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花盗人
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「……説明してもらおうか、アルバン子爵殿。あの薄汚い花盗人と貴殿の子息の関係を」
静かだが怒りに満ちた迫力のある声音でディアナの父、セレネ伯爵がそう問いかける。
彼にしてみれば娘が公の場でとんだ恥をかかされたのだ。
怒らないはずがない。
(まあ、お父様ったら“花盗人”だなんて、随分と洒落た言い回しですこと……)
一方のディアナは父親の上手い表現の仕方に感心を覚えていた。
花婿を盗んだから“花盗人”だなんて洒落ている。
いつか自分も使ってみたい言い回しだ。
だがこんな稀有な体験は一生に一度あるかないかだろう。
結婚式で花婿が別の女に攫われるなんて―――。
「あ、あのっ、セレネ伯爵閣下、此度はどう詫びてよいやら……。ディアナ嬢にもとんだ恥をかかせてしまいっ……」
花婿の父は可哀想なほど狼狽し、顔も気の毒なほどに青白くなっている。
彼にしてみれば息子が公の場で前代未聞の愚行を犯したのだ。
狼狽えるのも無理はない。
「謝罪はいい。謝られたくらいで済む問題ではないのだからな。何なんだあの薄汚れた阿婆擦れは? 貴殿の子息の情婦か?」
「い、いえっ、その……アレとは手を切らせたはずでして……」
「アレ、と言うことは貴殿はあの女を知っていたということか?」
「はっ……はい。ですがっ! 私は愚息がとっくにアレと縁を切ったものと……!」
「つまり……アレは子息の情婦で、貴殿は縁は切れたものと思っていたと? ……ふん、貴族家当主にしてはぬるい考えだ。儂ならば縁を切れなどと言わず、物理的に斬っておくがな……」
ディアナは確かに父ならそれくらいはやりそうだと考えた。
きっとこうするだろう、と願望と放置を交えたようなぬるい対応をしていて痛い目をみるのは自分なのだから。
父は常日頃からそう子供達に教えてきたし、ディアナ自身もそう思っている。
実際アルバン子爵は現在進行形で痛い目をみている。
いや、痛みなんて生温いものじゃなく、修復不可能なほどの傷を負ったと形容してもいいくらいだ。
なぜなら、アルバン子爵家はもう終わりなのだから。
貴族として修復不可能なほどの傷を負ってしまった。
それを本人達は理解しているのだろうか?
「言いたいことは山ほどあるが、儂からは貴殿に契約違反の損害賠償を請求するとだけ言っておこう。内容は事前に交わした契約書の通りだ。すぐにでも措置をとらせていただこうか」
「ひいっ!? そ、そんな……お待ちくだされ!」
「待つ? これは異なことを、貴殿は話し合いを伸ばすつもりか? 後に控えている御方に対し、よくもそんな無礼なことが言えたものだな……」
「へ……? 後、とは……?」
唖然とするアルバン子爵にセレネ伯爵は蔑んだ顔を見せた。
「貴殿は貴殿の子息がやらかした事の重大さを理解しておらぬのか? あの愚行を誰に見られていたと思っている?」
セレネ伯爵が目で合図を送ると、それを受けた従者が部屋の扉を開けた。
あの後、自分達は話し合いのためにこの控室へと集まったのだ。
動揺する招待客達は使用人に命じて一足先に披露宴会場へと誘導した。
ただ二人を除いて……。
静かだが怒りに満ちた迫力のある声音でディアナの父、セレネ伯爵がそう問いかける。
彼にしてみれば娘が公の場でとんだ恥をかかされたのだ。
怒らないはずがない。
(まあ、お父様ったら“花盗人”だなんて、随分と洒落た言い回しですこと……)
一方のディアナは父親の上手い表現の仕方に感心を覚えていた。
花婿を盗んだから“花盗人”だなんて洒落ている。
いつか自分も使ってみたい言い回しだ。
だがこんな稀有な体験は一生に一度あるかないかだろう。
結婚式で花婿が別の女に攫われるなんて―――。
「あ、あのっ、セレネ伯爵閣下、此度はどう詫びてよいやら……。ディアナ嬢にもとんだ恥をかかせてしまいっ……」
花婿の父は可哀想なほど狼狽し、顔も気の毒なほどに青白くなっている。
彼にしてみれば息子が公の場で前代未聞の愚行を犯したのだ。
狼狽えるのも無理はない。
「謝罪はいい。謝られたくらいで済む問題ではないのだからな。何なんだあの薄汚れた阿婆擦れは? 貴殿の子息の情婦か?」
「い、いえっ、その……アレとは手を切らせたはずでして……」
「アレ、と言うことは貴殿はあの女を知っていたということか?」
「はっ……はい。ですがっ! 私は愚息がとっくにアレと縁を切ったものと……!」
「つまり……アレは子息の情婦で、貴殿は縁は切れたものと思っていたと? ……ふん、貴族家当主にしてはぬるい考えだ。儂ならば縁を切れなどと言わず、物理的に斬っておくがな……」
ディアナは確かに父ならそれくらいはやりそうだと考えた。
きっとこうするだろう、と願望と放置を交えたようなぬるい対応をしていて痛い目をみるのは自分なのだから。
父は常日頃からそう子供達に教えてきたし、ディアナ自身もそう思っている。
実際アルバン子爵は現在進行形で痛い目をみている。
いや、痛みなんて生温いものじゃなく、修復不可能なほどの傷を負ったと形容してもいいくらいだ。
なぜなら、アルバン子爵家はもう終わりなのだから。
貴族として修復不可能なほどの傷を負ってしまった。
それを本人達は理解しているのだろうか?
「言いたいことは山ほどあるが、儂からは貴殿に契約違反の損害賠償を請求するとだけ言っておこう。内容は事前に交わした契約書の通りだ。すぐにでも措置をとらせていただこうか」
「ひいっ!? そ、そんな……お待ちくだされ!」
「待つ? これは異なことを、貴殿は話し合いを伸ばすつもりか? 後に控えている御方に対し、よくもそんな無礼なことが言えたものだな……」
「へ……? 後、とは……?」
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「貴殿は貴殿の子息がやらかした事の重大さを理解しておらぬのか? あの愚行を誰に見られていたと思っている?」
セレネ伯爵が目で合図を送ると、それを受けた従者が部屋の扉を開けた。
あの後、自分達は話し合いのためにこの控室へと集まったのだ。
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ただ二人を除いて……。
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