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二人と一人のお茶会①
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「つまり、貴女方はミラージュ様を見下していたということですわね?」
冷たい海の底を思わせるような青い瞳が床に転がる二人の貴族令嬢を見下ろしていた。その瞳は見る者の心を凍らせてしまいそうなほど冷え切っている。
「お優しいミラージュ様なら、何をしても、何を言ってもかまわないと……。たとえ濡れ衣を着せようと、どうだっていいとお思いで? ……まったく、身の程を知りなさい。思い違いも甚だしいわ」
床に転がっている貴族令嬢のうちの一人、子爵令嬢ファニイは心の底から怯えた目を青い瞳の少女に向けた。
まるで人形のように端正な顔立ちの少女は、道端のゴミでも見るような目でファニイともう一人の少女を見ている。
「……お客様にお着替えを」
もう、こちらに用は無くなったのだろう。
青い瞳の少女はつまらなそうな声で近くにいる侍女に着替えを命じた。
侍女達は慣れた手つきでファニイともう一人の少女を数人がかりで担架に乗せる。
その際に濡れたドレスの裾から雫が垂れて嫌そうに顔をしかめた。
「淑女がお漏らしをするなんて、恥ずかしいこと……」
クスクスと、青い瞳の少女の侍女達が嗤う様子にファニイは羞恥で顔を真っ赤に染める。文句でも言ってやりたいが、あまりの恥ずかしさに言葉が出てこない。
ファニイは運ばれた状態で周囲を見渡し、自分が連れてきた侍女を探す。
すると、青い顔でオロオロしているだけの侍女の姿が目に入った。
(オロオロしていないで助けなさいよ! 役立たずっ……!!)
羞恥のあまり自分の侍女を涙目で睨みつけるファニイだが、侍女に罪はない。
ファニイの侍女は行儀見習いで来ているだけの貴族令嬢だ。これで幼い頃からずっとファニイに仕えている忠義心の篤い侍女であるならともかく、ただ箔をつけるためだけに仕えているのだ。忠義心なんてものは砂粒ほどしかない。
そんな彼女が他家のお邸でいきなり粗相をした主人を目にして上手く動けるわけもなく、その家の侍女達に介助されているのをただ見ているだけであった。
それはもう一人の少女、伯爵令嬢パメラの侍女もそうだった。
むしろ彼女は高位貴族の邸でいきなり粗相をした主人に汚いものを見るような目を向けている。
────よりにもよって、王太子の婚約者であるグリフォン公爵令嬢の邸でこんな粗相を……!!
声は発していないはずなのに、そう聞こえてきそうなほどパメラの侍女は憤っていた。というのも、この後彼女は当主であるパメラの父親にこの件を説明する義務があるからだ。
この国では未婚の貴族令嬢につく専属侍女は、令嬢の行動全てを邸の当主に説明する義務がある。
それは純潔を絶対とする貴族令嬢が婚前によからぬことをしていないかを証明するためであった。
プライバシーも何もあったものではないが、純潔を証明する目的で皆がしていることである。そうなると当然この件についても話さないといけないわけで、侍女は今から胃が痛くなる思いだった。純潔は失っていないが、尊厳は失っている。これを当主にどう説明したものかと、主人の心配よりもそちらの方が気になってしまう。
ドレスの裾を濡らしたまま担架で運ばれる二人の令嬢。
それをただ見ているだけの侍女二人。
そして黙々と床の掃除を始めるその邸の下女達。
実に混沌とした状況の中、一人だけ優雅にお茶を飲んでいる令嬢がいた。
彼女はグリフォン公爵令嬢アンゼリカ、この邸の主人の娘である。
この異様といえる事態が何故起きたのか。
それは今から遡ること数時間前のこと、アンゼリカの邸にパメラとファニイが先触れ無しで訪れたことが発端であった────。
冷たい海の底を思わせるような青い瞳が床に転がる二人の貴族令嬢を見下ろしていた。その瞳は見る者の心を凍らせてしまいそうなほど冷え切っている。
「お優しいミラージュ様なら、何をしても、何を言ってもかまわないと……。たとえ濡れ衣を着せようと、どうだっていいとお思いで? ……まったく、身の程を知りなさい。思い違いも甚だしいわ」
床に転がっている貴族令嬢のうちの一人、子爵令嬢ファニイは心の底から怯えた目を青い瞳の少女に向けた。
まるで人形のように端正な顔立ちの少女は、道端のゴミでも見るような目でファニイともう一人の少女を見ている。
「……お客様にお着替えを」
もう、こちらに用は無くなったのだろう。
青い瞳の少女はつまらなそうな声で近くにいる侍女に着替えを命じた。
侍女達は慣れた手つきでファニイともう一人の少女を数人がかりで担架に乗せる。
その際に濡れたドレスの裾から雫が垂れて嫌そうに顔をしかめた。
「淑女がお漏らしをするなんて、恥ずかしいこと……」
クスクスと、青い瞳の少女の侍女達が嗤う様子にファニイは羞恥で顔を真っ赤に染める。文句でも言ってやりたいが、あまりの恥ずかしさに言葉が出てこない。
ファニイは運ばれた状態で周囲を見渡し、自分が連れてきた侍女を探す。
すると、青い顔でオロオロしているだけの侍女の姿が目に入った。
(オロオロしていないで助けなさいよ! 役立たずっ……!!)
羞恥のあまり自分の侍女を涙目で睨みつけるファニイだが、侍女に罪はない。
ファニイの侍女は行儀見習いで来ているだけの貴族令嬢だ。これで幼い頃からずっとファニイに仕えている忠義心の篤い侍女であるならともかく、ただ箔をつけるためだけに仕えているのだ。忠義心なんてものは砂粒ほどしかない。
そんな彼女が他家のお邸でいきなり粗相をした主人を目にして上手く動けるわけもなく、その家の侍女達に介助されているのをただ見ているだけであった。
それはもう一人の少女、伯爵令嬢パメラの侍女もそうだった。
むしろ彼女は高位貴族の邸でいきなり粗相をした主人に汚いものを見るような目を向けている。
────よりにもよって、王太子の婚約者であるグリフォン公爵令嬢の邸でこんな粗相を……!!
声は発していないはずなのに、そう聞こえてきそうなほどパメラの侍女は憤っていた。というのも、この後彼女は当主であるパメラの父親にこの件を説明する義務があるからだ。
この国では未婚の貴族令嬢につく専属侍女は、令嬢の行動全てを邸の当主に説明する義務がある。
それは純潔を絶対とする貴族令嬢が婚前によからぬことをしていないかを証明するためであった。
プライバシーも何もあったものではないが、純潔を証明する目的で皆がしていることである。そうなると当然この件についても話さないといけないわけで、侍女は今から胃が痛くなる思いだった。純潔は失っていないが、尊厳は失っている。これを当主にどう説明したものかと、主人の心配よりもそちらの方が気になってしまう。
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そして黙々と床の掃除を始めるその邸の下女達。
実に混沌とした状況の中、一人だけ優雅にお茶を飲んでいる令嬢がいた。
彼女はグリフォン公爵令嬢アンゼリカ、この邸の主人の娘である。
この異様といえる事態が何故起きたのか。
それは今から遡ること数時間前のこと、アンゼリカの邸にパメラとファニイが先触れ無しで訪れたことが発端であった────。
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