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拳が疼く
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その後もエリオットは幾度となく王女を自邸へ招きたいとセシリアに願い出てきた。
直接言いに来てはセシリアに突っぱねられ、こんな暇があるなら再教育に充てろと叱られる。
そのうち門前払いとなった。自分が当主だというのに。
それで大人しくなるかと思いきや、今度はなんと手紙で訴えてくるようになったのである。
「なんなの……しつこい」
何故、ここまで執拗に王女を招くよう言ってくるのかさっぱり分からない。
目的は一体何なのかがまるで見当がつかない。
届くたびに目を通すものの、返事は書かずに捨てていた。だが、繰り返されるその行為に次第に辟易してきたし、我慢ももう限界に近い。
「もう、直接言いに行こう。それで手紙を止めるよう言わなくちゃ……」
いざとなったら拳を振るってでも言う事を聞かせようとセシリアは物騒なことを考えた。
それくらい苛ついていたのだ。エリオットの意味不明な言動に。
別に王女と仲良くしようが好きにすればいいのだが、いちいちこちらを巻き込んでこようとするのが解せない。
準備を整え急ぎ公爵邸へと向かう。まったく、無駄な時間をとらせやがって……とセシリアは淑女にあるまじき口調で内心毒づいた。
公爵邸へと到着し、まずは公爵に挨拶をと足を運んだが、門番によればしばらく留守にしているという。
公爵が不在ならばエリオットがあれほど自由に動いていた理由にも納得がいく。どうりで、何かがおかしいと思っていた。
応接間に案内され、ほどなくしてエリオットが現れた。
「セシリア? 君が来るなんて珍しいな。どうしたんだい?」
どこか嬉しげな表情を浮かべるエリオットの顔に思わず苛立ちを覚えた。
「……ええ、本日はお願いがあって参りましたの」
「お願い? 君が僕におねだりなんて珍しいね?」
「ふふ……気色の悪い言い方は止めてくださいませ。不愉快です。時間もないので単刀直入に申し上げますね。もう私宛てに手紙を送るのをやめていただきたいと思って参りましたの」
「は? ……やめてほしい、とは?」
自分を罵る言葉は耳に入っていないのか、エリオットは”手紙をやめろ”という部分にだけ眉をひそめた。
「ええ。何度お願いされようとも、私が王女様をガーネット侯爵邸へと招くことはありません」
セシリアがきっぱりと断言すると、エリオットはまるで信じられないとでも言いたげな表情を浮かべた。
「……どうしてそんな驚いた顔をなさるのですか。私はずっと嫌だと申し上げてきたでしょう?」
「確かにそう言っていたが……諦めず頼めばいつかは聞いてくれるものだと……」
「呆れた……まるで幼児ですね。私はあなたの母親ではありませんので、あなたの願いを聞く義理はこれっぽっちもございませんわ」
子供じゃあるまいし。ごり押しすれば望みが叶うなんて、本気で思ってるとしたら滑稽にもほどがある。
「君は僕の妻で、ガーネット侯爵夫人だろう!? どうして当主であり夫でもある僕の頼みを聞いてくれないんだ!」
「それは聞く必要もなければ家の為にもならないからです。名ばかりとはいえ侯爵夫人として、家の利になることでしたら喜んでやりましょうとも。ですが、特に旨味のない相手を邸に招くことはまったく侯爵家のためになりません。ならばお断りをして何が悪いというのです? 王女様をお招きすることで、当家は何の利益を得るのですか?」
「何のって……それは……」
歯切れの悪い態度に苛立ちが募り、視線にあからさまな圧を込めてエリオットを睨みつけた。
セシリアの視線に恐れをなしたエリオットは、目を泳がせながら消え入りそうな声で呟く。
「君と……王女様に、仲良くなってほしくて……」
「はあ……?」
こいつは何を言っているんだ――そんな思いを隠そうともせず、セシリアは眉をひそめた。
エリオットが王女と親しくなったから邸に招きたいと言っていたのに、今度はセシリアとも仲良くしてほしいとはどういう了見なのか。意味が分からない。
「仲良くなる必要性を感じません。だいたい、私が王女様と親しくなったところで何の意味があります? いったい何が目的でそんなことを言っているのですか」
「……君はそうやって正論ばかりだ! そんなに王女様を招くことが嫌なのか!? なんて冷たい女なんだ……」
「嫌だと最初から言っているではありませんか。そもそも王女様と仲良くなどなれません。あちらもそれは嫌でしょうよ。あなたと王女様が恋仲などという嘘を並べた怪文書を送ってくるという嫌がらせをするくらい、私のことを厭うているようですし」
「え? 王女様がそんな手紙を、君に……?」
なんだか少しだけ嬉しそうな顔のエリオットに、セシリアは思わず利き手の拳が疼いてしまった。
直接言いに来てはセシリアに突っぱねられ、こんな暇があるなら再教育に充てろと叱られる。
そのうち門前払いとなった。自分が当主だというのに。
それで大人しくなるかと思いきや、今度はなんと手紙で訴えてくるようになったのである。
「なんなの……しつこい」
何故、ここまで執拗に王女を招くよう言ってくるのかさっぱり分からない。
目的は一体何なのかがまるで見当がつかない。
届くたびに目を通すものの、返事は書かずに捨てていた。だが、繰り返されるその行為に次第に辟易してきたし、我慢ももう限界に近い。
「もう、直接言いに行こう。それで手紙を止めるよう言わなくちゃ……」
いざとなったら拳を振るってでも言う事を聞かせようとセシリアは物騒なことを考えた。
それくらい苛ついていたのだ。エリオットの意味不明な言動に。
別に王女と仲良くしようが好きにすればいいのだが、いちいちこちらを巻き込んでこようとするのが解せない。
準備を整え急ぎ公爵邸へと向かう。まったく、無駄な時間をとらせやがって……とセシリアは淑女にあるまじき口調で内心毒づいた。
公爵邸へと到着し、まずは公爵に挨拶をと足を運んだが、門番によればしばらく留守にしているという。
公爵が不在ならばエリオットがあれほど自由に動いていた理由にも納得がいく。どうりで、何かがおかしいと思っていた。
応接間に案内され、ほどなくしてエリオットが現れた。
「セシリア? 君が来るなんて珍しいな。どうしたんだい?」
どこか嬉しげな表情を浮かべるエリオットの顔に思わず苛立ちを覚えた。
「……ええ、本日はお願いがあって参りましたの」
「お願い? 君が僕におねだりなんて珍しいね?」
「ふふ……気色の悪い言い方は止めてくださいませ。不愉快です。時間もないので単刀直入に申し上げますね。もう私宛てに手紙を送るのをやめていただきたいと思って参りましたの」
「は? ……やめてほしい、とは?」
自分を罵る言葉は耳に入っていないのか、エリオットは”手紙をやめろ”という部分にだけ眉をひそめた。
「ええ。何度お願いされようとも、私が王女様をガーネット侯爵邸へと招くことはありません」
セシリアがきっぱりと断言すると、エリオットはまるで信じられないとでも言いたげな表情を浮かべた。
「……どうしてそんな驚いた顔をなさるのですか。私はずっと嫌だと申し上げてきたでしょう?」
「確かにそう言っていたが……諦めず頼めばいつかは聞いてくれるものだと……」
「呆れた……まるで幼児ですね。私はあなたの母親ではありませんので、あなたの願いを聞く義理はこれっぽっちもございませんわ」
子供じゃあるまいし。ごり押しすれば望みが叶うなんて、本気で思ってるとしたら滑稽にもほどがある。
「君は僕の妻で、ガーネット侯爵夫人だろう!? どうして当主であり夫でもある僕の頼みを聞いてくれないんだ!」
「それは聞く必要もなければ家の為にもならないからです。名ばかりとはいえ侯爵夫人として、家の利になることでしたら喜んでやりましょうとも。ですが、特に旨味のない相手を邸に招くことはまったく侯爵家のためになりません。ならばお断りをして何が悪いというのです? 王女様をお招きすることで、当家は何の利益を得るのですか?」
「何のって……それは……」
歯切れの悪い態度に苛立ちが募り、視線にあからさまな圧を込めてエリオットを睨みつけた。
セシリアの視線に恐れをなしたエリオットは、目を泳がせながら消え入りそうな声で呟く。
「君と……王女様に、仲良くなってほしくて……」
「はあ……?」
こいつは何を言っているんだ――そんな思いを隠そうともせず、セシリアは眉をひそめた。
エリオットが王女と親しくなったから邸に招きたいと言っていたのに、今度はセシリアとも仲良くしてほしいとはどういう了見なのか。意味が分からない。
「仲良くなる必要性を感じません。だいたい、私が王女様と親しくなったところで何の意味があります? いったい何が目的でそんなことを言っているのですか」
「……君はそうやって正論ばかりだ! そんなに王女様を招くことが嫌なのか!? なんて冷たい女なんだ……」
「嫌だと最初から言っているではありませんか。そもそも王女様と仲良くなどなれません。あちらもそれは嫌でしょうよ。あなたと王女様が恋仲などという嘘を並べた怪文書を送ってくるという嫌がらせをするくらい、私のことを厭うているようですし」
「え? 王女様がそんな手紙を、君に……?」
なんだか少しだけ嬉しそうな顔のエリオットに、セシリアは思わず利き手の拳が疼いてしまった。
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