【完】クレオメの時間〜花屋と極道〜

ムラサキ

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二人

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~翌朝~

 今朝は天気はいいが、冷たい風が強く吹いていた。小夜はいつも通りに二人に挨拶を済ませ、家を出るところだった。いつもとはまた違った憂鬱さに足を止められていたが、家にいることもまた憂鬱だといつもの億劫が小夜にローファーを履かせた。するとそこに、佐藤が小夜の目の前に来た。

「お祖父様とお父様に説明してくれてありがとう。」
「いいですよ。俺にとっては朝飯前です。」
「でも、佐藤はお祖父様のこと怖いんでしょ?」
「そりゃ総裁は怖いですけどね…。」

佐藤は強がったのがバレて気まずい顔をし、小夜はそれを見て静かに笑った。しかし、佐藤の右袖から見える包帯に驚き、小夜は佐藤の右手を優しく掴んだ。

「…あれ?佐藤、こんな怪我してたっけ?」
「あ~、昨日捻ったんですよ。重いもの持ち上げようとして…」
「…ふ~ん。気をつけてね。もう若くないんだから。」
「言いますね、お嬢。」
「まあ、お大事にね!行ってきます!」
「行ってらっしゃい。」

小夜は笑って言うと、背を向けて普段通りに歩き始めた。佐藤は小夜の空元気に気付きながらも何も言うことができなかった。

「お嬢!」
「ん?」
「あまり遠くに行かないでくださいね。」
「わかってるわよ!行ってきます!」

佐藤は切なげな顔をして、歩いていく小夜の背中を見つめていた。

ーーーー学校ーーーー

(さすがに居づらいなぁ…。早く朔也くんのお店に行きたいよ。)

 小夜は学校に着くなり、自分の席から一ミリたりとも動かなかった。小夜によく話しかけていた人間は誰一人として来ず、周りの席の子さえも荷物だけ置いて何処かに行ってしまった。小夜は居づらさと羞恥心でいっぱいになっていた。
 午前の授業も終わり、昼食の時間になった。いつもは誰かしらに誘われていた弁当も一人で食べなければいけなっかった。小夜は皆の視線から逃げるように弁当と上着を持って中庭に向かった。

 中庭には桜の木が均等に並べられており、その下にベンチが等間隔に置いてあった。小夜は寒空の下、一人弁当を食べ始めた。

(思ったより陰口とか嫌がらせとかないな…。先生が何か言ってくれたのかな。いや、百目鬼組が怖くて何もしないだけか…。どちらにせよ、何もされないだけいいか。)

小夜は食べる箸を進めれるものの、味わうことができなかった。
 弁当を食べ終わり、大きく背伸びをしているとこちらに向かってくる足音が聞こえた。音の方を向いて見ると気の強そうな団子頭の女の子と正反対に気の弱そうなふわふわした女の子が小夜に近づいて来ていた。

「お嬢さん!」
(何…?嫌がらせ?)
「そんなビビんないでよ!私ら別にあんたをとって食うつもりないから。」

気の強そうな女の子は小夜に向かって大きく笑いかけた。

「私は宮月かおり。二年。百目鬼組にはいつもお世話になってます。」
「お世話って…?」
「宮月って聞いたことない?」

話しながら小夜の横にどかっと座った香はニヤニヤとして小夜の顔を覗き込んでいる。小夜はなんとか頭を働かせ、宮月という人間を検索した。

「あ!キャバ店の宮月!」
「そう!」
「じゃあ、ママさんの…?」
「娘だよ。」
「すぐに気づかなくてごめんなさい!私の家のものがお世話になってます。」
「そんな、そんな。
それでね、こっちが…」

香のその言葉で慌てて頭を下げたふわふわした女の子は自己紹介を始めた。

「は、初めまして!姫宮つむぎと言います!小夜ちゃんと同学年です。香ちゃんのお店で母が働いてて…えっと、その、お世話になってます!!」
「こ、こちらこそ。」

二人の話によると百目鬼という苗字から最初は小夜が百目鬼組の人間ではと思ったものの、この地方で百目鬼という苗字はそこまで珍しくなく、小夜の立ち振る舞いから組とは関わりのない人間だと判断していたらしい。しかし、今回の騒動があって確信付き、話しかけようという話になったらしい。

「小夜ちゃん、すごく組のこと隠してたでしょ?本当はさ、私らの親のことを知ってるやつは知ってるから、話しかけたら余計評判悪くさせちゃうかなって思ったんだけど…」
「小夜ちゃんはきっと寂しい思いをしてると思って…。私たちにしかそういう意味で白い目を向けられる苦しさってわからないと思うから、ちょっとでも励ませれないかなって思ったんだ。」
「…ありがとう。」

小夜は空箱になった弁当を強く握りしめ、二人に頭を下げた。紬は小夜の手を取り、にこやかに笑った。香はその横で溌剌はつらつとした顔を見せた。

「これからは三人でお昼過ごそう。一人で寒い外でご飯食べてたら風邪ひいちゃうよ。」
「うん…。ありがとう。よろしくお願いします。」
「敬語なんてやめよう!ね!小夜!」
「小夜ちゃん!」
「うん!……香ちゃん、…紬ちゃん。」

小夜は二人の名前を照れながら呼んだ。人生で初めて自分の心に寄り添おうとしてくれた女の子たちに胸がいっぱいになり、気づけば冷え切っていた体はぽかぽかと温かくなっていた。
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