初夜に訪れたのは夫ではなくお義母様でした

わらびもち

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面接

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「セシリア……大丈夫だった?」

 強烈な客人の相手をしたセシリアを気遣い、イザベラはおずおずとした様子で話しかけた。

「大丈夫ですよ、お義母様。問題ありません。しっかり言い聞かせておきましたので……」

「え? 何を……?」

「お義母様が助言してくださったように、あの夫人に協力を頼みました。後は彼女が上手くやってくれることを願うばかりです」

「そ、そう……。よかったわね……」

 イザベラは、あんな強烈な人物相手によく協力を頼めたものだと感心したが、そういえばセシリアはボウガンという殺傷能力の高い武器を所持していたと思い出した。あんなものを持った危険人物相手に強気に出れるわけがない。

「お義母様のおかげで、ようやく希望の光が見えました。これなら本邸に戻っても大丈夫そうです」

 大したことをしたつもりのないイザベラは、「よかったわね」とだけ口にしたのだった。

 
 そして、セシリアが本邸に戻って間もなく、執事が新しい使用人の話を持ちかけてきた。

「奥様、新たな使用人の調査書をお持ちしました」

「入りなさい」

 彼女の声は冷たく澄み渡り、それを耳にした執事の顔に緊張が走る。
 扉を開けた彼は恭しく頭を下げながら、銀縁の盆の上に一通の封筒を載せて進み出た。

 封筒を受け取ったセシリアは手袋を外すこともなく、器用に蝋封を割った。
 指先で文面をたどりながら、わずかに片眉を上げる。

「前の勤め先は三年か。悪くないわね。……生い立ちは?」

「孤児院育ちとのことです。推薦者は前の主人の奥方。教育には問題ないかと」

「推薦者が誰であれ、最終的に選ぶのはこの私よ」

 彼女の瞳が紙の端から離れ、執事の顔を射抜いた。
 その気圧されるような眼差しに、彼は冷や汗をにじませ、深々と頭を下げる。

「もちろんでございます。判断はすべて、奥様に」

 セシリアは一度小さく息を吐くと、書類を傍らの卓上に置いた。

「面接の場を設けなさい。明日の午後でいいわ」

「かしこまりました」

 執事は深々と礼をし、静かに退室する。重い扉が閉じると、再び部屋は沈黙に包まれた。
 セシリアは調査書の上に視線を落とし、ほんの僅かに口角を上げた。

「ふうん……。オニキス子爵夫人は中々仕事が早いのね」

 セシリアは黙って調査書を見つめながら、一人静かに呟いた。


 翌日の午後、セシリアは自室の肘掛け椅子に身を預け、面接相手が来るのを待っていた。
 時折、白手袋の指でティーカップの縁をなぞるように触れる。視線は静かに扉の方へ向いていた。

 やがて、扉が二度ノックされる。

「失礼いたします。候補者をお連れしました」

 執事が静かに扉を開けた。その後ろから現れたのは、背の高い、痩身の若い男だった。
 背筋を伸ばし、無言で一歩部屋に入ると、深々と一礼する。

「――ロベールと申します。本日はこのような機会を賜り、感謝いたします」

 セシリアはじっとその男を見た。目に見えて緊張しているわけではないが、内に張り詰めたものがあるように見えた。
 
 その様子を目にした瞬間、僅かに口角があがる。

「座って」

 男は短く「失礼します」と言い、椅子に腰掛けた。その動作は無駄がなく、訓練されているようにも見える。

「調査書には、前の家では主に執事補佐をしていたとあるわね。使用人の中でも中堅。身の回りの世話、来客対応、屋内の整備。……幅広く経験しているようだけど、自分で“得意だ”と胸を張れることは?」

 ロベールは一瞬、視線を落とし、次いでセシリアの目を真っ直ぐに見返す。

「“察すること”です。必要とされることを言われる前に動く。それが私の勤めと考えております」

 セシリアはわずかに眉を上げた。即答、そして視線に揺れがない。

「自信があるのね」

「はい。ですが、それが通用するかどうかは、こちらの館の流儀に馴染めるか次第だと承知しています」

「察するのが得意と言うわりには、口はよく回るのね」

「申し訳ありません」

 男は微かに頭を下げたが、表情は変わらない。無礼には映らないが、媚びもない。セシリアはその態度に、ふと目を細めた。

「これからいくつか質問します。 ……ああ、あなたは席を外してちょうだい」

 セシリアは執事の方へと顔を向け、退出を促した。

「いえ、ですが……奥様をお一人にするわけには……」

 面と向かっては言わないが、いくら使用人候補といえども面識のない者と女主人を二人にするわけにはいかない。
 そんな執事にセシリアは「大丈夫よ」と短く答える。

 セシリアの『反論は許さない』と言わんばかりの鋭い視線に耐え切れず、執事は黙って一礼し、部屋を後にした。

「さて、では改めて……。ロベール、あなたはオニキス子爵夫人の手の者ね?」

 その指摘に、ロベールはあからさまに動揺の色を浮かべるのだった……。
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