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何をしたいのか分からないが、断る
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「それと、”冷たい”も”陰湿”も、貴族の女にとっては誉め言葉ですね。表立って動くのではなく、陰で相手を冷酷に攻撃することこそ貴婦人の嗜みですもの。心温かく裏表のない清らかな乙女では猛者ぞろいの社交界を渡り歩けませんし、家門を守ることもできない。……そのような悪口で私を思い通りに動かそうなどとは思わないことですね」
相手を貶めることで、それを否定する為自分の言う通りに動くだろうという浅はかな心の内は既にセシリアに見抜かれていた。思い通りにならない悔しさにエリオットは唇をぎゅっと噛んで黙り込む。
「要件がそれだけでしたら早々にお帰りを」
もう、夫が王女とどれくらいの頻度で会っているのかとか、どうしてそこまで彼女に肩入れするのかとかを尋ねるよりもまず目の前から消えて欲しい。相変わらずの話の通じなさに頭が痛くなってくる。メイドに頭痛薬を持ってきてもらうか、と思った矢先に扉がバーンと派手な音をたてて開かれる。
「エリオットが来ているんですって!?」
休憩中であったはずのキャサリンが、エリオットが来ていると聞きつけてやってきた。
丁度いいからこの男の相手を押し付けてしまおうとセシリアはにっこりと微笑んだ。
「ええ、貴女に会いに来たようですよ。少しだけ休憩時間を長くして差し上げますから、ごゆっくりどうぞ」
いつも厳しいセシリアがそんな優しい台詞を吐いたことにキャサリンは喜ぶよりもまず驚きが先に来た。
おずおずと遠慮がちに「いいの……?」と聞くと、セシリアは「もちろん」と頷く。
「半刻ほど経ちましたら授業を開始しますので、それまではご歓談をお楽しみください」
そう言い残し、部屋を出ようとするセシリア。その背にあろうことかエリオットは手を伸ばし、肩を掴んで引き止めようとした。
「……ッ触らないで!!」
「痛ッ……! な、なにするんだ……!」
彼の手が肩に触れかけた瞬間、セシリアはその気配に気づき、とっさに手を叩き落とした。
まさか拒否されるとは思っていなかったエリオットは、妻のその態度に困惑し、傷ついたように眉を下げる。
「なに、はこちらの台詞です。無礼な! 不用意に女性に触れようとするなんて、紳士として有り得ません!」
「そんな……僕達は夫婦だろう!? 夫が妻に触れてなにが悪いと言うんだ!」
「まあ……恋人であるオニキス子爵令嬢の前でよくもそのようなことが言えたものですね? どこまで恥知らずなのですか、あなたは!!」
烈火の如く怒るセシリアの迫力に気圧されたエリオットは何も言えずたじろいだ。
恋人が、たとえ妻であるとはいえ他の女に手を伸ばそうとする姿にキャサリンは深く傷つく。しかしその場の空気を支配するセシリアの威圧感に言葉は喉元で凍りつき、彼の行動を非難することも出来ない。
「あなたが何をしたいのか分かりません! 王女様と友人関係にあるのは結構なことですが、私を巻き込むのはお止めください。迷惑です!」
「そ……そこまで言わなくてもいいじゃないか! ただ、晩餐に王女様を招きたいと、それだけを望むことも許されないのか?」
「ええ、許されません。呑気にそんなことをしている暇があるなら、その分早く領主教育を終えて領地の為に執務をなさってください」
「社交だって大切な当主の仕事だろう? 王族の方を邸に招くのは名誉なことじゃないか……」
「王族がどうこうという問題ではありません。異性を、あなたの名で邸に招くということが問題なのです。不貞ととられてもおかしくない行為ですよ、それは」
「は? どうして晩餐に招いただけでそうなる?」
「あなたが王女様を邸に招き、共に過ごしたとなれば周囲に不貞を疑われますよ? 邸で、しかも夜に男女が共に過ごしたとなれば、そういう関係だとみなされておかしくないのです。王女様を傷物にしたとあちらの王家から責任を問われたらどうなさるおつもりですか?」
「傷物!? どうしてそこまで話が飛躍するんだ!」
「未婚の令嬢が密室で殿方と二人きりになっただけで貞操を疑われるというのは社交界の常識です。……ちなみに、晩餐会に招くというのはあなたの発案で? それとも王女様から強請られましたか?」
「え? あ……たしかに、王女様から我が家で晩餐を共にしたいとは言われたが……」
こんなにもあからさまに狙われてるのに、それすら気づかないなんて……。
呑気すぎるエリオットにセシリアは心底うんざりしていた。
「なんてあからさまなお誘いなのかしら……。それなら猶更引き受けるわけには参りません」
狙っている男の家に行きたがるなんて王女とは思えぬ程ふしだらな、と嫌悪感を露わにしてセシリアはエリオットの頼みを突っぱねた。彼がどうしてそこまで王女を招きたがるのかも理解できない。まあ、この男の言動は最初から理解できないものばかりだから、今更分かりたいとも思えないが……。
「え……あの、何の話……?」
セシリアのあまりの迫力に気圧されたキャサリンは遠慮がちに尋ねた。
彼女としては”王女”という単語が出たあたりで本当ならばエリオットを問い詰めたかったのだろうが、セシリアが怖いのでそれも出来ずにいた。感情的で情緒が不安定気味の彼女だが、恐れている人の前では大人しいようだ。
「……詳細はエリオット様に聞いてくださいな。私はこれで失礼します」
キャサリンへの説明をエリオットに任せてセシリアはそのまま部屋を出た。
そもそも彼女に説明する義務などない。
エリオットがキャサリンにどう説明するのかは知らないが、せっかく機嫌が直ったのだからそれを損ねないようにしてほしい。授業に支障が出るから。
(明らかに自分に気があるであろう異性を邸に招きたい、なんて言ったら怒るに決まっているわよね。上手く説明すればいいけど……無理でしょうね)
そんな器用な男だったらそもそもこんな状況になどなっていない。
案の定、部屋の中からキャサリンの金切声と物がぶつかる鈍い音が聞こえてきた。
怒って癇癪をおこしているだろうキャサリンと、悲鳴をあげながら彼女に謝罪するエリオットの声が部屋の外まで響く。
相手を貶めることで、それを否定する為自分の言う通りに動くだろうという浅はかな心の内は既にセシリアに見抜かれていた。思い通りにならない悔しさにエリオットは唇をぎゅっと噛んで黙り込む。
「要件がそれだけでしたら早々にお帰りを」
もう、夫が王女とどれくらいの頻度で会っているのかとか、どうしてそこまで彼女に肩入れするのかとかを尋ねるよりもまず目の前から消えて欲しい。相変わらずの話の通じなさに頭が痛くなってくる。メイドに頭痛薬を持ってきてもらうか、と思った矢先に扉がバーンと派手な音をたてて開かれる。
「エリオットが来ているんですって!?」
休憩中であったはずのキャサリンが、エリオットが来ていると聞きつけてやってきた。
丁度いいからこの男の相手を押し付けてしまおうとセシリアはにっこりと微笑んだ。
「ええ、貴女に会いに来たようですよ。少しだけ休憩時間を長くして差し上げますから、ごゆっくりどうぞ」
いつも厳しいセシリアがそんな優しい台詞を吐いたことにキャサリンは喜ぶよりもまず驚きが先に来た。
おずおずと遠慮がちに「いいの……?」と聞くと、セシリアは「もちろん」と頷く。
「半刻ほど経ちましたら授業を開始しますので、それまではご歓談をお楽しみください」
そう言い残し、部屋を出ようとするセシリア。その背にあろうことかエリオットは手を伸ばし、肩を掴んで引き止めようとした。
「……ッ触らないで!!」
「痛ッ……! な、なにするんだ……!」
彼の手が肩に触れかけた瞬間、セシリアはその気配に気づき、とっさに手を叩き落とした。
まさか拒否されるとは思っていなかったエリオットは、妻のその態度に困惑し、傷ついたように眉を下げる。
「なに、はこちらの台詞です。無礼な! 不用意に女性に触れようとするなんて、紳士として有り得ません!」
「そんな……僕達は夫婦だろう!? 夫が妻に触れてなにが悪いと言うんだ!」
「まあ……恋人であるオニキス子爵令嬢の前でよくもそのようなことが言えたものですね? どこまで恥知らずなのですか、あなたは!!」
烈火の如く怒るセシリアの迫力に気圧されたエリオットは何も言えずたじろいだ。
恋人が、たとえ妻であるとはいえ他の女に手を伸ばそうとする姿にキャサリンは深く傷つく。しかしその場の空気を支配するセシリアの威圧感に言葉は喉元で凍りつき、彼の行動を非難することも出来ない。
「あなたが何をしたいのか分かりません! 王女様と友人関係にあるのは結構なことですが、私を巻き込むのはお止めください。迷惑です!」
「そ……そこまで言わなくてもいいじゃないか! ただ、晩餐に王女様を招きたいと、それだけを望むことも許されないのか?」
「ええ、許されません。呑気にそんなことをしている暇があるなら、その分早く領主教育を終えて領地の為に執務をなさってください」
「社交だって大切な当主の仕事だろう? 王族の方を邸に招くのは名誉なことじゃないか……」
「王族がどうこうという問題ではありません。異性を、あなたの名で邸に招くということが問題なのです。不貞ととられてもおかしくない行為ですよ、それは」
「は? どうして晩餐に招いただけでそうなる?」
「あなたが王女様を邸に招き、共に過ごしたとなれば周囲に不貞を疑われますよ? 邸で、しかも夜に男女が共に過ごしたとなれば、そういう関係だとみなされておかしくないのです。王女様を傷物にしたとあちらの王家から責任を問われたらどうなさるおつもりですか?」
「傷物!? どうしてそこまで話が飛躍するんだ!」
「未婚の令嬢が密室で殿方と二人きりになっただけで貞操を疑われるというのは社交界の常識です。……ちなみに、晩餐会に招くというのはあなたの発案で? それとも王女様から強請られましたか?」
「え? あ……たしかに、王女様から我が家で晩餐を共にしたいとは言われたが……」
こんなにもあからさまに狙われてるのに、それすら気づかないなんて……。
呑気すぎるエリオットにセシリアは心底うんざりしていた。
「なんてあからさまなお誘いなのかしら……。それなら猶更引き受けるわけには参りません」
狙っている男の家に行きたがるなんて王女とは思えぬ程ふしだらな、と嫌悪感を露わにしてセシリアはエリオットの頼みを突っぱねた。彼がどうしてそこまで王女を招きたがるのかも理解できない。まあ、この男の言動は最初から理解できないものばかりだから、今更分かりたいとも思えないが……。
「え……あの、何の話……?」
セシリアのあまりの迫力に気圧されたキャサリンは遠慮がちに尋ねた。
彼女としては”王女”という単語が出たあたりで本当ならばエリオットを問い詰めたかったのだろうが、セシリアが怖いのでそれも出来ずにいた。感情的で情緒が不安定気味の彼女だが、恐れている人の前では大人しいようだ。
「……詳細はエリオット様に聞いてくださいな。私はこれで失礼します」
キャサリンへの説明をエリオットに任せてセシリアはそのまま部屋を出た。
そもそも彼女に説明する義務などない。
エリオットがキャサリンにどう説明するのかは知らないが、せっかく機嫌が直ったのだからそれを損ねないようにしてほしい。授業に支障が出るから。
(明らかに自分に気があるであろう異性を邸に招きたい、なんて言ったら怒るに決まっているわよね。上手く説明すればいいけど……無理でしょうね)
そんな器用な男だったらそもそもこんな状況になどなっていない。
案の定、部屋の中からキャサリンの金切声と物がぶつかる鈍い音が聞こえてきた。
怒って癇癪をおこしているだろうキャサリンと、悲鳴をあげながら彼女に謝罪するエリオットの声が部屋の外まで響く。
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