば、初日で私が潰してしまった家令もこの侍女と同じように主人の言いなりだったわね。正しさを理解しない者が側に仕えていれば、主人の非常識はさらに助長されてしまうものなのね……)
結婚初日から夫エリオットがやらかしたあまりに非常識な振る舞いを思い出し、セシリアは深く嘆息した。
今は改善されたが当時は誰も彼の行動に異を唱える者がいなかった。それがどれだけ異常なのかと異を唱える者さえもいなかったという状況が何とも理解しがたい。
常識のある従者が一人でも側にいれば、彼の性格も多少はマシになっていたかもしれない。
そんなことを考えながら、セシリアはぼんやりと嵐のごとき王女一行が連れ去られるのを見届けていた。
「そんな丁寧に挨拶なさらなくてもよろしくてよ。迷惑をかけたのはこちらなのですから……」
そう言って王太子妃は鋭い視線を王女に向ける。錯乱した王女はその視線に気づいていないが、侍女は気づいたようであからまさに動揺し始めた。
「……勝手に王宮から出ては困りますわ。しかもいきなり面識のない方の家を訪問するなど不作法にも程があるのではなくて?」
どうやら王女は勝手に王宮を出てここまで来たらしい。
まあそうだなとは思っていたけれど、留学中の身でありながらお世話になっている家の馬車を使って他家にいきなり押し掛けるなんて気は確かかと思うような言動だ。我儘な性格だとは聞いていたけれど、これはその範疇を越えている。
「あ、あの……王太子妃殿下。王女様はただ、想い人に一目会いたいだけでございまして……」
侍女が代わりに答えると、王太子妃は不快げに眉をひそめて「は?」と低く冷たい声を漏らした。
「想い人? それは誰のことを言っているのかしら。まさかと思うけど……ガーネット侯爵のことではないわよね? 言わなくとも分かっていると思うけど……彼はこちらの女性のご夫君よ? 既婚者を、しかもその妻の前で恋慕の情があるような言葉を口にするなんて……流石に品が無さ過ぎるわ。”恥”という言葉をご存じ?」
王太子妃が軽蔑するような表情で辛辣な台詞を投げかけると、侍女は顔を真っ赤に染めて「なっ!?」と声にならない声をあげた。言われるまで分かっていなかったのか、それとも分かっているがそれを指摘されるとは思っていなかったのか。いずれにしてもその”心外だ”と言わんばかりの反応にはセシリアも呆れざるを得ない。
「いくら王太子妃殿下とはいえ、王女様に対して失礼ですよ!」
「失礼? それはそちらでしょう? いくらなんでも無礼が過ぎるわ。王家の客人が臣下の家で揉め事を起こすなんて……王家と臣下を仲違いでもさせるつもりかしら? ああ、もしかして内側から我が国を崩すのが狙い? もしそうであるのなら貴国に抗議する必要があるわね」
「…………え?」
話が思いがけず国同士の争いにまで発展し、侍女は驚きのあまり呆然とした。
そして助けを求めるように主人である王女の方へ顔を向けるも、未だに錯乱して「母様……」とぶつぶつ呟くだけで役に立ちそうもない。
「いえ、そのようなつもりは決してございません! 何故いきなりそのような話に飛躍してしまうのですか!?」
「そちらが、我が王家の臣下であるガーネット侯爵家に喧嘩を売るような真似をなさったからよ。よくて? わたくし達王族は行動一つ、発言一つに責任が伴うの。自分の言動がどのような影響を及ぼすか……よく考えなくてはならぬ身なのよ。発言一つで戦にまで発展するなど、歴史上よくあることでしょう?」
「それはいくらなんでも大袈裟ではございませんか!?」
「大袈裟などではないわ。当たり前のことよ。王族は自身の言動が与える影響力をよく理解したうえで振る舞うよう幼い頃から教育されているものなの。それが身についていないのなら……むやみに外に出るのはお控えになった方がよろしいわね」
王太子妃がそう言い放った瞬間、それまでぶつぶつ呟くだけだった王女がいきなり悲鳴をあげた。
「い、いやっ! 母様、ごめんなさい、ごめんなさい! 怒らないで!」
「お、王女様! しっかりなさってください! もうお母君はおりませんから……!」
髪を振り乱して泣き叫ぶ王女を慌てて鎮めようとする侍女。
その様子にセシリアは困惑して首を傾げ、王太子妃はため息をついた。
「ガーネット侯爵夫人、お騒がせしてごめんなさいね。このまま王女様を連れて帰らせていただくわ。後日あらためて必ずお詫びに伺いますので」
「いえ、どうかお気になさらず。本日はご足労いただきありがとうございました」
王太子妃が謝るようなことではない。しかし彼女は王家の一員として客人の言動すら自らの責とする覚悟なのだろう。先程の発言といい、責任感の強い御方だと感心する。
「帰りますよ。貴女も早く馬車にお乗りなさい」
「でも、王女様が……」
「二度は言いません。お急ぎなさい」
ぴしゃりと言い放つ王太子妃の迫力に気圧され、侍女は渋々ながらも従った。
それにしてもこの侍女も主人と同じで非常識が服を着て歩いているようだ。王太子妃が言うように今回の王女の言動は下手をすると国際問題にまで発展しかねない。それを理解していない人間が王族に仕えているということがもう有り得ない。ただ言いなりになるだけでなく、主人が道を誤ろうとするのならそれを諫めるのが側仕えの務めであるのに。
(そういえば、初日で私が潰してしまった家令もこの侍女と同じように主人の言いなりだったわね。正しさを理解しない者が側に仕えていれば、主人の非常識はさらに助長されてしまうものなのね……)
結婚初日から夫エリオットがやらかしたあまりに非常識な振る舞いを思い出し、セシリアは深く嘆息した。
今は改善されたが当時は誰も彼の行動に異を唱える者がいなかった。それがどれだけ異常なのかと異を唱える者さえもいなかったという状況が何とも理解しがたい。
常識のある従者が一人でも側にいれば、彼の性格も多少はマシになっていたかもしれない。
そんなことを考えながら、セシリアはぼんやりと嵐のごとき王女一行が連れ去られるのを見届けていた。
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