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16章 魂の欠片
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ある日の午後、ティーナは一人、台所に立っていた。甘く香ばしい匂いが辺りに漂っている。
「できた!」
窯から取り出したのは、綺麗に並んだ丸いクッキーだった。
孤児院では滅多に材料が手に入らなかったが、たまに寄付や安売りのものを使って、先生や他の子供たちと一緒に作ることがあった。
ここでは、無駄遣いしなければある程度は食材を自由に使っていいと言われているので、休みを利用して久しぶりに作ってみた。
ティーナは出来立ての熱々のそれを一つ、口に入れた。しっとりした食感、甘すぎない味、なかなかの出来栄えだ。
セシェルにお茶菓子として提供したいが、島の民の口に合う味なのか不安が残る。別の誰かに味見をしてもらった方が良さそうだ。
誰か食べてくれそうな人はいるだろうか。ティーナはさっと後片付けを終え、作ったクッキーの半分を皿に盛って戸棚にしまった。そして残り半分を、布を敷いた小さなかごの中に入れ、台所を出た。
***
ティーナは中庭で、手合わせをしているラッシュとキルシェを見つけた。
ラッシュの繰り出す槍での突きを、キルシェは難なくいなす。しかしラッシュも負けていない。キルシェの剣先をかわしながら、反撃の機会をうかがっている。
しばらくそのやり取りが続き、やがて、お互いが得物を下ろした。
その時を見計らい、ティーナは二人に近づいていった。ラッシュはともかく、王の子であるキルシェに味見を頼むのは良くないかもしれないが、この二人なら正直な感想を言ってくれそうだ。
「ラッシュ、キルシェ、今いい?」
ラッシュが振り向いた。
「あ、ティーナ、どうしたんだ?」
「これ、わたしが作ったんだけど、良かったらどうかな?」
ティーナが持つかごの中を見た二人が、ぱっと顔を輝かせた。
「え、ティーナが作ったの、食べていいのか!?」
「おお、美味そうだな」
ラッシュが子供のようにはしゃぎ、クッキーを一つ頬張った。
「美味しい! ティーナすごいな、本当に美味しいぞ!」
続いてキルシェがクッキーを口に入れた。
「うん、美味い! 」
二人の太鼓判があれば、きっとセシェルにも喜んでもらえるだろう。ティーナはほっと胸を撫でおろした。
「ティーナ、これは俺たちが全部もらっていいのか?」
キルシェの問いに、ティーナは頷いた。
「うん。そんなに気に入ってくれたの?」
「ああ。エレアスにも食わせてやりたい。そうだ、一緒に来いよ。ラッシュ、お前も」
「俺もいいのか?」
「たまにはいいだろ。エレアスもきっと喜ぶ」
そう言って、キルシェがさっと翼を広げた。
「ティーナは俺と行こう!」
ラッシュがふわりとティーナを抱え上げ、自分の翼を出した。
本人は楽しくてやっているのだが、予測不可能な動きをするキルシェより、ラッシュに運んでもらう方がティーナにとっては安心だった。
ティーナはクッキーの入ったかごをしっかり抱え、ラッシュの腕の中に納まった。
***
エレアスの住む家を訪れるのは二度目だ。静かで、風の音だけが聴こえる。
「ここ、本当は用がない時は来ちゃいけないんだ。けれどたまーに、キルシェに連れてきてもらってた」
ラッシュが嬉しそうに言い、ティーナを地面に下ろした。
キルシェが小屋の戸を叩く。現れたエレアスは、前に会った時と同じく、綺麗に髪を結い上げて、白い衣をまとっていた。
「……今日はずいぶんと大所帯ね?」
キルシェの後ろに控えているラッシュとティーナを見て、エレアスが呆れたように笑った。
「ティーナが作った菓子があるんだ。皆で食おうと思ってな」
エレアスはティーナが持っているかごに目をとめ、小屋の扉を大きく開けて三人を招き入れてくれた。
「どうぞ、大したおもてなしはできないけれど」
キルシェとラッシュに続き、ティーナが小屋の中に足を踏み入れたその時だった。
(来なさい)
「え……?」
どこからともなく声がして、ティーナは振り返った。他には誰もいない。誰の声だろう?
少し考えてふと思い出した。ティーナがこの声を聴くのは初めてではない。そうだ、この声は――
「ティーナ?」
エレアスの声がする。それなのにティーナは、彼女のもとへ行くことができなかった。
呼ばれている。誰かが呼んでいる。行かなければ。
胸が、肩が、腕が、模様が隠れている場所が熱を持ち始めた。初めてこの場所を訪れた時にも起きたことだ。以前は一瞬で終わったが、今は違う。じわじわと、熱が強まっていく。
頭がぼんやりする。周りの景色が霞んでいく。
(来なさい)
また声がした。ティーナは引っ張られるように、踵をかえして外へ飛び出した。
「ティーナ!」
エレアスの呼びかけを気にも留めず、ティーナは走った。向かった先は、四隅に柱が立っている、石造りの広場だ。翼を広げた神鳥の姿が彫られているその場所の中央で、ティーナはぴたりと足を止めた。
(あるべき場所に)
もう一度声が響く。その瞬間、ティーナの体の模様が、強い光を放った。
長袖の服を着ているのに、それを突き抜けるほどの眩しさだ。
その光を見た途端、ティーナははっと我にかえった。
「あっ!」
ティーナが袖をまくると、そこには隠し続けてきた模様がくっきり浮かび上がっていた。昼の太陽のもとでも分かる程に光っている。
ティーナが顔をあげると、広場のふちに呆然と立っているエレアス達と目があった。
気づかれてしまった。知られてしまった。ずっと隠し続けてきた、忌まわしい秘密を。
「消えて! 消えてよ!」
ティーナは半狂乱で体の模様をこすった。見つかってしまったら、また怪物の子だと言われてしまう。せっかくできた友達が、皆離れていってしまう。
しかしどんなに念じても、触っても、光も模様も消えなかった。
「ティーナ」
気が付くと、エレアスが目の前に立っていた。
「違うんです! 違うの! わたしは何も知らないんです! 怪物なんかじゃない!」
ティーナは叫び、しゃがみこんだ。もう終わりだ。普通の人間ではないことがばれてしまった。涙がどんどん溢れてくる。
泣きじゃくるティーナを、温かいものが包んだ。エレアスが優しく抱きしめてくれていた。
「大丈夫。大丈夫よ」
その声は落ち着いていた。エレアスの手が、優しくティーナの背をなでた。
「貴女は怪物ではないわ。誰も、貴女を嫌ったりしない」
しばらくして、ティーナの涙が止まった。気持ちが落ち着いていくのを感じる。それと共に、体の模様が発していた熱も、光も引いていった。
「落ち着いた?」
エレアスがティーナと目を合わせ、微笑んだ。ティーナがうなずくと、彼女は立ち上がり、手をティーナに差し伸べた。
「立てるかしら?」
ティーナはエレアスの手をとり、よろよろと立ち上がった。光ってはいないものの、模様は相変わらず浮かび上がったままだ。
そのままゆっくりエレアスに手を引かれ、離れたところで立っているキルシェとラッシュのもとへ戻った。二人とも、たった今起きたことが飲みこめておらず、棒立ちになっている。
先に口を開いたのはキルシェだった。
「今のは……何だ?」
「驚いたわ。でも、きっと間違いない。ティーナ、貴女がこの島へ来たのは、偶然ではなかったのよ」
エレアスの声が弾んでいる。何が間違いないのだろうか。
「あの……どういうことですか?」
「貴女こそが、神鳥さまの失われた魂の欠片だわ」
昔、神鳥と、反旗を翻した人間たちの戦いの果てに、神鳥は魂の欠片を失ってしまった。エレアスとキルシェが聞かせてくれた話だ。
この島とは何の関係もないはずの自分がなぜ神鳥の魂を宿しているのか、ティーナに心当たりがあるはずもない。
「本当なのか? ティーナはこの島の生まれでもないんだぞ」
「ティーナ、模様を見せてくれる?」
エレアスに言われ、ティーナは右の袖をめくった。濃い青色の模様をエレアスはじっと見つめた。
「間違いないわ。これは神鳥さまのしるしよ」
「どうして分かるんですか?」
ティーナの体に現れているのは、文字や何かの絵ではない。曲線や歪んだ円といったものが集まっていて、とても意味があるとは思えなかった。
「ただの模様に見えるかもしれないけれど、これは神鳥さまの力を表すものなの」
「ああ、確かにそうだな。王の正装にもこの模様が使われてる」
キルシェもティーナの腕の模様を見て、納得したようだ。
「ティーナ、いつからこの模様はあったの?」
「わたしを育ててくれた人の話では、赤ちゃんの頃からあったそうです。最初は一部にしかなかったのに、大きくなるのと一緒に、どんどん広がっていって……周りにはそんな人、誰もいなかったから……ずっと隠していました」
冷ややかな視線と、聞こえてくる陰口、過去の辛い記憶が思い出される。
「ここに来てからもずっとか……。まあ、無理もねえな」
「ごめんなさい。わたし、何も知らなくて……。もしこんな模様があるって知られたらと思うと怖かった。皆に、嫌われたくなかったんです」
「……嫌いになんかなるわけないだろ」
ずっと黙って成り行きを見ていたラッシュが、口を開いた。
「俺たちは友達なんだ。模様があるとか、翼がないとか、そんなことは関係ない。怯えないで、もっと俺たちを信じろよ」
ティーナの両目から、また涙が零れてきた。恐怖でも絶望でもない、安堵の涙だった。
「ラッシュの言う通りだ。これからは何も怖がらなくて大丈夫だぜ。お前はいい奴だし」
キルシェの言葉に、エレアスも頷いて、ティーナの背中をまたさすってくれた。
しかし、とキルシェが腕組みをした。
「ティーナが神鳥の魂の欠片だってのはいいが、これからどうしたらいいんだ?」
「そうね……神鳥さまが目覚めた訳ではない。きっとまだ何か必要なことがあるのでしょう」
「とにかく親父に知らせないと。エレアス、お前も一緒に来てくれ」
エレアスとキルシェが翼を広げて飛び立つ。
ティーナもラッシュに抱えてもらい、城へ戻っていった。
「できた!」
窯から取り出したのは、綺麗に並んだ丸いクッキーだった。
孤児院では滅多に材料が手に入らなかったが、たまに寄付や安売りのものを使って、先生や他の子供たちと一緒に作ることがあった。
ここでは、無駄遣いしなければある程度は食材を自由に使っていいと言われているので、休みを利用して久しぶりに作ってみた。
ティーナは出来立ての熱々のそれを一つ、口に入れた。しっとりした食感、甘すぎない味、なかなかの出来栄えだ。
セシェルにお茶菓子として提供したいが、島の民の口に合う味なのか不安が残る。別の誰かに味見をしてもらった方が良さそうだ。
誰か食べてくれそうな人はいるだろうか。ティーナはさっと後片付けを終え、作ったクッキーの半分を皿に盛って戸棚にしまった。そして残り半分を、布を敷いた小さなかごの中に入れ、台所を出た。
***
ティーナは中庭で、手合わせをしているラッシュとキルシェを見つけた。
ラッシュの繰り出す槍での突きを、キルシェは難なくいなす。しかしラッシュも負けていない。キルシェの剣先をかわしながら、反撃の機会をうかがっている。
しばらくそのやり取りが続き、やがて、お互いが得物を下ろした。
その時を見計らい、ティーナは二人に近づいていった。ラッシュはともかく、王の子であるキルシェに味見を頼むのは良くないかもしれないが、この二人なら正直な感想を言ってくれそうだ。
「ラッシュ、キルシェ、今いい?」
ラッシュが振り向いた。
「あ、ティーナ、どうしたんだ?」
「これ、わたしが作ったんだけど、良かったらどうかな?」
ティーナが持つかごの中を見た二人が、ぱっと顔を輝かせた。
「え、ティーナが作ったの、食べていいのか!?」
「おお、美味そうだな」
ラッシュが子供のようにはしゃぎ、クッキーを一つ頬張った。
「美味しい! ティーナすごいな、本当に美味しいぞ!」
続いてキルシェがクッキーを口に入れた。
「うん、美味い! 」
二人の太鼓判があれば、きっとセシェルにも喜んでもらえるだろう。ティーナはほっと胸を撫でおろした。
「ティーナ、これは俺たちが全部もらっていいのか?」
キルシェの問いに、ティーナは頷いた。
「うん。そんなに気に入ってくれたの?」
「ああ。エレアスにも食わせてやりたい。そうだ、一緒に来いよ。ラッシュ、お前も」
「俺もいいのか?」
「たまにはいいだろ。エレアスもきっと喜ぶ」
そう言って、キルシェがさっと翼を広げた。
「ティーナは俺と行こう!」
ラッシュがふわりとティーナを抱え上げ、自分の翼を出した。
本人は楽しくてやっているのだが、予測不可能な動きをするキルシェより、ラッシュに運んでもらう方がティーナにとっては安心だった。
ティーナはクッキーの入ったかごをしっかり抱え、ラッシュの腕の中に納まった。
***
エレアスの住む家を訪れるのは二度目だ。静かで、風の音だけが聴こえる。
「ここ、本当は用がない時は来ちゃいけないんだ。けれどたまーに、キルシェに連れてきてもらってた」
ラッシュが嬉しそうに言い、ティーナを地面に下ろした。
キルシェが小屋の戸を叩く。現れたエレアスは、前に会った時と同じく、綺麗に髪を結い上げて、白い衣をまとっていた。
「……今日はずいぶんと大所帯ね?」
キルシェの後ろに控えているラッシュとティーナを見て、エレアスが呆れたように笑った。
「ティーナが作った菓子があるんだ。皆で食おうと思ってな」
エレアスはティーナが持っているかごに目をとめ、小屋の扉を大きく開けて三人を招き入れてくれた。
「どうぞ、大したおもてなしはできないけれど」
キルシェとラッシュに続き、ティーナが小屋の中に足を踏み入れたその時だった。
(来なさい)
「え……?」
どこからともなく声がして、ティーナは振り返った。他には誰もいない。誰の声だろう?
少し考えてふと思い出した。ティーナがこの声を聴くのは初めてではない。そうだ、この声は――
「ティーナ?」
エレアスの声がする。それなのにティーナは、彼女のもとへ行くことができなかった。
呼ばれている。誰かが呼んでいる。行かなければ。
胸が、肩が、腕が、模様が隠れている場所が熱を持ち始めた。初めてこの場所を訪れた時にも起きたことだ。以前は一瞬で終わったが、今は違う。じわじわと、熱が強まっていく。
頭がぼんやりする。周りの景色が霞んでいく。
(来なさい)
また声がした。ティーナは引っ張られるように、踵をかえして外へ飛び出した。
「ティーナ!」
エレアスの呼びかけを気にも留めず、ティーナは走った。向かった先は、四隅に柱が立っている、石造りの広場だ。翼を広げた神鳥の姿が彫られているその場所の中央で、ティーナはぴたりと足を止めた。
(あるべき場所に)
もう一度声が響く。その瞬間、ティーナの体の模様が、強い光を放った。
長袖の服を着ているのに、それを突き抜けるほどの眩しさだ。
その光を見た途端、ティーナははっと我にかえった。
「あっ!」
ティーナが袖をまくると、そこには隠し続けてきた模様がくっきり浮かび上がっていた。昼の太陽のもとでも分かる程に光っている。
ティーナが顔をあげると、広場のふちに呆然と立っているエレアス達と目があった。
気づかれてしまった。知られてしまった。ずっと隠し続けてきた、忌まわしい秘密を。
「消えて! 消えてよ!」
ティーナは半狂乱で体の模様をこすった。見つかってしまったら、また怪物の子だと言われてしまう。せっかくできた友達が、皆離れていってしまう。
しかしどんなに念じても、触っても、光も模様も消えなかった。
「ティーナ」
気が付くと、エレアスが目の前に立っていた。
「違うんです! 違うの! わたしは何も知らないんです! 怪物なんかじゃない!」
ティーナは叫び、しゃがみこんだ。もう終わりだ。普通の人間ではないことがばれてしまった。涙がどんどん溢れてくる。
泣きじゃくるティーナを、温かいものが包んだ。エレアスが優しく抱きしめてくれていた。
「大丈夫。大丈夫よ」
その声は落ち着いていた。エレアスの手が、優しくティーナの背をなでた。
「貴女は怪物ではないわ。誰も、貴女を嫌ったりしない」
しばらくして、ティーナの涙が止まった。気持ちが落ち着いていくのを感じる。それと共に、体の模様が発していた熱も、光も引いていった。
「落ち着いた?」
エレアスがティーナと目を合わせ、微笑んだ。ティーナがうなずくと、彼女は立ち上がり、手をティーナに差し伸べた。
「立てるかしら?」
ティーナはエレアスの手をとり、よろよろと立ち上がった。光ってはいないものの、模様は相変わらず浮かび上がったままだ。
そのままゆっくりエレアスに手を引かれ、離れたところで立っているキルシェとラッシュのもとへ戻った。二人とも、たった今起きたことが飲みこめておらず、棒立ちになっている。
先に口を開いたのはキルシェだった。
「今のは……何だ?」
「驚いたわ。でも、きっと間違いない。ティーナ、貴女がこの島へ来たのは、偶然ではなかったのよ」
エレアスの声が弾んでいる。何が間違いないのだろうか。
「あの……どういうことですか?」
「貴女こそが、神鳥さまの失われた魂の欠片だわ」
昔、神鳥と、反旗を翻した人間たちの戦いの果てに、神鳥は魂の欠片を失ってしまった。エレアスとキルシェが聞かせてくれた話だ。
この島とは何の関係もないはずの自分がなぜ神鳥の魂を宿しているのか、ティーナに心当たりがあるはずもない。
「本当なのか? ティーナはこの島の生まれでもないんだぞ」
「ティーナ、模様を見せてくれる?」
エレアスに言われ、ティーナは右の袖をめくった。濃い青色の模様をエレアスはじっと見つめた。
「間違いないわ。これは神鳥さまのしるしよ」
「どうして分かるんですか?」
ティーナの体に現れているのは、文字や何かの絵ではない。曲線や歪んだ円といったものが集まっていて、とても意味があるとは思えなかった。
「ただの模様に見えるかもしれないけれど、これは神鳥さまの力を表すものなの」
「ああ、確かにそうだな。王の正装にもこの模様が使われてる」
キルシェもティーナの腕の模様を見て、納得したようだ。
「ティーナ、いつからこの模様はあったの?」
「わたしを育ててくれた人の話では、赤ちゃんの頃からあったそうです。最初は一部にしかなかったのに、大きくなるのと一緒に、どんどん広がっていって……周りにはそんな人、誰もいなかったから……ずっと隠していました」
冷ややかな視線と、聞こえてくる陰口、過去の辛い記憶が思い出される。
「ここに来てからもずっとか……。まあ、無理もねえな」
「ごめんなさい。わたし、何も知らなくて……。もしこんな模様があるって知られたらと思うと怖かった。皆に、嫌われたくなかったんです」
「……嫌いになんかなるわけないだろ」
ずっと黙って成り行きを見ていたラッシュが、口を開いた。
「俺たちは友達なんだ。模様があるとか、翼がないとか、そんなことは関係ない。怯えないで、もっと俺たちを信じろよ」
ティーナの両目から、また涙が零れてきた。恐怖でも絶望でもない、安堵の涙だった。
「ラッシュの言う通りだ。これからは何も怖がらなくて大丈夫だぜ。お前はいい奴だし」
キルシェの言葉に、エレアスも頷いて、ティーナの背中をまたさすってくれた。
しかし、とキルシェが腕組みをした。
「ティーナが神鳥の魂の欠片だってのはいいが、これからどうしたらいいんだ?」
「そうね……神鳥さまが目覚めた訳ではない。きっとまだ何か必要なことがあるのでしょう」
「とにかく親父に知らせないと。エレアス、お前も一緒に来てくれ」
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ティーナもラッシュに抱えてもらい、城へ戻っていった。
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