【完】クレオメの時間〜花屋と極道〜

ムラサキ

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偶然の再会 (小夜)

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  佐藤の車から降りた瞬間、涙がこぼれ落ちた。小夜はコートの裾で涙を拭き取り、大通りへと向かった。 
 しばらく歩いていると、雪が降り始めた。寒いはずなのに、顔は熱い。ぼやけた街のイルミネーションが視界を埋めて前が見えなかった。息も苦しかった。大通りを歩く足は雪原を歩く時よりも遅く重いように感じていた。

『小夜ちゃんがそんな人だなんて思わなかった…!』

頭に響くクラスメイトの声。それに続いて浴びせられる言葉たち。「知らなかった」「騙された」「怖い」…。全部皆にとっては普通の感じ方。だけど、自分自身は何もやってない。何も悪いことはしていない。責められるようなことも、人に避けられるようなことも…。そう思うと、視界はさらにぼやけて、息が絶え絶えになってしまった。
 小夜は周りの目を気にして、近くで開いている店に逃げ込もうとした。飛び込むように入った店は新しくオープンしたばかりの花屋だった。
 入ってすぐに目に入ったのは赤が目立つクリスマスツリーと小さい会計カウンター、そしてありとあらゆる花たちだった。店の構造は入ってすぐに右と左ずつに細く廊下のような空間が短く続いてる。そこまでの広さでは無いはずなのに何故か長廊下を見ている気分になった。こんな時期なのにお客さんが誰もいないからだろうか。小夜は一息ついて左の奥へ入っていった。至る所に色々な花々があって花なのか疑わしい形のものもあった。しかし、全てのものに共通するものがあった。それは丁寧に書かれた花の紹介カードだった。一つ一つの種類に綺麗な字で花言葉や一言コメントが書いてあった。それを見ていくうちに小夜の張り詰めていた心は自然と緩んでいった。
 歩き進めていると、一番奥にあった小さな花に目が止まった。黄色の中心部分から細く伸びた花びらたちは決して弱々しくなく、太陽のような明るさを思わせた。そしてその花にも丁寧な紹介カードがついていた。

「雛菊の花言葉に『ありのまま』というのがあります。ありのままの自分でいるのは難しいことです。ですが、難しいことだからこそ、ありのままに居れることが真の強さなのだと思います。」

その言葉で溢れ出そうだったものが静かに流れ落ちた。ありのままの自分を見てくれる人はいるのだろうか。真っ直ぐに見てくれる人はいるのだろうか。ヤクザの娘である私を…。
 息が苦しい。必死に声を抑えようとするが、胸の奥から苦しさが溢れ出てくる。

「どうかされましたか?」

淡白で落ち着いた低い声が私に対して発せられた。咄嗟に振り向いた小夜の目に映ったのは、黒色の癖っ毛の間から見える綺麗な黒色の瞳だった。肌は陶器のように白く、息を呑むほどの美貌だった。その美貌に目を見開いてしまった。小夜が大粒の涙を流していたせいなのか、男性も驚いた顔をしていた。
 
「お前……」
「わあ!!綺麗!!」

目の前の男の人が何か言いかけた時、カップルらしき客が入ってきた。男の人はすぐに二人に体を向け、無機質な声でいらっしゃいませとだけ発した。女性はドア近くのクリスマスツリーに目を向けている。男の人が遮りとなってよく見えないが、一緒に入ってきた男性は花を見歩きながらこちらに近づいてくる様子だった。

(泣いてる女子と男性スタッフさんがいるところなんて見たら変な誤解されるんじゃ…。)

小夜は近づいてくる男性に気づかれないようにと顔を背けながら目の前の男の人と花との狭い隙間を通ろうとした。しかし、一歩踏み出した瞬間に男の人は小夜の右手首を掴んだ。その後、小夜を男性客から隠すように自らの背中で隠した。

「すみません。今店を閉めるところだったんです。」
「え、まだ二時前ですよ?」
「急用が入ってしまって。すみません。」

男の人が男性客に丁寧に謝ると、男性客も理解してくれたのか女性を連れて店を出ていった。

「あ、あの…」
「何があったか知らないけど、気が済むまでここにいろよ。その間、店閉めとくから。」
「そんな!迷惑かけられません!帰ります!」

小夜が強引に帰ろうとすると男の人は強く引き止めた。小夜は見上げるように男の人の目を見た。綺麗すぎて引き込まれそうだ。

「何を今更言ってんだよ。チビ。」

男の人が意地悪な笑みを浮かべながら放ったその呼び方には聞き覚えがあった。いつも通っていた花屋で働いていた高校生。頭を撫でながら小夜をチビと呼んでいた高校生。小夜の口から懐かしい名前がこぼれた。

朔也さくやくん…?」
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