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二章
双子
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この村に滞在してから数週間が経過した。
最初に比べれば、だいぶこの世界に馴染んできたと思う。
魔法は、一度体内の魔力を意識することができるようになればあとは簡単で、大半の生活魔法を習得することができた。
お皿洗いや洗濯、お風呂など洗浄魔法で一瞬で済むのだから感動した。
フルゥによると、あと攻撃魔法と回復魔法を習得できれば、この世界でも一人で生きていけるようになるらしい。
前の世界に戻るためとは言え、ゲームやアニメで見るだけだった魔法を自分の手で使えるようになっていくのは面白い。
「真白お兄ちゃん、今日も魔法の練習するの?」
いつのまにか後ろに立っていたのはレオの双子の妹であるロラだ。
大きなウサギの人形を大事そうに抱えている。
陽の光に透けた栗色の髪が、ふわりと揺れた。
「そうだよ。今日も頑張らないと」
僕が笑って答えると、ロラはほんの少しだけ寂しそうに目を伏せた。
「僕らも連れてけよ」
レオが腕を組んで歩いてくる。
ミランダさんの家に居候になって、二人とも過ごすうちにだいぶ打ち解けた。
二人は僕を見つけると一目散に駆け寄ってきてくれるようになった。
その度に、ギュっと抱きしめたくなるような衝動に駆られる。
ーーーきっとこれが母性か、いや、男だから父性か
僕はそんなことを考えながらも、フルゥを見上げた。
レオとロラを連れて行くのに、今日教わる魔法がが攻撃魔法なら、危なすぎて連れて行けない。
そんな僕の考えを察したのかフルゥはにっこり笑みを浮かべた。
「今日は回復魔法をやるよ!二人ともついてきなよ」
その一言に、二人ともぱっと顔を輝かせる。
この世界の常識では、生活魔法なら家庭教育の一環として親に教わるのだが、攻撃魔法や回復魔法は専門の教師から学校で教わるものらしい。
だから二人も回復魔法を見るのは初めてなんだとか。
「ミランダさん、二人を連れて広場に行ってもいいですか」
流石に無断で二人を連れ出すわけにはいかないので、暖炉のそばで編み物をしていたミランダさんに声をかける。
ミランダさんは顔を上げると、大いに頷いた。
「練習の邪魔じゃなかったら連れてってやってくれるかい?あの子たちも外に出た方がのびのび遊べていいだろうよ」
「はい!」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥の緊張がふっとほどけた。
何より、この世界で初めて誰かと一緒に出かけられることが、嬉しかった。
レオとロラも早速、外に出る準備を始めた。
ロラは麦わら帽子を被り、ウサギのぬいぐるみを優しく椅子にすわらせ、代わりにフルゥを抱っこする。
レオはドタドタと自室へ入り、小さな木刀を持って戻ってきた。
僕は三人分の軽食と水筒をミランダさんからもらったバックに詰めて肩に下げた。
二人を連れていつもの広場に到着する。
フルゥを抱えたロラは近くの切り株にちょこんと腰掛けた。
そこはフルゥが僕に魔法を教える時の定位置になっていた場所だ。
レオは広々とした広場で元気に駆け回る。
「あんまり遠くへいっちゃダメだぞー」
「わかってるー!」
無邪気にはしゃぎ回るレオに思わず頬を緩めると、僕はフルゥに向き直った。
「じゃあ、さっそく回復魔法について説明するよ」
「ああ、よろしく」
「回復魔法には外傷を治すものと、体力を回復するものの二種類があるよ。いずれもこんなふうに手に魔力を溜めて回復効果のある魔力を放出させればいいんだよ」
「わあ、キラキラしてるー!」
ロラがフルゥの出した光に向かって手を伸ばす。
その光は触れようとしたロラの手の中にゆっくりと吸収されていった。
「さあ、真白もやってみよう」
相変わらずフルゥの説明は雑だ。
「回復効果のある魔力ってなんだ?体内で生成されるのか?」
「気持ちの問題だよー、目の前に倒れてる人がいたら、助けてあげたいとか、病気を治したい、怪我を治したいとか。念じたことがそのまま魔力に反映されるの」
ーーーへぇー、そうなんだ。便利だね。
とはなれないんだけど。
要は気持ち一つで魔力の形を変えられるってことか。
実際に理解しようと頑張ったところで、話を聞くだけでは無理なんだ。
それくらいこの世界と元の世界の理屈は違っている。
実践して学ぶのが一番だというのに気がついた。
僕は手を前に出して手先に魔力を集める。
手探りで魔力を外に解放させるように力を緩めてみるけれど、せっかく手先に集めた魔力が身体全体に戻ってしまうような感覚があったため、すぐに手先に魔力を集め直した。
今度は力を緩めるんじゃなく、力をかけたまま押し出してみる。
すると、微量だが魔力が外に放出された。
「どうフルゥ、これであってる?」
「うーん、これはただの魔力が外に放出されただけだよ。回復効果はないね」
「フルーちゃんのみたいにキラキラしてない」
フルゥが腕組みをしながらいうと、続けてロラにも指摘される。
僕は気を取り直してもう一度手先に魔力を込めた。
今度は先ほどよりも綺麗な光の粒がてから湧き出てくる。
「真白お兄ちゃん成功してる!」
ロラは笑顔で言うけれど、フルゥは対照的な渋い顔をしていた。
「見た目は回復魔法っぽいけど、回復効果はほとんどない感じだね」
「なんだ、これは成功じゃないんだ」
僕はがっかりして肩を落とす。
が、生活魔法でも同じように失敗を繰り返していたのですぐに気を取り直して練習を再開した。
でも、何度やっても同じようにキラキラとした魔力が現れる。
回復効果は微塵もない魔法だけが繰り返し。
「僕って回復魔法の才能ないのか」
「真白は得意じゃないのかもね。誰だって苦手なことくらいあるよ!」
フルゥが笑顔で励ましてくれるけれど、ぶんぶん左右に揺れている尻尾の炎が顔に当たりそうで怖い。
「回復魔法はポーションとかで補えるから大丈夫だよ。明日は攻撃魔法をやってみよ!そっちが上手にできたら、攻撃魔法を極めて回復魔法なんて必要ないくらい強くなっちゃえばいいんだよ」
「うん、わかった」
回復魔法を使わないくらい強くなんてどんな英雄でも無理だろうと思うけど、フルゥが一生懸命に励まそうとしてくれているのがわかって僕は苦笑しながらも素直に頷いた。
練習を切り上げた後、帰る前にミランダさんからボワの実を取ってくるように頼まれていたことを思い出した。
「ロラ、このカゴにボワの実を取ってきてくれないか。僕はその間にレオを探して連れてくるよ」
ロラはカゴを両手で受け取りこくんと頷いた。
「ロラが一人だと心配だからフルゥはついてってくれ」
「りょーかーい!」
レオはというと魔法の練習に集中していたから視界から見えなくなるくらい遠くに行ってしまったようだ。
「おーい!レオ~!そろそろ帰るぞー!」
声を張り上げながら歩いていく。
広場の奥へ続く道の先には、木立の陰や小さな川辺がある。
特に危ない場所や危険な生物がいるわけではないが、子供を一人にしてよくないことが起こらないとは限らない。
もし、僕が気づかないうちに怪我でもしていたらどうする?
ミランダさんに預けてもらっているのに、僕がちゃんと見てやれなかったら。
「……もっと気をつけないと」
自分の軽率さに、思わずため息が漏れた。
ただ一緒に遊ぶだけじゃなくて、任されたってことを、もう少しちゃんと自覚しなきゃいけなかった。
魔法の練習ばかりに気を取られて、二人のことをちゃんと見ていなかった自分が情けない。
僕は反省しながら、レオが言ったであろう方向へ足を進めた。
「真白お兄ちゃーん!」
レオの声が聞こえて顔を上げると、彼は全身泥だらけで駆けてきた。
どうやら川のほうで転んだらしい。
頬には小さなかすり傷ができていて、うっすら血が滲んでいた。
「うわ、レオ、大丈夫か?」
「へへっ、ちょっと転んだだけ!平気だよ!」
レオは強がって笑ってみせるが、頬に血が垂れていくのを見て、僕は自然と手を伸ばしていた。
さっきはフルゥに失敗って言われたけれど、試しに、もう一度だけやってみよう。
手に魔力を集め、さっきと同じ手順で光を放つ。
淡い光がレオの頬を包み込むと、その血の跡がみるみる消えていった。
わずか数秒後、傷は完全に消え、そこにはなめらかな肌だけが残っていた。
「……え?」
ーーー成功した?
「すっげぇ! 痛くなくなった! ねえ真白お兄ちゃん、今の、回復魔法だよね!?」
レオは興奮したように跳ねながら頬を触っている。
僕も信じられず、自分の手を見つめた。
さっきと見た目も感覚も同じはずなのに。
失敗すると思ったけれど、レオの頬の傷は完璧に塞がって綺麗になっている。
フルゥが失敗って言ったのは嘘だった?
実際に、練習の時は怪我をした人を治したわけじゃなかったから、僕が魔力だけを見て成功や失敗を判断をするのは不可能だった。
いやいや、そんなはずはないと首を振る。
ーーーフルゥが嘘ついてどうするんだ
きっと、今のはたまたま成功したんだろ
そのとき、ボワの実でいっぱいになったカゴを抱えたロラとフルゥが戻ってきた。
カゴは重そうでフルゥもロラと一緒に、飛びながらそのカゴを持つのを手伝っている。
「向こうの木の近くにたくさんなってたから取ってきたよ」
「ありがとう。ミランダさんも喜ぶよ」
僕はカゴを受け取り、ロラの頭を撫でる。
日が暮れる前に帰ろうと、僕たちは支度をする。
荷物を全部バックにしまっていると、切り株のそばに落ちていた枯葉を見つけた。
ここら辺の木は全部切られていているのに。
向こうから風に飛ばされてきたんだろうか。
けれど、拾おうとした僕の指先が触れた瞬間、葉は光の粒になって消えてしまった。
「……あれ?」
確かに掴もうとしていた葉っぱが見当たらない。
風に飛ばされたのかと思ったが、実際、風は少しも吹いていなかった。
夜になり、ミランダさんの店に戻ったあと、僕は自室でフルゥと二人きりになった。
「ねえフルゥ、さっきの広場で帰る時にさ、拾おうとした落ち葉が光の粒になって消えたんだ。すごく綺麗だったんだけど、これもこっちの世界では普通のことなの?」
「流石にそんな葉っぱこの世界にもないよ。真白が無意識に魔法を使ってたとかじゃない?」
フルゥに淡々と告げられ嫌でも納得してしまう。
「綺麗だったからレオとロラにも見せたかったんだけどな」
「おかしなこと言ってないで早く寝よ!」
フルゥにうながされ、ベッドの中にのそのそと入る。
今日も魔法の練習に店の手伝いと一日中動いて疲れた。
明日も動けるように、ちゃんと身体を休ませよう。
翌日。
フルゥに教わった攻撃魔法の練習は、驚くほどすんなりと成功した。
魔力の扱い方を理解した今、炎も風も水も土も、思い描いた通りに形になる。
こうして僕は、この世界で生きていくために必要な最低限の魔法の力を手に入れた。
最初に比べれば、だいぶこの世界に馴染んできたと思う。
魔法は、一度体内の魔力を意識することができるようになればあとは簡単で、大半の生活魔法を習得することができた。
お皿洗いや洗濯、お風呂など洗浄魔法で一瞬で済むのだから感動した。
フルゥによると、あと攻撃魔法と回復魔法を習得できれば、この世界でも一人で生きていけるようになるらしい。
前の世界に戻るためとは言え、ゲームやアニメで見るだけだった魔法を自分の手で使えるようになっていくのは面白い。
「真白お兄ちゃん、今日も魔法の練習するの?」
いつのまにか後ろに立っていたのはレオの双子の妹であるロラだ。
大きなウサギの人形を大事そうに抱えている。
陽の光に透けた栗色の髪が、ふわりと揺れた。
「そうだよ。今日も頑張らないと」
僕が笑って答えると、ロラはほんの少しだけ寂しそうに目を伏せた。
「僕らも連れてけよ」
レオが腕を組んで歩いてくる。
ミランダさんの家に居候になって、二人とも過ごすうちにだいぶ打ち解けた。
二人は僕を見つけると一目散に駆け寄ってきてくれるようになった。
その度に、ギュっと抱きしめたくなるような衝動に駆られる。
ーーーきっとこれが母性か、いや、男だから父性か
僕はそんなことを考えながらも、フルゥを見上げた。
レオとロラを連れて行くのに、今日教わる魔法がが攻撃魔法なら、危なすぎて連れて行けない。
そんな僕の考えを察したのかフルゥはにっこり笑みを浮かべた。
「今日は回復魔法をやるよ!二人ともついてきなよ」
その一言に、二人ともぱっと顔を輝かせる。
この世界の常識では、生活魔法なら家庭教育の一環として親に教わるのだが、攻撃魔法や回復魔法は専門の教師から学校で教わるものらしい。
だから二人も回復魔法を見るのは初めてなんだとか。
「ミランダさん、二人を連れて広場に行ってもいいですか」
流石に無断で二人を連れ出すわけにはいかないので、暖炉のそばで編み物をしていたミランダさんに声をかける。
ミランダさんは顔を上げると、大いに頷いた。
「練習の邪魔じゃなかったら連れてってやってくれるかい?あの子たちも外に出た方がのびのび遊べていいだろうよ」
「はい!」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥の緊張がふっとほどけた。
何より、この世界で初めて誰かと一緒に出かけられることが、嬉しかった。
レオとロラも早速、外に出る準備を始めた。
ロラは麦わら帽子を被り、ウサギのぬいぐるみを優しく椅子にすわらせ、代わりにフルゥを抱っこする。
レオはドタドタと自室へ入り、小さな木刀を持って戻ってきた。
僕は三人分の軽食と水筒をミランダさんからもらったバックに詰めて肩に下げた。
二人を連れていつもの広場に到着する。
フルゥを抱えたロラは近くの切り株にちょこんと腰掛けた。
そこはフルゥが僕に魔法を教える時の定位置になっていた場所だ。
レオは広々とした広場で元気に駆け回る。
「あんまり遠くへいっちゃダメだぞー」
「わかってるー!」
無邪気にはしゃぎ回るレオに思わず頬を緩めると、僕はフルゥに向き直った。
「じゃあ、さっそく回復魔法について説明するよ」
「ああ、よろしく」
「回復魔法には外傷を治すものと、体力を回復するものの二種類があるよ。いずれもこんなふうに手に魔力を溜めて回復効果のある魔力を放出させればいいんだよ」
「わあ、キラキラしてるー!」
ロラがフルゥの出した光に向かって手を伸ばす。
その光は触れようとしたロラの手の中にゆっくりと吸収されていった。
「さあ、真白もやってみよう」
相変わらずフルゥの説明は雑だ。
「回復効果のある魔力ってなんだ?体内で生成されるのか?」
「気持ちの問題だよー、目の前に倒れてる人がいたら、助けてあげたいとか、病気を治したい、怪我を治したいとか。念じたことがそのまま魔力に反映されるの」
ーーーへぇー、そうなんだ。便利だね。
とはなれないんだけど。
要は気持ち一つで魔力の形を変えられるってことか。
実際に理解しようと頑張ったところで、話を聞くだけでは無理なんだ。
それくらいこの世界と元の世界の理屈は違っている。
実践して学ぶのが一番だというのに気がついた。
僕は手を前に出して手先に魔力を集める。
手探りで魔力を外に解放させるように力を緩めてみるけれど、せっかく手先に集めた魔力が身体全体に戻ってしまうような感覚があったため、すぐに手先に魔力を集め直した。
今度は力を緩めるんじゃなく、力をかけたまま押し出してみる。
すると、微量だが魔力が外に放出された。
「どうフルゥ、これであってる?」
「うーん、これはただの魔力が外に放出されただけだよ。回復効果はないね」
「フルーちゃんのみたいにキラキラしてない」
フルゥが腕組みをしながらいうと、続けてロラにも指摘される。
僕は気を取り直してもう一度手先に魔力を込めた。
今度は先ほどよりも綺麗な光の粒がてから湧き出てくる。
「真白お兄ちゃん成功してる!」
ロラは笑顔で言うけれど、フルゥは対照的な渋い顔をしていた。
「見た目は回復魔法っぽいけど、回復効果はほとんどない感じだね」
「なんだ、これは成功じゃないんだ」
僕はがっかりして肩を落とす。
が、生活魔法でも同じように失敗を繰り返していたのですぐに気を取り直して練習を再開した。
でも、何度やっても同じようにキラキラとした魔力が現れる。
回復効果は微塵もない魔法だけが繰り返し。
「僕って回復魔法の才能ないのか」
「真白は得意じゃないのかもね。誰だって苦手なことくらいあるよ!」
フルゥが笑顔で励ましてくれるけれど、ぶんぶん左右に揺れている尻尾の炎が顔に当たりそうで怖い。
「回復魔法はポーションとかで補えるから大丈夫だよ。明日は攻撃魔法をやってみよ!そっちが上手にできたら、攻撃魔法を極めて回復魔法なんて必要ないくらい強くなっちゃえばいいんだよ」
「うん、わかった」
回復魔法を使わないくらい強くなんてどんな英雄でも無理だろうと思うけど、フルゥが一生懸命に励まそうとしてくれているのがわかって僕は苦笑しながらも素直に頷いた。
練習を切り上げた後、帰る前にミランダさんからボワの実を取ってくるように頼まれていたことを思い出した。
「ロラ、このカゴにボワの実を取ってきてくれないか。僕はその間にレオを探して連れてくるよ」
ロラはカゴを両手で受け取りこくんと頷いた。
「ロラが一人だと心配だからフルゥはついてってくれ」
「りょーかーい!」
レオはというと魔法の練習に集中していたから視界から見えなくなるくらい遠くに行ってしまったようだ。
「おーい!レオ~!そろそろ帰るぞー!」
声を張り上げながら歩いていく。
広場の奥へ続く道の先には、木立の陰や小さな川辺がある。
特に危ない場所や危険な生物がいるわけではないが、子供を一人にしてよくないことが起こらないとは限らない。
もし、僕が気づかないうちに怪我でもしていたらどうする?
ミランダさんに預けてもらっているのに、僕がちゃんと見てやれなかったら。
「……もっと気をつけないと」
自分の軽率さに、思わずため息が漏れた。
ただ一緒に遊ぶだけじゃなくて、任されたってことを、もう少しちゃんと自覚しなきゃいけなかった。
魔法の練習ばかりに気を取られて、二人のことをちゃんと見ていなかった自分が情けない。
僕は反省しながら、レオが言ったであろう方向へ足を進めた。
「真白お兄ちゃーん!」
レオの声が聞こえて顔を上げると、彼は全身泥だらけで駆けてきた。
どうやら川のほうで転んだらしい。
頬には小さなかすり傷ができていて、うっすら血が滲んでいた。
「うわ、レオ、大丈夫か?」
「へへっ、ちょっと転んだだけ!平気だよ!」
レオは強がって笑ってみせるが、頬に血が垂れていくのを見て、僕は自然と手を伸ばしていた。
さっきはフルゥに失敗って言われたけれど、試しに、もう一度だけやってみよう。
手に魔力を集め、さっきと同じ手順で光を放つ。
淡い光がレオの頬を包み込むと、その血の跡がみるみる消えていった。
わずか数秒後、傷は完全に消え、そこにはなめらかな肌だけが残っていた。
「……え?」
ーーー成功した?
「すっげぇ! 痛くなくなった! ねえ真白お兄ちゃん、今の、回復魔法だよね!?」
レオは興奮したように跳ねながら頬を触っている。
僕も信じられず、自分の手を見つめた。
さっきと見た目も感覚も同じはずなのに。
失敗すると思ったけれど、レオの頬の傷は完璧に塞がって綺麗になっている。
フルゥが失敗って言ったのは嘘だった?
実際に、練習の時は怪我をした人を治したわけじゃなかったから、僕が魔力だけを見て成功や失敗を判断をするのは不可能だった。
いやいや、そんなはずはないと首を振る。
ーーーフルゥが嘘ついてどうするんだ
きっと、今のはたまたま成功したんだろ
そのとき、ボワの実でいっぱいになったカゴを抱えたロラとフルゥが戻ってきた。
カゴは重そうでフルゥもロラと一緒に、飛びながらそのカゴを持つのを手伝っている。
「向こうの木の近くにたくさんなってたから取ってきたよ」
「ありがとう。ミランダさんも喜ぶよ」
僕はカゴを受け取り、ロラの頭を撫でる。
日が暮れる前に帰ろうと、僕たちは支度をする。
荷物を全部バックにしまっていると、切り株のそばに落ちていた枯葉を見つけた。
ここら辺の木は全部切られていているのに。
向こうから風に飛ばされてきたんだろうか。
けれど、拾おうとした僕の指先が触れた瞬間、葉は光の粒になって消えてしまった。
「……あれ?」
確かに掴もうとしていた葉っぱが見当たらない。
風に飛ばされたのかと思ったが、実際、風は少しも吹いていなかった。
夜になり、ミランダさんの店に戻ったあと、僕は自室でフルゥと二人きりになった。
「ねえフルゥ、さっきの広場で帰る時にさ、拾おうとした落ち葉が光の粒になって消えたんだ。すごく綺麗だったんだけど、これもこっちの世界では普通のことなの?」
「流石にそんな葉っぱこの世界にもないよ。真白が無意識に魔法を使ってたとかじゃない?」
フルゥに淡々と告げられ嫌でも納得してしまう。
「綺麗だったからレオとロラにも見せたかったんだけどな」
「おかしなこと言ってないで早く寝よ!」
フルゥにうながされ、ベッドの中にのそのそと入る。
今日も魔法の練習に店の手伝いと一日中動いて疲れた。
明日も動けるように、ちゃんと身体を休ませよう。
翌日。
フルゥに教わった攻撃魔法の練習は、驚くほどすんなりと成功した。
魔力の扱い方を理解した今、炎も風も水も土も、思い描いた通りに形になる。
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