異世界から戻ったら再会した幼馴染から溺愛される話〜君の想いが届くまで〜

一優璃 /Ninomae Yuuri

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二章

国王陛下

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 朝靄の向こうに、王都の尖塔がうっすらと姿を現した。
ここから先は馬車だと通れず、歩いて向かうように王城から送られてきた従者に伝えられる。
馬車を降りて、長い旅の果てにようやく辿り着いたその光景に、僕は思わず息を呑んだ。
高く聳え立つ王城を前にして心臓がドクドクと嫌な音を立てる。
夢を見ているようだと現実逃避したくなった。
けれど、この淡い期待を秘めた胸の鼓動は恐怖一色ではなかった。
これからの冒険に、まだ知らない景色を求めてうずいている。

ふと、隣にいたはずのフルゥが、止まった。
僕が進もうとしてもフルゥはそこから微動だに動かず、空中に浮遊している。

「どうしたの? もう少しで着くよ」

 振り返ると、フルゥはどこか寂しげに笑っていた。
 いつもの明るい笑顔じゃない。胸の奥を掴まれるような、静かな微笑み。

「フルゥはここまでだよ。王都には入れないの」

フルゥの声は、まるで朝靄に溶けていくみたいに、静かだった。
一瞬、風の音だけが聞こえる。

「え?なんで?これから王様に会うんでしょ?一緒に来てくれないの」

 僕の言葉に、フルゥは少しだけ目を伏せた。
 そして、まるで子どもに言い聞かせるように、柔らかく言った。

「王の前にはね、強い結界が貼られているの。そのせいでフルゥは王城に入ると気分が悪くなるんだ」

「強い結界って、フルゥは精霊なのに?」

「うん、この国の王は人間至上主義者なんだ。だからフルゥが入ったら国王は嫌な顔をするね。だから、フルゥは真白のそばにいることは難しくなるの」

 夜明けの光がフルゥの頬を照らし、白金の翼がが風に揺れる。

「そんな‥‥」

 真白は言葉を失った。
 フルゥがずっとそばにいてくれたから、この異世界でも心強かった。
 けれど、これからはフルゥなしに一人でどうにかしないといけない。
一気に不安が芽を出す。

「ねえ、真白」
 フルゥが浮かない顔の僕に一歩近づいた。
 その瞳は夜明けの光を反射して、祈るように揺れていた。

「これから王都に入ったら、何を言われても、誰を信じても、最後に信じるのは君の心にしてね。」

「フルゥ……?」

「君が間違えなければ、それでいい。フルゥはずっと、真白を見てるから」

 そう言って、フルゥの身体が淡い光に包まれていく。
 光の粒が風に乗って、ゆっくりと空へ散っていく。
 その中で、僕は咄嗟に呼び止めようとしたが、声にならなかった。

 残されたのは、掌の中に残る温もりと、小さな金色の光の欠片。
 それが涙で滲んで見えた。

 王都の門の前に、ひとりきりで立つ。
 怖いけれど、胸の奥で、まだフルゥの声が聞こえた気がした。

 小さく頷いて、僕は門をくぐった。
 新しい光が、僕の世界を照らしていた。



















城の中は、天井が高く、まるで空に向かって伸びているようだった。
白い大理石の床は光を受けて淡く輝き、歩くたびに靴音が遠くまで響く。
玉座は広間の最奥、金糸をあしらった絨毯の延長に置かれている。
その中央に、国王がどっしりと腰を下ろしていた。
隣には、宝石を散りばめた衣をまとう王妃らしき女性。
さらにその横には、王子と王女と思しき若い王族の姿。
彼らの前に並ぶのは、整列した貴族たちと従者たち。
ただそこに立っているだけで、空気は息苦しいほどの重みを帯びていた。

案内役に導かれ、僕は王の前へと進み出た。
あまりの緊張に膝が笑っている。

ーーーしっかりしろ真白!大丈夫。ひとりじゃない。フルゥが見てくれてる

僕は自分自身を鼓舞しながら、指定の位置まで歩みを止め、片膝をついて深く頭を垂れた。

「面をあげよ」

王の低く響く声は、広間全体を震わせる。
恐る恐る顔を上げた僕の目に映ったのは、さっきまでの威圧が嘘のように、柔和な笑みを浮かべる王の姿だった。

「異世界人、月島真白よ。ここまでの旅路、さぞ骨が折れたであろう。其方をこの地へと召喚したのは、他ならぬこの我である。
敷いては、召喚の儀において座標が僅かに乱れたこと、保護の手が遅れたこと、心より詫びよう」

王の謝罪に対して、貴族たちが一斉に息を呑んだ。

「こ、恐縮です……。王自らそのように仰ってくださるなんて、身に余る光栄です」

絞り出すように、でも、決して震えないように声を出し、頭を深々と下げる。

「異世界人よ。我が呼び寄せたのは、其方の力をもって、この国を救うためだ。民は皆、魔王の影に怯え、希望を失いつつある。勇者と共に魔王城へ赴き、魔王を討ち取って欲しい。それこそが、其方に与えられた使命だ」



ーーー使命



フルゥが言っていた世界に戻るために、やり遂げなければならないことが
今、目の前で告げられた王の言葉と重なっていく。

魔王を倒し、この世界を救うことが元の世界へ戻る唯一の道なのかもしれない。

そう考えると同時に、王の言葉には抗いようのない重みがあった。
もし拒めばこの国ではそれだけで反逆者として処罰されるだろう。

だから僕が与えられた選択はひとつだけ。

「謹んで、お受けいたします」

「よかろう」

王は満足したようにゆるやかに頷いた。
その仕草ひとつで、広間の緊張感が僅かに溶けた気がした。

「勇者、戦士、聖女、前へ」

玉座の脇に控えていた従者が恭しく一歩進み、それぞれの名を呼ぶ。
その声に応じ、三人の影が静かに真白の前に歩み出た。

ひとりは白銀の鎧に身を包んだ青年、勇者アレン。
その隣には純白の衣をまとい、光を受けて銀の髪を揺らす聖女、レミーユ。
そして最後に、深緑の鎧をまとい、長剣を携えた戦士、オルフェンだ。

三人が並び立つ姿は、まさにこの国を支える象徴のようだ。
目の前に立つ彼らから放たれるオーラは、ただ者ではない。

王は再び玉座に身を預け、重々しく口を開いた。

「魔王討伐までの間、其方はこの三人と共に過ごすがよい。この三人は我が国の誇りであり、希望である。互いに力を合わせ、使命を果たすのだ」

「……はっ」

僕は膝をついたまま、深く頭を垂れた。

王の命を受け、僕にあてがわれたのは魔王討伐のためだけに建てられたという、王都の外れにある一軒の屋敷だった。
そこには既に、僕以外のパーティーメンバーが暮らしているという。
もちろん、部屋はそれぞれ別だ。


こうして僕は、勇者たちと共に暮らし始めた。
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