異世界から戻ったら再会した幼馴染から溺愛される話〜君の想いが届くまで〜

一優璃 /Ninomae Yuuri

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二章

朔視点 空白

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朝の通学、教室のざわめき、笑い声。
でも、そこに真白の声だけはない。
耐えがたい空虚に襲われても、世界は否応なく回り続ける。

授業が終わると、いつもより早く鞄を掴んで教室を出る。
今日こそ、真白の意識が戻っているかもしれない——そんな希望を、何度抱いては打ち砕かれただろう。

あの事故から八ヶ月が過ぎ、俺は二年に進級した。
一年の頃、教室の一番後ろには真白の席が残されていた。

でも二年になった春、その席も、名簿の中の名前にも、真白はどこにもいなかった。





「朔くん! このあとうちらとカラオケ行かない?」

「朔、北高の女子がお前に会いたいってさ。ボウリング付き合えよ」





クラスの女子が擦り寄ってきても、男子が愛想を振ってきても、全部ノイズにしか聞こえない。

――真白がいないのに、おまえら平気で笑ってられるんだな。

時間が経てば忘れるのか。
時間が経てば、傷が癒えるのか。


俺は、真白が眠り続けるほどに、時間が経つほどに苦しさが募っていく。





そんな当たり前のことさえ、胸の奥でやけに腹が立った。





放課後、俺の後をつけた奴がいたらしい。
俺がいつも放課後に病院に行って知り合いのお見舞いをしているという話が広がった。



好奇心に満ちた人間の欲を満たそうとする目を向けられることほど気色悪いことはない。



「大丈夫?ご家族が病気なのね。朔くん、私が支えてあげるから無理しないでね」

「俺も一緒に着いてってやるよ」

頼んでない。
気持ち悪い。
俺に触るな。

声をかけてくるやつほど、実際には何も分かっていない。

表面だけ取り繕った人間関係が、余計に虚しく感じられる。


友達とか、もういいや。




真白が目を覚ましてくれさえすれば、俺は。









トラックに衝突したあの日、真白は奇跡的に目立った外傷はなかった。あのときは本気で、神様っているんだと思った。
でも奇跡はそこまでで、真白は今も眠ったままだ。

はっきりと目に焼き付いているのは、真白の身体が宙を舞った瞬間だ。
世界が止まり、息をすることすら忘れた。足は動かず、ただ見ているだけだった。

俺は自分が嫌いだ。
真白を追い詰め、その場にいて、助けられなかった。身勝手で情けなくて、それでもなお真白のそばにいたいと思ってしまう。最低だ。

あの日、世界から色が消えた。
楽しいとか嬉しいといった温かい色は消え、残ったのは灰色だけ。
悲しみと苦しみと自己嫌悪が、俺の世界を塗りつぶしている。






そうだ。今日は、真白の誕生日だ。
プレゼントを買おう。真白は小さい頃から可愛いものが好きだったから可愛いものを。
雑貨屋の棚を見回して、手が止まった。
柔らかい色のリボンがついた小物入れ。
真白が持っていたら似合うだろうな。
胸がぎゅっと締めつけられる。渡せる日が来るのだろうか。


病院へ向かう道すがら、袋をぶら下げながら何度も謝る練習をした。
「ごめん」「許してくれ」たったそれだけの言葉が怖くて言えなかった俺が、今さら。

受付はもう慣れたものだ。
真白の病室の前で、軽くノックを打つ。
今日も反応はない。
深呼吸してドアノブを握る。

「真白、入るぞ」

ベッドの上の真白は変わらず眠っている。
細い腕、透き通るような肌。
どれだけ呼びかけても瞼は開かない。
初めてこの病室に入った日、俺はその場に崩れ落ちた。
生きているのに魂が抜けたような真白をみて、現実が息を奪った。

鼻には栄養チューブ、腕には点滴。それでも穏やかな寝顔をしている。

真白に会いに来ると、最初の何ヶ月は佐藤や鈴木と鉢合わせることが多かった。
だが、真白の家族に会ったのはこの八ヶ月で一度だけ。しかも来たのは母親ひとりだけだった。

その日、俺が病室にいるとき、真白の母は静かに入ってきた。
「起きたときに使うかもしれないから」と言って、荷物をいくつかベッドサイドに置く。
真白の顔を一瞥すると、言葉もなく出て行った。

滞在時間——五分ほど。

あれが「母親」というものなのだろうか。もっと涙を流したり、すがりついたりするものじゃないのか。
それとも、八ヶ月も経てば、そういう感情は静まってしまうのか。俺にはわからなかった。ただ、胸の奥がざらついた。

俺は椅子に腰を下ろし、真白の手を見つめる。細くて冷たい手。それでも、確かに生きている。
その事実だけが、ここにいる理由だった。

「17歳の誕生日、おめでとう」
袋から小物入れを取り出して、ベッドの上にそっと置く。
「俺からのなんて嫌かもしれないけど、受け取ってくれたら嬉しい」

返事はない。それでもいい。真白のそばにいられるだけで十分だ。面会時間ぎりぎりまで、俺は眠る横顔を見つめ続けた。

青白い頬に触れると、かすかな温もりがあった。その感触だけで涙が零れる。

――もし、このまま目覚めなかったら。

その悪い考えが何度も頭を過る。
「好きだ」と言えなかったこと、傷つけることしかできなかった過去。真白をいじめた日々は、俺の胸に消えない刻印のように残っている。













ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

真白が異世界で少しずつ前へ進もうとしている一方で、
朔はまだ、あの日から動けずにいます。

次回の更新は 11月15日 になります。
少し間が空きますが、引き続き読んでいただけると嬉しいです。



















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