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第18話 1534年 4歳 堺に行こう① 九島との出会いだぞ
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俺達は、将軍や天皇家への献上に使った残りの商品を荷馬三十頭ほどに分けて積み込んだ。
この時代は道が整備されていないので、荷馬車ではなく荷馬が一般的だ。
堺に向かう街道を進んでいると、前方で騒ぎがあった。
悪ガキ五人が、俺と同じ年頃の女の子を蹴ったり小突いたりしている。
俺『風馬、水斗。ちょっと行ってこい』
風馬と水斗が飛び出していき、あっという間に悪ガキ共を叩きのめした。
女の子は助けられたが、俺達の後ろを距離を取りながら、ちょこちょことついてくる。
俺(まぁ、そのうち家に帰るだろ)
そう思って放っておいた。
しばらく進むと、賑やかな道に出る。
行商人や旅人が行き交い、屋台も並び、いかにも「堺に近づいてきたな」という空気だ。
売り子『綺麗な笹と貝だよー、要らんかねー』
二十五、六歳くらいの若い男が、天秤棒を担いで声を張り上げている。
面白そうなので、呼び止めてみた。
俺『おい、その笹と貝、ちょっと見せてくれ』
売り子『申し訳ねぇ、冷やかしはお断りなんでさ』
俺が興味本位で覗こうとしているのを、一瞬で見抜きやがった。
俺『それじゃ三百文やるから見せろ』
懐から銭を取り出して見せる。
売り子『三百文なら、この中身ぜんぶ若様のもんでさぁ。ぜひご覧下さいませ』
さっきまでのつっけんどんな態度が一瞬で変わった。現金な奴だ。
天秤棒の籠の中には、綺麗に洗ってある笹と貝殻がぎっしり入っている。
俺『明らかに山や海で無料で拾った物だろ。誰が買うんだ、こんなもん』
売り子『小料理屋が料理の飾りつけに買ってくれます。見栄えが大事なんでさ』
そこへ、さっき助けた女の子がトコトコ寄ってきて、売り子の袖を引っ張った。
女の子『兄ちゃん、あのね、私がイジメられてたのを、若様が助けてくれたんだよ』
売り子はハッとした顔になり、俺に深々と頭を下げた。
売り子『本当にありがとうございます。両親が死んだばっかりで、こいつも落ち込んでたところをイジメられていて……まさに地獄に仏でさぁ』
言葉遣いは荒いが、妹思いなのが伝わってくる。
話し方と顔つき、漂うオーラ――俺はこの男が気に入った。ちょっと試してみるか。
俺『ここに越乃柿酒っていう蒸留酒と、手を洗ったら綺麗になる石けん、そして蜂蜜がある』
荷から三つの商品を取り出し、簡単に見せてやる。
俺『一つ一つの中身を説明するぞ。よく聞けよ』
俺は、越乃柿酒のアルコール度数の高さと香り、石けんの洗浄力、蜂蜜の甘さと保存性をかみ砕いて説明した。
売り子の目が、だんだん本気になっていく。
俺『そして、ここに五百文がある』
掌に乗せた銭を、わざとゆっくり見せる。
俺『この五百文をお前に渡す。代わりに、当家の商品を少し扱わせてやってもいい。
条件は一つだ。明日の夕刻までに、この五百文を五千文にしてこい』
もちろんこの男の素質を見込んでだ。
この手法は明治の大商人をスカウトした手法を参考にした。
売り子『……は? 五千文、でさぁ?』
俺『そうだ。稼いだ五千文のうち、四千文はお前の取り分にしていい。どうだ、やってみるか』
売り子は一瞬だけ黙り込んだが、妹の方をチラリと見て、きゅっと唇を結んだ。
売り子『ぜひ、やらせて頂きやす。そして商品ですが……そちらの越乃柿酒を五百文分、お願いしやす』
越乃柿酒は一升五貫で売る予定だ。
一貫=一千文だから、一升五千文。つまり一合は五百文。
俺は越乃柿酒を一合、売り子に渡した。
俺(この男は、清酒一合十文の時代に、越乃柿酒一合を五千文で売らなきゃならないわけか)
労働者の一日分の給金が約十文。
つまり、明日までに五百人分の労働日当を稼がないといけない。
なかなかのハードミッションだ。
俺『俺は小西隆佐のところにいる。小西隆佐は分かるな?』
売り子『分かりやすとも』
俺『期限は明日の夕刻までだぞ』
売り子『承知致しました!』
売り子は越乃柿酒を大事そうに抱えると、小走りで人混みの中に消えていった。
女の子『兄ちゃん待ってよー!』
妹も慌てて後を追う。
その背中を見送りながら、守役の安田が隣で苦い顔をしている。
安田『若も無茶なことを……あれは帰ってきませんよ』
俺『それでも良い』
俺は即答した。
俺『舟で全国を回れる商人を探しているのだ。越乃柿酒や石けん、蜂蜜を堺だけでなく、全国あちこちに売りたい。
その時、使える商人は絶対に必要になる。もし奴が来なかったら、また他を探すだけだよ』
安田『……若は本当に先の先まで見ておられますな』
俺『先を急ごう。堺はすぐそこだ』
こうして俺達は、荷馬を引き連れて堺の町へと足を進めた。
◇ ◇ ◇
ほどなくして、目の前に大きな店構えが現れた。
ここが、日明貿易にも顔が利く豪商――小西隆佐の店だ。
俺『ようやく着いたな』
店先で名乗りを上げると、すぐに奥から男が出てきた。
年の頃は四十前後、落ち着いた目をした大店の主だ。
小西『お待ちしておりました。小西隆佐でございます』
俺『長尾為景の孫、上杉龍義だ。急に押しかけてすまない』
俺達は奥座敷に通された。
型通りの挨拶を交わしたあと、早速本題に入る。
俺『これが越乃柿酒の原酒、こっちが水で割ったもの。そしてこちらが石けんと蜂蜜だ』
小西に越乃柿酒を原酒と水割りの両方で試飲してもらい、石けんは墨で手を汚してもらってから洗ってもらう。
蜂蜜は小さじ一杯を舐めてもらった。
小西『……どれも希少性があり、品質も素晴らしい商品ですな。ぜひとも、手前どもで扱わせて頂きたい』
小西の目が、本気の商人の目になった。
俺(よし。ここからが本番だ)
俺は背筋を伸ばし、これから三年先の構想を語る準備をした。
――堺での大勝負は、ここから始まるのだ。
この時代は道が整備されていないので、荷馬車ではなく荷馬が一般的だ。
堺に向かう街道を進んでいると、前方で騒ぎがあった。
悪ガキ五人が、俺と同じ年頃の女の子を蹴ったり小突いたりしている。
俺『風馬、水斗。ちょっと行ってこい』
風馬と水斗が飛び出していき、あっという間に悪ガキ共を叩きのめした。
女の子は助けられたが、俺達の後ろを距離を取りながら、ちょこちょことついてくる。
俺(まぁ、そのうち家に帰るだろ)
そう思って放っておいた。
しばらく進むと、賑やかな道に出る。
行商人や旅人が行き交い、屋台も並び、いかにも「堺に近づいてきたな」という空気だ。
売り子『綺麗な笹と貝だよー、要らんかねー』
二十五、六歳くらいの若い男が、天秤棒を担いで声を張り上げている。
面白そうなので、呼び止めてみた。
俺『おい、その笹と貝、ちょっと見せてくれ』
売り子『申し訳ねぇ、冷やかしはお断りなんでさ』
俺が興味本位で覗こうとしているのを、一瞬で見抜きやがった。
俺『それじゃ三百文やるから見せろ』
懐から銭を取り出して見せる。
売り子『三百文なら、この中身ぜんぶ若様のもんでさぁ。ぜひご覧下さいませ』
さっきまでのつっけんどんな態度が一瞬で変わった。現金な奴だ。
天秤棒の籠の中には、綺麗に洗ってある笹と貝殻がぎっしり入っている。
俺『明らかに山や海で無料で拾った物だろ。誰が買うんだ、こんなもん』
売り子『小料理屋が料理の飾りつけに買ってくれます。見栄えが大事なんでさ』
そこへ、さっき助けた女の子がトコトコ寄ってきて、売り子の袖を引っ張った。
女の子『兄ちゃん、あのね、私がイジメられてたのを、若様が助けてくれたんだよ』
売り子はハッとした顔になり、俺に深々と頭を下げた。
売り子『本当にありがとうございます。両親が死んだばっかりで、こいつも落ち込んでたところをイジメられていて……まさに地獄に仏でさぁ』
言葉遣いは荒いが、妹思いなのが伝わってくる。
話し方と顔つき、漂うオーラ――俺はこの男が気に入った。ちょっと試してみるか。
俺『ここに越乃柿酒っていう蒸留酒と、手を洗ったら綺麗になる石けん、そして蜂蜜がある』
荷から三つの商品を取り出し、簡単に見せてやる。
俺『一つ一つの中身を説明するぞ。よく聞けよ』
俺は、越乃柿酒のアルコール度数の高さと香り、石けんの洗浄力、蜂蜜の甘さと保存性をかみ砕いて説明した。
売り子の目が、だんだん本気になっていく。
俺『そして、ここに五百文がある』
掌に乗せた銭を、わざとゆっくり見せる。
俺『この五百文をお前に渡す。代わりに、当家の商品を少し扱わせてやってもいい。
条件は一つだ。明日の夕刻までに、この五百文を五千文にしてこい』
もちろんこの男の素質を見込んでだ。
この手法は明治の大商人をスカウトした手法を参考にした。
売り子『……は? 五千文、でさぁ?』
俺『そうだ。稼いだ五千文のうち、四千文はお前の取り分にしていい。どうだ、やってみるか』
売り子は一瞬だけ黙り込んだが、妹の方をチラリと見て、きゅっと唇を結んだ。
売り子『ぜひ、やらせて頂きやす。そして商品ですが……そちらの越乃柿酒を五百文分、お願いしやす』
越乃柿酒は一升五貫で売る予定だ。
一貫=一千文だから、一升五千文。つまり一合は五百文。
俺は越乃柿酒を一合、売り子に渡した。
俺(この男は、清酒一合十文の時代に、越乃柿酒一合を五千文で売らなきゃならないわけか)
労働者の一日分の給金が約十文。
つまり、明日までに五百人分の労働日当を稼がないといけない。
なかなかのハードミッションだ。
俺『俺は小西隆佐のところにいる。小西隆佐は分かるな?』
売り子『分かりやすとも』
俺『期限は明日の夕刻までだぞ』
売り子『承知致しました!』
売り子は越乃柿酒を大事そうに抱えると、小走りで人混みの中に消えていった。
女の子『兄ちゃん待ってよー!』
妹も慌てて後を追う。
その背中を見送りながら、守役の安田が隣で苦い顔をしている。
安田『若も無茶なことを……あれは帰ってきませんよ』
俺『それでも良い』
俺は即答した。
俺『舟で全国を回れる商人を探しているのだ。越乃柿酒や石けん、蜂蜜を堺だけでなく、全国あちこちに売りたい。
その時、使える商人は絶対に必要になる。もし奴が来なかったら、また他を探すだけだよ』
安田『……若は本当に先の先まで見ておられますな』
俺『先を急ごう。堺はすぐそこだ』
こうして俺達は、荷馬を引き連れて堺の町へと足を進めた。
◇ ◇ ◇
ほどなくして、目の前に大きな店構えが現れた。
ここが、日明貿易にも顔が利く豪商――小西隆佐の店だ。
俺『ようやく着いたな』
店先で名乗りを上げると、すぐに奥から男が出てきた。
年の頃は四十前後、落ち着いた目をした大店の主だ。
小西『お待ちしておりました。小西隆佐でございます』
俺『長尾為景の孫、上杉龍義だ。急に押しかけてすまない』
俺達は奥座敷に通された。
型通りの挨拶を交わしたあと、早速本題に入る。
俺『これが越乃柿酒の原酒、こっちが水で割ったもの。そしてこちらが石けんと蜂蜜だ』
小西に越乃柿酒を原酒と水割りの両方で試飲してもらい、石けんは墨で手を汚してもらってから洗ってもらう。
蜂蜜は小さじ一杯を舐めてもらった。
小西『……どれも希少性があり、品質も素晴らしい商品ですな。ぜひとも、手前どもで扱わせて頂きたい』
小西の目が、本気の商人の目になった。
俺(よし。ここからが本番だ)
俺は背筋を伸ばし、これから三年先の構想を語る準備をした。
――堺での大勝負は、ここから始まるのだ。
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