32 / 44
31章 異形の翼
しおりを挟む
平和な島が戦場と化している。
異形の翼を持つ集団と、誇り高き島の戦士たちがぶつかり合っている。城に敵を近づけさせまいと、戦士長や王がいなくとも、各々力を振り絞っていた。
魔術を操るルイゼルは、戦いの要だ。放つ炎が敵の翼を焼き、風の刃が体を裂き、起こす稲妻が動きを止める。
弓の名手ワートは、宙を飛び回りながら、次々と矢を放つ。射貫かれた敵は地に墜ちることを余儀なくされた。
フローレはルイゼルの周りで、近寄って来る敵兵を蹴散らしていた。鉄球の一撃をくらい、一人の敵が倒れ伏した。しかし、よろめきながらも立ち上がり、なおも武器を振るってくる。その表情は虚ろで、眉のひとつも動かさない。悲鳴も、雄叫びすらも発さない。
「なんなの!? この人たちおかしいよ!」
戦い続けながら、フローレは叫んだ。あまりにも不気味すぎる。動いているのに、彼らからは命を感じない。
「彼らは感情も、感覚も消されているのです! もはや人ではない、傀儡です!」
ルイゼルは敵兵から、魔力を感じ取っていた。彼らは確かに人間だ。しかし強い魔法で操られている。感情は失われ、自分が何者かも分かっていない。痛みや恐怖も感じないようにされている。肉体が動かなくなるまでは、武器を持ち何度でも起き上がって戦おうとする。
おそらく、彼らを束ねる王が成したことだ。
「なんて醜い……!」
体が炎に包まれ落ちていく敵を見ながら、ルイゼルは顔を歪めた。
「フローレ、まだ戦えますか!」
「大丈夫! 負けない、絶対に!」
早くこの悪夢を終わらせなければ、自分の力はそのためにある。
フローレは敵を睨みつけ、武器を振り上げた。
***
キルシェは忙しなくその場を行ったり来たりしていた。
エレアスが心配そうな目で見ているのにも気づいていたが、どうしても落ち着くことができなかった。
父の命を奪った仇がいる。復讐心にとりつかれて、己を見失ってはいけないのは分かっている。それでも、今すぐにでも飛び出していきたかった。仲間を鼓舞し、共に戦いたかった。
「キルシェ」
呼び止められ、キルシェははっと振り向いた。ディオネスが険しい顔で立っていた。意味もなくうろつくキルシェを見かねたのだろう。
「ディオネス……悪い、落ち着かないとな」
「生きて帰って来る、と約束できますか?」
苦言を呈されると思っていたのに、ディオネスの言葉は予想外だった。
「……え?」
「貴方も出て行って、戦士たちと共に戦い、勝利して戻ってくると約束できますか?」
キルシェはディオネスに向き直り、頷いた。
「ああ。絶対に生きて戻る。約束する」
「……行きなさい。ここはわたしが引き受けます」
「ありがとう、ディオネス」
規律を重んじ、危険を冒さない真面目さで、ディオネスはローク王に深く信頼されていた。
今、彼はキルシェという新たな王に仕える身として、キルシェの意志を尊重してくれた。
戦況がどうなっているか分からない以上、一刻も早く向かいたい。キルシェは広間を突っ切って走り、城を飛び出した。
「……お許しください。ローク様」
去り行くキルシェの背中を見つめながら、ディオネスは呟いた。
本来なら、安易に王が戦いに出ていくべきではない。王は生きて、最後まで民を導く存在でいなければいけない。
ロークが生きていたならば、きっとキルシェを行かせるなと言われただろう。
子供の頃からやんちゃと悪戯ばかりで、キルシェには大変に手を焼いた。思慮深いロークとはまったく違い、一か所にじっとしていることを何より嫌う風のような青年、それがキルシェだ。
しかし同時に、何事も恐れない勇気、常識にとらわれない柔軟さ、人の本質を見抜く聡明さを持っている。彼の中には、確かにロークと同じ、王の資質が備わっている。
仲間と肩を並べ、共に戦う時、その資質はまばゆい輝きを放つ。ディオネスは、その光に島の未来を託した。
***
アルフィオンは、敵と味方が入り乱れる間を縫って、敵将の姿を探していた。
飛ぶことのできない自分は、この戦いにおいては大きく行動が制限される。しかし、地上戦では誰よりも上手く立ち回れるよう鍛えてきた。地に堕とされて追い込まれた仲間をかばい、何人かの敵を切り裂いた。
この中に、自分の血縁がいるかもしれない――アルフィオンは剣を握る手に力をこめ、その考えを頭から追い出した。物言わぬ人形と化している彼らに情けなどかけてはいけない。元凶は敵の長だ。実の父を殺めたあの男。今度こそ息の根を止めてみせる。
男は合戦の真ん中にいた。骨をつなぎ合わせてできている翼で宙に浮いている。何人かの戦士が彼に向かっていったが、周りを飛ぶ敵兵や、男の剣の一振りに邪魔をされ、なかなか近づける者がいない。
空を見上げるアルフィオンと男の目があった。男が真っすぐアルフィオンの方へ降りてきた。
アルフィオンの攻撃を、男は容易く受け止めた。アルフィオンは体勢を変え、突き、斬りを繰り返したが、男には傷ひとつつけられない。
「可哀そうに。翼がなければ辛いだろう」
アルフィオンの剣筋を見切りながら、男は言った。
「アルフィオン、飛びたいと思わないか。わたしに従うと言うなら、翼を授けてやるぞ」
「黙れ!」
そんな甘言には絆されない。アルフィオンは憎悪をこめた目で男を睨みつけた。
「ああ、その顔、お前の父によく似ている。優秀な男だった。妻を娶り、お前という子をもうけた途端、奴は変わってしまった」
男の目が赤く光った。
その時、アルフィオンは妙な感覚に陥った。
「我が一族の血を引く者は、皆、わたしのものだ」
体が軽くなり、何も感じない。自分が誰か分からない。
男は赤い目でアルフィオンを見つめ続けている。
アルフィオンの手が止まった。
「神鳥の翼を持つ者は忌むべき敵だ。アルフィオン、奴らを殺せ。お前のいるべき場所はわたしの傍らだ」
周りに響いているはずの戦士たちの声が、武器がぶつかる音が遠くなっていく。男の声だけが、アルフィオンの頭の中で朗々と響く。
――神鳥の翼を持つ者は、敵。殺せ。
アルフィオン、お前のいるべき場所は――
「ちがう……!」
アルフィオンは声を振り絞った。震えるほど強く拳を握り、必死で薄れゆく意識をつなぎ留めた。
「お前の奴隷になるくらいなら……翼などいらない! 俺の家族は、仲間はここにいる! 俺の居場所はここだ!」
叫んだ瞬間、アルフィオンの意識がはっきり戻った。
しかしその時、男が剣を振り上げて迫ってきた。
アルフィオンが死を覚悟した刹那、何者かが男に高速でぶつかり、その動きを止めた。
「キルシェ……!」
「遅くなって悪かった」
男がキルシェに向き直り、憎々し気に呻いた。キルシェが剣を構えた。
男はキルシェに狙いを変えたかと思うと、急に空に目をやった。そして何かを呟き、翼で飛び立った。
その両脇に、敵兵が一人ずつついて一緒に飛んでいく。
「待て!」
「キルシェ、俺は後から追いかける!」
アルフィオンの言葉にキルシェは頷き、空へ舞い上がった。
***
ティーナはラッシュと二人で、森の中の小さな洞穴に身を隠していた。
洞穴の入り口は幕のように垂れ下がった植物で覆われているため、何も知らなければ見つけることはかなり難しいはずだ。
自分の心臓の音が聞こえてきそうなほど、辺りは静かだった。
今頃、他の皆はどうしているだろう。もし戦士たちが負けてしまったら、誰も迎えに来なかったら――ティーナの胸に不安が募る。
しかし、その思いをティーナは懸命に振り払った。きっと大丈夫だ。信じるしかない。
隣に、ラッシュがぴったりくっついている。彼の体温を感じられるお陰で、ティーナは取り乱さずにいることができた。
ラッシュの顔は強張っていた。彼もまた、不安と戦っている。
敵に居場所をさとられないよう、余計な会話はしてはいけない。時々、ラッシュはティーナと目を合わせて、大丈夫だというように軽く頷いてくれた。
身を隠して、どのくらい経っただろうか。まともに休んでおらず、外の様子が分からないせいで、時間の感覚がなくなってきている。
今こうしている間にも、戦士たちは傷つき、子供たちは怯えている。
どうか、人々の笑顔が溢れる島に戻って欲しい――ティーナが念じたその時だった。
「わっ!」
突然起こったことに、ティーナは思わず声を上げた。
体に浮かび上がっている神鳥のしるしが、光を放っている。羽織っていた外套を突き抜けるほど、その輝きは強かった。
「これは……!」
ラッシュも驚いて、目を丸くしている。
なぜ今になって模様が光り始めたのか、ティーナにも分からない。
(時は来た)
「……!」
聞こえてきた声に、ティーナは顔を上げた。聞いたことのある声だ。以前、エレアスたちの前で、初めて模様が表れた時と同じものだった。
(来なさい)
呼ばれている。神鳥が、魂の欠片を呼んでいる。
強い力に引っ張られるように、ティーナは立ち上がった。
「ティーナ!?」
ラッシュが慌ててティーナの手を掴んだ。
しかし、ここにとどまっていてはいけない。神鳥の目覚めの時がきた。
「ラッシュ、神鳥さまが呼んでいるの。行かなくちゃ」
「行くってどこに!?」
ある風景が、ティーナの頭にはっきりと浮かび上がった。エレアスが住む小屋がある場所だ。崖の上にある広場、神鳥の姿が彫られた石の床。その場所が、ティーナを呼んでいた。
「エレアスさんが住んでいるところに」
飛んでいけばすぐだが、ティーナの神鳥のしるしは輝き続けている。見つかってしまったら、敵はなんとしてもティーナを捕らえようとするだろう。
見つからないよう、隠れながら進める場所を突っ切るしかない。それはティーナとラッシュにとって、命がけの行為だ。
神鳥が目覚めれば、襲撃者たちを退けてくれるはず、それを信じて走るしかない。
ラッシュは戸惑う素振りを見せたが、やがて意を決したかのように立ち上がった。
「分かった。行こう」
神鳥の待つ場所へ、絶対にたどり着く。
二人は洞穴を飛び出した。
異形の翼を持つ集団と、誇り高き島の戦士たちがぶつかり合っている。城に敵を近づけさせまいと、戦士長や王がいなくとも、各々力を振り絞っていた。
魔術を操るルイゼルは、戦いの要だ。放つ炎が敵の翼を焼き、風の刃が体を裂き、起こす稲妻が動きを止める。
弓の名手ワートは、宙を飛び回りながら、次々と矢を放つ。射貫かれた敵は地に墜ちることを余儀なくされた。
フローレはルイゼルの周りで、近寄って来る敵兵を蹴散らしていた。鉄球の一撃をくらい、一人の敵が倒れ伏した。しかし、よろめきながらも立ち上がり、なおも武器を振るってくる。その表情は虚ろで、眉のひとつも動かさない。悲鳴も、雄叫びすらも発さない。
「なんなの!? この人たちおかしいよ!」
戦い続けながら、フローレは叫んだ。あまりにも不気味すぎる。動いているのに、彼らからは命を感じない。
「彼らは感情も、感覚も消されているのです! もはや人ではない、傀儡です!」
ルイゼルは敵兵から、魔力を感じ取っていた。彼らは確かに人間だ。しかし強い魔法で操られている。感情は失われ、自分が何者かも分かっていない。痛みや恐怖も感じないようにされている。肉体が動かなくなるまでは、武器を持ち何度でも起き上がって戦おうとする。
おそらく、彼らを束ねる王が成したことだ。
「なんて醜い……!」
体が炎に包まれ落ちていく敵を見ながら、ルイゼルは顔を歪めた。
「フローレ、まだ戦えますか!」
「大丈夫! 負けない、絶対に!」
早くこの悪夢を終わらせなければ、自分の力はそのためにある。
フローレは敵を睨みつけ、武器を振り上げた。
***
キルシェは忙しなくその場を行ったり来たりしていた。
エレアスが心配そうな目で見ているのにも気づいていたが、どうしても落ち着くことができなかった。
父の命を奪った仇がいる。復讐心にとりつかれて、己を見失ってはいけないのは分かっている。それでも、今すぐにでも飛び出していきたかった。仲間を鼓舞し、共に戦いたかった。
「キルシェ」
呼び止められ、キルシェははっと振り向いた。ディオネスが険しい顔で立っていた。意味もなくうろつくキルシェを見かねたのだろう。
「ディオネス……悪い、落ち着かないとな」
「生きて帰って来る、と約束できますか?」
苦言を呈されると思っていたのに、ディオネスの言葉は予想外だった。
「……え?」
「貴方も出て行って、戦士たちと共に戦い、勝利して戻ってくると約束できますか?」
キルシェはディオネスに向き直り、頷いた。
「ああ。絶対に生きて戻る。約束する」
「……行きなさい。ここはわたしが引き受けます」
「ありがとう、ディオネス」
規律を重んじ、危険を冒さない真面目さで、ディオネスはローク王に深く信頼されていた。
今、彼はキルシェという新たな王に仕える身として、キルシェの意志を尊重してくれた。
戦況がどうなっているか分からない以上、一刻も早く向かいたい。キルシェは広間を突っ切って走り、城を飛び出した。
「……お許しください。ローク様」
去り行くキルシェの背中を見つめながら、ディオネスは呟いた。
本来なら、安易に王が戦いに出ていくべきではない。王は生きて、最後まで民を導く存在でいなければいけない。
ロークが生きていたならば、きっとキルシェを行かせるなと言われただろう。
子供の頃からやんちゃと悪戯ばかりで、キルシェには大変に手を焼いた。思慮深いロークとはまったく違い、一か所にじっとしていることを何より嫌う風のような青年、それがキルシェだ。
しかし同時に、何事も恐れない勇気、常識にとらわれない柔軟さ、人の本質を見抜く聡明さを持っている。彼の中には、確かにロークと同じ、王の資質が備わっている。
仲間と肩を並べ、共に戦う時、その資質はまばゆい輝きを放つ。ディオネスは、その光に島の未来を託した。
***
アルフィオンは、敵と味方が入り乱れる間を縫って、敵将の姿を探していた。
飛ぶことのできない自分は、この戦いにおいては大きく行動が制限される。しかし、地上戦では誰よりも上手く立ち回れるよう鍛えてきた。地に堕とされて追い込まれた仲間をかばい、何人かの敵を切り裂いた。
この中に、自分の血縁がいるかもしれない――アルフィオンは剣を握る手に力をこめ、その考えを頭から追い出した。物言わぬ人形と化している彼らに情けなどかけてはいけない。元凶は敵の長だ。実の父を殺めたあの男。今度こそ息の根を止めてみせる。
男は合戦の真ん中にいた。骨をつなぎ合わせてできている翼で宙に浮いている。何人かの戦士が彼に向かっていったが、周りを飛ぶ敵兵や、男の剣の一振りに邪魔をされ、なかなか近づける者がいない。
空を見上げるアルフィオンと男の目があった。男が真っすぐアルフィオンの方へ降りてきた。
アルフィオンの攻撃を、男は容易く受け止めた。アルフィオンは体勢を変え、突き、斬りを繰り返したが、男には傷ひとつつけられない。
「可哀そうに。翼がなければ辛いだろう」
アルフィオンの剣筋を見切りながら、男は言った。
「アルフィオン、飛びたいと思わないか。わたしに従うと言うなら、翼を授けてやるぞ」
「黙れ!」
そんな甘言には絆されない。アルフィオンは憎悪をこめた目で男を睨みつけた。
「ああ、その顔、お前の父によく似ている。優秀な男だった。妻を娶り、お前という子をもうけた途端、奴は変わってしまった」
男の目が赤く光った。
その時、アルフィオンは妙な感覚に陥った。
「我が一族の血を引く者は、皆、わたしのものだ」
体が軽くなり、何も感じない。自分が誰か分からない。
男は赤い目でアルフィオンを見つめ続けている。
アルフィオンの手が止まった。
「神鳥の翼を持つ者は忌むべき敵だ。アルフィオン、奴らを殺せ。お前のいるべき場所はわたしの傍らだ」
周りに響いているはずの戦士たちの声が、武器がぶつかる音が遠くなっていく。男の声だけが、アルフィオンの頭の中で朗々と響く。
――神鳥の翼を持つ者は、敵。殺せ。
アルフィオン、お前のいるべき場所は――
「ちがう……!」
アルフィオンは声を振り絞った。震えるほど強く拳を握り、必死で薄れゆく意識をつなぎ留めた。
「お前の奴隷になるくらいなら……翼などいらない! 俺の家族は、仲間はここにいる! 俺の居場所はここだ!」
叫んだ瞬間、アルフィオンの意識がはっきり戻った。
しかしその時、男が剣を振り上げて迫ってきた。
アルフィオンが死を覚悟した刹那、何者かが男に高速でぶつかり、その動きを止めた。
「キルシェ……!」
「遅くなって悪かった」
男がキルシェに向き直り、憎々し気に呻いた。キルシェが剣を構えた。
男はキルシェに狙いを変えたかと思うと、急に空に目をやった。そして何かを呟き、翼で飛び立った。
その両脇に、敵兵が一人ずつついて一緒に飛んでいく。
「待て!」
「キルシェ、俺は後から追いかける!」
アルフィオンの言葉にキルシェは頷き、空へ舞い上がった。
***
ティーナはラッシュと二人で、森の中の小さな洞穴に身を隠していた。
洞穴の入り口は幕のように垂れ下がった植物で覆われているため、何も知らなければ見つけることはかなり難しいはずだ。
自分の心臓の音が聞こえてきそうなほど、辺りは静かだった。
今頃、他の皆はどうしているだろう。もし戦士たちが負けてしまったら、誰も迎えに来なかったら――ティーナの胸に不安が募る。
しかし、その思いをティーナは懸命に振り払った。きっと大丈夫だ。信じるしかない。
隣に、ラッシュがぴったりくっついている。彼の体温を感じられるお陰で、ティーナは取り乱さずにいることができた。
ラッシュの顔は強張っていた。彼もまた、不安と戦っている。
敵に居場所をさとられないよう、余計な会話はしてはいけない。時々、ラッシュはティーナと目を合わせて、大丈夫だというように軽く頷いてくれた。
身を隠して、どのくらい経っただろうか。まともに休んでおらず、外の様子が分からないせいで、時間の感覚がなくなってきている。
今こうしている間にも、戦士たちは傷つき、子供たちは怯えている。
どうか、人々の笑顔が溢れる島に戻って欲しい――ティーナが念じたその時だった。
「わっ!」
突然起こったことに、ティーナは思わず声を上げた。
体に浮かび上がっている神鳥のしるしが、光を放っている。羽織っていた外套を突き抜けるほど、その輝きは強かった。
「これは……!」
ラッシュも驚いて、目を丸くしている。
なぜ今になって模様が光り始めたのか、ティーナにも分からない。
(時は来た)
「……!」
聞こえてきた声に、ティーナは顔を上げた。聞いたことのある声だ。以前、エレアスたちの前で、初めて模様が表れた時と同じものだった。
(来なさい)
呼ばれている。神鳥が、魂の欠片を呼んでいる。
強い力に引っ張られるように、ティーナは立ち上がった。
「ティーナ!?」
ラッシュが慌ててティーナの手を掴んだ。
しかし、ここにとどまっていてはいけない。神鳥の目覚めの時がきた。
「ラッシュ、神鳥さまが呼んでいるの。行かなくちゃ」
「行くってどこに!?」
ある風景が、ティーナの頭にはっきりと浮かび上がった。エレアスが住む小屋がある場所だ。崖の上にある広場、神鳥の姿が彫られた石の床。その場所が、ティーナを呼んでいた。
「エレアスさんが住んでいるところに」
飛んでいけばすぐだが、ティーナの神鳥のしるしは輝き続けている。見つかってしまったら、敵はなんとしてもティーナを捕らえようとするだろう。
見つからないよう、隠れながら進める場所を突っ切るしかない。それはティーナとラッシュにとって、命がけの行為だ。
神鳥が目覚めれば、襲撃者たちを退けてくれるはず、それを信じて走るしかない。
ラッシュは戸惑う素振りを見せたが、やがて意を決したかのように立ち上がった。
「分かった。行こう」
神鳥の待つ場所へ、絶対にたどり着く。
二人は洞穴を飛び出した。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。
潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
それは思い出せない思い出
あんど もあ
ファンタジー
俺には、食べた事の無いケーキの記憶がある。
丸くて白くて赤いのが載ってて、切ると三角になる、甘いケーキ。自分であのケーキを作れるようになろうとケーキ屋で働くことにした俺は、無意識に周りの人を幸せにしていく。
孤児が皇后陛下と呼ばれるまで
香月みまり
ファンタジー
母を亡くして天涯孤独となり、王都へ向かう苓。
目的のために王都へ向かう孤児の青年、周と陸
3人の出会いは世界を巻き込む波乱の序章だった。
「後宮の棘」のスピンオフですが、読んだことのない方でも楽しんでいただけるように書かせていただいております。
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる