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あの時、駆け落ちなんてしなければよかったのに
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「そんな理由で婚約を申し込んできたのか……? ずっと……君は僕のことを好きなのだと信じていたのに……」
羞恥と悲しみでエーリックの瞳からはとめどなく涙が溢れた。
ディアナは最初から自分のことを愛していなかった。
それどころか自分を利用していたと知り、裏切られた悲しみや悔しさで一杯だ。
だが、そんなエーリックをディアナは冷めた目で一瞥する。
その目には呆れと侮蔑が入り混じっていた。
「なんでそんな思い違いをされたのかが不思議です。婚約期間中もろくに連絡を寄こさず、贈り物一つ渡さず、手紙すらもない。そんな殿方を好きになる令嬢っているのかしら?」
「それは……だって、ドリスに悪いから……」
「婚約者よりも恋人の機嫌をとってどうするんです? しかも融資を受けている立場で、それはちょっと恩知らずではございませんか?」
「いやそれは……僕は融資のことも借金のことも知らなかったし……」
「ご自分が継ぐ家のことを、何故そこまで知らないのか理解に苦しみますね。ああ、それにしても……貴方と貴方のご家族が、わたくしに対して何の気遣いもしてこなかった理由がやっと分かりましたよ。ずっと、わたくしが貴方に心底惚れていると思ってらしたのね? 惚れているから、何をしてもいいと……」
底冷えのするような目で見られ、エーリックは居たたまれなくなった。
彼も両親も、ずっとディアナがエーリックに惚れていると思い込んでいたのだ。
だからこんな多額の融資をしてくれるのだと。
でもそれは間違いだ。
ディアナはエーリックに対する愛情なぞこれっぽっちも持ち合わせていなかった。
「だから……今こんな目にあっているのか? 我が家が取り潰しになったのも、僕がこんな底辺の生活を送っているのも……全部、君のことを勘違いしていたから……」
「まあ、確かに貴方や貴方のご両親が、最初からわたくしのことを大切に扱ってくれておりましたら……違いましたでしょうね。ドリスさんときっぱり決別し、わたくしを妻として遇するのでしたら、アルバン子爵家の皆様には何不自由ない暮らしが待っていたでしょうけど……」
エーリックがドリスを遠ざけることが無理だとしても、アルバン子爵夫妻は嫁いでくる嫁の為に動くべきだった。
セレネ伯爵家には融資してもらっている恩があるのだから。
だが夫妻は『どうせディアナはエーリックに惚れているのだから』と息子同様勘違いし、嫁に我慢させればいいと傲慢な考えで何も行動しなかった。
「とはいえ、貴方達の態度が不愉快なものだとしても、わたくしは離婚さえ出来ればそれでよかったんですよ。アルバン子爵家の破滅なんて少しも望んでいませんでしたわ。……貴方は、何故あの時駆け落ちなんてしたのですか?」
「え…………?」
「だって、考えてみてください、あの結婚式の日、駆け落ちなんてしなければ……貴方はどうしていましたか?」
「え? それは……」
多分そのままディアナと夫婦になり、アルバン子爵家で暮らしていた。
ドリスとの関係は続けたままで。
それを告げるとディアナは「そうですよね」と答える。
「その状態でドリスさんの不貞が発覚し、わたくしと離婚したとしても、貴方が失うのは鉱山だけです。ほら、この契約書にも融資金の返却を求める文言は何処にもないでしょう?」
再びエーリックは契約書に目をやった。
そこには返却についての文言はどこにも記載されておらず、ただ離婚と鉱山の譲渡しか求められていない。
「あの時、駆け落ちさえしなければ……アルバン子爵家は教会から破門宣告をされることもなく、貴方も貴族のままでいられたのですよ。あれが貴方とアルバン子爵家の不幸が始まるきっかけのようなものです」
「あ……、ああ……!」
あの時ドリスの手を取らなければ……とエーリックはあの時の行動を今更ながら激しく後悔した。
どうしてドリスの手を取った?
別にあれが今生の別れというわけでもない。
ドリスは邸を追い出されたわけでもないし、帰ればまた会えただろうに。
どうして……。
羞恥と悲しみでエーリックの瞳からはとめどなく涙が溢れた。
ディアナは最初から自分のことを愛していなかった。
それどころか自分を利用していたと知り、裏切られた悲しみや悔しさで一杯だ。
だが、そんなエーリックをディアナは冷めた目で一瞥する。
その目には呆れと侮蔑が入り混じっていた。
「なんでそんな思い違いをされたのかが不思議です。婚約期間中もろくに連絡を寄こさず、贈り物一つ渡さず、手紙すらもない。そんな殿方を好きになる令嬢っているのかしら?」
「それは……だって、ドリスに悪いから……」
「婚約者よりも恋人の機嫌をとってどうするんです? しかも融資を受けている立場で、それはちょっと恩知らずではございませんか?」
「いやそれは……僕は融資のことも借金のことも知らなかったし……」
「ご自分が継ぐ家のことを、何故そこまで知らないのか理解に苦しみますね。ああ、それにしても……貴方と貴方のご家族が、わたくしに対して何の気遣いもしてこなかった理由がやっと分かりましたよ。ずっと、わたくしが貴方に心底惚れていると思ってらしたのね? 惚れているから、何をしてもいいと……」
底冷えのするような目で見られ、エーリックは居たたまれなくなった。
彼も両親も、ずっとディアナがエーリックに惚れていると思い込んでいたのだ。
だからこんな多額の融資をしてくれるのだと。
でもそれは間違いだ。
ディアナはエーリックに対する愛情なぞこれっぽっちも持ち合わせていなかった。
「だから……今こんな目にあっているのか? 我が家が取り潰しになったのも、僕がこんな底辺の生活を送っているのも……全部、君のことを勘違いしていたから……」
「まあ、確かに貴方や貴方のご両親が、最初からわたくしのことを大切に扱ってくれておりましたら……違いましたでしょうね。ドリスさんときっぱり決別し、わたくしを妻として遇するのでしたら、アルバン子爵家の皆様には何不自由ない暮らしが待っていたでしょうけど……」
エーリックがドリスを遠ざけることが無理だとしても、アルバン子爵夫妻は嫁いでくる嫁の為に動くべきだった。
セレネ伯爵家には融資してもらっている恩があるのだから。
だが夫妻は『どうせディアナはエーリックに惚れているのだから』と息子同様勘違いし、嫁に我慢させればいいと傲慢な考えで何も行動しなかった。
「とはいえ、貴方達の態度が不愉快なものだとしても、わたくしは離婚さえ出来ればそれでよかったんですよ。アルバン子爵家の破滅なんて少しも望んでいませんでしたわ。……貴方は、何故あの時駆け落ちなんてしたのですか?」
「え…………?」
「だって、考えてみてください、あの結婚式の日、駆け落ちなんてしなければ……貴方はどうしていましたか?」
「え? それは……」
多分そのままディアナと夫婦になり、アルバン子爵家で暮らしていた。
ドリスとの関係は続けたままで。
それを告げるとディアナは「そうですよね」と答える。
「その状態でドリスさんの不貞が発覚し、わたくしと離婚したとしても、貴方が失うのは鉱山だけです。ほら、この契約書にも融資金の返却を求める文言は何処にもないでしょう?」
再びエーリックは契約書に目をやった。
そこには返却についての文言はどこにも記載されておらず、ただ離婚と鉱山の譲渡しか求められていない。
「あの時、駆け落ちさえしなければ……アルバン子爵家は教会から破門宣告をされることもなく、貴方も貴族のままでいられたのですよ。あれが貴方とアルバン子爵家の不幸が始まるきっかけのようなものです」
「あ……、ああ……!」
あの時ドリスの手を取らなければ……とエーリックはあの時の行動を今更ながら激しく後悔した。
どうしてドリスの手を取った?
別にあれが今生の別れというわけでもない。
ドリスは邸を追い出されたわけでもないし、帰ればまた会えただろうに。
どうして……。
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