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避難所の使用人達
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王宮の兵士たちが敷地から出たことを確認した後、セシリアは負傷した執事を連れて門近くに停車した馬車へと向かう。御者が困惑した顔で「奥様、お屋敷は……」と問いかけると、セシリアは無言で首を横に振った。「そんな……」と呆然としている御者の肩にそっと手を置き、セシリアは「嘆いている暇はないわ」と静かに告げる。
「今は急いで避難所へ向かわないと。申し訳ないけど、近くにある領地の村まで馬車を出してちょうだい」
「は……はい! 畏まりました!」
このような絶望的な状況にあってもなお冷静さを失わぬセシリアを前に、御者は己の弱さを恥じた。
居ずまいを正し、深く一礼すると恭しく馬車の扉を開ける。
「さあ、あなたも乗って。避難所でその傷の手当てをしましょう」
「えっ! ですが、使用人の身で主人と同じ馬車に乗るなど、到底許されることでは……」
「今は非常時よ。そんなことを言っている場合ではないわ。さあ、行きましょう」
促されるまま馬車に乗り込んだ執事は気を失ったままのイザベラの姿を目にし、思わず息を呑んだ。
「イザベラ様!? これはいったい……」
「……お義母様はね、お茶会の席で王女様から屋敷に火をつけたと言われたショックで気を失われてしまったのよ」
「は? 王女様が屋敷に火を……? どういうことですか!?」
セシリアは執事にお茶会で起こった出来事を静かに語った。執事はそれを聞くにつれ、徐々に顔色を失っていった。
「何ですって……? それでは、王女様は奥様を始末する目的で屋敷に火を放ったと……?」
「ええ、そうみたいよ……」
「……狂っている! 男一人を手に入れる為にこんな……こんなことまでするなんて、王女様は人の皮を被った化け物だ……!」
屋敷を焼失させ、人々に恐怖と混乱を引き起こした理由が”エリオットを手に入れたい”というそれだけの信じがたいほどくだらないもの。それを知った執事は困惑と怒りで大粒の涙をこぼした。
「せめて……奥様がご無事だったのは、不幸中の幸いでございます。もし屋敷にいらしたら、どうなっていたことか……」
そこまで言うと、執事は声を詰まらせ、すすり泣いた。
セシリアがそんな彼に何か声をかけるでもなく静かに見つめていると、外で馬車の停まる音が耳に届く。
「着いたようね。私は先に行っているわ。あなたは落ち着いたら降りてきてちょうだい」
泣き顔は見られたくないだろうとセシリアは執事にそう告げ、急ぎ馬車を降りた。「ご配慮ありがとうございます……」という嗚咽交じりの返事が微かに聞こえる。
目に映る村の様子は災害の直後と比べ、目に見えて落ち着きを取り戻していた。住民たちの懸命な努力に加え、セシリアが手配した外部からの職人や衛兵、医師団の支援によって、復興は着実に進んでいる。倒壊した家々は一つまた一つと修復され、遠くに見える河川沿いには多くの作業員たちが忙しなく動いていた。
こんな時とはいえ、村にこうして回復の兆しが見えるのは嬉しい。
セシリアがまだ瓦礫の残る道を慎重に進んでいると、住民たちが彼女の姿に気づき、慌てて駆け寄って来た。
「奥様……よく、ご無事で……」
誰かがそう小さくつぶやいた。セシリアは居ずまいを正して村人たちの前に立つ。埃にまみれたスカートの裾を気にもせず、彼女は周囲を見渡し、深く一礼した。
「このたびは、ご心配とご迷惑をおかけしました。当家の使用人を助けてくれて、本当にありがとう。皆はどちらに……?」
問いかけに、年嵩の村長が前に進み出る。
「はい、こちらの集会所にて看病しております。幸い、命に別状はございません。皆、奥様のご無事を……ずっと、案じておりました。」
セシリアはわずかに目を伏せ、そして静かにうなずいた。
「すぐに顔を見に行くわ。案内してくださる?」
「もちろんでございます、奥様」
村長の案内に従ってその後に続き、着いた先は木造の集会所だった。
大きな窓越しに煤にまみれた使用人たちの姿が見える。セシリアは静かに扉を開け、彼らのもとへと向かった。
「……っ、奥様……!」
驚きと喜びとが入り混じった声が漏れ、すぐに他の者たちも顔を向ける。横たわっていた者たちでさえ、無理に体を起こそうとする。
「無理をしないで」
セシリアは静かに言いながら、ゆっくりと皆の前に歩を進めた。
「皆……よく、無事で……」
その言葉に、誰もが胸に込み上げるものを感じ、堪えきれず涙をこぼす者もいた。
「……私たちは奥様にあのような無礼を働いたというのに……そのようにお優しいお言葉をかけていただけるとは……」
過去の所業を悔やみ、恥ずかしさに俯く使用人たちにセシリアはそっと首を横に振ってみせた。
「いいの。過ぎたことよ。それよりも、あなた達が無事でいてくれて私はとても嬉しいわ……」
セシリアの言葉を聞いた瞬間、こらえていた感情があふれ出し、皆は大粒の涙を流し始めた。
口々に「申し訳ございません」や「ありがとうございます」と嗚咽交じりに謝罪と感謝の言葉を口にする。
使用人達がセシリアに大きな無礼を働いたことを知らぬ村長は、状況が理解出来ずに困惑したままその様子を見ていた。
「今は急いで避難所へ向かわないと。申し訳ないけど、近くにある領地の村まで馬車を出してちょうだい」
「は……はい! 畏まりました!」
このような絶望的な状況にあってもなお冷静さを失わぬセシリアを前に、御者は己の弱さを恥じた。
居ずまいを正し、深く一礼すると恭しく馬車の扉を開ける。
「さあ、あなたも乗って。避難所でその傷の手当てをしましょう」
「えっ! ですが、使用人の身で主人と同じ馬車に乗るなど、到底許されることでは……」
「今は非常時よ。そんなことを言っている場合ではないわ。さあ、行きましょう」
促されるまま馬車に乗り込んだ執事は気を失ったままのイザベラの姿を目にし、思わず息を呑んだ。
「イザベラ様!? これはいったい……」
「……お義母様はね、お茶会の席で王女様から屋敷に火をつけたと言われたショックで気を失われてしまったのよ」
「は? 王女様が屋敷に火を……? どういうことですか!?」
セシリアは執事にお茶会で起こった出来事を静かに語った。執事はそれを聞くにつれ、徐々に顔色を失っていった。
「何ですって……? それでは、王女様は奥様を始末する目的で屋敷に火を放ったと……?」
「ええ、そうみたいよ……」
「……狂っている! 男一人を手に入れる為にこんな……こんなことまでするなんて、王女様は人の皮を被った化け物だ……!」
屋敷を焼失させ、人々に恐怖と混乱を引き起こした理由が”エリオットを手に入れたい”というそれだけの信じがたいほどくだらないもの。それを知った執事は困惑と怒りで大粒の涙をこぼした。
「せめて……奥様がご無事だったのは、不幸中の幸いでございます。もし屋敷にいらしたら、どうなっていたことか……」
そこまで言うと、執事は声を詰まらせ、すすり泣いた。
セシリアがそんな彼に何か声をかけるでもなく静かに見つめていると、外で馬車の停まる音が耳に届く。
「着いたようね。私は先に行っているわ。あなたは落ち着いたら降りてきてちょうだい」
泣き顔は見られたくないだろうとセシリアは執事にそう告げ、急ぎ馬車を降りた。「ご配慮ありがとうございます……」という嗚咽交じりの返事が微かに聞こえる。
目に映る村の様子は災害の直後と比べ、目に見えて落ち着きを取り戻していた。住民たちの懸命な努力に加え、セシリアが手配した外部からの職人や衛兵、医師団の支援によって、復興は着実に進んでいる。倒壊した家々は一つまた一つと修復され、遠くに見える河川沿いには多くの作業員たちが忙しなく動いていた。
こんな時とはいえ、村にこうして回復の兆しが見えるのは嬉しい。
セシリアがまだ瓦礫の残る道を慎重に進んでいると、住民たちが彼女の姿に気づき、慌てて駆け寄って来た。
「奥様……よく、ご無事で……」
誰かがそう小さくつぶやいた。セシリアは居ずまいを正して村人たちの前に立つ。埃にまみれたスカートの裾を気にもせず、彼女は周囲を見渡し、深く一礼した。
「このたびは、ご心配とご迷惑をおかけしました。当家の使用人を助けてくれて、本当にありがとう。皆はどちらに……?」
問いかけに、年嵩の村長が前に進み出る。
「はい、こちらの集会所にて看病しております。幸い、命に別状はございません。皆、奥様のご無事を……ずっと、案じておりました。」
セシリアはわずかに目を伏せ、そして静かにうなずいた。
「すぐに顔を見に行くわ。案内してくださる?」
「もちろんでございます、奥様」
村長の案内に従ってその後に続き、着いた先は木造の集会所だった。
大きな窓越しに煤にまみれた使用人たちの姿が見える。セシリアは静かに扉を開け、彼らのもとへと向かった。
「……っ、奥様……!」
驚きと喜びとが入り混じった声が漏れ、すぐに他の者たちも顔を向ける。横たわっていた者たちでさえ、無理に体を起こそうとする。
「無理をしないで」
セシリアは静かに言いながら、ゆっくりと皆の前に歩を進めた。
「皆……よく、無事で……」
その言葉に、誰もが胸に込み上げるものを感じ、堪えきれず涙をこぼす者もいた。
「……私たちは奥様にあのような無礼を働いたというのに……そのようにお優しいお言葉をかけていただけるとは……」
過去の所業を悔やみ、恥ずかしさに俯く使用人たちにセシリアはそっと首を横に振ってみせた。
「いいの。過ぎたことよ。それよりも、あなた達が無事でいてくれて私はとても嬉しいわ……」
セシリアの言葉を聞いた瞬間、こらえていた感情があふれ出し、皆は大粒の涙を流し始めた。
口々に「申し訳ございません」や「ありがとうございます」と嗚咽交じりに謝罪と感謝の言葉を口にする。
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