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おしかけてきたエリオット
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「王女様を晩餐にお招きしようと思うんだ」
「は? 何を言っているのですか……」
突如ガーネット侯爵家を訪れ、妙なことを口にしたエリオットをセシリアは思わず訝しそうに見つめ返した。
ここは彼の邸なのだから”訪れる”という言い方はおかしいかもしれないが、再教育中はずっと公爵家預かりとなるはずだ。それを何の先触れも無くいきなり現れて、いきなりおかしなことを言いだしたものだから「正気かしら?」と真顔で言ってしまうのも致し方ない。
「なにもそこまで驚くことはないだろう?」
「……ああ、はい、そうですか。では驚かずにお聞きします。あなたがどこの王女様とどのようなご関係かは存じませんが、どこの晩餐会に招くおつもりですか?」
「南国から留学中の、夜会で会った王女様だよ。どこのって、ここに決まっているだろう? 自宅以外どこに招くというんだ」
さも当然のように言うエリオットに、セシリアは化け物を見るような目を向けて顔をしかめた。
結婚当初から同じ人間とは思えないほど言動が著しく一般常識からかけ離れている男だったが、最近は更にそれに拍車がかかっている。
「王女様とは最近、よく言葉を交わす機会があってね。お互い馬が好きで、庭の薔薇の品種にも興味があるそうだ。……この屋敷の薔薇園は、なかなか評判もいいし、喜んでくださると思うんだ」
「よく言葉を交わす機会がある? どういうことです……」
セシリアの問いかけをエリオットは嫉妬と受け取り、口元に意味深な笑みを浮かべた。
「なに、街で会うだけの関係だ。心配することは何もない」
エリオットは妻を不安にさせまいと優しく言うが、そんなことはセシリアにとってはどうでもよいことだった。
(あれほど公爵様が王女には気をつけるようにと忠告してくださったのに、どうしてこの人は何の警戒もなく話していられるのかしら。呆れた……)
「はあ、さようでございますか。ただそれだけの関係なら晩餐に招く必要はございませんね。そんなことをしている暇があるのなら、その時間を勉学に充ててくださいませ」
「なっ……!? 夫の命令が聞けないのか!」
「聞く必要がどこに? それと今更夫ぶるのはおやめくださいませ、不愉快です」
セシリアがじろりと睨みつけるとエリオットはビクッと肩を震わせて固まった。
それでもなお食い下がり、どうにか妻を説得しようとする。
「王女様は慣れない土地で心細くて、友人がいればどれほど楽しいだろうとおっしゃっていた……。君は、王女様が可哀想だとは思わないのか? 異国の地で一人、ただ王宮に閉じこもるだけの生活なんて」
「……それは王家への侮辱だとお分かりですか? まるで王女様が敗戦国の捕虜にでもなったかのようなおっしゃりよう。そんな発言が陛下のお耳に届けば不敬罪どころか国に叛意有りと取られてしまいますよ?」
「な、何だと!? そこまで大袈裟に受け取るとは……性根が悪いぞ!」
「なら、あなたは頭が悪うございますね。王宮では賓客である王女様を王太子妃殿下が懸命にもてなしていらっしゃると聞いております。先程のあなたの発言はそんな妃殿下のお心遣いに対する文句だと、理解しておりますか? 王宮での生活が可哀想などと、よくもまあ言えたものです……。王族の方々のみならず、そこで働く者達のもてなしが悪いので王女様が可哀想だと言っているも同然。王女様が何をどうおっしゃっていようと、ガーネット侯爵家当主であるあなたが口にしてはいけません」
そのつもりはなかったに違いないエリオットだが、自らの不用意な発言が王女を迎えてくれている王族への侮辱となり得ることにようやく思い至った。彼の表情を見てすべてを悟ったセシリアは内心で「そんなことも理解していないなんて、こいつは今まで何を学んできたんだ」とため息をつく。
「そ……そんな言い方しなくたっていいじゃないか……」
いい加減、彼との会話に嫌気が差してきたセシリアは何も返さず顔を背けた。
もう、お前とは話したくない。そういう意思表示なのだが、エリオットにそんなことが伝わるわけもなく、彼は更に言い募る。
「王女様は……僕の友人だ。夫の友人をもてなすのは妻の務めだろう?」
何を言ってんだ、こいつ。セシリアはもうその心の内を隠そうともせず軽蔑の表情を彼に向けた。
最初に夫の務めを放棄した男が妻に務めを求めるなど滑稽極まりない。
その気持ちがうっかり外に漏れてエリオットの耳に届いてしまったらしく、彼は悔しそうな顔で俯いていた。
一応、自分が夫の務めを果たしていないとは自覚しているらしい。
「……わざわざそんなくだらないことを言いにきたのでしたら、早急に公爵家へお戻りください。こんなところで油を売っている場合ですか? 聞いた話ではあまり教育が進んでいないとか……」
痛い所を突かれたのか、エリオットはびくりと身を震わせた。
この様子だと、あちらの家に黙ってこちらに来たのかもしれない。
「……なんで、そんなに冷たいんだ。確かに初夜の時のことは僕が悪かったが、もう済んだことじゃないか? それを何度も蒸し返すなんて陰湿だとは思わないのか?」
本当に何を言ってんだ、こいつ。とセシリアは道端に放置されているカビの生えた残飯を見るが如くの視線を向ける。すると彼は怯えたような顔でびくりと身を震わせた。
「済んだこと……ですか。ええ、そうですね。もう済んだ過去のことです。ですが怒りの炎は相も変わらず燃え続けておりますわ。……よくそんな台詞を吐けること、恥ずかしくないのですか?」
妻の侮蔑の色を帯びた表情にエリオットは戸惑いを滲ませる。
そんな夫に向かってひどく低い声音で語りかけた。
「は? 何を言っているのですか……」
突如ガーネット侯爵家を訪れ、妙なことを口にしたエリオットをセシリアは思わず訝しそうに見つめ返した。
ここは彼の邸なのだから”訪れる”という言い方はおかしいかもしれないが、再教育中はずっと公爵家預かりとなるはずだ。それを何の先触れも無くいきなり現れて、いきなりおかしなことを言いだしたものだから「正気かしら?」と真顔で言ってしまうのも致し方ない。
「なにもそこまで驚くことはないだろう?」
「……ああ、はい、そうですか。では驚かずにお聞きします。あなたがどこの王女様とどのようなご関係かは存じませんが、どこの晩餐会に招くおつもりですか?」
「南国から留学中の、夜会で会った王女様だよ。どこのって、ここに決まっているだろう? 自宅以外どこに招くというんだ」
さも当然のように言うエリオットに、セシリアは化け物を見るような目を向けて顔をしかめた。
結婚当初から同じ人間とは思えないほど言動が著しく一般常識からかけ離れている男だったが、最近は更にそれに拍車がかかっている。
「王女様とは最近、よく言葉を交わす機会があってね。お互い馬が好きで、庭の薔薇の品種にも興味があるそうだ。……この屋敷の薔薇園は、なかなか評判もいいし、喜んでくださると思うんだ」
「よく言葉を交わす機会がある? どういうことです……」
セシリアの問いかけをエリオットは嫉妬と受け取り、口元に意味深な笑みを浮かべた。
「なに、街で会うだけの関係だ。心配することは何もない」
エリオットは妻を不安にさせまいと優しく言うが、そんなことはセシリアにとってはどうでもよいことだった。
(あれほど公爵様が王女には気をつけるようにと忠告してくださったのに、どうしてこの人は何の警戒もなく話していられるのかしら。呆れた……)
「はあ、さようでございますか。ただそれだけの関係なら晩餐に招く必要はございませんね。そんなことをしている暇があるのなら、その時間を勉学に充ててくださいませ」
「なっ……!? 夫の命令が聞けないのか!」
「聞く必要がどこに? それと今更夫ぶるのはおやめくださいませ、不愉快です」
セシリアがじろりと睨みつけるとエリオットはビクッと肩を震わせて固まった。
それでもなお食い下がり、どうにか妻を説得しようとする。
「王女様は慣れない土地で心細くて、友人がいればどれほど楽しいだろうとおっしゃっていた……。君は、王女様が可哀想だとは思わないのか? 異国の地で一人、ただ王宮に閉じこもるだけの生活なんて」
「……それは王家への侮辱だとお分かりですか? まるで王女様が敗戦国の捕虜にでもなったかのようなおっしゃりよう。そんな発言が陛下のお耳に届けば不敬罪どころか国に叛意有りと取られてしまいますよ?」
「な、何だと!? そこまで大袈裟に受け取るとは……性根が悪いぞ!」
「なら、あなたは頭が悪うございますね。王宮では賓客である王女様を王太子妃殿下が懸命にもてなしていらっしゃると聞いております。先程のあなたの発言はそんな妃殿下のお心遣いに対する文句だと、理解しておりますか? 王宮での生活が可哀想などと、よくもまあ言えたものです……。王族の方々のみならず、そこで働く者達のもてなしが悪いので王女様が可哀想だと言っているも同然。王女様が何をどうおっしゃっていようと、ガーネット侯爵家当主であるあなたが口にしてはいけません」
そのつもりはなかったに違いないエリオットだが、自らの不用意な発言が王女を迎えてくれている王族への侮辱となり得ることにようやく思い至った。彼の表情を見てすべてを悟ったセシリアは内心で「そんなことも理解していないなんて、こいつは今まで何を学んできたんだ」とため息をつく。
「そ……そんな言い方しなくたっていいじゃないか……」
いい加減、彼との会話に嫌気が差してきたセシリアは何も返さず顔を背けた。
もう、お前とは話したくない。そういう意思表示なのだが、エリオットにそんなことが伝わるわけもなく、彼は更に言い募る。
「王女様は……僕の友人だ。夫の友人をもてなすのは妻の務めだろう?」
何を言ってんだ、こいつ。セシリアはもうその心の内を隠そうともせず軽蔑の表情を彼に向けた。
最初に夫の務めを放棄した男が妻に務めを求めるなど滑稽極まりない。
その気持ちがうっかり外に漏れてエリオットの耳に届いてしまったらしく、彼は悔しそうな顔で俯いていた。
一応、自分が夫の務めを果たしていないとは自覚しているらしい。
「……わざわざそんなくだらないことを言いにきたのでしたら、早急に公爵家へお戻りください。こんなところで油を売っている場合ですか? 聞いた話ではあまり教育が進んでいないとか……」
痛い所を突かれたのか、エリオットはびくりと身を震わせた。
この様子だと、あちらの家に黙ってこちらに来たのかもしれない。
「……なんで、そんなに冷たいんだ。確かに初夜の時のことは僕が悪かったが、もう済んだことじゃないか? それを何度も蒸し返すなんて陰湿だとは思わないのか?」
本当に何を言ってんだ、こいつ。とセシリアは道端に放置されているカビの生えた残飯を見るが如くの視線を向ける。すると彼は怯えたような顔でびくりと身を震わせた。
「済んだこと……ですか。ええ、そうですね。もう済んだ過去のことです。ですが怒りの炎は相も変わらず燃え続けておりますわ。……よくそんな台詞を吐けること、恥ずかしくないのですか?」
妻の侮蔑の色を帯びた表情にエリオットは戸惑いを滲ませる。
そんな夫に向かってひどく低い声音で語りかけた。
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