【完】クレオメの時間〜花屋と極道〜

ムラサキ

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対峙

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 小夜が学校に来なくなってから武流は二十四時間飽きることなく苛立っていた。小夜の携帯にも繋がらない。何が起きたのか全くわからない。担任に問いただしてもぐずぐずした答えしか返ってこなかった。おそらく学校側も何もわかっていないのだ。家に帰り父親に問いただそうも最近、夜遅くに帰っては朝早くに出て行ってしまう。加えて数日前には久しぶりに派手に返り血まみれのスーツで帰ってきていた。何も変わらない現状に武流は遂に痺れを切らし、学校終わりにある場所に向かった。
 歩いた先にあったのは朔也の店、『frorist』だった。武流は焦りと苛立ちを意識的に落ち着かせようと一息を吐くと店内に入った。
 店のドアの鐘の甲高い音が響き渡る。中には朔也一人だけがいた。

「いらっしゃいませ…。君…」
「小夜はどこだ。」
「…何のことだ?」
「とぼけるな!小夜をどこに隠した!」

武流は気づかないうちに朔也の胸ぐらを掴んでいた。よく見ると以前会った時より少しやつれている。目の下のクマも酷い。様子のおかしさに武流は少し動揺した。

「急になんだ!…落ち着け!」

朔也は武流が動揺し力を緩めたところを狙ってその手を解いた。その言葉で少しは落ち着いた武流だったが、朔也を見る眼光は強さを増した。

「小夜がしばらく学校に来てないんだ!母親の命日には一緒にいたんだろ!」
「…俺も何が起きているのかわからない。知っていること全て話すから、一旦中に入れ。」

朔也は興奮している武流に対してやけに落ち着いていた。その態度が余計に武流の気持ちを逆撫でした。朔也がCLOSEに看板を返すと武流を中に招いた。中は暗く、花を扱っているからか湿気でじめっとしていた。武流は警戒しながらも朔也の言われるようにその場にあった丸椅子に座った。朔也は二人分のコーヒーを淹れた。その様子に武流は遂に我慢できなくなった。

「なんでそんな悠長にしていられるんだよ。小夜が危ない目にあってるかもしれないんだぞ!」
「おい、落ち着けって言ってるだろ。できる話もできねぇ。」

困惑している武流に朔也はコーヒーを手渡した。

「小夜はきっと家にいる。」
「家って…」
「お前、名前は?」
「武流。」
「武流か。白輪高校なら後輩だな。」
「何だよ。急に先輩マウントかよ。お前の話なんか興味ないんだよ。」
「小夜とはクラスメイトなんだろ?」
「あぁ…、」
「好きなのか?」

朔也の突拍子もない質問に息が詰まったが臆せず答えた。

「あぁ、好きだ。」
「…そうか。」

朔也は持っていたマグカップをテーブルに置いた。

「俺も、小夜のことが好きだ。」
「は…?何だよ…急に…」
「俺が知っていることは話す。だけど、お前が知っていることも話してほしい。」
「…。」
「あいつは、小夜は俺に何か隠してるんだ。」

武流は朔也の泣きそうな顔に黙った。しばらく黙り込んだ後、分かったと一言かけ、そこから朔也は夏夜の命日にあったことを伝えた。武流はおそらく出会した男は自分の父親であるということも伝えた。そして自分達は親同士が決めた婚約があることも伝え、それは小夜自身まだ知らないことまでも伝えた。

「そうか…。」
「それと小夜がお前に隠してる秘密も知ってる。だけど俺からの口からはそれは言えない。小夜がお前に知られたくないんだろ?小夜が嫌がることをしたくない。」
「…。」
「それにそれを知ったところでお前は小夜を救えない。」
「…どうしてそう言えるんだ?」
「あいつと俺が同じだからだ。」
「はぁ…。高校生に対して感情的になるのは良くないことを自覚して敢えて言わせてもらうが、」
「…。」

朔也は立ち上がるとゆっくりと武流に近づいた。まるで見下ろしにかかっているように。

「俺はお前より小夜のことを知ってる。」
「は…」
「あいつがどんな時に笑うのか、どんな時に泣くのか。変に真面目なところも、どうしようもないところで抜けてるところも…」
「俺だって…」
「どこを攻めれば喜ぶのか…、泣くほど求める場所はどこなのか。たまらなく俺のことが好きだとなく声を。」
「お、お前っ、何言ってんだ!!」

顔を赤くした武流が飛びかかる前に朔也は武流の胸ぐらを掴み、軽々持ち上げた。顔が近づいて気づいた。今まで落ち着いていた、いや、冷静を装っていた朔也の瞳の中には焦り、憤り、苛立ち、嫉妬、後悔、がドス黒い渦を巻きながら溢れ出ていた。武流は悟った。一番話が通じないのはこいつだ、と。完全に小夜への愛しさでイカれている。

「お前や小夜が何者だろうがどうでもいい。何が何でも小夜は取り返す。お前はもちろん、俺から小夜を奪おうとする奴を殺してでもいい。小夜は俺の女だ。」

武流は朔也の静かな気迫に足がすくんでいた。ヤクザ相手に殺すなど、バカも休み休み言え。そう言いたいのに今の朔也には言えないし、言っても朔也は本気で殺しに行くだろう。それくらい小夜を求めている。その殺意は少しでも間違えれば小夜にも向いてしまうかもしれない。
 足がすくむ感覚があるのは分かっていた。でも武流にも譲れない意地がある。武流は震える手で力のこもった朔也の腕を掴んだ。

「俺はあいつが笑ってればいいんだ。俺に振り向いてくれなくたっていいんだ。だからあいつがお前と付き合った時は見守ろうって決めたんだ!だけど、今確信した。お前は小夜を幸せにはできない。今度は二度と譲ったりしねぇ!!」

 二人の睨み合いは長い間続いた。しかし、朔也の方が手を解いた。その後、帰れと一言言い放った。二人はそれ以上言葉を交わすことなく武流は店を出た。
 武流が出た後、朔也はその場で崩れ落ちた。自分の狂った行動に自分が飲み込まれそうだった。武流の言葉に反論できなかった。冷静じゃないのは自分だ。分かっていた。自然と涙が溢れる。朔也は震えながらその場からしばらく動けなかった。
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