【完】クレオメの時間〜花屋と極道〜

ムラサキ

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裏と表

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~下校時 球技大会後~

 武流はバイト先に向かう小夜の横について店に向かっていた。しかし、この前のように話さず黙ったままだったので、小夜は沈黙の間に気まずさを感じていた。

「何で家のこと隠すのよ?」
「…別に隠してるつもりねーよ。隠したいなら、お前とも紬とも香さんとも話さない。」
「まあ、確かに…」
「言う必要がないから答えないだけ。聞かれたら答える。」
「…どうして、隠そうとしないの?バレたら怖いとは思わないの?」

武流は耳を掻きながら、綺麗な髪を耳にかけた。

「逆に何が怖いのか俺には分からねー。何でそんなに隠したがるんだよ。」
「信用問題に関わるでしょ!私の周りには確かに根から悪い人は…いないと思うけど、やってることは犯罪紛いじゃない。最近は大きなコトはしてないらしいけど、陽の目気にしてコソコソ何かやってる。世間の人たちはそういうのを分かってるから、ヤクザの子供ってバレた時に私までそういう人間だって思われるのが怖いの。」

武流は小夜の話を鼻で笑い、小夜は武流を見て眉間に皺を寄せた。

「お前って相当こっちの世界が嫌いなんだな。何も知らないって感じがする。」
「そりゃ、好きではないわよ…。」

武流は少し躊躇いながら、ある話を小夜に聞かせた。

「俺の爺さんは在日韓国人だった。十五で下町の工場で来て低賃金で働かされてた。不当労働ってやつだよ。その挙句、地元の人間には疎まれて、住む場所住む場所追い出されていった。金も無い、食べる物もない、野垂れ死に寸前まで行ったらしい。その時に助けてくれたのが当時の百目鬼の総裁だった。それから爺さんは恩を感じて、百目鬼に従事した。今の総裁とも仲良くなって、親父も随分可愛がってもらったらしい。」
「そうだったんだ…。」
「みんな生まれた時からぐれてるわけじゃねぇ。世間の人間が想像つかないほどの過去を持って生きてきた結果でここにきてる。社会が世話できなくなった人間を拾うのが、お前の家みたいにデカい家なんだよ。」

小夜は武流の話を全てだとは思わなかったが、自分が武流より無知であることに気づき、少し恥ずかしさを感じて俯いた。

「こっちの世界を裏って言うけど、表社会も裏社会もやってることは意外と似てんだよ。搾取、騙し合い、口封じの殺人、金、金、金……。公認か非公認かくらいだな。」
「でも、悪いことは悪いことよ。」

武流はその言葉に足を止めて、小夜を見た。

「社会に捨てられた人間が、社会に牙剥いて何が悪いんだよ。」

武流は微笑んでいたものの、その目は笑っておらず奥に黒い影を潜ませていた。小夜はその目に背中が冷える思いを覚えた。武流は我に帰り、誤魔化すように目を逸らし歩き始めた。

「じゃあ、武流は家を継ぐの?」
「…継ぐのは兄貴だよ。でも、このままで行けば、親父と同じ生き方をするつもり。」
「せっかく進学校に来たのに?」
「勉強して来たのは…もしもの時のためだよ。」
「もしもの時って?」
「……。」

武流は小夜に顔を見られないようにそっぽを向き、答えた。

「惚れた女が堅気の世界で生きるなら、そっちに合わせなきゃいけないだろ。」
「何その理由。可愛いっ」
「お前、マジでムカつく。」

小夜は武流の回答に笑い、武流もつられて自然な笑顔を見せた。数秒前まで重かった空気はいつの間にか軽快なものになっていた。
 小夜と武流の距離が縮まったように見えた時、二人は朔也の店に着いていた。

「あ。バイトのこと、旭さんとかお祖父様に言わないでよ。バレたらどんなことになるか考えるだけでも恐ろしいんだから。」
「言わねーよ。…そんなに恐いならしなければいいだろ。」
「そうだけど…。」

小夜が言葉を詰まらせていると、店から朔也が出てきた。

「店の前から声がすると思ったら、お前か。おかえり。」
「…うん。ただいま。」

小夜は朔也の顔を見て、声色を少し変えた。朔也は小夜を見て少し力を抜かせて、武流に会釈をした。武流はその会釈を無視し、小夜を見た。

「ほら、かっこいいでしょ。」
「どうだか。」

小夜は朔也に聞こえないように声を抑え、誇らしげな笑顔を武流に見せた。

「今日は本当にありがとう。怪我、お大事に。じゃあ。」

小夜は武流に別れを告げ、朔也の元に駆け込もうとした。

「小夜。」

しかし、武流は離れようとするのを引き止めるように小夜の肩を掴み、耳元に唇を近づけた。

「俺も。今日は手当てありがとう。またお礼する。」

小夜は耳に当たる武流の吐息、声の響き、香りで、保健室にいた時を思い出してしまった。

「じゃあな。」

武流は朔也に挑戦的な笑みを向け、帰ってしまった。小夜は赤く熱くなった右耳を抑え、あの時のように鼓動をうるさくした。

(一々、近いのよ。なんなのあいつ…。)

朔也はその流れを顔色変えずに見ていたが、右手は力強く握られた拳を作っていた。
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