鬼嫁物語

楠乃小玉

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三十四話 岐阜城

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 斎藤龍興が国を開いたことにより、美濃の国人衆が雪崩をうって信長方に寝返る中、
 佐久間の親戚である佐脇藤八が信長の馬回り衆として任命された。
 その祝賀の宴を熱田の東加藤家で行った。
 この祝宴には特別な意味があった。
 久方ぶりに佐脇藤八の兄である前田利家が列席したのだ。
 前田利家は信長の同朋衆である拾阿弥を切ったということで、長らく信長から放逐されていた。
 信長の怒りは、桶狭間の戦勝でも解けることはなかったが、
 先の永禄四年、森部の戦いにおいて足立六兵衛を討ち取ったことによって
 許されたのである。
 それでも、しばらくは遠慮して公の場所には姿を現さなかったが、
 弟の祝賀の宴ということで、久々に親戚たちの前に姿を現したのだ。
 周囲の者たちも喜んで利家を迎えたが、
 加藤家の計らいで利家の好物である鶴の汁物が出された。
 「おお、利家殿、よう参られた、ワシの鶴をご所望あれ」
 そういって、親戚こぞって汁物の具の鶴の肉を利家に与えた。
 利家も、最初は喜んで食べていたが、あまりに肉をつみあげるので、
 うんざしして最後には食べなくなった。
 「もう鶴は二度と喰わん」
 利家はそう言っていた。

 同じ席で、津島衆の河村久五郎かわむらきゅうごろうが墨俣の事でグタグタ言っていた。
 「だいたいだな、あの墨俣の城は我ら津島衆が美濃方から奪ったものだ。
 それがなぜ、木下何某とかいう奴の手柄になっているのだ。しかも、褒美がナツメ一つと感状とは
 情けないことだ」

 「そのような事を言われても、墨俣は敵中に突出した場所にあり、守り難く、
 すぐに放棄されたゆえ、情勢からみれば価値のあるものではござらぬ。
 感状をいただけただけでもありがたく思わねば」

 親戚の中でも頭がいいことで有名な加藤弥三郎が得意げに言った。

 「なにを、我ら津島衆が血を流して取った城が無価値と申すか」

 河村はいきり立って弥三郎に食ってかかった。

 「これ、弥三郎、無礼を申すものではない、河村様のお手柄、まことに御立派ではないか、
 そなたも河村様に武芸を習い、兜首でも取ってからモノを言え」

 父親の加藤順盛がそう言って弥三郎を叱り、弥三郎はふくれっ面で、しぶしぶ頭をさげていた。

 弥三郎は舌禍があり、人と口論になることがあり、煙たがる者もいたが、
 その才覚を左京亮の兄の信盛は高く評価していた。

 西美濃三人衆が織田方に寝返ると、美濃衆は戦線を維持できなくなり、斎藤龍興は
 一向宗徒に助けられ、美濃から逃亡した。

 美濃を得た信長は稲葉山城を岐阜城と改名した。
 しかし、斎藤龍興が行った楽市楽座は引き続き、行わせた。

 「殿は楽市楽座を良い政策ではないとお考えと思いましたが、違うのですか」
 佐久間信盛がそう尋ねると信長は答えた。

 「国というのは攻め取った後が肝要である。この土地の民はすでに楽市楽座に慣れておる。
 それをまた強引に改変すれば混乱が起き、内紛になる。己の信念を押し通すことより、
 民の安寧を考えるのが政というものだ。
 楽市楽座は前からやっていた場所のみ許可する。元々座があった場所の座を潰して楽市楽座を
 行うことはゆるさぬ」

 信長はそう言った。
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