初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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主導権は常に私にある

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「お、俺達は……ただ、命令に従っただけで……」

 兵士の中で最も若い者が、事の大きさに耐えきれず焦った声をあげる。
 セシリアはそれに対し食い気味に「誰に?」と問い返した。

「隊長に……そう、隊長が”王命”で貴女を捕縛すると……! 俺達はその命令に従っただけです!」

「隊長? それってこちらの方?」

 初めにセシリアを捕縛しようとし、今も一人だけ冷や汗を流す兵士にセシリアは目を向けた。

「そう! そうです! 逮捕状を所持できるのは隊長格のみで、俺たちは実物を確認することができません。陛下が昨日からご不在というのも、下っ端の俺達には知らされておりませんでした!」

「まあ……では、王命詐称も、逮捕状もないのに私を拘束しようとしたのも、こちらにいる”隊長”の独断専行ということでよろしいかしら?」

 セシリアが責任のすべてを隊長ひとりに背負わせるよう促すと、兵士たちは皆、何度も力強く頷いた。
 そして疑念を抱くような目つきを隊長へと向ける。

「どういうことですか、隊長?」「王命だって嘘ついて俺達を連れてきたんですか?」「何考えてんですか! こんなの越権行為じゃすまされませんよ! 犯罪ですよ、犯罪!」

 仲間にいっぺんに詰め寄られた隊長格の兵士は狼狽して言葉を詰まらせる。
 そして次の瞬間、彼等を振り払うように声を荒げた。

「これ以上の質問には答える義務はない! 王家の命に従い、貴女を拘束する!」

「馬鹿なの? 拘束されるのは私ではなく、あなたでしょう?」

 セシリアは隊長格の兵士の言葉をばっさりと切り捨てると、兵士たち一人一人に視線を向けた。

「この男を拘束し、王宮にいらっしゃる王太子妃殿下へと身柄を引き渡しなさい。今頃、殿下は当家の屋敷に火を放った”真犯人”を拘束しているはずです。そしてこの男はおそらくはその真犯人の仲間でしょう」

「え? 何故、王太子妃殿下が犯罪者の拘束を……? それに、真犯人って……」

「説明をしている暇はありません。この男の身柄を差し出し、自分達は命令されただけだと弁明しない限り、あなた方も王命詐称の共犯者として死罪を言い渡されますよ? それでもよろしいの?」

 それを聞いた兵士たちは息を呑み、顔を青ざめさせた。
 自分達は巻き込まれただけなのに、それで死罪など冗談ではない。
 マズイ、と逃げ出しかけた隊長格の兵士を全員がかりで捕まえ、その手に手錠をかけて拘束する。

「やめろ、離せ! お前ら、隊長にこんなことをしていいと思っているのか!」

「うるさい! あんたのせいで死罪なんて冗談じゃないんだよ! 大人しくしろ!」

「この女に騙されるな! 俺は本当に、王のご命令を受けてこの女を拘束しに来たんだ!」

「だったらその”王命”の証拠を見せてみろよ! 侯爵夫人のご指摘の通り、そんなものは最初から存在しないんだろう? 陛下が不在なのにどうやって王命が下されるんだよ!」

 相手が上官であろうと、兵士たちは一切手を緩めなかった。
 自分たちの命がかかっているのだからそれも無理はない。

「違う……! 俺は、本当に王のご命令で……」

「嘘つくなよ! 不在の陛下がどうやって命令を下すんだよ? それともあれか? 陛下が外出前に『明日、ガーネット侯爵家で火災が起こり、犯人は奥方だから王命で捕まえるように』と命令をくだしたとでも? 有り得ないだろ、そんなの!」

 その兵士の発言に笑いが込み上げた。彼の言う通り、それはどう考えてもあり得ない。もしそれが本当だとすれば陛下は未来を見通す力を持っていることになる。それならそれで、未来予知ができるのなら犯人を捕まえるよりも火災を防ぐほうが先決だろう。

「侯爵夫人、お騒がせして申し訳ございません。無礼ばかり働き恐縮に存じますが、この者を速やかに連行せねばなりませんゆえ、これにて失礼いたします」

「よいでしょう。許します。この男の身柄と、ここでの一部始終を王太子妃殿下にしかとお伝えなさい」

「はっ! 必ずや!」

 兵士たちは深々と頭を下げると、拘束された隊長格の男を引き連れてその場を後にした。
 セシリアは無表情のままその背を見送る。まるで、何事もなかったかのように。
 そして、一部始終を間近で見届けた執事は畏敬のまなざしを込めてセシリアの姿を静かに見つめていた。
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