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二章
勇者パーティー
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王城を出て案内役に導かれ、王都の外れにある屋敷へと着いた。
白い石壁に蔦が這い、庭には手入れの行き届いた花々が咲いている。
扉を開けると、三人が既に中で待ち構えていた。
ーーーうわ、全員、目が怖い。
アレンは腕を組んで、壁にもたれたままこちらを見ようともしない。
レミーユは微笑んでいるけど、目の奥が笑っていない。
オルフェンに至っては、剣の柄に手を置いたままだ。
ーーーオルフェンさん、剣の柄に手を置いたままって、それ抜く準備できてない!?
え、ちょっと待って。これ、入った瞬間斬られたりしないよね?
喉が鳴る。まずは挨拶。落ち着け、僕。
「は、初めまして!つ、月島、ま、真白です!よろしくお願いしますっ」
声が裏返った。噛んだ。死にたい。
……フルゥ、助けて。
しかも、僕が挨拶をしてから、誰も返事をしてくれない。
ーーーなんで、無視
謎の沈黙が痛いほど長く感じる。
こんな時、フルゥがそばに居てくれたら、この沈黙を明るい声で切り裂いてくれただろうな
なんて、この状況でも現実逃避する余裕はあるんだ。人間って案外すごいな。
王様の御前では一人で乗り切ったものの、フルゥがいないことにまだ慣れていない。
言葉にできない不安に、それだけ頼りきっていたのだと実感した。
暫くして、三人のなかで最初に口を開いたのは、勇者アレンだった。
赤茶色の髪に灰色がかった緑色の目が鋭く僕を見据えている。
「王の命令とはいえ、素性も分からない奴をパーティーに入れるなんてな」
その声音は冷ややかで、刃のように硬い。
僕は少し身体を強張らせた。
「でも、異世界から来た方なのでしょう?」
レミーユが頬に手を添え、首を傾げ、穏やかに口を挟む。
細められた青色の目はガラス玉のようだ。
お人形のような大きい目に白い肌、血色のいいぷっくりとした唇。
そんな整った顔立ちに、洗礼された言葉遣いや動作が加われば、誰だってお嬢様と呼ぶような高貴な人なんだと察することができた。
「え、あ、はい。気がついたらこの世界にいて、王様から魔王討伐の使命を」
「へえ、そりゃ立派な話だ」
アレンが鼻で笑う。
その表情には、あからさまな不信と警戒がにじんでいた。
異世界から来たというのが信じられないのか。
異世界人だからこそ、信用ならないのか。
アレンの様子からすると、どっちもというのもあり得る。
「アレン、やめなさい」
レミーユがたしなめるように言ったが、悪びれる様子もなくアレンは肩をすくめるだけだった。
僕たちのやりとりを黙って見ているだけだったオルフェンが静かに口を開いた。
「召喚の座標が乱れた、という話は本当かい?王がそう言っていた」
肩まで伸びた淡い紫の髪を後ろで束ねた長身の彼は、
僕と同い年くらいのアレンやレミーユとは違って、二十代後半か三十代くらいに見えた。
どこか大人びていて、妙に落ち着いている。
「はい。僕は最初、原っぱのど真ん中にいました」
ゴルガさんに言われた通り、村のことは一切触れずに答える。
嘘は言っていないから大丈夫だろう。
「なるほど。なら、魔力の測定はまだだよね」
「測定……?」
「お前の力の量だよ」
アレンが皮肉っぽく笑う。
そんなことも知らないのかよっと馬鹿にしている表情にムッとした。
「勇者」と呼ばれる男のその笑みは、どこか幼稚で、挑発めいている。
僕が想像していた勇者像は、もっと優しくて、頼もしい人だった。
けれど、目の前の勇者と呼ばれる人物には、理想像からあまりにも程遠い性格の持ち主だ。
どちらかというとオルフェンの方が物腰が柔らかく、僕の勇者像に近い。
レミーユが軽くため息をつく。
「とにかく、今日は疲れたでしょう。部屋は空いているところを使ってください。詳しいことは明日、みんなで話しましょう」
僕が来る前までのレミーユの苦労が伺えた。
「はい。ありがとうございます」
だから、せめて礼だけは言った。
けれど、返ってくる言葉はひとつもない。
無視されるのは分かっていた。
それでも、胸の奥が少し痛んだ。
……昔も、こんなふうに感じたことがあった気がする。
僕は案内人に促されるように廊下へと歩き出す。
背中に残るのは、三人の視線。
それは敵意とは言わないまでも、「仲間」には程遠い。
扉の向こうに出て、ひとりになったとき、ようやく息を吐いた。
――まるで、知らない教室に転校してきた初日みたいだった。
孤独が胸の奥にじわりと滲んだ。
気づけば、心の中でフルゥに話しかけていた。
――ねえ、フルゥ。僕、ちゃんとやれるかな
返事なんてあるはずもないのに、耳の奥であの明るい声が聞こえた気がして、少しだけ息が楽になる。
あの村で過ごした穏やかな日々、レオの真面目な顔、ロラの笑い声、ミランダさんの優しい手。
どれも、もう遠い昔みたいだ。
この世界での僕の拠りどころは、まだあの村に置いてきたままなんだろう。
それでも、戻るわけにはいかない。
ここでやらなきゃ。フルゥが信じてくれたから。
胸の奥でそう呟いて、僕は小さく息を吸い込んだ。
割り当てられた自室に入ってからも胸の奥にぽっかり穴が開いたような感覚が広がる。
王様に謁見しただけでもすごく緊張したし、勇者パーティーの三人と話すのもまた別の緊張感があった。
長い緊張状態から少しだけ解放されたことで、身体に疲れがどっと現れる。
アレンの鋭い視線、レミーユの作り物めいた微笑み、オルフェンの穏やかだが決して相手に踏み込ませない距離感。
ーーパーティーって協力し合いながら敵を倒すんだよな
果たして僕たちにできるのか。
しばらくして、案内人が食事の準備ができたと伝えに来た。
僕はのそりと立ち上がり、部屋を出た。
屋敷の広間には、すでに長い食卓が用意されていた。
天井から吊るされた燭台の灯りが、淡く揺れて壁の絵画を照らしている。
銀の食器に並ぶ料理は見たことのないものばかりで、
その匂いさえも異国の香りがした。
「さ、座って」
レミーユが柔らかく促す。
彼女はテーブルの中央、上座に近い位置に腰掛け、
その隣にアレン、向かいにオルフェン、そして端に僕が座る。
「ここの料理長は王都でも評判なの。気に入ってもらえると嬉しいわ」
「ありがとうございます」
会話がそれっきり途切れる。
静かだ。気まずい空気の中でナイフとフォークが皿に当たる音だけが、響いていた。
「自室に戻る」
アレンがナイフとフォークをテーブルに置き、立ち上がる。
「えっ」
混乱する僕に目もくれず、そのまま自室へと戻っていった。
まだ、食べ始めてそんなに経っていないのに。
彼の皿にはほとんど手をつけていない料理が乗っていた。
僕はその様子を口をぽかんと開けて見ていたが、見慣れた光景なのか、残りの二人は黙々と食事を続けていた。
僕はフォークを動かしながら、どこを見ればいいのか分からなくなる。
美味しい料理のはずなのに、ほとんど味がしない。
ミランダさんが作ってくれた料理をレオとロラと四人で楽しく食べていた頃が懐かしい。
僕は勇気を振り絞って口を開いた。
緊張でナイフを持つ手が少し汗ばんでいる。
アレンもレミーユもオルフェンも人を寄せ付けないような冷たい空気をまとっているけれど、でも、だからこそ、この場で、少しでも距離を縮めなければ。
「……あ、あの。お二人は、どうしてこのパーティーへ?」
声が少し上ずってしまったけれど、なんとか言い切る。
言ってから、少し場違いだったかと不安になった。
が、返ってきたのは、迷いのない答えだった。
「陛下のためよ」
レミーユが即答する。背筋を伸ばしたまま、微笑を崩さずに。
「私は国王陛下に忠誠を誓っているの。聖女として、陛下の御心に従うことが、私の務めだから」
「俺も同じだ。陛下の下に仕えることを誇りとしている」
オルフェンも落ち着いた口調で続けた。
二人の言葉には一切の迷いも、躊躇もない。
ただ、当然のことを述べただけ、そんな風に聞こえた。
「そ、そうなんですね……」
「あなたはどうなの?」
レミーユの視線が、まっすぐ僕を射抜いた。
「僕も、そんな感じです」
僕はそれ以上何も言えず、視線をそっと落とした。
ここで正直に、僕は元の世界に帰るためです!なんて言える雰囲気じゃない。
彼らは王の忠誠を主に動いているのだから。
「まあ、素敵。あなたもなのね!」
思いがけず弾むような声だった。
微笑みがいっそう柔らかくなる。
「異世界から来たの方だから、そういう国王様への忠誠の心はないかと思っていたの。でも、私の思い違いだったみたい。嬉しいわ」
「え、あ、ありがとうございます……」
どう反応していいか分からず、とりあえず頭を下げる。
レミーユは満足そうに頷くと、グラスを手に取り静かに口をつけた。
白い石壁に蔦が這い、庭には手入れの行き届いた花々が咲いている。
扉を開けると、三人が既に中で待ち構えていた。
ーーーうわ、全員、目が怖い。
アレンは腕を組んで、壁にもたれたままこちらを見ようともしない。
レミーユは微笑んでいるけど、目の奥が笑っていない。
オルフェンに至っては、剣の柄に手を置いたままだ。
ーーーオルフェンさん、剣の柄に手を置いたままって、それ抜く準備できてない!?
え、ちょっと待って。これ、入った瞬間斬られたりしないよね?
喉が鳴る。まずは挨拶。落ち着け、僕。
「は、初めまして!つ、月島、ま、真白です!よろしくお願いしますっ」
声が裏返った。噛んだ。死にたい。
……フルゥ、助けて。
しかも、僕が挨拶をしてから、誰も返事をしてくれない。
ーーーなんで、無視
謎の沈黙が痛いほど長く感じる。
こんな時、フルゥがそばに居てくれたら、この沈黙を明るい声で切り裂いてくれただろうな
なんて、この状況でも現実逃避する余裕はあるんだ。人間って案外すごいな。
王様の御前では一人で乗り切ったものの、フルゥがいないことにまだ慣れていない。
言葉にできない不安に、それだけ頼りきっていたのだと実感した。
暫くして、三人のなかで最初に口を開いたのは、勇者アレンだった。
赤茶色の髪に灰色がかった緑色の目が鋭く僕を見据えている。
「王の命令とはいえ、素性も分からない奴をパーティーに入れるなんてな」
その声音は冷ややかで、刃のように硬い。
僕は少し身体を強張らせた。
「でも、異世界から来た方なのでしょう?」
レミーユが頬に手を添え、首を傾げ、穏やかに口を挟む。
細められた青色の目はガラス玉のようだ。
お人形のような大きい目に白い肌、血色のいいぷっくりとした唇。
そんな整った顔立ちに、洗礼された言葉遣いや動作が加われば、誰だってお嬢様と呼ぶような高貴な人なんだと察することができた。
「え、あ、はい。気がついたらこの世界にいて、王様から魔王討伐の使命を」
「へえ、そりゃ立派な話だ」
アレンが鼻で笑う。
その表情には、あからさまな不信と警戒がにじんでいた。
異世界から来たというのが信じられないのか。
異世界人だからこそ、信用ならないのか。
アレンの様子からすると、どっちもというのもあり得る。
「アレン、やめなさい」
レミーユがたしなめるように言ったが、悪びれる様子もなくアレンは肩をすくめるだけだった。
僕たちのやりとりを黙って見ているだけだったオルフェンが静かに口を開いた。
「召喚の座標が乱れた、という話は本当かい?王がそう言っていた」
肩まで伸びた淡い紫の髪を後ろで束ねた長身の彼は、
僕と同い年くらいのアレンやレミーユとは違って、二十代後半か三十代くらいに見えた。
どこか大人びていて、妙に落ち着いている。
「はい。僕は最初、原っぱのど真ん中にいました」
ゴルガさんに言われた通り、村のことは一切触れずに答える。
嘘は言っていないから大丈夫だろう。
「なるほど。なら、魔力の測定はまだだよね」
「測定……?」
「お前の力の量だよ」
アレンが皮肉っぽく笑う。
そんなことも知らないのかよっと馬鹿にしている表情にムッとした。
「勇者」と呼ばれる男のその笑みは、どこか幼稚で、挑発めいている。
僕が想像していた勇者像は、もっと優しくて、頼もしい人だった。
けれど、目の前の勇者と呼ばれる人物には、理想像からあまりにも程遠い性格の持ち主だ。
どちらかというとオルフェンの方が物腰が柔らかく、僕の勇者像に近い。
レミーユが軽くため息をつく。
「とにかく、今日は疲れたでしょう。部屋は空いているところを使ってください。詳しいことは明日、みんなで話しましょう」
僕が来る前までのレミーユの苦労が伺えた。
「はい。ありがとうございます」
だから、せめて礼だけは言った。
けれど、返ってくる言葉はひとつもない。
無視されるのは分かっていた。
それでも、胸の奥が少し痛んだ。
……昔も、こんなふうに感じたことがあった気がする。
僕は案内人に促されるように廊下へと歩き出す。
背中に残るのは、三人の視線。
それは敵意とは言わないまでも、「仲間」には程遠い。
扉の向こうに出て、ひとりになったとき、ようやく息を吐いた。
――まるで、知らない教室に転校してきた初日みたいだった。
孤独が胸の奥にじわりと滲んだ。
気づけば、心の中でフルゥに話しかけていた。
――ねえ、フルゥ。僕、ちゃんとやれるかな
返事なんてあるはずもないのに、耳の奥であの明るい声が聞こえた気がして、少しだけ息が楽になる。
あの村で過ごした穏やかな日々、レオの真面目な顔、ロラの笑い声、ミランダさんの優しい手。
どれも、もう遠い昔みたいだ。
この世界での僕の拠りどころは、まだあの村に置いてきたままなんだろう。
それでも、戻るわけにはいかない。
ここでやらなきゃ。フルゥが信じてくれたから。
胸の奥でそう呟いて、僕は小さく息を吸い込んだ。
割り当てられた自室に入ってからも胸の奥にぽっかり穴が開いたような感覚が広がる。
王様に謁見しただけでもすごく緊張したし、勇者パーティーの三人と話すのもまた別の緊張感があった。
長い緊張状態から少しだけ解放されたことで、身体に疲れがどっと現れる。
アレンの鋭い視線、レミーユの作り物めいた微笑み、オルフェンの穏やかだが決して相手に踏み込ませない距離感。
ーーパーティーって協力し合いながら敵を倒すんだよな
果たして僕たちにできるのか。
しばらくして、案内人が食事の準備ができたと伝えに来た。
僕はのそりと立ち上がり、部屋を出た。
屋敷の広間には、すでに長い食卓が用意されていた。
天井から吊るされた燭台の灯りが、淡く揺れて壁の絵画を照らしている。
銀の食器に並ぶ料理は見たことのないものばかりで、
その匂いさえも異国の香りがした。
「さ、座って」
レミーユが柔らかく促す。
彼女はテーブルの中央、上座に近い位置に腰掛け、
その隣にアレン、向かいにオルフェン、そして端に僕が座る。
「ここの料理長は王都でも評判なの。気に入ってもらえると嬉しいわ」
「ありがとうございます」
会話がそれっきり途切れる。
静かだ。気まずい空気の中でナイフとフォークが皿に当たる音だけが、響いていた。
「自室に戻る」
アレンがナイフとフォークをテーブルに置き、立ち上がる。
「えっ」
混乱する僕に目もくれず、そのまま自室へと戻っていった。
まだ、食べ始めてそんなに経っていないのに。
彼の皿にはほとんど手をつけていない料理が乗っていた。
僕はその様子を口をぽかんと開けて見ていたが、見慣れた光景なのか、残りの二人は黙々と食事を続けていた。
僕はフォークを動かしながら、どこを見ればいいのか分からなくなる。
美味しい料理のはずなのに、ほとんど味がしない。
ミランダさんが作ってくれた料理をレオとロラと四人で楽しく食べていた頃が懐かしい。
僕は勇気を振り絞って口を開いた。
緊張でナイフを持つ手が少し汗ばんでいる。
アレンもレミーユもオルフェンも人を寄せ付けないような冷たい空気をまとっているけれど、でも、だからこそ、この場で、少しでも距離を縮めなければ。
「……あ、あの。お二人は、どうしてこのパーティーへ?」
声が少し上ずってしまったけれど、なんとか言い切る。
言ってから、少し場違いだったかと不安になった。
が、返ってきたのは、迷いのない答えだった。
「陛下のためよ」
レミーユが即答する。背筋を伸ばしたまま、微笑を崩さずに。
「私は国王陛下に忠誠を誓っているの。聖女として、陛下の御心に従うことが、私の務めだから」
「俺も同じだ。陛下の下に仕えることを誇りとしている」
オルフェンも落ち着いた口調で続けた。
二人の言葉には一切の迷いも、躊躇もない。
ただ、当然のことを述べただけ、そんな風に聞こえた。
「そ、そうなんですね……」
「あなたはどうなの?」
レミーユの視線が、まっすぐ僕を射抜いた。
「僕も、そんな感じです」
僕はそれ以上何も言えず、視線をそっと落とした。
ここで正直に、僕は元の世界に帰るためです!なんて言える雰囲気じゃない。
彼らは王の忠誠を主に動いているのだから。
「まあ、素敵。あなたもなのね!」
思いがけず弾むような声だった。
微笑みがいっそう柔らかくなる。
「異世界から来たの方だから、そういう国王様への忠誠の心はないかと思っていたの。でも、私の思い違いだったみたい。嬉しいわ」
「え、あ、ありがとうございます……」
どう反応していいか分からず、とりあえず頭を下げる。
レミーユは満足そうに頷くと、グラスを手に取り静かに口をつけた。
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