謙信の甥に転生! 龍馬の日本を戦国から始める

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第32話 1535年 5歳 軍神が脱走したぞ

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朝、軒猿の加藤が駆け込んできた。



加藤『若様、お知らせ致します。虎千代様が行方不明でございます』



俺『動ける軒猿を総動員しろ。加藤、行き先に心当たりはあるか』



加藤『……おそらく、堺に向かわれたものかと』



俺は即座に決断した。

加藤を先頭に、安田、風馬、水斗を連れて山へ入る。



――遠くで、犬の吠える声がした。



俺『……来たな』



音のする方へ駆ける。

そこには、野犬の群れに囲まれ、必死に木刀を振るう虎千代の姿があった。



木を背に、死角を作らぬ構え。

示現流そのままの、捨て身の踏み込み。



俺は手で合図を送る。

風馬と水斗が左右から斬り込み、加藤が背後を断つ。

野犬は悲鳴を上げて散り散りに逃げていった。



俺は虎千代の前に立つ。



俺『怪我はないか。……なぜ家を出た』



虎千代『……来年から、寺に行かねばならぬからです』



震える声で、言葉を続ける。



虎千代『俺も、龍義殿のように皆を率いて戦いたい。龍義殿が……羨ましい……!』



虎千代は、とうとう泣き崩れた。



俺は静かに、その頭に手を置く。



俺『虎千代。俺は、やがて一万人規模の軍を二つ持つつもりだ』



虎千代『……二つ?』



俺『一つは俺の直属。もう一つは――お前に任せる』



虎千代の目が、大きく見開かれる。



俺『そのために、お前は“軍略”を学ばねばならん。

まず、孫子の言葉を一つ教えておこう』



虎千代『……はい』



俺『『正を以て合し、奇を以て勝つ」だ。意味は、まずは正規の手段(正)で戦うとみせかけ、実際には相手の意表を衝いて(奇)で勝利するということだ。例えば源義経の逆落としだ。義経は断崖絶壁を馬で一気に駆け下りた。平氏は山側からの攻撃を予想しない。平氏の本陣は大混乱に陥いり、義経は勝利した。』



虎千代『源義経が……断崖をですか』



俺『ああ。敵は「あの断崖は絶対に降りられない」と思い込んでいる。

だから、まさかそこから軍勢が駆け下りてくるなどとは夢にも思わぬ。

敵が「こう動いてくるだろう」と決めつけている所に、わざと「普通に戦う」と見せかけておいて、まったく別の場所・別のやり方で攻撃する。それが“奇”だ』



俺は指で地面に簡単な陣形を描く。



俺『正面から堂々と構える大軍。これが“正”だ。

敵はそこに意識を縛られる。

その裏で、誰も来ないと思っている道や崖、森や川を通って別働隊を回し、横腹や背後を突く。これが“奇”だ。

“奇”は奇襲に限らぬ。古来の名将は千変万化。あらゆる手段を用いて相手が予想していない1手を打つのだ。』



もう一度、ゆっくりと言葉を重ねる。





俺『虎千代。孫子、呉子、史記、三国志……そういった兵法書や歴史書を読め。

そして、そこに書かれた戦いを何度も頭の中で並べ替えろ。

「もし自分が大将なら、どこを正にして、どこを奇にするか」

それを十通り、百通りと想像していくんだ、そして自分ならどうするか、敵はどうなるかと頭の中で敵味方を戦わせろ』



虎千代『……百通りも、ですか』



俺『寺はお前にとって、己を鍛える道場だと思え。

そうやって正と奇を自在に操れるようになった時、俺は安心して第二軍団をお前に任せられる』



虎千代は、涙を拭いて深くうなずいた。



虎千代『……はい。龍義の軍を率いれるよう、学びます』



俺『よし。皆、帰るぞ』



山を下りながら、俺は空を仰いだ。



――史実では、この後、国人の反乱が相次ぐ。

もし俺が敗れれば、虎千代が家督を継ぐだろう。



だからこそ。



俺『……負けられないな、ここから先は』



心の中で、そう呟いた。
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