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1.怪しい令嬢
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「団長、アレなんすかね?」
「アレとはなんだ?」
「あの、さっきから一時の方角よりこちらを窺っている、黒いサングラスにピンクと黄色のチェックのほっかむりをした女の子ですよ。どうやって入ってきたんだか。追い返してきますね。」
「待て、アレは俺の姪だ。騎士団への入場許可は出してあるから好きにさせとけ。」
「あ、本当だ、許可証首から下げてら。ええっ!団長の姪っ子さん…?て確か、伯爵令嬢でしたよね!?」
「そうだ。アレは俺の兄の娘だ。」
「なんであんな格好でここに居るんですか?」
「ああ、婚約者候補を見に来たらしい。」
「婚約者、候補?まさか、団長が団員の誰かを紹介したとかじゃないですよね?」
「そのまさかだ。先日、兄にいいのがいないかと聞かれてな。紹介してみたら、兄のお眼鏡にもかなったようで、姪にまで話が行ったらしい。で、どんなやつか、こっそり会いに来たんだな。」
(いや、こっそりて…めっちゃ目立ってますやん。)
「今、変装もどきでよくわからないのですが、姪っ子さんかわいいですか?」
「めちゃくちゃかわいいに決まってるだろ?!本当なら俺も兄も嫁になんざ出したくねえんだよ?でもそう言うと義姉にめちゃくちゃ怒られてな?仕方ないから兄と相談して社交界に出て悪い虫がつかないうちにこちらで、いいやつを見繕って婚約者にしておこうとな、決まった訳よ。わかるか、この苦渋の決断が!」
「わかるようなわからんような。で、誰を紹介したんです?まさかのオレじゃないですよね?」
「お前なわけないだろが。まあ、せっかくなんで、ラインハルトにした。」
「は?ラインハルトですか?あの、八方美人で夜会に出れば、会場中の令嬢独り占め状態になるあいつですか?!」
「そう、ソレ。」
「なんでまた、あんな奴にしちまったんですか!婚約なんてことになったら、姪っ子さん、他の令嬢達から恨まれるんじゃないですか?あ、ご本人の希望ですか?そりゃまた難易度の高い男をお選びに。」
「いや、本人の希望は聞いとらん。俺達が勝手に決めた。」
「どこがお眼鏡にかなったんです?!」
「どこが、つーか、そりゃなあ。」
ところ変わって、こちら団長の姪のリーディアです。私は現在、叔父の許可を得て王宮騎士団に潜入しております。
昨晩、父が突然、お前の婚約者が決まりそうだ、と言うのです。来年、社交界に出てから探すものだと思いこんでいた私には、寝耳の水のお話でした。
「決まりそうだ、ということはまだ決定ではないのですね?」
恐る恐る私が聞くと、父が無表情で頷きます。
あ、父は感情は豊かなのですが、表情筋が死に絶えているので、何を言っても無表情なのです。これが普通なのです。
ちなみに母は父の表情が読み取れる唯一の人です。
おっと脱線しましたね。そうそう、私の婚約者の話です。当然、相手が誰か聞きますよね。
お相手はラインハルト・ヴィリデという辺境伯の次男さんで、叔父様が団長を務める騎士団の方だということです。
んん?これは叔父様が持ってきたお話なのですかね?
詳しく聞こうとするもその辺は父にはぐらかされてしまいました。
なぜかしら?
代わりに彼と私は小さい頃に会ったことがあるから、会えば思い出すと言われました。ですが、私にはそうは思えません。なぜなら、私は壊滅的に人の顔が覚えられないからです。
正直、来年、社交界にでたら、失敗する未来しか見えないくらいです。
身近な所から情報収集をしようと、侍女達にラインハルトという人を知っているかと聞きましたら、どうやら大層女性におモテになる方のようです。
叔父は団長という権力を使い、その方に無理を言ったのではないのでしょうか。そうでなければ小さい頃に会っただけの、こんな取り柄もない伯爵令嬢と婚約しようとは思わないでしょう。
そうに違いありません。
そこで、私は今朝起きてすぐ、騎士団に来て、この話を無理に進めないで欲しいと叔父に直談判したのです。
すると叔父は、じゃあ自分で会って進めるかどうか相談してこいと言ったのでした。
それで今に至るわけですが、こっそりお会いしようと、変装をしたのに、どうも周囲から注目を浴びている気がします。
いけないのはハンカチのほっかむりか、叔父に借りたサングラスか。
今更、変装を解くきっかけも掴めず、ウロウロしていたら、突然、視界が明るくなりました。
驚いて周りを見回すと、目の前に私のサングラスを持った方が立っています。
濃い茶色の髪を最近流行りの短髪にした、大層お綺麗な顔の男性で、藍色の目を丸くしてこちらを見下ろしています。
「君、ここで何をしているの?」
おお、目の動揺に反して、声は落ち着いていらっしゃいます。さすが、騎士様。ん?騎士様、ですね。普段用の紺の制服を着てらっしゃいますから。目の色と合っていてよくお似合いです。と、そうではなく、この人に尋ね人の居所を聞いてしまいましょう。そうしてさっさと用を済ませて帰りましょう。
もうすぐお昼ですしね。
「申し訳ありません。人を探しているのですが、ラインハルト・ヴィリデ様という方が何処に居られるか、御存知ありませんか?」
「えっ。いや。」
何故か、絶句なさってしまいました。なんだか居場所を御存知のような気もしますが、人には言いたくないことや秘密が1つや2つあるものです。
会ったばかりの見ず知らずの人のそんなことを追求するようなことは致しません。
他を当たることにしましょう。
「あ、御存知ないですか、すみません、他の方に聞いてみます。」
それではと、早々に離れようと身を翻したのに、何故かその人に腕を掴んで引き止められました。ちょっとアナタ、痛いですよ?
「ちょっと待って。どこ行くの。」
「どこって人探しですよ?人を探してあちこちする予定ですので、特にどことは。」
「いや、そうじゃなくて。探している理由を聞いてもいい?」
「ええ、まあ、構いませんけど面白くはないと思いますよ?」
「いや、面白さは求めてないから。教えてくれる?」
なんだか聞くまで逃さないという気迫を感じたので、渋々近くのベンチに移動して、婚約者候補にこっそり会いにきたと説明します。
全く知らない人が相手で、団長である叔父が押し付けたのだろうから、相手に会って無理しないように、断って大丈夫だと言いたい、と話している内に、段々、騎士様の頭が下がっていき、遂にお膝に顔を伏せられてしまいました。
眠いの?ほらね、面白くない話でしたでしょう?
「ということなのです。では、私、探しに行きますので失礼致します。あ、この事はくれぐれもご内密に。」
時間を無駄にしたわ、と立ち上がると、すぐにまた腕を引かれて、その勢いで再び座ってしまいました。
何をするのです、人の腕を散歩紐か何かと勘違いしてませんかね?
「探し人の顔知らないの?絵姿とか見てないの?名前以外で何か知っていることはないの?小さい頃とはいえ、そんなに完全に忘れるものなの?」
腕を掴まれたまま、矢継ぎ早に尋問されています。
無関係な赤の他人に、何故こんなことを聞かれねばならないのでしょうか。
アナタがラインハルト様の居場所を知らないのならば、とっとと次の人に聞いて探さねばならないのですよ、私は。
「顔は覚えてないし、絵姿なんてありませんでした。父も母も会えばわかるの一点張りで。頼みの綱の叔父も何も教えてくれず、探せとだけ!私も困っているのです!」
段々怒りが湧いてきて。握った拳を顔の前で震わせていると、くくっと笑い声が聞こえてきました。
私にとってこれは笑い事ではないので、ソレは私の神経を逆なでしました。
「無理矢理、話をさせて、笑うとは、何事ですか!」
「無理矢理のつもりではなかったのだけど。気を悪くしたのなら、謝るよ。そうだ、お詫びにラインハルトを一緒に探すことにしよう。うん、そうしよう。騎士団の中はわからないだろうし、僕が案内するよ。」
爽やかにお詫びされたと思ったら、急展開ですよ。この人が一緒に探してくださるとか。
それはありがたいのですが、お仕事はよろしいのですか?と問えば、全然平気、と返ってきましたが、本当ですかね?
「アレとはなんだ?」
「あの、さっきから一時の方角よりこちらを窺っている、黒いサングラスにピンクと黄色のチェックのほっかむりをした女の子ですよ。どうやって入ってきたんだか。追い返してきますね。」
「待て、アレは俺の姪だ。騎士団への入場許可は出してあるから好きにさせとけ。」
「あ、本当だ、許可証首から下げてら。ええっ!団長の姪っ子さん…?て確か、伯爵令嬢でしたよね!?」
「そうだ。アレは俺の兄の娘だ。」
「なんであんな格好でここに居るんですか?」
「ああ、婚約者候補を見に来たらしい。」
「婚約者、候補?まさか、団長が団員の誰かを紹介したとかじゃないですよね?」
「そのまさかだ。先日、兄にいいのがいないかと聞かれてな。紹介してみたら、兄のお眼鏡にもかなったようで、姪にまで話が行ったらしい。で、どんなやつか、こっそり会いに来たんだな。」
(いや、こっそりて…めっちゃ目立ってますやん。)
「今、変装もどきでよくわからないのですが、姪っ子さんかわいいですか?」
「めちゃくちゃかわいいに決まってるだろ?!本当なら俺も兄も嫁になんざ出したくねえんだよ?でもそう言うと義姉にめちゃくちゃ怒られてな?仕方ないから兄と相談して社交界に出て悪い虫がつかないうちにこちらで、いいやつを見繕って婚約者にしておこうとな、決まった訳よ。わかるか、この苦渋の決断が!」
「わかるようなわからんような。で、誰を紹介したんです?まさかのオレじゃないですよね?」
「お前なわけないだろが。まあ、せっかくなんで、ラインハルトにした。」
「は?ラインハルトですか?あの、八方美人で夜会に出れば、会場中の令嬢独り占め状態になるあいつですか?!」
「そう、ソレ。」
「なんでまた、あんな奴にしちまったんですか!婚約なんてことになったら、姪っ子さん、他の令嬢達から恨まれるんじゃないですか?あ、ご本人の希望ですか?そりゃまた難易度の高い男をお選びに。」
「いや、本人の希望は聞いとらん。俺達が勝手に決めた。」
「どこがお眼鏡にかなったんです?!」
「どこが、つーか、そりゃなあ。」
ところ変わって、こちら団長の姪のリーディアです。私は現在、叔父の許可を得て王宮騎士団に潜入しております。
昨晩、父が突然、お前の婚約者が決まりそうだ、と言うのです。来年、社交界に出てから探すものだと思いこんでいた私には、寝耳の水のお話でした。
「決まりそうだ、ということはまだ決定ではないのですね?」
恐る恐る私が聞くと、父が無表情で頷きます。
あ、父は感情は豊かなのですが、表情筋が死に絶えているので、何を言っても無表情なのです。これが普通なのです。
ちなみに母は父の表情が読み取れる唯一の人です。
おっと脱線しましたね。そうそう、私の婚約者の話です。当然、相手が誰か聞きますよね。
お相手はラインハルト・ヴィリデという辺境伯の次男さんで、叔父様が団長を務める騎士団の方だということです。
んん?これは叔父様が持ってきたお話なのですかね?
詳しく聞こうとするもその辺は父にはぐらかされてしまいました。
なぜかしら?
代わりに彼と私は小さい頃に会ったことがあるから、会えば思い出すと言われました。ですが、私にはそうは思えません。なぜなら、私は壊滅的に人の顔が覚えられないからです。
正直、来年、社交界にでたら、失敗する未来しか見えないくらいです。
身近な所から情報収集をしようと、侍女達にラインハルトという人を知っているかと聞きましたら、どうやら大層女性におモテになる方のようです。
叔父は団長という権力を使い、その方に無理を言ったのではないのでしょうか。そうでなければ小さい頃に会っただけの、こんな取り柄もない伯爵令嬢と婚約しようとは思わないでしょう。
そうに違いありません。
そこで、私は今朝起きてすぐ、騎士団に来て、この話を無理に進めないで欲しいと叔父に直談判したのです。
すると叔父は、じゃあ自分で会って進めるかどうか相談してこいと言ったのでした。
それで今に至るわけですが、こっそりお会いしようと、変装をしたのに、どうも周囲から注目を浴びている気がします。
いけないのはハンカチのほっかむりか、叔父に借りたサングラスか。
今更、変装を解くきっかけも掴めず、ウロウロしていたら、突然、視界が明るくなりました。
驚いて周りを見回すと、目の前に私のサングラスを持った方が立っています。
濃い茶色の髪を最近流行りの短髪にした、大層お綺麗な顔の男性で、藍色の目を丸くしてこちらを見下ろしています。
「君、ここで何をしているの?」
おお、目の動揺に反して、声は落ち着いていらっしゃいます。さすが、騎士様。ん?騎士様、ですね。普段用の紺の制服を着てらっしゃいますから。目の色と合っていてよくお似合いです。と、そうではなく、この人に尋ね人の居所を聞いてしまいましょう。そうしてさっさと用を済ませて帰りましょう。
もうすぐお昼ですしね。
「申し訳ありません。人を探しているのですが、ラインハルト・ヴィリデ様という方が何処に居られるか、御存知ありませんか?」
「えっ。いや。」
何故か、絶句なさってしまいました。なんだか居場所を御存知のような気もしますが、人には言いたくないことや秘密が1つや2つあるものです。
会ったばかりの見ず知らずの人のそんなことを追求するようなことは致しません。
他を当たることにしましょう。
「あ、御存知ないですか、すみません、他の方に聞いてみます。」
それではと、早々に離れようと身を翻したのに、何故かその人に腕を掴んで引き止められました。ちょっとアナタ、痛いですよ?
「ちょっと待って。どこ行くの。」
「どこって人探しですよ?人を探してあちこちする予定ですので、特にどことは。」
「いや、そうじゃなくて。探している理由を聞いてもいい?」
「ええ、まあ、構いませんけど面白くはないと思いますよ?」
「いや、面白さは求めてないから。教えてくれる?」
なんだか聞くまで逃さないという気迫を感じたので、渋々近くのベンチに移動して、婚約者候補にこっそり会いにきたと説明します。
全く知らない人が相手で、団長である叔父が押し付けたのだろうから、相手に会って無理しないように、断って大丈夫だと言いたい、と話している内に、段々、騎士様の頭が下がっていき、遂にお膝に顔を伏せられてしまいました。
眠いの?ほらね、面白くない話でしたでしょう?
「ということなのです。では、私、探しに行きますので失礼致します。あ、この事はくれぐれもご内密に。」
時間を無駄にしたわ、と立ち上がると、すぐにまた腕を引かれて、その勢いで再び座ってしまいました。
何をするのです、人の腕を散歩紐か何かと勘違いしてませんかね?
「探し人の顔知らないの?絵姿とか見てないの?名前以外で何か知っていることはないの?小さい頃とはいえ、そんなに完全に忘れるものなの?」
腕を掴まれたまま、矢継ぎ早に尋問されています。
無関係な赤の他人に、何故こんなことを聞かれねばならないのでしょうか。
アナタがラインハルト様の居場所を知らないのならば、とっとと次の人に聞いて探さねばならないのですよ、私は。
「顔は覚えてないし、絵姿なんてありませんでした。父も母も会えばわかるの一点張りで。頼みの綱の叔父も何も教えてくれず、探せとだけ!私も困っているのです!」
段々怒りが湧いてきて。握った拳を顔の前で震わせていると、くくっと笑い声が聞こえてきました。
私にとってこれは笑い事ではないので、ソレは私の神経を逆なでしました。
「無理矢理、話をさせて、笑うとは、何事ですか!」
「無理矢理のつもりではなかったのだけど。気を悪くしたのなら、謝るよ。そうだ、お詫びにラインハルトを一緒に探すことにしよう。うん、そうしよう。騎士団の中はわからないだろうし、僕が案内するよ。」
爽やかにお詫びされたと思ったら、急展開ですよ。この人が一緒に探してくださるとか。
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