【完】クレオメの時間〜花屋と極道〜

ムラサキ

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狂気

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ーーーー店内ーーーー

 朔也と小夜は絢香を見送った後、店の中に入った。

「今日、全然働けなかったや。ごめんなさい。」
「そう思うんだったら、残りの三十分ちゃんと働け。」
「はい。」

 小夜は時間がなかったため着替えず制服の上にそのままエプロンをつけて作業をした。時期も時期なのでこの時間帯はお客さんが少ない。接客もなく、やれることは花の手入れと掃除だけだった。朔也は何か作業部屋に用があるのか作業部屋に行ったきり戻って来なかったため、小夜は一人で作業をしていた。


ガシャン!!


小夜が別の花の手入れをしようとしていた時、作業部屋から大きな物音がした。小夜はすぐに道具を置いて作業部屋に様子を見に行った。
 作業部屋には床に腰をついた形で倒れ込み、机に体を傾けている朔也がいた。

「朔也くんッ!!」

小夜はすぐに朔也の元に駆け寄り、肩を揺すった。朔也の体は熱くなっており、小夜の声にも応答がない。小夜は何があったのかわからず、周りを見渡した。すると、朔也がもたれかかっている机の上にワインと一杯分まで注がれた形跡のあるコップが置いてあり、中身は一滴も残っていなかった。

(まさか朔也くん、この量一気に飲んだの…?もしかして急性アルコール中毒!?)

小夜は慌てながら、朔也の呼吸を確かめるために朔也の鼻口の前に手を近づけた。呼吸はしっかりとできており、確認できた小夜が安心した途端、朔也は小夜の手を取った。

「良かった。意識あったん…」
「小夜の匂い。」
「へ?」

朔也が小さな声で何か言ったと思った瞬間、小夜は朔也に強く引かれ、朔也の腕の中に入ってしまった。小夜の耳は朔也の胸にしっかりとくっつき、朔也の心音がはっきり聞こえていた。

「朔也くん?」
「いい匂い。」
(いやっ…くすぐったい…。)

朔也は小夜の体を撫でるようにしながら小夜の腰と首裏に手を回した。

(朔也くん、酔ってるの…?)
「小夜。」
「はい!」
「今日一緒にいた男、誰?」
「えっと、クラスメイト?友達?かな。」
「本当に?」

朔也は小夜の腰に回していた手の中指だけを背中に当て、上にかけて優しく撫でた。小夜はその指の感触に腰が抜けるような感覚を覚えた。

「ひゃっ!」
「…可愛いな。」

朔也は小夜の反応に悪戯な笑顔を浮かばせた。小夜はいつの間にか朔也と同じくらいに体を熱くしていた。

「じゃあ、あの男に気はないんだな?」
「な、ないよ!」
「…でも、あの男はお前に気があるように見えたけど。」
「そんなこと…」

朔也は強引に小夜の顔を自分に向かせた。小夜が見た朔也の目はいつもの目ではなく、何処か狂気じみていて小夜は恐怖を感じた。

「今、あいつのこと考えたろ。」

小夜が恐怖で逃げようと腰を引こうとしたところ、朔也は貪るような口づけを小夜の柔らかい唇にした。その瞬間、小夜の息は止まり、体はクリスマスの時とは比べ物にならない程、毒に侵されたような麻痺を起こしていた。体温は上がり、鼓動は速くなる。いつの間にか小夜の口には朔也の舌が這うように入っていた。朔也が小夜の耳を塞ぐせいで、小夜の頭の中では舌の絡み合う音が鮮明に響いていた。朔也は加減という言葉を知らないほど、腰の抜けた状態の小夜の口の中を攻めた。

(なにこれ…あたまのなか…おかしくなっちゃ…)

小夜の理性は逃げなければいけないと言っているのに、体がいうことを聞かなかった。麻痺しているせいか、朔也への想いのせいか、それとも恐怖のせいか。どれも合っているようで合っていない。小夜の中にある何かがこのまま朔也の思い通りになることを拒んでいなかった。
 朔也はゆっくりと小夜を床に倒し、いつの間にか解いた小夜のエプロンをとり、小夜の制服の胸ボタンを外した。

(だめだよ…朔也くん…)
「はぁ…はぁ…」

朔也の息が荒くなった。小夜の鎖骨をなぞるように這う朔也の指の感触が、小夜の体に再び毒を入れていった。

「さ…やく……んっ…」

小夜の声が届いていないのか、朔也は小夜の口をまた力を強めて塞いだ。

(苦し…朔也くん………朔也くん!!)
「いっ…!」

小夜が苦しさに耐えられず朔也から逃れようとした時、朔也の下唇を噛んでしまった。朔也は反射的に顔を小夜から離し、痛みによって意識を取り戻した。朔也は目の前で、乱れた制服を着た小夜が涙を流していることに戸惑い、焦りを感じた。

「ごめん…俺…」

小夜は泣くことしかできなかった。苦しかった。怖かった。それも本当だが、一番に感じたのは、自分でない自分が出てきて、それを好きな人に見られるという恥ずかしさだった。

「…落ち着いたら、もう帰れ。ほんと、ごめん。」
「…うん。」

朔也は小夜から離れ、小夜はしばらくその状態でいた。
 朔也は小夜が帰った後も、酔いが覚めず、頭の中が呆然としていた。ただ、大事なものを傷つけてしまったということに深く傷つき、作業部屋で座り込んでいた。

(何やってんだよ、俺…)

朔也は癖っ毛を雑にかき上げ、小夜が離れてしまうのではないかと不安を感じながら片手で両目を塞いだ。

ーーーー空港ーーーー

「お父さん、これ。イタリアのお土産。」
「ワインか。絢香と飲みたかったな~。もっと早くに渡してくれたらよかったのに。」
「お父さん、一緒に飲むと私にばっか注いじゃうでしょ。お母さんと一緒にじっくり味わって。」
「ありがとう。…あれ?これ『succo』って書いてあるぞ。」
「え!?」

『succo』とはイタリア語でジュースを意味する。絢香は慌てて父親からワインボトルのジュースを取り、青ざめた顔をした。イタリア土産の飲料物はジュース一本とワイン二本しか持ってきていない。ということは今朔也の手元に渡っているのはワインだ。

「やばい…朔也にワイン渡しちゃった…。」
「なにかまずいのか?」
「え?ううん。これはお父さんにあげる。」
(やばい!やばい!すぐ連絡しなきゃ…)

絢香が急いで携帯を取り出した時にはもう六時を過ぎていた。
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